「サラリーマンの旦那じゃ、全然足りないの」。結婚後も親に金を無心する35歳、お嬢育ちの専業主婦

「サラリーマンの旦那じゃ、全然足りないの」。結婚後も親に金を無心する35歳、お嬢育ちの専業主婦

「親を大事にしろ」

人はそう、口を酸っぱくして言うけれど。
生まれてくる親を、子は選べない。

名誉や金にすがった親の“自己愛”の犠牲となった、上流階級の子どもたち。

代々続く地方開業医の娘として生まれた七海(31)も、そのうちの一人であった。

父の死をきっかけに、母は本性をあらわした。そんな母との関係に苦悩する女の、“幸せをかけた闘い”が幕をあけるー。


父の死後、少しずつ様子がおかしくなっていく七海の母・真由美。一方、七海はベンチャー企業を経営する諒太(29)と結婚前提の同棲をスタートさせるが、母、そして姉の沙耶から結婚を反対されてしまう。

さらに、高校の友人や諒太の母親に母の異常性を理解してもらえず、七海は苦しむのだった。



―七海、助けて。

突然、母からそんなLINEが届いた。

—このままだと、ママの幸せは根こそぎ沙耶に奪われてしまいます。七海ちゃん、ママを助けてちょうだい。

ただ事ではない様子の文面に、私は動揺してしまう。最後に電話で母の声を聞いた日から3週間近くが経過しており、まともに話すことはもうないのかもしれないと諦めかけていた矢先のことだった。

1ヶ月前に諒太の実家に挨拶に行った際に、諒太の母親が私たちに突きつけた、たったひとつの「結婚の条件」。それは、絶対に結婚を認めようとしない私の母を説得し、承諾を得るということだ。

しかしその後も、母は決して取り合ってくれない。諒太と二人でもう一度会いに行きたい、と告げたときも、母の答えは冷たかった。

「どうせ、結婚の話でしょ?そんな話、聞きたくもないわ。それに私、そんなに暇じゃないの」

諦めきれずに何度も連絡を試みたが、そのうちに電話さえ出てもらえなくなった。

姉には「家に行って諒太が土下座でもするべきだ」と言われたが、それをすべきだとはどうしても思えない。

そして途方に暮れたまま、しばらく経ったある日。母からの“SOS”が届いたのだ。

私は、思い切ってスマホの発信ボタンを押す。すると先週までの態度とは打って変わって、母はワンコールすら待たずに電話に出た。

「もしもし、七海…!?」

「どうしたの?何かあった?」

「このままじゃ、沙耶ちゃんに何もかも奪われるわ…!」

涙まじりの甲高い叫び声が響き渡り、私は思わず目眩がした。


母が語った、驚きの真実とは?

絡みついて離れられない関係


それから母が語ったのは、私を愕然とさせるような事実だった。

姉の沙耶は、サラリーマンの夫と結婚して家庭に入ったあとも、夫から与えられる生活費や小遣いでは到底やっていけないのだとこぼし、父や母に毎月お金をせびっていたらしい。

それどころか、息子の習い事や塾の費用など子どもにかかるお金の大半も、実はこれまで母が支払っていた。

「もうパパはいないんだから、って言っても、沙耶がわかってくれないの。うちにいくらでもお金があると思ってるみたい…」

さらには、最近姉は情緒不安定で、何をするにも無気力だと言うそうだ。

「それで心配だから、平日の昼間はママが沙耶ちゃんのマンションに通って、代わりに家のことをしてあげてるのよ。習い事のお迎えも代わりに行ってあげてるの。だけど自由な時間も奪われちゃうし、体力的にもキツくてね…」

私は呆れて、はじめは黙って話に耳を傾けていた。しかし時折鼻をすすりながら弱々しく語る母の声を聞いていたら、何とかしてあげたいと思ってしまい、放っておけばよいのについ口を挟んでしまったのだ。

「ママ、どうしてお姉ちゃんの言いなりになるの?何を言われたって、言うことを聞かなきゃいいじゃない。お金をあげる必要だってないんだよ?」

「だって沙耶ちゃんがね、十分なお小遣いも貰えてないって言うんだもの。かわいそうになっちゃって…」

「でもそもそも、就職したくないって言って卒業後すぐに結婚して専業主婦の道を選んだのはお姉ちゃん自身なんだから。自分で選んだ道じゃないの?」

私がぴしゃりと告げると、母は黙り込む。きっとさすがの母も、姉を散々甘やかしてきたこれまでの行いを後悔しているのだろう。そう思ったとき、母が急に口調を荒げた。

「…あなたに、沙耶ちゃんの何が分かるって言うのよ!」

「…へっ?」

驚きのあまり、思わず間抜けな声が出た。

「沙耶ちゃんはね、あなたと違って、大学に入るまでずっと後継ぎになるプレッシャーに苦しんで生きてきたのよ!散々自由に生きてきたあなたに、その苦労はわからないでしょう!あの子はかわいそうな子なのよ!」


—なんだ、私に本気で助けてもらいたかったわけじゃなかったんだ…。

これは、いつもの愚痴だ。やっとそう気がついたら、一瞬でも情にほだされた自分のことが馬鹿馬鹿しくなって、我ながら呆れてしまう。

そういえば前に、何かの記事で読んだことがある。母と姉のような関係を、共依存と呼ぶのだそうだ。互いに絡みついて逃れられない、おぞましい親子の依存関係。

そこに自分まで巻き込まれるのだけは、絶対に御免だ。

母は一方的に好き放題わめき散らすと気が済んだようで、電話がプツリと切れた。

そのとき、私と母をかろうじて繋いでいた細い糸のような何かが、一緒に切れた気がした。



その週末は、朝から雨がしとしとと降り続けていた。

私は、親友の美寿々とブランチをするため、ミッドタウン日比谷の『ブヴェット』に向かう。

席に着くなり、美寿々はヨーロッパのおしゃれなカフェのような店内を見回して、嬉しそうにスマホを取り出した。



「このお店、すっごく可愛い。そうだ、ストーリーにあげてもいい?」
「うんうん」

美寿々は店内の様子を短い動画におさめると、手早くInstagramに投稿を済ませる。

その後は食事をしながらしばらくたわいもない話に花を咲かせていたら、突然声をかけられた。

「七海と美寿々だよね?」

顔をあげると、そこには高校時代の友人・茉莉が立っている。


茉莉親子からの心無い攻撃に胸を痛める七海

敷かれたレールを踏み外す勇気


「やっぱり。ミッドタウンの中でお買い物してて、さっき美寿々のインスタ見たら、このお店にいるみたいだったから寄ってみたの!」

そういえば前回女子会で集合したあとすぐに、茉莉は医師の彼氏にプロポーズされ、急遽結婚が決まったそうだ。そのためか、茉莉は幸せオーラで満ち溢れているように見える。

「今日、お母さんが東京に来てて二人で買い物してたんだぁ」

茉莉がそう言うと、彼女の背後からひょこりと母親が顔を出した。私と美寿々は慌てて立ち上がる。

「おばさん!お久しぶりです!」

「久しぶりねえ。二人とも元気にしてた?」

茉莉の母親は、懐かしそうに目を細めて私たちをしばらく見つめていたが、思い出したように口を開いた。

「七海ちゃん、お父さんのこと大変だったでしょう?それにしても、病院は売っちゃったのねえ。桐谷医院がなくなるなんて残念だわ。七海ちゃんかお姉ちゃんが医学部にさえ入っていれば、こんなことにはならなかったのに」

そこまでものすごい勢いでまくし立てたあとで、ポンと軽く手を打った。

「…あっ、そういえば茉莉に聞いたけど、結婚するんだって?おめでとう」

「あ、ありがとうございます…。茉莉ちゃんも結婚おめでとうございます」

「お式はどこでいつやるの?結納はもう済ませたのかしら?」

私がかすれた声で「結納はしません」と答えると、茉莉の母は目をまるくした。

「…へえ。桐谷さんちのことだから、そのあたりはきちんとしてらっしゃるかと思ってたけど…。現代的っていうのかしら、意外と適当なのね」

そのとき茉莉に「そろそろ行かないと」とつつかれて、茉莉の母は「それじゃあ、またね」と小さく微笑む。

そしてこのあと茉莉の婚約者と帝国ホテルでランチするのだと言い残し、親子は嵐のように去っていった。

呆然とする私に向かって、美寿々がぽつりと呟いた。

「私、七海みたいな生き方も素敵だと思うよ」

「えっ…?」



驚いて美寿々を見つめ返すと、彼女は「実はね」と切り出した。

「私、今の事務所辞めることにしたの。それで長野に帰って、お父さんの事務所で一緒に働くことにした」

美寿々は、都内の大手弁護士事務所で弁護士として働いているが、彼女の父親もまた弁護士で、松本で事務所を開業しているのだ。

「本当は長野に帰りたくなかったけど、かといって親に逆らう勇気もないの。結局私は、親の敷いたレールを歩く以外は何もできない意気地なしなんだよ」

「そんなことないよ、美寿々。司法試験の合格だって、今の事務所での地位だって、美寿々自身が自分で努力して掴み取ったものじゃない」

「ううん、仕事は好きだしやり甲斐も感じてるけど、そもそもこの職業だって、自分の意思で選んだのかどうかもわからない。他にもっとやりたいことはいくらでもあったよ。でも正直に言えば、金銭的な苦労もしたくなかったから、実家に背いて、後ろ盾を手放す度胸なんてなかったんだ」

美寿々は寂しそうに小さく笑って、続ける。

「長野に帰ったら、地元の弁護士とお見合いみたいなことするようにも言われてるから、そうするつもり。それが本当に幸せかどうかわからないけど、受け入れるしかないの。だから…」

そこまで言うと、彼女はうつむいていた顔をあげて、にっこり笑った。

「私には出来なかったけど、本当は、七海みたいな生き方に憧れるの。七海なら絶対大丈夫だから、自信持ってね」

みるみるうちに視界がぼやけて、美寿々の姿が霞んでいった。涙がこぼれないように窓から外を見上げるふりをする。朝から降り続いていた雨がいつのまにか止んで、雲の合間からは眩しい光が差していた。



その夜、私は諒太と話をして、あることを二人で決めた。

もう、母に許しを乞うことは二度としない。諒太の母親に理解してもらって、私たちは、自分たちの意思で結婚するのだ。


▶Next:9月26日 水曜更新予定
結婚式準備に悪戦苦闘する七海。



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