SNSで拡散されていく、「夫の醜態」。"駐在妻の座”にすがりつく女が迫られた、究極の選択

SNSで拡散されていく、「夫の醜態」。

駐妻【ちゅうづま】―海外駐在員の妻。

数多の平凡な妻の中で、一際輝くステータス。

共通点はただ一つ、夫について、海外で暮らしていること。

駐妻ワールド。そこは華麗なる世界か、堅牢なる牢獄か。

夫・彬の赴任に伴い、タイ・バンコクに来た里香子。駐妻たちのマウンティングに意気消沈しかけるも、友人のケイと、同じく駐妻の雪乃に励まされる日々。

里香子は、念願の昇進を果たした彬に言われた言葉がきっかけで家を飛び出してしまう。

一方、友人の雪乃は、夫・仁志が「女連れで空港にいた」とケイからの目撃情報が入ったことをきっかけに、夫の女遊びを知ってしまうのだった。



「うわっ、里香子、腕、アラサーで半袖焼け!悲惨!!」

「雪乃こそ、服ドロドロ…!」

ボランティアを終え、帰りのマイクロバスに乗ってお互いの姿を目にした里香子と雪乃は思わずツッコミあう。

彬の会社から、バンコク郊外の乳児院に行くボランティアの募集通知が来たのは10日前。里香子が彬と激しく言い争いをした翌日のことだった。

通知を見た瞬間に、里香子は参加を決めた。会社関係者でなくとも参加できるとのことで、平日昼間に動ける雪乃にも声をかけると、少々意外だったが参加の返事が来たのだ。

そして今日、朝からバスに揺られ、乳児院にやってきた。奥様会で集めたストック食材やおもちゃ、子供の服、みんなで作った髪飾り。それらをありったけ車に乗せて。

貧困や病気のため両親が養育できない子や、身寄りのない子が数百人集まるこの施設には、タイ人母と外国人―欧米人や日本人父とのあいだに産まれた子も多く、その背景にある事情を思うと、里香子の胸は痛んだ。

「…でも、もっと悲しい感じを勝手に想像して、今まで足を運ぶことができなかったけど、今日来てよかった。子供たち、みんなあんなに喜んでくれて。誘ってくれてありがとう、里香子」

雪乃の言葉に、里香子はほっとした。

「ううん!私こそ、来られてよかった、ありがとう。ここに来られて、何だか、色々目が覚めたわ」


里香子の新たな決意。そして雪乃に大事件発生!?

「このパワーを、家族や他人のために使おう」


「私、これまで、仕事とか勉強とか色々頑張ってきたつもりだったけど、考えてみたら、自分のことで頭がいっぱいだったんだなって今日思ったよ」

車に揺られながら、つぶやく里香子の話に、雪乃は黙って耳を傾ける。

「自分は何ができるのか。何を目指すのか。どこまでいけるのか。必死で努力したら、物事は大体うまくいくものだ、って心のどこかで思ってた。

努力できる環境自体が幸運の産物なのにね。向上心があるといえば聞こえはいいけど…自己中心的っていうか、自分のことで頭がいっぱいなだけ、っていうか」

「ボランティアしたら、そんなとこまで開眼しちゃうわけ?」

雪乃が呆れ気味に、でもどこか優しく笑った。

「自分の考えのクセみたいなものに気が付いただけ。子供たちの思いやりと、笑顔がそれを気づかせてくれた。

ダメな自分と向き合いすぎて自家中毒起こしてる暇があったら、家族や人のために時間とパワー使ったほうが良いよね」

「うん…間違いない」

スマホに次々とボランティアの支援プランをメモし始めた里香子を見ながら、雪乃は前を向いて、目を閉じた。



里香子は、いつだって逃げない。必死で光の射すほうを探して、前に進む。人生の問題はあとから後から湧いてくるけれど、逃げさえしなげれば、ゲームオーバーじゃない。

「諦めたら、そこで試合終了、か…」

雪乃は、つぶやきながら、何一つ解決していない自分の状況に思いを巡らせた。



家に戻ると、もうすっかり日が暮れていた。雪乃は、相変わらずシンとしたリビングを一瞥すると、体中の汗とホコリを落とすべくシャワーに向かう。

今日も仁志は遅いのだろう。言い争った日から、仁志の帰宅はますます遅くなり、雪乃も普段は書斎として使っているコンパクトなゲストルームで眠っていた。

冷戦状態では何も解決しないとわかっていても、話し合う気も取り繕う気もないように見える仁志に、歩み寄る気持ちが萎えていた。

シャワーを浴びてさっぱりすると、すっかり焼けてしまった肌にボディクリームを塗ろうとリビングに戻る。ふと見ると、ダイニングの上のスマホが点灯していた。

LINEをひらいた雪乃は、小さく悲鳴を上げる。

駐妻仲間から送られてきたメッセージには、バンコクの夜の情報を中心としたSNSのリンクが貼られている。

そこには衝撃的な情報があふれていた。


日系ムラ社会に広がる、衝撃の情報

その一言が、雪乃の何かを打ち砕いた


―今日も見ましたよ、「ソイ・カウボーイのビジネスマン」。普通、金づるにされてるって気づいてもっと早くゴーゴーバー卒業するよね?

―ああ!天下の〇〇商社のヒト〇さんでしょ?w 毎回スーツにネクタイの日本人駐在員丸出しだから目立つよね。もう半年くらいべったりじゃない?いつ見てもいるw 一体いくらつぎ込んでんの?

―そんなに通っちゃったらヤバい病気移されてそう!奥さん知らないんだろうねえ。コワイコワイ。

―多分、中絶するとかって騙されてお金取られてるよ。俺女の子に聞いたことあるもん。タイでは非合法だからついてきて、とか言うと日本人駐在員は真っ青になるって。

雪乃は夢中でスクロールしていく。バンコクの歓楽街"ソイ・カウボーイ"にあるらしき、いくつかの店についての書き込みに、明らかに仁志のことが揶揄されていた。

マイナーな掲示板のせいか、身元もフルネームもほぼ特定できる書き方にも関わらず放置されている。

「雪乃ちゃん、これ主人が接待情報探してるときに見つけて…会社名載っちゃってるし、掲示板の運営に削除依頼したほうがいいんじゃないかな?主人曰く、『ヒトシさんて人の噂きいたことある』って。早めに手、打ったほうがいいかも。会社の耳に入る前に」

カルトナージュの教室で仲良くしている友達のアイコンが、涙で歪む。

もう、知らないフリをしている場合じゃない。壊れた関係から目を逸らして、ついにこんな事態まで引き起こしてしまった。

こんな状況を、バンコクでできた友達には知られたくなかった。



キラキラした楽しい毎日を一緒に過ごした、優しくて陽気な仲間たち。

いつまでも続かないとわかっているこの特別な毎日を、本当は時に不安に飲み込まれそうになる日々を、精一杯、一緒に楽しんだ。

みんなの前では幸福でいたかった。

知られたくなかった、たった一人の家族にさえ、愛されていないなんて。

しかし今はそんなことを言っている場合ではない。放っておけば仁志の社会的ダメージも計り知れない。何とかしなくては。

「おい、何してるんだ?」

リビングでへたり込む雪乃を見て、帰宅した仁志はぎょっとした顔で後ずさる。

「…これ見て。あなたのこと、日系ムラでは有名になってるみたいよ。会社名もフルネームも載ってる」

仁志は無言で雪乃のスマホをひったくると、はっきりわかるほどに顔を赤くした。仁志の手がぶるぶると震える。

「お前が書き込んだのか!?」

その第一声が、雪乃の中の何かを打ち砕いた。

この期に及んで、善後策を一緒に考えようとしていた自分と、よりによって妻を一番に疑う男。

「腹いせか!何てことをするんだ、今すぐ消せ!会社に知られたら日本に帰らされるかもしれないんだぞ!?」

「私がそんなことすると思う?そんなことする女じゃないってわからないの?」

雪乃は、わななく男の手からスマホを取り返すと、削除依頼をするために、感情を殺して画面をスクロールした。

強くなりたい。

叶わなかった夢にしがみついて、現実から目を逸らすのはお仕舞いだ。

雪乃は、里香子とケイの顔を思い浮かべると、大きく息を吸い込んだ。


▶NEXT:7月26日 木曜更新予定
日系社会でさらに広がる情報…どうする雪乃?そして里香子はついに彬と対峙!



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