「僕に、責任は取れない」人妻に手を出した男の本音。彼を恐怖に突き落とす、最悪のシナリオとは

「僕に、責任は取れない」人妻に手を出した男の本音。彼を恐怖に突き落とす、最悪のシナリオとは

−なぜ今、思い出すのだろう?

若く、それゆえ傲慢だった同級生・相沢里奈の、目を声を、ぬくもりを。

これは、悪戯に交錯する二人の男女の人生を、リアルに描いた“男サイド”のストーリー。

商社マンらしくモテ男人生を送る一条廉は、27歳で3歳年上の美月と結婚。シンガポールで新婚生活をスタートさせる。

しかしその心には、特別な思いを抱く大学時代の同級生・里奈がいた。

少しずつ距離を縮めていくふたり。そんな中、大学サークルの10周年パーティーに出席した廉は、里奈からの誘いで密かに会場を抜け出し、ついに一線を超えてしまう。

禁断の恋に溺れるふたりに、ついに本妻・美月の反撃が始まった。



罪悪感と、欲望と


“そろそろ廉に会いたくなっちゃったな”

時間を確認しようとベッドサイドのスマホを気だるく手に取った僕は、美月から届いたメッセージに思わず身体を震わせた。

里奈とリッツの部屋で落ち合ってからというもの、僕は美月のことを一度も思い出していなかった。

里奈と過ごす時間はいつも、僕と里奈だけの世界で過ぎていく。彼女と、その深い繋がりを確かめるように抱き合う快楽の前では、他のことを考える隙などない。

しかし美月からのLINEで突如“現実”に引き戻された僕は、みるみる冷えていく頭と未だ熱をもつ身体とのギャップに、自分が身を置く状況の不当さを認識せざるを得なかった。

「どうしたの?」

僕の異変に気付いた里奈の、艶っぽい声が不安げに響く。

僕はほとんど自分に言い聞かせるように「なんでもないよ」と笑うと、意識して優しく、彼女の頭を撫でた。

少しばかり汗ばむ里奈の身体をぎゅっと抱き寄せると、その、ぴたりと吸い付くような肌の感触が、まるで蜜のように僕の心を甘美に浸す。

−もう、後戻りはできない。

罪悪感にも勝る里奈に触れたいという欲望は、僕にそんな覚悟さえ決めさせた。

…しかし、いざ“恐れていたこと”が現実となったとき。

僕の心に広がったのは、ついさっき決めたはずの“覚悟”とは真逆の感情だったのだ。


里奈の夫から向けられた疑惑の目。その瞬間、廉が最初に考えたことは…

「里奈、とりあえず今すぐ帰った方がいい」

−どうすれば、バレずに済むか。

華奢な肩をカタカタと震わせ、里奈がほとんど泣きそうな声で「どうしよう」と呟くのを聞いたとき、僕が最初に考えたことはそれだった。

里奈の夫はおそらく、スマホのGPS機能を使ってすでに彼女の居場所を突き止めている。

しかし時刻はまだ0時を回ろうかというころ。

今すぐにこの部屋を出れば、「バーで遅くまで飲んでいた」とかなんとか、苦しいながらも言い逃れができるはずだ。

保身のためじゃないかと言われても、言い返すことはできない。

だが例えそうだとしても、里奈のためにも、今ここで夫に不貞の事実がバレてしまうことはマイナス以外の何物でもないだろう。

「里奈、聞いてる?今日はもう、帰った方がいい」

冷静に告げる僕を、里奈は一瞬、責めるような目で見つめた。

しかしすぐに「うん」と小さく頷くと、それからは無言でそそくさと帰り支度し、彼女はまるで逃げるように部屋を後にしたのだった。



廉の本音


里奈がいなくなってしまうと、輝いて見えたはずの夜景も、優美で重厚な部屋の設えも、途端に無味乾燥なものに感じられた。

テーブルに残った赤ワインを見つけ、渇きを誤魔化すように一気に飲む。

ついさっきまで心も身体も一つだったはずの彼女は、夫の元に戻った。

…もちろん、帰るよう促したのは自分だ。

それはそうなのだが、止めようもなく広がっていく虚しさと孤独は、僕にも“戻るべき場所”を思い出させる。

“明日、行きたいところはある?”
“銀座にでも行こうか。欲しいものがあれば、買ってあげるよ”

僕はそんなLINEを美月に送り、そして自分でもバカバカしくなってスマホをベッドに放り投げた。

−何がしたいんだ、俺は。

結局のところ「覚悟を決めた」などというのは一時の感情の盛り上がりでしかなく、僕には妻を、里奈の夫を、そして世間を敵に回す心づもりなどまるでなかったのだ。

10年の時を経て結ばれた里奈に対する思いは、純愛と呼べるかもしれない。

しかし、だからといって何もかもを捨てて盲目に突っ走れるほど、僕はもう若くなかった。

僕とのことが里奈の夫・二階堂に知れたら…。まず間違いなく慰謝料請求をされるだろう。それだけで済めばまだしも、他にどんな手を使ってくるか想像もつかない。

さらには二階堂が、不貞を働いた里奈をあっさり捨てるかもしれない。

もしそうなったら、僕には彼女を守る責任がある。けれども、どうやって…?

里奈を守るためには、僕の方も美月を切り捨てなければならないのだ。

これまでの経験から、たとえ里奈のことが妻に知れても、美月の方から別れを切り出すことはないように思われた。

だとすれば僕のほうから、何らの非もなく、自分との子どもを心から望んでいる妻に、婚外恋愛を理由に離婚を申し出なければならない。

もしも、僕と里奈の関係がバレたら。

それは未だ“もしも”の段階とはいえ息が苦しくなるシナリオで、僕にはどうしても、その結末を考えることができなかった。

しかし、その翌日。

僕は妻・美月から、思いもよらぬ言葉を突きつけられることとなる。


久しぶりに再会した妻から飛び出した、衝撃の言葉とは?

翌日、銀座・三越前で待ち合わせた妻の美月は、普段とは別人のようだった。

シンガポールにいるときの彼女はカジュアル一辺倒だが、大人っぽいブラックワンピースに身を包んだ妻は、遠くからでも目を引いた。

「どうしたの?おめかしして」

「綺麗だね」というべきか迷ってそう声をかけると、美月は僕の躊躇やよそよそしさを吹き飛ばすように、満面の笑顔をこちらに向けた。

「そりゃ、廉と久しぶりの銀座デートだもの」

「行こう」とさりげなく腕を絡ませた美月の温もりに、僕は不謹慎ながら昨夜の情事を思い出してしまう。

今頃、里奈はどうしているだろうか。

…あのあと、僕は彼女と電話をして「しばらく連絡は取らないでおこう」と話した。

二階堂に疑われている以上、そうするのが最善の策だ。

僕はあえて突き放すような声を出したが、里奈がそれを「わかった」と素直に承諾するのを聞いて、実は内心、自分勝手に胸を痛めたりしていた。

僕だけじゃない。やはり里奈も、今の生活を捨てる気はないのだ。

昨夜の電話は、そのことをお互いに確認するような会話だった。



「どうしたの?ぼんやりして」

美月がランチを予約していたらしい『シェ・トモ』で、ふいに顔を覗かれ我に返る。

妻に何かを悟られてしまわぬよう十分に気を配り、今は彼女との時間に集中しようと努力をしているはずなのに、気づけば上の空になってしまう自分がいた。

「いや、別に」と誤魔化すようにしてウォーターグラスを手に取った僕を、美月はじっと眺めている。そして急に、改まったそぶりを見せた。

「…ねぇ。廉に、話があるの」

そんな風に声をかけられ、僕は咄嗟に身構える。

「どうした?」

一体、何を言い出すのか。

怯える内心を、絶対に表に見せてはならない。僕は必死でポーカーフェイスを保ちつつ、彼女の言葉の続きを待った。

「私、シンガポールには戻らない。このまま実家に帰ります」

−え…?

あまりに唐突なセリフに、僕はただ目を丸くして妻を見つめた。

「どうしたんだよ、いきなり…」

目を泳がせ、弱々しい声でしか尋ねることしかできないのはもちろん、自分にやましさがあるからだ。

すると美月はそんな僕の様子を黙って見つめ、穏やかな口調のまま静かにこう言ったのだ。

「…理由なら、自分が一番知っているでしょう?」

声を荒げることも、責めることもない。

しかし異論を許さぬその冷たい微笑の恐ろしさに、僕はごくり、と唾を飲むことしかできなかった。


▶NEXT:9月25日 火曜更新予定
美月から突きつけられた突然の別居宣言。一方で里奈も、夫婦関係に変化が起きる。



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