女もつらいよ:同僚から子作り禁止の忠告。一番の敵は、味方の顔して近付いてくる

女もつらいよ:同僚から子作り禁止の忠告。一番の敵は、味方の顔して近付いてくる

高学歴・高収入・男性に引けを取らない仕事への情熱。

都内の高級エリアに住み、欲しいものは何でも自分で買うことが出来、食事は本当に美味しいものしか食べたくない。

にゃんにゃんOLのように自分の生活を誰かに変えてもらおうと、必死で結婚相手を探す必要もない。

そんな無敵のような女に訪れた苦難。あなたは、どう感じるだろうか?

上司から突然NYへの赴任辞令を言い渡された可奈子(34)。すぐにでも子供が欲しい夫・清は、可奈子の海外赴任に最初は難色を示したが、上司から海外赴任をしたとしても子供を諦める必要はないと言われ、可奈子は海外行きを決意する。



「あ、湯川さん。聞いたわよ、おめでとう!」

可奈子の辞令が同僚たちの知るところとなり、社内を歩いていると、こうして声をかけられるようになった。

しばらくの間は、引っ越しの準備をしたりVISAのために大使館で面接を受けたりと、出国の準備に追われた。

夫の清には、橘から言われたように、海外赴任するからといって子供を諦める必要はないのだと伝えて、ようやく納得してもらえた。

可奈子だって子供を欲しい気持ちは同じなのだ。

ただ、タイミングの問題。それだけであることを清に理解してもらうと、その後は早かった。

あっという間に数週間が過ぎ、ようやくVISAもおりて出発を3日後に控えていた日に、同じ部署の西島から会議室で少し話がしたいと声をかけられた。

西島は40代後半で、可奈子にとっては直属の上司ではないが上席にあたるため、仕事で絡む事がよくある男だ。

一体何事だろうと思いながら、可奈子は西島について会議室に入る。

「あのNYの件だけど、本当に行くつもりでいるんだよね?」

「はい。もう3日後には出発しようと思っています。」

「あーそうなんだ……。」

少しだけ顔をしかめた西島は、勿体ぶるようにしてさらに続けた。

「俺、絶対良くないと思うんだよね、家族が離れるのって。実際に俺の周りで海外に単身で駐在して離婚した奴いたからさ。」

可奈子は、ただ黙って聞く。

周りで単身赴任する男性なんて沢山いそうだが、この人はいちいちそんなことを毎回忠告して回っているのだろうか。

「俺は、この異動については、別の人を送るべきだと思っていたんだよね。やっぱり湯川さんくらいの年になると色々大変そうだしね。それにほら、子供とかどうするつもりなの?」


突然の避妊通告・・・

なぜ、上司でもないこの人からこんなプライベートな事を聞かれるのかと、不快に思いながらも可奈子は淡々と答えた。

「私も主人も欲しいと思っていますし、その件については上司にも相談しています。」

「俺も橘さんにその件どうなのか聞いたんだけど、実際橘さんも困っているように見えたな。派遣したのに子供出来たからお休み下さいとか言われたら、みんな困るでしょ?俺としては、会社にとって無駄になるようなことして欲しくないね。」

可奈子は独身時代の飲み会で、西島から「そんな歳なのにまだ結婚しなくて大丈夫なのか?」とみんなの前でダメ出しされた事を思い出した。

思い切りため息をつきたい気分だった。

暇というか、老婆心が過ぎるというか、人のプライベートによくそこまで関心が持てるものだと逆に感心してしまう。

「みんなの意見を代弁してあえて言わせて貰うけど、仕事する気があるんなら、避妊してください。俺からはそれだけ。」

そう言って西島は、可奈子を一人残して会議室から出て行った。



可奈子は一瞬、今起きた事が理解出来なかった。

だが徐々に冷静になってくると、猛烈な怒りがこみ上げてきた。

ただの同僚に、子供をまだ作るべきではないと、西島は何故、ああも簡単に口に出来たのだろう?

女たちは30歳を過ぎてからというもの、タイムリミットに追われ続けている。

結婚・出産についても、いつかはいつかはと思いながら、心の底では後回しにして本当に大丈夫なのか?という不安を常に抱えている。


この瞬間の判断が、後戻りの出来ない一生の後悔に繋がる可能性もある。


最低限自分の意思で選んだものであればまだ納得もいくが、自分の人生に責任を取ってくれる人なんて存在しない。

だからこそ、他人が軽々と意見をする類の話ではないはずだ。

先ほどの西島の、「橘さんも困っているように見えた」という発言も妙に引っかかった。

—本当なの?橘さんは、あんな風に私には言っていたけど、本心は違ってたの?

西島の発言を鵜呑みにするのも馬鹿らしく思えたが、何故か全部嘘とも思えなかった。

女性を前にして子供を産むな、とはさすがに言わなくとも、産休に入られたら厄介だな、くらいは思っているだろう。

—自分の妊娠が、誰かに迷惑に思われるなんて・・・

希望どおり妊娠したとしても、周りからおめでとう!とは言って貰えないと思うと、そんな環境での出産が不安になってくる。

だが、出発は3日後に迫っており、もう後戻り出来ないところまで来てしまっていた。

仕事は後には引けない状況で、子作りへの不安を掻き立てられ、可奈子は一人、キャリアと子供の間で身動きが取れなくなっていた。


色んな思いを抱えてNYへ・・・

出発の前夜、可奈子と清は白金の『今福』で静かに食事を楽しんでいた。

これから和食が恋しくなるであろう可奈子のリクエストで、すき焼きを食べにきたのだった。

この日の二人は、とても晴れやかな気持ちだった。

思えばこの日を迎えるまで、今まで経験した事がないほど徹底的に話し合ったからだ。

西島に呼ばれた日の夜も、可奈子は清にその日起こったことを報告した。

清は、西島に対して不快感を隠せない様子ではあったものの、僕ら夫婦にとって関係のない人の発言に惑わされないようにしよう、とだけ可奈子に言った。

可奈子も西島の発言なんて気にしてもしょうがない、と思いつつも、海外での妊娠への不安がなかなか拭えずにいた。

キャリアも子供も両方手に出来るように頑張れ、と言ってくれる人もいれば、キャリアも子供もなんて贅沢言うな、と非難する人もいる。

子供を産むことで周りから非難されることになったとしても、応援してくれていた人が必ずしも助けてくれるとは限らない。

一方で、仕事への責任を貫くことで子供を産むチャンスを逃しても、誰も責任を取ってはくれない。

どっちに転んでも、理解してくれる人もいれば非難する人もいるということだ。


結局のところは、自分の決めたことを貫き通すために、自分が腹をくくるしかない。


可奈子としては、周りからは必死だと呆れられるかもしれないが、キャリアも子供も出来るところまで追い求めたかった。

そのために、赴任後は最低でも1年以上は産休に入らず働き続けられるように、半年後から子作りを開始したい、と清に訴えた。

可奈子はこれが、キャリアにとっても子供にとっても譲歩出来るギリギリのラインであり、可奈子と清の希望の折衷案のように思えた。

清は最初は少し不安そうな顔をしたものの、話し合いをしていく中で可奈子も本当に子供を望んでいる事を理解してくれて、可奈子の希望するタイミングで作り始めようと賛成してくれたのだ。

出発の朝、可奈子は一人空港にいた。



これから始まる生活への期待に胸の高鳴りを感じながら、清と離れる寂しさを感じていた。

最終的には、可奈子の希望を全部受け入れてくれた清。

—結局、明美が言った通りだったな。

可奈子は女性ばかりがキャリアか子供かの選択を迫られている事に不満を感じていたが、男性は自分で子供を産めない分、コントロール出来ない大変さがあるのだと知った。

今回下した判断が正しかったかどうかはわからない。数年後には後悔しているのかもしれない。

だが今は、そんなことは誰にもわからない。

ーまずは、仕事を一生懸命頑張ろう。だけど絶対に、自分にとって一番大切なものを見失わないようにしよう。

清と二人で写った写真を見つめて、可奈子は固く心に誓った。

同じ時、清もオフィスで仕事をしながらそろそろ可奈子の出発の時間かと時計に目を落とした。

脳裏には、1ヶ月前に可奈子から突然、NYへ赴任すると言われた日のことが蘇っていた。


▶NEXT:2月21日 水曜更新予定
妻の突然の海外赴任辞令。夫はその時何を思っていたのか?


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