「一度好きになったものは、人生をかけて追求し続ける」。全てを失いかけた男の、最後の大博打

「一度好きになったものは、人生をかけて追求し続ける」。全てを失いかけた男の、最後の大博打

男ならだれでも一度は夢を見る、“モテキ”。

しかし突然訪れた”モテキ”が、人生を狂わせることもある。それが大人になって初めてなら、なおさら。

これまでの人生、「モテることなんて何の価値もない」と思っていたタクだったが、モテ男ジェイと出会い、起業することに。

その後テレビに出て有名になったタクに人生初のモテ期が到来するものの、週刊誌にスクープされたり、絶世の美女から辛口評価を受けるなど、次々と災難が降りかかる。

そしてとうとう、問題を起こし過ぎたタクは、会社をクビになってしまったのだった。



窓の向こうには、満天の星空のような東京の夜景が広がっている。

港区の超一等地マンションの42階。この最上階のパーティールームで、僕はある女性を待ちわびていた。生まれ年のシャンパンにちびちび口を付けるふりをしているが、味わっている余裕など、実はない。

「タクさん、今日はお招きいただいてありがとう〜♡」

高い声で呼び掛けられ振り向くと、女の子が一人立っていた。 ジェイが呼んだのだろうか。少なくとも僕は知らない子である。

「タクさんのお部屋、みてみたいな♡」
「今日は先約があるから、ごめんね。」

僕がこのマンションに部屋を持っていることを、誰かから聞いたのだろう。すぐに断ると、残念そうに去って行った。

「お前に会社を辞めてもらうことになった」

ジェイにそう告げられてから、早5年。
僕は、東京に再び舞い戻ったのだ。



この5年、本当にいろんなことがあった。

会社を辞めて枚方に戻ってからの半年間は、まるで残渣(残りかす)のような状態で、『TJマイクローブ』のCTO・茂手木卓として過ごした日々を幻想のように感じていた。

そんな僕を現実に引き戻したのは、エリカさんからの1本の電話だった。

「先週、ミータンが息を引き取ったわ。あの人らしい最期だった。」

エリカさんによると、ミータンこと岩城氏は長年闘病生活を送っていたが、周りにはそのことを隠していたらしい。

「最後まで、よくあなた達のこと話してたわよ。未来のある若者が羨ましいって。」

二度しか直接会うチャンスがなかったものの、あの豪傑な岩城氏が僕なんかを羨みながらこの世を去ったなんてとても信じられず、どこか上の空でその話を聞いていた。

ふと気になって、なぜ会社を離れた僕にわざわざ連絡してくれたのかを問うと、エリカさんはフフッと笑い、「理由は二つ」と切り出した。

「ひとつは、彼に頼まれてたのを思い出したから。あのサプリで肝臓の検査値が良くなったことを茂手木に伝えろって。その後色々忙しくって、遅くなって御免なさいね。」

「研究者としては一流だと思うって言ってたわよ」と、彼女は笑った。

「ふたつめは、いつかの恩を返してもらおうと思って。貴方、私に借りがあったはずよね。言っとくけど、ミータンがあなたを辞めさせたのは、私が何か言ったからじゃないわよ。業績悪化の原因は自分のせいだって、わかってるでしょ。」


女神からの電話で息を吹き返したタクちゃん!復活に向けて立ち上がる!

「今すぐには恩返しはできません。僕に時間をくださいませんか。たとえ向いていないと言われても、もう一度チャレンジします。僕自身と、あなたのために。」

エリカさんにそう返事をしたあと、僕は大学院に復学し、元の研究室に籍を置かせてもらうことになった。

夢敗れて元に戻るのは恥だとズルズルと引き伸ばしていたが、エリカさんに再び会えるという目標ができれば、話は別である。

新たな研究テーマを「微生物摂取に伴う肝機能改善」にしたいと言った当初は、元々の研究とは分野が違いすぎると、教授からは大いに反対された。しかし、ある研究誌に教授と連名で掲載された論文を見てからは、随分好意的に変わった。

一方ジェイは僕が去った後、佐藤社長を社外役員に招き入れ、バイオオイル関連の研究に力を注いでいた。

その後、オイル抽出後の残渣を利用した濾過システムを開発し、国からの補助金を受けたことが発表された。それにより市場価値を大きく上げ、今やエコ時代の救世主として、再度注目を浴びているのだ。

急激に会社を成長させたジェイが、僕に言う。

「タク、すっごい発見してくれよ。待ってるからな。」



多くの研究者にとっての憧れは、世界的な研究論文誌に掲載されることである。

僕の目標は、論文をその雑誌に載せることだ。東大京大レベルでも年に数本しか載らない雑誌に、微生物が肝臓に効くという衝撃の事実を載せれば、きっとメディアが飛びつくはず。

「ジェイ、僕はオタクだからわかるんだけど、おそらく、この研究は成功する。」

僕はすぐさまジェイに連絡し、はっきりとこう告げた。

「だからもう一度だけ、僕にチャンスをくれないか。」

ジェイは、少しの間黙った後、辛そうに首を横に振った。僕はこの期に及んで、彼はOKしてくれると信じていたのだから、やっぱりとんだ甘ちゃんだ。

僕はその後、素直な学生を言いくるめて総動員し、仮説を片っ端から検証、有効成分を特定した。

その甲斐あって、中規模研究誌の片隅に僕の名前が載った。それを見つけたジェイは「時がきたら、すぐ事業化できるように、準備しておく」と言ってくれた。

そして、大学院に戻って数年後、微生物から肝臓への有効成分が抽出できる実験結果が、ついにあの雑誌に掲載された。

その後は、数年前に一度経験したことの、繰り返しだ。

最初に『TJマイクローブ』を設立した時以上のスピードでビジネスの世界に戻った僕は、再び東京で、かりそめのモテ期を経験しながら、今日を迎えたのだ。(二度目なので、前回よりも余裕の対応ができるようになったし、無駄金も使っていない。)



パーティー会場を後にした僕は、身支度を整え、緊張しながら彼女に会いに向かった。

「茂手木さん、お久しぶりね。」

5年前と全く変わらない姿で玄関前に立っている彼女は、やはり女神のように美しい。

「恩返し、してもらいにきたわよ。」


そして明かされる、エリカの狙い。

エリカの本音


「エリカさん、僕はあなたを愛しています。」

そう言いながら、指輪を差し出す年下の男の手は震えていて、私は思わず吹き出しそうになった。5年前に言った言葉を、彼は一体どういう風に受け取ったのだろうか。

「今の貴方から何かしてもらおうだなんて思ってもない。だけど、いずれ、誠意を見せてくれる時がくるのなら、…期待してるわ。」

ミータンという存在を失って、漠然と不安を抱えていたあの時、私は金銭的な見返りが欲しかっただけだ。それなのに純粋な彼の脳内では、「誠意=愛の告白」という風に変換されてしまったようだ。

速水と男女関係にあったのは事実で、20歳の私にとっては、上場企業社長との恋愛は何もかもが輝いていた。彼がバツイチ独身だと言うのをそのまま信じていたなんて、今思うと無知もいいところだったけれど。

別れ話もほとんどできずに手切れ金を受け取ったのが、もう20年以上前のことになるなんて、時が経つのは早すぎる。

速水からの“懺悔”は高額で、私はそれで美貌を保ちながら、岩城という良き人物にも恵まれた。闘病中にも関わらず、充分過ぎるほどのお小遣いを上手に渡してくれた彼には、今でも感謝している。

目の前にいる震えるオタク君が、私の過去をどう思っているのかは知らないけれど、彼の誠意がハリーウインストンの指輪だというのなら、受け取っておくのが礼儀なのだろう。



一方のタクは…


「ありがとう。」

彼女の両手が、震える僕の手を包み込む。「誠意を見せて欲しい」と言われてから、5年間必死で考え続けた解答は、正解だったのだろうか。

「あなたを信じています。」と彼女に告げた時、彼女は僕のことを馬鹿と言った。それはきっと、覚悟もないくせに自分に取り入ろうとする男が、とても情けなく映ったからだと、僕は結論づけた。

次に会う時までには、金銭的にも、立場的にも、彼女に見合う男になる。そして、次こそは、全ての覚悟を決めて正直な気持ちを伝える。それが僕が彼女に送りたい誠意だった。

どんな指輪がいいか相談したジェイには再三止められた。しかし「奴隷になる覚悟すらある」と告げたら、知り合いのジュエリーショップの担当者を紹介してくれたのだ。

「綺麗…。ひまわりのお花みたいね。」

エリカさんは指輪をうっとりと眺めた後、大切そうに箱にしまった。

「あなたの気持ち、ありがたく受け取っておくわね。すぐにお答えすることができなくて、申し訳ないのだけれど。」

去っていくエリカさんを見送りながら、僕は今日が最後でなくて良かったと心底ホッとしたのだった。


タクが選ぶ未来は、エリカの奴隷か、それとも…。

エリカの出した結論は?


「タックン、お待たせしちゃったかしら?」
「いいえ、全く問題ないです。行きましょう。」

車に乗り込む私に差し出した彼の手は、東京で再会した日から一年以上たった今でも小刻みに震えている。

彼の会社の業績は右肩上がりで、いまでは立派な事業家としての片鱗を見せている。しかし私の前だと今だにガチガチに緊張しているのが、この頃はだんだん可愛く思えてきた。

彼に、何故私のことをそんなに愛してくれるのか、一度聞いたことがある。

「僕が人生で心惹かれたものは、ダムと微生物、そして、エリカさんの3つだけです。オタクなので、一度好きになったものは人生をかけて追求し続けますので。」

正直意味不明ではあるものの、実は少しだけ感動してしまった。



タクのチャレンジは、続く


自分が呼び出したにも関わらず、予想通り遅れて来たエリカさんは、車のドアを開けると僕に手を添え、スルッと乗り込んだ。

彼女の手には、あの時の指輪が今日も美しく輝いている。

会社が軌道に乗ってからと言うもの、僕の周りには数多くの女の子が次から次へと寄ってくるが、僕の初恋であるエリカさんに叶う女性はひとりもいない事を、日々実感している。

「今日は、速水会長と打ち合わせをして来ました。この後エリカさんとお食事するとお話したところ、よろしく伝えてくれとのことでした。」

僕は、たまにわざと速水会長の話を彼女にする。彼女の美しい額がピクッと動くのが、たまらなく可愛いのだ。

「そう。わかったわ。」

彼女は窓の外を見ながら、ふうとため息をつく。その姿が愛おしくて、「僕と結婚してください。」と、思わず口にしてしまう。

「…考えとくわ。」

今日もイエスとは言ってくれなかったけど、確実に前には近づいている。

僕は諦めずに、チャレンジし続けるつもりだ。


Fin



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