京都のご令嬢と禁断の一泊旅行。恋に溺れる2人の密会と、破滅へのカウントダウン

京都のご令嬢と禁断の一泊旅行。恋に溺れる2人の密会と、破滅へのカウントダウン

ゲーム機器メーカーの京都本社に勤める一ツ橋紀夫(ひとつばし・のりお)は正真正銘の庶民。

“普通”で平凡な日々を送る紀夫が出会った美女・萬田樹里(まんだ・じゅり)は、なんと全国に名を轟かせる老舗和菓子屋のひとり娘。

樹里からデートに誘われ距離を縮めていくふたりは、紀夫の部屋で一夜を過ごす。

しかし翌日、ふたり一緒に出かけたカフェで紀夫が3年前に別れた元カノ・一二三薫とばったり再会。

すると薫は紀夫に「樹里はやめた方がいい」と忠告。さらには「私とやり直そう」と言いだし、紀夫を困惑させる。



「これこれ!この宇治抹茶のエスプーマ!これが食べたかってん」

少女のようにきゃっきゃと喜ぶ樹里に、紀夫は「それは良かった」と父親のごとく目を細めた。

この日はお茶のお稽古帰りだという樹里と待ち合わせ、彼女がどうしても行きたいと主張する『茶匠 清水一芳園』にやってきた。

なんでもいま京おんなの間でここのかき氷が話題らしく、週末ともなれば余裕で1時間以上は並ぶらしい。

じっとしていても汗が吹き出すような夏の京都。1時間も行列に並ぶのはさすがに無理だということで、先に名前だけ書いておき、これまた樹里の提案で近くにあるピッツェリア『IL PAPPALARDO』でランチをしてから戻ってきたのだ。

…樹里とは、毎週デートをして良好な付き合いを続けている。

−私とやり直さへん?–

少し前に電話をかけてきた薫の突然すぎる提案には驚いたが、あからさまに戸惑う紀夫の反応を見た彼女の方が「嘘。冗談!」と言って笑いに変えた。

冗談なんかじゃないことは承知だったが、紀夫のほうも「…やんな。わかってたで」などと返してその場をおさめておいた。

その気がないことをはっきり告げた方が良かったのかもしれないが、それでなくても傷心にある薫に、わざわざキツイことを言うのは憚られたのだ。


樹里と順調に交際を続ける紀夫。そしてふたりは一泊旅行へ出かけることに

「月末の旅行のこと…考えてくれた?」

山盛りだったかき氷をぺろりと平らげた樹里が、紀夫に遠慮がちな目を向ける。

「いや、俺も一緒に行きたいと思ってて。でもほんまに大丈夫かなって心配なだけで…」

月末の旅行というのは、樹里に提案された淡路島への一泊旅行だ。

彼女の両親が会員制リゾートホテル『エクシブ』の会員であり、夏の間に淡路島に行こうと誘われているのだ。

樹里との旅行は紀夫にとってももちろん楽しい予定なのだが、彼女の両親の会員権を使うというのが引っかかる。

紀夫はれきっとした樹里の彼氏だが、しかし彼女には今なお結婚話が進んでいる“許嫁”がいる。

そのことについて、樹里は一切話さない。話さないということはつまり現在も破談にはなっておらず、進行形であるのだと紀夫は理解していた。

そんな状態で万が一、樹里が他の男と旅行したなんていう事実がバレたら…?

それは、考えるだけで恐ろしい想像だった。

「大丈夫やよ。夏子が口裏合わせてくれるし。ね?」

ところが樹里はどこまでもポジティブで、「私、淡路島で行きたいお鮨屋さんがあって!」などとどんどん話を進めようとする。

そんな樹里の様子はともすると、どうにもならない現実から逃げようとしているかのようにも見えた。

しかしながら結局は紀夫も、危惧していながら目先の欲求に負けてしまう。

樹里に「ね、お願い」などと懇願されてしまうと、断ることなどできなかった。




禁断の一泊旅行


旅は、人の心を開放する力がある。

京都から淡路島まで。たったそれだけの距離でも、日常という名の呪縛から抜け出した、というような感覚があるようだ。特に、樹里にとっては。

紀夫の運転で京都を脱出した瞬間から彼女のテンションは高く、おっとりとした口調ではあるものの、普段よりずっとお喋りだった。



「わー!すごい景色。綺麗!」

淡路島に到着したその足で、まずは樹里が行きたがっていた鮨屋へと直行した。

『希凛』は、カウンターから明石海峡大橋、そして対岸に広がる美しい景色を臨む抜群のロケーション。

「インスタグラムで見たの」という樹里は、先日のかき氷といい、意外にもミーハーなところがある。付き合いが深まるにつれ、彼女の印象は初対面のときと随分変わった気がする。

慣れた手つきで美味しそうに鮨を頬張る樹里の横顔を眺めていたら、それに気づいた彼女は照れたように笑った。

そして、ふいに改まると紀夫に向き直り、覚悟を決めたようにこんなことを言うのだった。

「私、この旅から戻ったらはっきりさせるつもりやから」

「え…?」

戸惑う紀夫に、樹里はゆっくりと頷いてみせる。

「貴志くん…あ、私の許嫁なんだけど…とは結婚できないって。好きな人ができたって、他に結婚したい人がいるって、ちゃんと親に話すから」

正直なところ、“結婚したい人”というフレーズにどきりとした。

しかし紀夫を見つめる樹里の瞳には一点の曇りもなく、そんな彼女を前にして動揺をみせるわけにはいかない。

実際、樹里のことが好きだ。愛していると言える。樹里との結婚を望んでいないわけでもない。

ただ、自分が全国に名を馳せる老舗和菓子屋のご令嬢と結婚するという、そのことについてだけは、どうにも現実味がわかないのも事実だった。

しかしそれも、すべてがクリアになれば変わるのだろうか。

クリアになる日は、来るのだろうか?


樹里の覚悟を受け止めようとする紀夫。しかし、破滅のときは刻一刻と近づいていた

その夜、樹里はこれまでになく大胆な姿を見せた。

会うたび、抱き合うたびに新しい表情を見せる彼女に、紀夫はどんどん夢中になっていく自覚がある。

久しぶりの恋に溺れる快感は抗い難く、ついそれ以外のことを忘れてしまいたくなる。忘れてしまってもいいんじゃないかと思いたくなる。

けれど−。

先に寝息を立て始めた樹里の呼吸を感じながら、ぼんやりと天井を見やるとき。どうしてもあの、薫の言葉を思い出さずにいられない。

−彼女はいつか、必ず紀夫を傷つける−

そして実際…この薫の言葉が現実となる日は、刻一刻と近づいていたのだった。


破滅のはじまり


それは、淡路島への旅から戻った翌日のことだ。

20時過ぎに会社を出た紀夫がスマホを取り出すと、樹里からとんでもない数の着信が残っている。

何事かと思いすぐに掛け直すも、彼女は一向に応答しない。

駅への道を歩きながら、ホームで電車を待ちながら、竹田駅から自宅へと足を運びながら、何度も掛け直す。しかし、樹里には繋がらない。

小さく息を吐き、彼女から連絡があるのを待とう、と諦めたそのときだった。

LINEの着信音が鳴り、紀夫は再び、慌ててバッグからスマホを取り出す。

震える指で画面をタップしながらも、嫌な予感しかしない。そして、普段は直感などまったく冴えているタイプでもないのに、こんなときばかりは的中してしまうのだった。

−ごめんなさい。しばらく会えなくなってしまったの。きちんと話す前に、貴志くんに全部知られてしまってて…−

樹里からのメッセージをすべて読み終える前に、紀夫は頭をガンと殴られたような衝撃を感じた。

そしてその後どうやって家まで戻ったか、まったく覚えていないのだった。


▶NEXT:7月28日 土曜更新予定
樹里の許婚にすべてバレていた!そして樹里に執着する許婚が、暴走を始める…



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