「跡継ぎはまだなの?」代々続く名家に嫁いだ女が直面した、後継者問題のプレッシャー

「跡継ぎはまだなの?」代々続く名家に嫁いだ女が直面した、後継者問題のプレッシャー

ー女は、家庭に入って夫を影で支えるべきだ。

経営コンサルタントとして活躍していた美月のもとに、ある日突然義母から突きつけられた退職勧告。彼女は専業主婦となることを余儀なくされた。

内助の功。それは、古くから手本とされている、妻のあるべき姿。

しかし、美月は立ち上がる。

いまや、女性は表に立って夫を支える時代だと信じる彼女は、経営難に直面した嫁ぎ先をピンチから救うことができるのか?

先週、義母のナイスアシストにより動き始めた山内家。今週は…?



美月の足取りは重かった。

今日は山内家の法事。当然、あの真紀子もやってくる。

真紀子には、医院の経営が上向きにならないのならば出て行ってもらうと宣言されたところだ。

その後の様子を聞かれるだろうし、再びプレッシャーをかけられることが容易に想像出来る。

最近は、義父の了解を得て、「新患数を増やすこと」を第一の目標に、ホームページの開設や診療時間の変更、また企業の歯科検診との提携など、今までになかった試みにチャレンジしようと、まさにスタートラインに立ったところ。

当然、その効果が分かる段階にまだ来ていないので、真紀子に聞かれても経過報告のしようもない。今後の方針を話したところで、夢物語だと一蹴される可能性もある。

そして、何より美月が危惧しているのは、見切りをつけられること。

中途半端に話をすることで見切りをつけられてしまい、1年という期限を待たずに真紀子サイドが動き始めることもあり得るだろう。

−もしかしてもう動いてるかも…?

大きなため息が漏れそうになるのを堪えながら、豊とともに会場に向かった。


真紀子からの、ゾッとする“ご報告”とは…?

後継ぎ問題


「あら、先日ぶりね。どうも」

美月の予想通り、真紀子は、初っ端から高圧的な態度で臨んで来た。

「先日はありがとうございました…」

義母も美月も、小さくなりながら頭を下げることしか出来ない。

すると真紀子は、二人をじっと見つめながら、こう言ってきた。

「法事の後、お茶でもいかが?千代子さんと美月さん」

思わぬ提案にギクリとする二人。

ちらりと真紀子に目をやると、目は笑っていないし、口角も下がっている。

出来ることならば逃げ出したいが、そんなこと出来るはずもない。

美月が戸惑っていると、義母がそっと“ある言葉”を耳打ちしてきた。それを聞いて美月も覚悟を決める。

こうして二人は、真紀子とお茶をすることになったのだった。



真紀子に連れられ、『ランデブーラウンジ』に入る。

さっさと上座に座った真紀子は、紅茶をオーダーするとそのままメニューをパタンと閉じた。義母と美月は、慌てて「同じものを」とお願いする。

ウェイターが立ち去ったのと同時に、真紀子は単刀直入に切り出した。

「一から、色々と報告を受けているわ。千代子さんも美月さんも、頑張ってくれてるんですってね」

美月は思わず身構えた。

先ほどまでの高圧的な態度と打って変わって、真紀子は優しい言葉を投げかけてくるので、その変わりように何か意図があるのではないかと疑ってしまう。

そして、その予想は当たっていた。

珍しく和やかな雰囲気の中、世間話に花を咲かせているとき、真紀子がにこやかな笑顔でこう切り出したのだ。

「息子のところに子どもが出来たのよ」

そう。真紀子がわざわざ二人をお茶に誘ったのは、このことを報告するためだったらしい。

「おめでとうございます」

義母と美月がすぐに祝意を表すと、真紀子は上機嫌に話し続ける。

「どうもありがとう。後継ぎが出来てホッとしたわ。ところで、お宅はどうなの?」

真紀子は急に美月に向かって質問してきた。

「今のところはまだ…」

戸惑いながら事実を答える。すると、真紀子は恐るべきことを口にした。

「うちに孫が出来たことだし、これで息子が開業しても将来安泰だわ。でも、お宅はどうかしら…?経営不振な上に、跡継ぎもいないんじゃねえ…」

そう言って美月を見つめる真紀子は、不敵な笑みを浮かべていた。

彼女の言葉を聞きながら、美月は無言の圧力を感じる。これまで保留にしてきた“後継ぎ問題”をついに考えなくてはならないのだろうかー。


美月が直面した、後継ぎ問題。豊との話し合いの行方は…?

子ども=後継ぎは、反対


「おかえり。真紀子おばさんとは楽しかった?」

帰宅した美月を迎えてくれたのは、豊の温かい笑顔だ。

「コーヒーいれたところ。美月にもいれるね」

そう言って、豊はキッチンに向かう。

「すぐ着替えてくるね」



美月が着替えてリビングに戻ると、豊は『イデミスギノ』のケーキとともにコーヒーをいれて待っていてくれた。

「ここのケーキは本当に美味しいなあ…」

幸せそうにケーキを頬張る豊を見ながら、美月は真紀子との会話を思い出す。

−後継ぎ…。

美月は、結婚してから、いや、豊と結婚が決まった時からずっと、いつかこの問題に直面するだろうと思っていた。

結婚して1年。そろそろ新婚時代も終わる。

豊とは、いつかは子どもが欲しい、そんな漠然とした話はしてきたけれど、具体的な話はこれまでしてこなかった。

子どもについて考え始めるには良いタイミングなのかもしれない。

美月は、大きく深呼吸をしてから豊に話し始めた。

「豊さん、私たちもそろそろ子どもについて考えた方が良いのかな」

豊は驚いた様子でケーキを食べる手を止めて、美月を見つめる。

「そうだなぁ」

そう言ったきり、豊は何かを考え込んでしまい、次の言葉を発するまでにかなりの時間がかかった。

「子どもは欲しいなって思ってるよ。でもさ、我が家の子=山内家の後継ぎって考えには反対なんだ」

今度は美月が驚いて、豊をじっと見つめる。

「そ、そうなの…?」

思いもよらなかった豊の言葉に、美月は言葉に詰まってしまった。2人のあいだに、無言の時間が続く。

すると、豊がポツポツと自分の思いを語り始めた。

「昔から、僕は歯医者になって、山内歯科を継ぐのが当たり前だった。小さい頃から、”将来の夢”を語るのが嫌で仕方なかったんだ。”歯医者”以外の選択肢がないんだよ」

そう言って、豊は悲しそうに遠くを見つめた。その背景には、後継ぎとして生まれ育った豊の葛藤がうかがえる。

これまで明かされることのなかった、豊の葛藤。普段は、明るく能天気に見える豊だが、こんなにも色々な思い、考えがあったのだと、美月は驚かされた。

「それに、美月にも山内家のために産まなきゃとか、そういうプレッシャーは感じないでほしい」

豊がそう言った時、美月の涙腺が思わず緩んだ。

「美月はさ、真面目すぎて自分を苦しめちゃうところがあるだろ。だから、これだけはちゃんと伝えておきたかったんだ」

「ありがとう…」

美月は、そう答えるので精一杯だ。涙が目に一杯溜まり、気分を落ち着かせるようにコーヒーを飲む。

「子どもの問題は、僕たち二人の問題として僕たちのタイミングで決めようね。…ところで、ケーキ食べないなら僕が食べちゃうよ」

豊は、美月の頭をポンポンと撫でながらそう言って笑わせた。

豊と一緒なら、きっとどんなことだって乗り越えられる。

そう確信しながら、美月は改めて、自分たちを待ち受ける困難に立ち向かうことを強く誓った。

それにこんなときは、義母の囁いていた言葉が蘇り、不思議と力を与えてくれる。

真紀子にお茶へ誘われ不安に陥っていたときに、美月の心を落ち着けてくれた“ある言葉”だ。

それは、もはや定番の合言葉と化している「マイペンライ」であった。


▶︎Next:5月28日公開予定
家族のために奔走する美月が直面した、”専業主婦なんてもったいない”論とは…?



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