新橋ストーリー:もう35歳? まだ35歳?旧友との再会で明らかになった価値観のズレとは?

新橋ストーリー:もう35歳? まだ35歳?旧友との再会で明らかになった価値観のズレとは?

無数の飲食店が軒を連ね、多くのサラリーマンが集う街・新橋。

この街には、そこにいる人の数だけドラマがある。これは、35歳を迎えたふたりの独身男性の物語。

大手都市銀行の法人営業部に所属する秀隆と、広告代理店でプランナーをしている櫻井。

大学時代は親友同士だったふたりが、新橋で数年ぶりの再会を果たす。

その数時間で、ふたりは何を思ったのだろうかーー。



――アイツ、相変わらず遅刻か。

19時40分。約束の時間を10分過ぎたが、待ち人はまだ来ない。

仕事でもプライベートでも『5分前には必ず到着する』ことが基本の僕は本来、待ち合わせに遅れる人は好きではない。

それが連絡もないままなら尚更。けれど相手が櫻井だと思うと、怒る気にはなれなかった。

大学時代から変わらぬ旧友の遅刻癖を懐かしさで許すことにして気長に待つことにした僕は、街の雑踏に目を向ける。

大きな電子広告やカラオケ店の蛍光色のネオンに照らされた、JR新橋駅前のSL広場。

待ち合わせのメッカとして使われるこの場所が、日本の鉄道発祥の地だからSLが展示されているのだということを、この待ち時間に看板を読んで知った。

――紺、灰色、黒、紺

そこにいる殆どが暗めのスーツを着用した男性で、東京中のサラリーマンが集まってきているのではないか、と思うほどの人混み。

そして彼らはみな、まるでそれが決められた道筋のように迷いなく新橋駅から烏森口を出て、繁華街の方へ歩いていく。

途絶えることのないスーツの波に向かって、様々な店の呼び込みの声が響き、この街の夜が深まっていく気配を感じる。

今日はまだ週半ばのはずなのにこれだけの人が、ここで飲みに繰り出すのだと思うと、この街が『サラリーマンの聖地』だと言われることがよく分かる。

正直言って僕は、この新橋の喧騒が好きではない。

特に“雑多なイメージ”が強い夜の新橋は。だから櫻井が待ち合わせに新橋を指定してきた事に少し戸惑った。


懐かしの再会、のはずが…。数年振りに再会した男たちは、何を話す?

「静かめの店がいいかな」

FBのメッセンジャーでのやりとりで、僕は櫻井にそう言った。お互いの職場から新橋が近く、待ち合わせに便利なことは分かっているが、騒がしい店は避けたかった。

「任せとけ。女子とのデートにも使えちゃうくらいの店、予約しとくから」ノリの軽いその文章に、櫻井のライフスタイルを垣間見た気がしたが、僕は「ありがとう」とだけ返信して待った。

その後、少し店が分かりづらい場所にあるから駅で待ち合わせして一緒に店まで行こう、と連絡が来て、今日に至るのだが。

19時45分。流石に待ちくたびれてきた頃、メッセンジャーの着信が鳴った。

「ごめん、今着いた! ヒデ、今どこ? 何色? スーツだよな?」

そのメッセージに返信するまもなく、携帯から顔を上げた僕は、すぐに櫻井に気が付いた。

暗めのスーツを着た人たちばかりの雑踏の中に、ライトグレーのチェックのジャケットに目の覚めるような青いシャツで、キョロキョロしている男。

――ああ、相変わらず。

今日、何度目かにこみ上げてきた懐かしい感情のまま、名前を叫んだ。

「櫻井!」

僕に気が付いた彼が、満面の笑みで近づいてきた。

「遅れてごめん!ヒデ、お前のそのスーツとかメガネとか、なんかビシッとしてて、できる銀行マンって感じだなあ」

「感じ、じゃなくて、実際できる銀行マンなんだよ」

相変わらず言うねえ、と櫻井が笑い、僕たちはがっちりと握手を交わした。

店には少し遅れるって電話入れといたから、と言った櫻井の言葉に安心し、並んで歩きだす。待ち合わせに遅れた言い訳を聞きながら歩いているうちに、どんどん喧騒から離れ、人通りは少なくなっていく。

やがて静まりかえった路地裏の通りに入ると、櫻井が言った。



「着いたよ」

こんな場所に、こんな店が。土壁に木戸。古風な日本家屋風の店構え。看板には『美の』とある。

櫻井が引き戸を開け中に入り、僕も続いた。案内されたのは、靴を脱いで座るこたつ仕立てのカウンター席だった。

「ここなら、ヒデのご希望通り静かに話もできるし。旨くてコスパが最高なんだよ、ここ。俺、時々会社の女の子も連れてくるよ」

親しげに店の人と話をする様子から、櫻井が通いなれている事が分かる。本格和食の高級店かと身構えたが、メニューを見ても良心的な値段のものばかり。

男同士の久しぶりの再会、妙な肩肘も張らず、でも存分に語り合う場所としては丁度いい気がする。


楽しい再会だったはずだが、少しずつ違和感を感じるヒデ。それはなぜ?


「ここの前菜の自家製豆腐、最高なんだ」

そう言って笑った櫻井のチョイスに感謝して、僕たちはまず瓶ビールを頼んだ。

「この前、あんな所でヒデとばったり会うなんて、マジで驚いたよ」

そう、今夜のきっかけは1か月くらい前。僕が銀座の中央通りで櫻井を発見したことだった。

僕が取引先の大手デパートから出てきた時、目の前のガードレールに座り、良く通る声で笑いながら電話をしている男がいた。それが櫻井だったのだ。

彼が電話を切るのを待って話しかけると、櫻井はまるで信じられないものでも見たかのように目を大きく見開き、いきなりハグしてきた。

久々の再会を大げさに喜び、バンバン僕の背中を叩く櫻井をとりあえず自分から引き離して、簡単に近況を報告し合った。

櫻井と僕は同じ大学の同級生で、同じ音楽サークルの仲間だった。お互いにギター(櫻井)とベース(僕)が趣味で、好きなバンドも同じ。

出会ったその日から僕のことを「ヒデ」と呼ぶ櫻井とは、性格は真逆だったが、学園祭で一緒にライブもやったし、全国の音楽フェスにも一緒に行った。時々2人で飲みに行くこともあった。そんな時は朝まで音楽談義。

あのギタリストのリフが最高、あの新譜は聞いたか? そんな話だけで、朝まで語れていた時代が懐かしい。

そんな僕らが疎遠になったのは、就職活動を始めた頃だった。お互いに社会人になってからは、FBで繋がっていたものの、殆ど音信不通。

ここ数年で会ったのは、仲間の結婚式くらいだったと思う。

銀座での突然の再会の後、近々2人で飲もうぜ、と櫻井は言ったけれど、お互いに次のアポの時間が迫っていて、携帯番号を聞かずに別れてしまったため、特に期待もしていなかった。

しかし櫻井から、FBのメッセンジャーで連絡が来て、今日の日取りが決まったのだ。大学卒業以来だから、12年ぶりのサシ飲みになる。僕は素直に、その気持ちを口にした。

「正直、櫻井が本当に連絡くれるとは思わなかった」

「ひどいな。俺が口だけだと思ってたってこと?」

「そんなんじゃないけどさ。何かあるだろ、そういうことって。社会人になると、今度また、ってのが永遠に来ないってパターンとかさ」

ああ、社交辞令ってやつね、と櫻井が言ったタイミングで、お造りが運ばれてきた。それに合わせて日本酒を頼む。

「これに合わせて、おすすめで!」


▶Next:5月24日 木曜更新予定
出された日本酒に対して櫻井がとったある行動に、ヒデは微かだが違和感を感じた……。


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