「愛され体質になろう♡」謎の恋愛講座に参加する、いつまでも他力本願な女の行く末

「愛され体質になろう♡」謎の恋愛講座に参加する、いつまでも他力本願な女の行く末

あなたは覚えているだろうか。

有り余る承認欲求のせいで、ただの主婦ではいられない二子玉川妻たちの戦いを。

「サロネーゼ」と呼ばれる、自宅で優雅に“サロン”を開く妻たち。空前の習い事ブームにより脚光を浴びた彼女たちだが、それも数年前までの話。

東京では早くも旬を過ぎ、サロネーゼたちの存在感は急速に薄まっている。

由美が主宰していたポーセラーツサロン“Brilliant”に、最初にやってきた生徒・松浦梨沙。

何不自由ない結婚生活を送っていた梨沙だったが、結婚8年目、夫の経営する飲食事業が傾いてしまう。

次第に怪しげなオイルとコーチングに傾倒し始めた梨沙はその後、どうしているのだろうか...?



−今日はやっぱり…このオイルがいいわよね。

とある平日の夕刻。

二子玉川駅から徒歩15分の場所に位置する実家の2階自室で、松浦梨沙は薄いパープル色のオイルが入った小瓶を手に取った。

“セクシャリティ”というネームが付けられたその液体は、ほんの1滴、手首に染み込ませるだけで異性の興味を惹きつけることができる情熱のオイル…らしい。

彼女がこのオイルを選んだのにはもちろん理由があって、実はこのあと、梨沙の人生において非常に大切な用事があるのだ。

というのも、登録している結婚相談所から、かなり久しぶりに面会希望の男性がいるという連絡があった。

信じがたい事実だが、梨沙が1年前に結婚相談所に登録してから、こうして面会希望の連絡がきたのは今回でやっと2度目。

アラフォー&バツイチ&子持ち。

その条件がこんなにも足を引っ張るとは…正直、想像を超えていた。

だからこそ、梨沙にはこの“セクシャリティ”オイルが必要なのだ。

オイルの力で自身の魅力を最大限にアップし、少ないチャンスを、必ずモノにしなければ−。


気合い十分で婚活に向かう梨沙。しかし彼女は、飲食事業を営む年上の夫と結婚していたはずだが…?

裕福だったはずの妻


松浦梨沙は裕福な妻だった。

お茶の水女子大学を卒業後、メガバンクの一般職をしていた梨沙。

美貌の持ち主とまでは言えない梨沙ではあったが、箱入り育ちで男性経験も少なかった彼女。それゆえか清潔感が溢れており、26歳のとき、10歳年上で飲食事業を営む夫から熱烈な求婚を受けて結婚。

早々に子宝にも恵まれ、等々力に新築した一軒家で、何不自由のないセレブ妻として贅沢を享受していたのだ。

夫は仕事でほとんど家におらず、娘が生まれてからは夫婦生活もご無沙汰ではあったが、豪邸と言える家で、金銭的に余裕のある生活をさせてもらっていた梨沙に、特に不満はなかった。

子どもが小学校に通うようになると自分の時間も持てるようになり、いつか自分もサロネーゼになることを夢見て、二子玉川にオープンしたばかりのポーセラーツサロン“Brilliant”に通いはじめるなど、まさに絵に描いたような“裕福な妻”をエンジョイしていたのである。

ところが、結婚8年目。

彼女は夫から、思いもよらぬ言葉を告げられた。

「店がうまくいっていない。最悪の場合、家も手放さないといけないかもしれない」

…そして最悪のシナリオは、それから程なくして現実のものとなったのだ。



等々力の家を手放すのと同時に、梨沙は娘を連れて二子玉川の実家へと戻った。

梨沙の父親は誰もが知る大企業の役員まで務めた人物であり、資産家とまでは言わずとも、出戻りの娘と孫の面倒をみるくらいの余裕はある。

それゆえ父親は、はっきりと言わないまでも暗に離婚を勧めた。

親にしてみれば、愛する娘と孫の苦労が目に見えている結婚生活を、続けさせるわけにいかないと考えたのだろう。

そして梨沙も、結婚してから8年間、仕事漬けだった夫の庇護の元で贅沢な生活を送ってきたにもかかわらず、迷うことなく離婚を選択したのだった。

とはいえ、「金の切れ目が縁の切れ目」と言い切ってしまっては梨沙が少々気の毒かもしれない。

彼女にとっては、“誰かに守られて生きること”が当たり前なだけなのだ。その本質が、一児の母となって守るべき存在ができても変わらなかっただけ。

そのため頼りにしていた夫が心もとなくなると、梨沙はほとんど無意識に、その空いた穴を埋める“何か”を探し始めた。

そしてその空洞にするりと入り込んだのが、怪しげなオイルと、そのオイルを梨沙に販売するセイラという女だったのだ。

まだ離婚前、夫の事業が経営難に陥って間もない頃、二子玉川のカフェでセイラに声をかけられた梨沙。

次第にセイラに傾倒していった彼女は現在、さらなる深みへとハマってしまっていた。


梨沙が傾倒する“セイラ”は、オイル販売だけでなく新たなビジネスモデルを構築していた…!

愛されたいと願う前に


「豊かさも、幸せも、皆さんは簡単に手に入れることができるんです…!」

9月某日。

渋谷にある雑居ビルの一室では、柔らかく穏やかであるのに、しかし妙に頭に響く声でセイラが何やら力説していた。

セイラは以前より、コーチングと称した怪しげなカウンセリングを行うとともに、悩み相談に来た客に対し、“自身の潜在能力を高めてくれる”オイルを販売している。

そんなものを誰が買うのか?…そう思われるかもしれない。

しかし本当に世も末だと思ってしまうが、目に見えぬ力に頼らざるを得ないほど追い詰められた女たちは、想像以上に数多く存在しているのだ。

そしてセイラは、まさにそういう女たちをターゲットにして、1年ほど前に“プリンセスLOVEアカデミー”というオンラインサロンを立ち上げた。

このオンラインサロンの月会費は、5,000円。なんでも彼女が深い知識を持つらしいホロスコープをベースにして「理想の相手と出会うには」とか「豊かで幸せな結婚をするには」といった恋愛及び婚活ノウハウの共有がされている。

基本的にはネット上での情報共有がメインなのだが、月に1度だけ今日のような恋愛講座が開催され、オンラインサロンの会員は無料で参加することができる仕組みだ。

「豊かさと幸せを、簡単に手にいれる。その方法というのは、“愛され体質”になること。なんだかんだ言ったって、女性の幸せは、素敵な男性に愛されることに尽きるのです。

そして愛され体質になることは、何も難しいことじゃない。自分は愛されるべき存在なのだと自覚して、愛される存在として振る舞うだけ。それだけのことなのよ」

一体、何を言っているのか。

良識ある方々は頭に「?」しか浮かばないだろう。

しかしセイラの元に集まった20代から40代の女たち(最も多いのは30代後半である)の瞳は、真剣そのものだ。

そして、並べられたパイプ椅子の最前列中央に陣取り、熱心に何度も頷きながらセイラの話を聞いているのは…他でもない、松浦梨沙なのだった。

彼女はつい先日、結婚相談所経由でとある男性と面会したばかりのはずだが、しかし今日こんな場所に参加し、最前列でセイラの言葉にかぶりついているということは...結果は聞かなくても予想がつく。

「今日は、皆さんが“愛され体質”に変わる手助けをしてくれるオイルをご用意しています。ご購入希望の方はいらっしゃいますか?」

…セイラの問いかけに、梨沙が迷わず手を挙げた。

梨沙は未だに、気が付いていないのだ。

愛されるために必要なのは、“愛され体質”になることなんかじゃない。ましてや謎のオイルでもない。

まずは自分から、愛すること。良い時ばかりではなく悪い時も含めて、すべてを受け容れる覚悟をもつこと。必要なのは、それだけだ。

愛も豊かさも与えてもらうことを前提としている女が、誰かに本気で愛されるわけがないのだから。

梨沙が自身の弱さと向き合い、愛し愛される強さを持てるようになる日は、まだまだ遠いようだ。


▶NEXT:10月1日 月曜更新予定
“プリンセスLOVEアカデミー”を立ち上げたセイラの、知られざる素顔とは



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