「女のくせに、上から目線かよ」。妻にブチ切れ、1歳半の我が子に八つ当たりするサイテー夫の言い分

「女のくせに、上から目線かよ」。妻にブチ切れ、1歳半の我が子に八つ当たりするサイテー夫の言い分

港区界隈に生息している、40代・既婚の男たち。その名も「ダディ」。

仕事での成功は当たり前。

ハッピーな家庭も築き、アッパーエリアの公園に出没。

夜はイケてる腕時計をチラつかせ、「オッサン」を自称しつつ、部下にシャンパンを奢る余裕もある。

自他共に認める勝ち組オトコ、それが「ダディ」だ。

これは、今まであまり表立って語られたことのなかった、彼らの物語である。


好調な”ダディライフ”を送っていたリョウ(42)。だが、会社の右腕だった加納がリョウを裏切り、汚い手を使ってリョウの会社を潰そうと企む。

そんな折、プライベートでも妻の朋美に浮気を疑われてしまうなどトラブルが続くが、何とか誤解は解け、平穏な毎日を取り戻したかのように見えた。



「パパ起きて!ラン行くよ!」

日曜日。まだまだシルクの毛布に包まれて寝ていたいが、美優の甲高い声は止まない。

時計を見ると、まだ朝の5時を少し回ったところである。最近では、美優の方がすっかり走ることに夢中になっている。

引きずられるようにしてベッドから這い出ると、何故か朋美までがキャップをかぶり、走る準備をしていた。

「あれ…朋美、どうしたの?」

朋美は真新しいスニーカーの紐を結びながら、照れたように言い訳する。

「私も40歳になって太りやすくなってきたし、走るのもいいかもって」

ほらパパ行くよ、と2人に背中を押されながら、リョウも慌てて身支度を始める。

家族で過ごす幸せを感じながら始まった最高の週末だったが、その時間は長くは続かなかった。



「あら、あれ加納さんたちじゃない?」

走った後に軽くランチでもしようと、家族で『六本木ヒルズ プレミアムダイニングフロア』に訪れた。

朋美が視線を向けるその先には、見覚えのある、だが今一番憎い男が、家族を伴いレストランに入ろうとしている姿があった。

くるりと踵を返そうとするリョウをよそに、経緯を全く知らない朋美は、大きく手を振っている。

「加納さーん!!」

朋美にしてみれば、加納のことはバーベキューなどで交流のあった時の記憶のままなのだろう。リョウは、家庭に仕事のゴタゴタは持ち込まない主義だったが、加納が会社を辞めた本当の理由を朋美に伝えていなかったのは失敗だった。

「あら、飯塚さん!!お久しぶりです。色々とご挨拶もできずに…」

そして、恐らくこちらも内情を知らされていないであろう加納の妻が、いかにも人の良さそうな笑顔を向けて話し始める。

加納とリョウはお互い牽制し合うが、妻たちはお構いなしに喋り出した。

そして何も知らない朋美が、とんでもない発言をしてしまったのだ。


ばったり出くわしてしまった天敵・加納は一体何を語るのか?

完璧に嘘を隠し通す男


「そうそう。今度ね、息子さんの通われている園の運動会に、うちの主人も参加することになったんですよ。マリちゃんのパパにどうしてもって頼まれて。そうだ、加納さん!当日は是非ご一緒しましょうよ!」

朋美は嬉々として話し続ける。

加納の妻まで、まぁー、じゃあ是非!と相槌を打っている。しかし加納と仲良く運動会に参加するなど、今の状態ではとてもじゃないが不可能だ。これは、すぐにでも朋美に事の真相を打ち明けねばならない。

そして帰宅して美優が寝付いた後、リョウは今までのことを洗いざらい朋美に報告したのだった。

加納がただ退職したのではなく、営業部のエースを引き抜いて同業で起業したこと。

社内の女性と不倫しており、その女性の友人を使って自分に怪しげな罠を仕掛けてきた疑惑があること…。

朋美は深刻そうな顔で頷いた。

「そんなことがあったなんて…それなのに私ったら、リョウくんが浮気してるとばかり思い込んで辛く当たってたのね。本当にゴメンなさい。今度からは、そういうこともっと私に教えて。私も何か力になれるかもしれないし、それでなくてもお仕事が大変な時に余計なことしないようにもできるし」

朋美の優しい言葉に、リョウは心から満たされていく。そして、ここ最近のめまぐるしい日々を思い返した。

会社は大ピンチに直面したものの、新人の宏樹を紹介がてらリョウ自身も既存クライアントに挨拶回りに行ったり、新規獲得に奔走したりした。そのおかげで、既存客との関係は持ち直している。

それに、加納から一旦は奪われたクライアントが一組、先日戻ってきてくれたのだ。このままでは遅かれ早かれ、加納は経営者としてのピンチを迎えることになるだろう。

だが、いい気味であるはずなのに、少しだけ憂鬱な気持ちにもなってしまう。

先ほど見かけた加納の奥さんやベビーカーで昼寝をしていた息子の顔が頭にちらつくのだ。

あの人の良さそうな奥さんとまだまだ可愛い盛りの息子の一生が、あの加納にかかっていると思うと、リョウはいたたまれなかった。



加納慎吾:チャラついた遊び人のくせに成功しているあいつが許せなかった


「慎吾、どうしたの?全然飯塚さんと話してなかったじゃない。経営者としてのアドバイスとか直にいっぱい聞くチャンスなんだから、ランチにお誘いすればよかったのに」

妻の父親は、会社を経営している。そんな妻自身は、父親の会社の役員として給与を貰っているだけなのに、いっぱしの経営者気取りで常に上から目線で批判してくる。

いつものことだが、男として、女のこんな物言いに慣れたら終わりだ。

「あいつから得られるものなんてもうないよ、だから自分で起業したんだろ。あいつはお前が思ってるより浅い人間なんだよ」

「あいつって、何それ…。仮にも元上司なのに、すごい言い草ね」

息子が眠っているときは、夫婦間の会話の刺々しさを止めるものはない。レストランに入ってもピリッとした雰囲気は和まず、やがて沈黙に変わる。そのうちに妻はスマホをいじり出した。

何もかも上手くいかないことだらけだ。

家庭も、仕事も。唯一の癒しだと思ってたまりえとの関係もー。


秘められていた加納の本音


そもそも俺は、あいつのことがずっと気に食わなかった。

飯塚リョウ。

本能的にいけ好かないやつだとは思っていたが、俺は前職で先輩だったあいつの起業話に乗ってしまった。

それまで会社で行き詰まっていた俺と違い、あいつは出世コースを歩んでいたし、異様に口が上手くて、理想を語るときの熱気には変に人を説得する力がある。

それで俺もつい、安定した仕事を捨ててあいつと仕事をする気になったのだ。

最初の2年ほどは、アイディアマンの社長と実行派でナンバー2の俺でバランスが取れていたし、会社も勢いよく成長していった。

だが次第に、あいつの"チャラいくせに仕事も家庭も要領よくこなすところ"に苛立ちを覚えるようになる。

しばらくすると、あいつのやってることくらい俺にも出来るんじゃないかと思えてきて、自分で起業するという考えが常に頭の中にチラつき始めた。

幸い創業時から一緒にやってきただけあって、自ら会社を立ち上げるのに必要な知識や仕事のノウハウは蓄積できている。

チャラつきながら仕事をしているあいつだけが、社長社長とおだてられるのはおかしい。

本来は俺のようにしっかりとした信頼できる人物が組織のトップになるべきなのだ。

なのに、この俺が満を持して起業したはずの会社は、早速存続の危機に直面している。何しろ、少し値段を下げれば簡単にウチになびくと思っていたクライアントが全く思うように動かない。

どうやら、あいつの会社に新しく入った相当優秀な営業マンがいるらしい。このままでは、せっかく引き抜いた長瀬に約束していた給料が払えるかすら微妙な状況だ。

それだけではない。

妻と違って大人しく、浮気相手という分をわきまえていたからこそ付き合いだしたまりえも、起業した途端タガが外れ、昼夜関係なく連絡をよこすようになってきている。

全てにおいて、このままではいけないー。

解決策を考えているのに、息子が昼寝から起きだし、何が気に入らないのか大声で泣き始めた。

オーダーした料理が到着した途端に泣き出す息子にも、その息子をあやしに外に出ていかない妻にも、無性にイライラする。

「なぁ、外であやしなよ」

そう声をかけても、聞こえていないのかこちらを無視する妻。

耳をつんざくようにギャーギャーと泣き叫ぶ息子の声は、一向に止む気配がない。

俺の人生は、こんなはずじゃなかったのにー。

「静かにさせられないなら、外に出ろってば!」

少し大きな声を出しすぎたかと、ハッとした。

妻は、こちらを冷ややかな目で一瞥し外へと出て行った。

うちの家庭はもうおしまいだ。

会社も上手くいかない。まりえとも潮時だろう。

それなのにあいつは、俺がいなくなっても上手くやっているようだし、相変わらず家庭も円満そうで、反吐が出る。

せめて、あいつが不幸になれば、俺の気も少しは晴れるというのにー。


▶NEXT:9月30日 日曜更新予定
失うものがない男の最後の攻撃。リョウは果たして無事でいられるのか?



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