深夜2時、ホテルの一室で行われた秘密の儀式。男を手に入れるために境界線を超えた女の暴走

深夜2時、ホテルの一室で行われた秘密の儀式。男を手に入れるために境界線を超えた女の暴走

女の人の価値は、美しさだけではない。

どれほど純粋に自分を愛してくれるかだ…そんな風に思っていました。

でも、あの女のおかげで僕はやっと気がついたんです。

異常なほどの愛情が、女の人を、そして関わる人間の人生すらを壊してしまうってこと、

純粋な愛情は行き過ぎると執着に変わり、執着は憎しみへと変貌を遂げるってことを…

少し長いけれど、どうか僕の話を、聞いてください―

堂島ユウキの目の前に突如現れた黒髪の美女・ひとみ。出会ったその日に一夜を共にするが、彼女の異常性に気がつき、女友達の雅子の力を借りてついにひとみと決別、ユウキは雅子と結婚した。

大学時代からの想いを成就させた雅子は、妊娠して幸せの絶頂にいるが、ある日新居にひとみからの謎の小包が届く。

中身を見たユウキは、ひとみが滞在するホテルの部屋に駆け付けるのだった。



彼女は、私の人生のすべて


ひとみが生まれたのは、とてもとても寒い日でした。

けれど、破水して病院へ行くまでの道のりに見た月が、素晴らしく綺麗だった。

あれは、満月だったんじゃないかしら。

満月の日って不思議と、産気づく妊婦さんが多いんですって。看護師さんがそんな風に教えてくれたのを、しっかりと覚えています。

その証拠に、その日の分娩室はお産が入れ替わり立ち替わりで大忙し。大学病院で出産した私は、同日に出産をしたお母さんがあまりにも多いことに驚き、やはり月と女性の体の不思議な関係を感じずにはいられなかったんです。

初めてのお産で分からないことの連続だったけれど…あの子はね。ひとみは、本当にどの赤ちゃんよりも可愛らしく、私の自慢でした。

産まれたばかりなのに、くっきりとした大きな瞳。

小さくて弱々しい体で、こちらにすがってくる愛おしい姿を見て、私はある覚悟を決めました。

何があっても、自分の命を捧げてでもこの子を守るんだって。

この子の為なら、例え罪を犯しても構わないって。

それが間違っていたとは思えません。

だって母親って、そういうものでしょう。


愛情を一身に注いだ母。娘を大切に思うあまり、その行動は逸脱し…?

ひとみには完璧な人生を送って欲しかった


「大丈夫よ、お母さん。絶対に連絡するから。心配しないで」

そう言って晴れやかな笑顔で出かけて行ったひとみの背中を見ていたら、なんだか、全てが虚しく思えてきました。

赤ちゃんの頃から全てを犠牲にして育て上げてきたというのに、何ていう親不孝な娘なんだろう、と。

絶対に連絡するといったのに電話には出ない、メールも返さない。

一体ひとみはいつからあんな子になってしまったのか…。

やり直せるものなら、あの可愛らしい赤ちゃんの時代から、やり直したいものです。



でも一番の失敗は、やっぱりひとみの東京での就職を許してしまったことだと思います。

良い大学を出て、一流企業へ就職することができたのは、もちろん誇らしかったですよ。

けれど本音を言うとね。ひとみには栃木で就職して欲しかったし、家から職場に通って欲しかった。自分1人じゃお洋服だって選べないような子なのに、一体1人でどうするつもりだったんでしょう。

小さい頃から彼女がお勉強に集中できるようにと、私、ひとみの生活を整えることに、それはそれは神経を使ってきたんですよ。

髪の毛は小さい頃から私が乾かしてあげてますし、爪だって切ってあげます。小さい頃から一流の良いお洋服だけを選んで着せ、お友達だって私が許可した子だけと遊ばせてきました。

門限は6時。質の悪い子達とは関わらせないようにしてきたし、将来のためにお料理の腕もきっちり仕込んだつもりです。

だから、小学生の頃なんかはね。サンタさんに百科事典や地球儀をおねだりするような、文句なしの優等生でしたよ。

それなのに、まさか1人暮らしをするなんて。案の定、すぐに音をあげて家に帰ってきたけれど。

あの子は私がいないとダメなんですよ。

あの子の父親も、そう。本当は、私がいないとダメなんです。

今は事情があって…、そう、仕事がね、責任のある立場ですから、そうそう家には帰ってこれないから仕方がないんですけどね。

私が作る料理が、世界で一番美味しいんだ、って言ってくれましたもの。

まぁひとみの反抗期くらい、私一人で乗り越えてみせます。

どんなに理不尽なことがあっても、親が子を見捨てることなんてできませんもの。

全く、母親業くらい報われない仕事ってありませんよね。いつまでたっても子供に振り回されてしまって…。

でもあの子は、いくつになっても私の中では小さな赤ちゃんの時のままなんです。

私の世界で一番大切な、宝物。

あの子は、私のものです。


密室でユウキと2人きりになったひとみは…?

あなたと永遠に結ばれるには、これしかなかったの


「う…ん」

僕は、頭に鈍い痛みを感じながら目を覚ました。

ズキズキと痛む頭を手で押さえて、僕は驚愕する。

「なんだよ、これ…」

僕は、いつの間にかタキシードを着ていた。意識を失っている間に、ひとみによって着せられたのだろうか。



「ひとみ…?」

あたりを見渡しても、ひとみはいない。狭いベッドの上には、僕の服が丁寧にたたんである。

「ユウキくん、起きたのね」

声のする方を振り返ると、そこにはー。

ウェディングドレスに身を包んだ、ひとみが立っていた。



「どう?似合うかなぁ。ユウキくんは、とってもカッコイイよ」

そう言って、ひとみはくるりと一周回った。

でも、一歩一歩こちらに向かって歩いてくるその姿は、お世辞にも美しいとは言えなかった。

少し赤すぎるくらいの口紅をつけ、不揃いに切りそろえられた髪の毛をそのままに、こちらに向かってくる。

ーこの子をこれ以上、下手に刺激してはいけない。

おでこの辺りが、まだズキズキと痛んでいる。おそらく、ひとみに殴られたのだろう。

彼女が聞きたくない言葉を、僕が言ってしまったから。

『他の人を、君よりも愛するようになったんだ。そして、その人と結婚したんだ』

…今はとにかく、彼女の言うとおりにして、無事に彼女を家に帰さなければならない。

「ユウキくん、これでもう、わたしたちずっと一緒だよね」

彼女には助けが必要だ。だからとにかく、今は落ち着かせる。

「ひとみ、とっても綺麗だよ」

ひとみは嬉しそうにはにかんだけど、僕はその笑顔を見て、泣きそうなくらい悲しくなった。

彼女には、ホテルの部屋で気絶した男に無理やりタキシードを着せて自分もドレスを着ることの異常さが、わからないのだ。


正気を失ったひとみに、ユウキがかけた言葉とは?

幻の花嫁


僕は落ち着いて深呼吸し、ひとみの前に立つ。

また急に攻撃されることのないように、構えながら声をかけた。

「ひとみ、大事なことを忘れているよ」

ひとみは、首を傾げた。今度は警戒しながら、ひとみをベッドの上に座らせる。

「結婚するなら、ひとみのご両親も呼ばなきゃいけないじゃないか。ね。君のお父さんとお母さんに連絡をしなくちゃいけないよ」

「あぁ、そうよね…。そしたら、お母さんと…それから、お父さんにも連絡しなくっちゃ」

ふと時計を見ると、まだ午前2時だ。

雅子が僕のことを心配していないか気になったが、全てを終えるまでは連絡しないほうがいいだろう。余計なストレスは、与えられない。

ひとみは自分の携帯を取り出すと、電話をかけ始めた。

だが、こちらまで聞こえて来る呼び出し音はしばらく響いたままだ。無理もない。今は夜中の2時だから。

だが、次にひとみが呼び出した番号は、深夜にも関わらずたったのワンコールですぐに応答した。



「タクシーですぐに向かう」という親御さんの言葉に安心し、僕はひとみをベッドに寝かせた。

もうすぐ、全てが終わる。

この子をきちんと両親に引き渡し、ちゃんとした病院で診てもらおう。

そして落ち着いたら、雅子に全てを話す。全ての決着がついたら、僕もずっと会っていなかった兄の顔を見に行こう。

そんなことを考えているうちに、なぜか強烈な眠気が襲ってきた。

ひとみは、満足そうにこちらを見て微笑んでいると思ったら、安心したのか目を閉じて眠ってしまった。

邪気なく眠るその姿を見て、出会った頃はこの子と結婚してもいいとさえ思っていたな、とふと思い出した。

そんな風に考えているうちに…僕は深い眠りについてしまったようだ。

翌朝目が醒めると、ひとみの姿は忽然と消えていた。

真っ白な、ウェディングドレスを残して。


▶NEXT:10月19日 金曜更新予定
忽然と消え去ったひとみ。彼女の行方は?そして、その時雅子は…?



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