「それ、どこの?」が合い言葉。神戸嬢にとって、女友達も彼氏も“ブランド力”が命

「それ、どこの?」が合い言葉。神戸嬢にとって、女友達も彼氏も“ブランド力”が命

アラサーの神戸嬢を語るには欠かせないある“時代”が、神戸にはあった。

2000年代初期、今なお語り継がれる関西の「読者モデル全盛期」だ。

それは甲南女子大学・神戸女学院大学・松蔭女子学院のいずれかに在籍する、容姿端麗な神戸嬢たちが作り上げた黄金時代である。

しかし時を経て読モブームは下火となり、“神戸嬢”という言葉も、もはや死語となりつつある。

高校時代から神戸嬢に憧れていた姫路出身の寛子。神戸女学院大学の入学式で読者モデルにスカウトされ、華々しく“神戸嬢デビュー”を果たす。

その後大学の友人・由美子に誘われ、カリスマ読者モデル・菜々子がプロデュースするブランドでのアルバイトが決まる。アルバイト初日、個性強めなカリスマ店員・圭子と亜由香という人物に出会うが…?



「そういえば、寛子!昨日アルバイトどうやったん?」

利恵が、興味津々と言った様子で寛子に尋ねてきた。

菜々子がプロデュースするブランドで働いている女の子たちはいつも、神戸嬢が格好のゴシップネタになる。中学から女子校育ちの利恵は、ゴシップネタに詳しい。

その日は、5月の新緑がまぶしい日だった。あまりにも良い天気なので、寛子たちは図書館横のシェイクスピアガーデンで、急遽休講になった時間を持て余していた。

「なかなか、大変そうやわ」

この時期、シェイクスピアガーデンのバラたちは華麗に咲き乱れる。圭子のきつい態度を思い出すと憂鬱な気分になったが、視線に入った色とりどりのバラたちを見ていたら、少しだけ気が紛れてきた。

「…でも、由美子のおかげでせっかく入れてもらえたし頑張る。亜由香ちゃんもいい子そうやし」

女学院のシェイクスピアガーデンは、シェイクスピアの作品中に登場する100種ほどの植物を集め開園したらしい。

―名前って一体なに?バラと呼んでいるあの花をなんと呼んでも美しい香りは同じ。

これは、ロミオとジュリエットの中に出てくるセリフだと聞いた。

寛子はそれを、今の自分と少し重ね合わせてしまう。

たとえ「神戸出身」「内部出身」でなくとも、このバラたちのように美しく咲くのだと。神戸嬢だらけの花園で。


ショップ店員バイトで、新しくできたはずの“友達”がかなりの厄介者…!?

みんなと別れ、学校帰りにアルバイト先へ向かいながら、寛子は今日利恵が言っていたあの言葉の意味について考えていた。

「寛子、多分亜由香ちゃんとはあんまり深く関わらん方がいいかも」

シェイクスピアガーデンで、亜由香ちゃんがいい子そうだと言った寛子に対して、利恵が少し言いにくそうな様子で言ったのだ。

そのときちょうど遅刻をして来た舞が寛子たちと合流し、あまり詳しく聞けなかった。あれは、どういう意味だったのだろうか。



「今日もよろしくお願いします!」

チークもリップもピンクで決めたとびきりの笑顔で、寛子は圭子に挨拶をした。

ピンクにしたのは、今シーズンのブランド指定カラーであったためだ。昨日圭子に教わり、今日バイト前に急ぎ足で神戸大丸に走って購入したのだ。

商品の洋服をたたみ直していた圭子は、寛子を一瞥したあと、黙々とたたみ直しの作業を進めた。

―挨拶もしてくれないのか。

圭子とは1mmも距離を縮められなかったが、一緒の出勤だった亜由香が、帰り際に寛子に声を掛けて来た。

店頭にいる間は支給された洋服で働いているため気付かなかったが、亜由香が着ている服は昨日寛子が着ていたあのお気に入りのビジューがあしらわれたワンピースだった。

「あっ」

思わず声に出した寛子に、亜由香がすかさず言う。

「そうやねん。このワンピース、寛子ちゃんも着てたよな。私もたまたま持っててん。お揃いやんね」

この寛子にとって一張羅のワンピースは、神戸嬢に人気のセレクトショップで購入したものだ。亜由香が持っていても決しておかしくはない。

「そのワンピース、可愛いよね。おしゃれな亜由香ちゃんとお揃いで嬉しいわ」

その言葉は、本心だった。自分の選んだものが亜由香とお揃いなら、このワンピースを選んだことは間違いではなかったということだ。

「ねえ、私のことは亜由香って呼んで!私も寛子って呼んでいい?」

そう亜由香に言われ、寛子は嬉しくなった。同い年の神戸嬢の中で一番と言っていいほど有名な亜由香と、呼び捨てで言い合える仲になれたのだ。寛子はまた一歩、“神戸嬢”として駆け上がった気がした。

全面ラインストーンでデコられた当時の携帯電話でメールアドレスを赤外線で交換し、高揚した気持ちで家路に着いた。

帰って、そろそろ寝ようとしたタイミングで、携帯電話のバイブ音が枕元で鳴く。メールの相手は亜由香だった。

―寛子♡今日塗ってたあのチークとリップ、どこの?



寛子は、今日買ったばかりのシャネルのリップとRMKのチークの品番を亜由香に送った。

…そして次に会う時には、寛子と同じリップとチークを使う亜由香に会うことになることを、もちろん今日の寛子はまだ知らない。


華やかな友達。憧れのアルバイト。次に寛子が望むものは?



今日は、アルバイトは休みの日だ。

学校帰りに、由美子・舞・利恵のいつものグループで、『スプーンカフェ』に来ていた。『スプーンカフェ』は、キャンパスの最寄り駅である阪急の「門戸厄神駅」近くにある、女学院生馴染みのカフェだ。

このカフェで今日はどのケーキにしようか悩む時間は、寛子を満ち足りた気持ちにさせる。

昨日は亜由香と、今日は女学院のいつもの仲良しグループと、華やかな友人たちと過ごす時間はまさに思い描いていた女子大ライフだ。



「今日は、正太くんと夜待ち合わせてデートやねん」

そう言いながらココアの生チョコチーノをすする舞の手元は、昨日施術したばかりだというスカルプチュアのフレンチネイルで完璧に彩られている。

舞の彼氏の正太は、寛子たちの2つ上の関西学院大学3回生・アメフト部のイケメンだ。舞と正太の仲良しそうなツーショットを映す携帯電話の画面を、4人はいっせいに覗き込んだ。

すらっと背が高く小顔の舞は、ハイトーンカラーのウルフボブが良く似合う。中学、高校ともに女学院の舞は、大学から関西学院に進学した友達に正太を紹介され、ついこの間付き合い始めたばかりだ。

「いいなあ。舞と正太くん、めっちゃお似合いやん。私も彼氏欲しいわ」

利恵が、大げさにため息をついてみせた。

そう言う利恵は、4人の中でも1番のモテ女だ。今日も胸元を大きく開けた淡いピンクの薄手のニットに白いカプリパンツを合わせ、腕にはカルティエのパシャが光る。パシャの文字盤ももちろんピンクだ。利恵はもちろんモテるが、特定の彼氏はいない。

由美子には、高校の時から長く付き合っている大阪医科大学の医大生、彰という彼氏がいる。彼氏が今いないのは、利恵と寛子だけだ。

「そうや!今度な、友達が甲南大学のラグビー部の人紹介してくれるって言っててん。私と寛子で一緒に行こう!」

利恵は、すぐさま携帯電話を開け友達にメールを打つ。当然だが、利恵の携帯電話もまた全面ピンクのラインストーンでデコられている。普段おっとりしているのように見え、そういう時の利恵は仕事が早い。

―可愛い自慢の友達。憧れブランドでのアルバイト。そして神戸の彼氏までできたとしたら、もうそれは正真正銘の”神戸嬢”だ。

甲南ラグビー部との食事は日程まですぐ決まり、寛子は次の出勤で、このあいだバイト中に欲しいと思ったスカートを買おうと決めた。華やかなフラワープリントのふわっと広がる軽やかなブランドの新作スカートは、きっと華奢な寛子にも良く似合うだろう。

あのスカートを履き、爽やかな彼氏と仲睦まじく歩く。その自分の姿を想像し、寛子の夢はまた広がった。

だが、“神戸嬢”への道のりが、こんなに甘いはずがない。


▶Next:3月28日水曜更新予定
女友達もお飾り。神戸嬢の仲良しグループカースト。



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