従順だった妻が急に豹変した理由。夫は知る由もない、平日昼間の“ある出来事”とは

従順だった妻が急に豹変した理由。夫は知る由もない、平日昼間の“ある出来事”とは

−なぜ今、思い出すのだろう?

若く、それゆえ傲慢だった同級生・相沢里奈の、目を声を、ぬくもりを。

これは、悪戯に交錯する二人の男女の人生を、リアルに描いた“男サイド”のストーリー。

一条廉は3歳年上の美月と結婚し、駐在先のシンガポールで新婚生活をスタートさせる。

しかしその心には、特別な思いを抱く大学時代の同級生・里奈がいた。

腐れ縁のように少しずつ距離を縮めていくふたりはやがて一線を超え、廉は情熱のまま「結婚しよう」とまで口走るが、すぐに現実を突きつけられてしまう。

日本に本帰国した廉は、再び美月と穏やかな生活を取り戻すが、里奈が妊娠したことを知った動揺から妻の地雷を踏んでしまう。



美月:ぷつり、と切れた糸


それは、糸が切れるように一瞬のことだった。

−別に、子どもとかいなくてもよくない?−

廉がそう口にしたとき、私の胸は刹那の間、強く痛んだ。しかしその次の瞬間、突如として何も感じなくなってしまったのだ。

あまりにも痛すぎて、感覚が麻痺してしまったのかもしれない。もしくは、疲れて果ててしまったか。

私はもうずっと、廉の前で無理ばかりしていたから。

−廉の子どもを授かりたい−

それは、よそ見ばかりしている男の妻となった私にとって、唯一ともいうべき願いだった。しかしその情熱ももう、消えた。

私は空っぽの心のまま、廉に弱々しい笑顔を向ける。

「終わりにするって、何を」

私が激昂するのを恐れていただろうに、廉は予想外の反応に戸惑っているらしい。

震える声でそう尋ねるので、私は子どもに言い聞かせるが如く、彼に答えてあげた。

「何って、子どもの話でしょ?廉がそう言うなら、もうやめましょうって言ったのよ」

私の言葉に、わかりやすく安堵の表情を浮かべる夫。

…そんな彼をぼんやりと見つめていたら、私の頭にふと、 “昼間の出来事”がプレイバックされた。


美月の心境の変化の裏にあった、夫の知らぬ“平日昼間の出来事”とは?

偶然の再会


この日、廉を見送り家事を一通り終えたあと、私は表参道に出かけた。

13時からヘアサロンの予約を入れていたので、時間より少し早めに家を出て、先にランチを済ませようと考えたのだ。

骨董通りを歩きながら『the 3rd Burger』を覗くと空席が目に入り、私は吸い込まれるように店内へと足を踏み入れる。その時、だった。

「浅井?」

聞き覚えのある声に振り返ると、客席から私を呼ぶ男の姿がある。

浅井、というのは私の旧姓だが、近頃は“一条さん”と呼ばれることに慣れた私の耳に、その声はちょっぴり甘酸っぱく響いた。

「高月くん!?」

スーツ姿のその男は、結婚前に勤めていたメガバンクの同期だった。あまりに懐かしく、私は思わず彼に駆け寄る。

およそ3年ぶりに会う高月くんは、私の記憶の中の彼よりずっと男らしくなっていた。シャツの上からでもわかる、筋肉質な身体の厚みに思わず目がいってしまう。

「すげー久しぶりだな。何年ぶりだ?浅井が結婚して会社辞めて以来だから….って、そっか、もう浅井じゃないんだっけ」

変わらない、人懐こい笑顔で笑いかけられ、私もつられて口角を上げる。

「そうね、違うけど。いいよ“浅井”で」

そう答えながら私は、むしろ高月くんには“浅井”と呼んで欲しい、などと思う自分に気がついて、心の中で苦笑した。

高月くんは、私の良き理解者だった。

おそらく、彼は私に好意があって…そして私はその彼の気持ちに甘えていた。結婚前、私たちはずっとそんな関係だった。

女の影が絶えない廉のことを相談するたび、高月くんは私を励まし続けてくれた。

今から思えば、当時、彼の存在があったからこそ私は廉を許すことができていたのかもしれない。

けれどついに廉からプロポーズされ、結婚が決まったと報告をした時。

第一声で「良かったな!」と祝福の言葉を発したあと、高月くんは、私を突き放すようにこう言ったのだ。

「もうこれからは、愚痴も悩みも、俺じゃなくて旦那に直接言え。妻なんだから、家族なんだから、いつまでも遠慮ばっかしててどうすんだよ」

多分、それは彼なりのけじめだったのだろう。そして心から私の幸せを思って言ってくれた言葉だったのだと思う。

…それなのに結局、私は高月くんの忠告を守れなかったのだけれど。



オーダーを終えた後、「そこ座んなよ」と促されるまま私は彼と同じ席に着き、しばらくは夢中で互いの近況報告をしあった。

「これ、俺の新しい名刺」

そう言って差し出された名刺は私のよく知るメガバンクのものではなく、私は「あれ…?」と目を丸くする。

「実は俺、銀行辞めたんだ」

私はまったく知らなかったが、彼はすでにメガバンクを辞めており、現在は父親が経営する不動産会社で事業を引き継ぐ準備をしているらしい。オフィスが南青山にあり、この店にもよくランチに来るのだという。

「高月くんは、まだ…独身?」

そう聞いたのは、別に何か特別な意味があったわけじゃない。彼が「ああ」と頷くのを聞いて、ホッとしたのは事実だが。

ただ、このタイミングで高月くんが私の前に現れた。

運命だなんて言うつもりはないが、消えることのない怒り、嫉妬、焦燥…それらとたった一人で戦う私にとって、彼の存在はまるで救世主のように思えたのだ。

「また連絡してもいいかな?実は高月くんに、相談したいことがあって…」

私の言葉を聞いた彼は、戸惑いながらもほんの少し嬉しそうな表情を滲ませた。

そして高月くんのその顔は、私にもうずっと忘れていた温かな気持ちを取り戻させてくれたのだ。

固く凍りついた心に、ポッと小さな火を灯すように。


廉の知らぬところで昔の同期と再会していた美月。そして少しずつ、夫婦の関係が変わっていく

廉:「まさか、美月が他の男と…?」


美月の変化に、気づかなかったわけではない。

ずっと長かった髪を突然肩まで切ってきたり、新しい化粧品や洋服が増えていたり、運動の類にはまったく興味などなさそうだったのに、「パーソナルトレーニングに通うことにした」と言い出したときには思わず「え!?」と聞き返したくらいだ。

しかし僕は単純に、美月がようやく湿っぽい空気から脱し、明るく前向きになってくれたことの方が嬉しかった。

以前より外出が増え、時には僕より遅く帰宅する日などもあったが、そうやって表に出ることで様々なこと…つまり、僕と里奈のことだったり、子どものことだったりを彼女なりに解消することができるなら、その方が良いと思った。

冷静に考えてみれば、僕がふとしたきっかけで里奈と一線を超えてしまったように、美月にだって、そういう機会がないわけがない。

それなのに僕はなぜか「美月に限ってそんなことはあり得ない」と信じて…いや、思い込んでいたのだ。



「廉、今日は遅くなる?」

朝、玄関先でそう問いかけられた時、その言い方に僕はふと、小さな違和感を感じた。

まるで「遅く帰ってきて」と言われているような、そんな気がしたのだ。

「ああ。今日は接待だからかなり遅いと思う」

僕の言葉に美月は「そう」とだけ答えたが、その声にもやはりホッとしたような気配が漂っている。

「夜、出かけるの?」

靴べらに足を滑らせながらさりげなく問う僕に、妻は「うん、ディナーの約束があって」と悪びれもせずに答えた。

「まさか、男じゃないよな?」

そう尋ねたのは、もちろん「違う」という答えを想定してのことだ。

美月に限って、あり得ない。僕の知らぬところで、別の男と会っているだなんて、そんなことは。

しかし僕の問いかけを、美月はすぐに否定しなかった。それどころか、サッと表情を変えたかと思うと、こちらに挑むような視線を向けてきたのだ。

「…廉に、そんなこと聞かれたくないわ」

そう言い放つ妻の顔は、僕の知る美月とは別人のようだった。


▶NEXT:10月30日 火曜更新予定
突如、態度を豹変させた美月。そして里奈・直哉夫妻も、ついに離婚へと向かう...?



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