“二子玉川で1番みっともない女”に成り下がった日。それでも曲げられない、34歳・無職の主張

“二子玉川で1番みっともない女”に成り下がった日。それでも曲げられない、34歳・無職の主張

34歳、国立大卒の美しき才女、高木帆希(たかぎ・ほまれ)。

父親は作家の傍らコメンテーターとしても人気の有名人で「家事手伝い」という名の「無業」で10年もの間、ぬくぬくと過ごしてきた帆希。

そんな働かずとも裕福に暮らしてきた彼女に、突如、降りかかった「父の死」。

再び「社会」と向き合わざるを得なくなった帆希は、5年の付き合いになる年下の彼氏・牧野涼輔の家に転がりこもうとする。

だが、涼輔の裏切りによって帆希の人生プランは白紙に戻ってしまう…。

絶望に打ちひしがれるかと思いきや…帆希は「絶対に働かずに生きる」という希望を見つけ、次の一手を打つのだった…。



私は「お金」というものをどこか醜悪なものだと思っていた。

いや、きっと今でも…私は、心の奥底で思っている…。

『美しいものに囲まれて生きていくのよ、帆希』

母は、いつも穏やかで優しく、何より品格のある人で、「家」という城を支配する女王だった。

家の中は、母が集めた美しいもので作られていた。引き算されたセンスのいい空間。それが私の生まれたこの家だ。

―母も…父もいなくなった……お城。

完璧な家の中で私はひとり、考えていた。生きていく為に必要な「お金」を、働かずして手に入れる方法を―。

『何かあったらいつでもお兄ちゃんに助けて貰うのよ』

ふと、少し鼻にかかった母の声が聞こえた気がした。

「…お母さん?」

私は思わず周りを見渡した。もちろん、誰もいない。この家にいるのは、私だけだ…。

「何やってんだろ…私」

何だか自分の行動が可笑しくて、つい笑ってしまう。絶対、働かないで生きてやるって決めたっていうのに。感傷的になる暇は私にはないはずなのに。

「よし! 行くぞ、帆希!」

私は、がらんとした家の中で、鼓舞するように自分自身に声をかけたのだった。



「さっきパパに連絡したんで、今日はゆっくりしてってくださいね」

「ごめんなさいね、急に来ちゃって」

「全然! あたし、ずっと帆希さんのこと心配だって、パパに話してたんですよ〜だから今日、会えて嬉しいです、すっごく! 帆希さんは白のグラスでいいですか?」

「…私は…スパークリングで」

二子玉川駅に程近い『ルーナ ノクト オヤマダ』で、兄嫁である早紀とランチをしている。

早紀は兄嫁と言っても、私より7つも年下で、兄の二人目の妻だ。

「早紀さんとうちの兄って結婚して…もうすぐ2年だっけ?」

「はい。あっという間ですよね〜」

お見合いで結婚した前妻と兄は、結婚当初からぶつかり合うことが多かった。兄夫婦の間に出来た二人の孫の為にと、父は幾度となく仲裁に入っていたが…2年前、前妻は二人の息子を連れて家を出て行ってしまった。

目の前にいる早紀は、そんな傷心の兄の心の隙に入り込み、あっという間に結婚へと持ち込んだ策士だ。

「パパと、そろそろ赤ちゃん欲しいね〜って話してるんですよ〜」

そう言って無邪気に振る舞う早紀だったが…目はちっとも笑ってはいなかった。

―手ごわい相手…。

心の中でそう呟きながら、私は

「兄には、頑張って貰わないとね!」

と、満面の笑みを早紀に向けていた―。


兄・航に食い下がる帆希。帆希は独自の理論を展開し何とか寄生しようとするが…


「高層マンションって、何となく苦手だったけど…案外、いいもんね」

「お前、いきなり来て早紀を困らせんじゃないよ。昼も早紀が出したらしいじゃないか」

「義姉さんが、〝ここは出します″って言ってくれるからお言葉に甘えただけ」

「お前なあ…」

呆れたように深いため息をつく兄に、早紀が話しかけた。

「いいのよ、パパ。毎日のことじゃないんだから〜たまにはあたしも恰好つけさせて」

「そうか…!? 悪いな…早紀…」

兄は、早紀に申し訳なさそうな表情を向ける。可愛らしく微笑む早紀だったが、私はさっきの言葉の端々にある棘を感じずにはいられなかった。

「毎日のことじゃない」「たまには」というフレーズに隠された私へのメッセージ。

―うちに来るなんて、絶対、言わせないから。

そんな早紀の一撃を私は、〝鈍感″という盾でかわすのだった。

「早紀さんから聞いたけど、そろそろ子供のこと考えてるんだって?」

「まあ…」

「じゃ、私がここに住んでベビーシッターすればいいんじゃない?」

「はあ?」「はあ?」

兄と早紀が同じタイミングで同じ言葉を発するのだった。こんなの想定内だ。さらに私は、畳みかけた。

「目白の家も私ひとりじゃ広すぎるし…あの家を売る、売らないは置いといて…とりあえず私がこっちに引っ越して、ベビーシッター兼家事手伝いをするから…」

「帆希さん、面白い〜!! ちょっと信じられない角度のユーモアですよね。あたしも帆希さんみたいな冗談、言えるようになりたいな〜パパ」

早紀は、私の真剣な話を冗談にして片付けようとしていた。そうはさせない。働かずに生きる為には、この家に棲みつく必要があった。

兄と早紀にどんなに疎まれようと、私は二人に寄生しなければならない。

「早紀さん…冗談じゃないの。民法第877条、直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養する義務がある」

私は、明らかに「冗談ではないぞ」という気持ちで話を続けるのだった。


兄嫁・早紀の本性が爆発し、反撃されてしまい帆希は…

帆希の誤算…小賢しい兄嫁の罠


「高木家の長男だし財産管理だって兄さんでしょ。養ってくれてもいいじゃないの!」

民法まで出して寄生させろと食い下がる私は、きっと今、二子玉川で一番みっともないはずだ…。母が今の私の姿を見たらどう思うだろう。

『女の子はね、誇り高く生きなきゃダメ』

母の声が頭の奥で響いた。だけど、その声に耳を傾けてはいられない。

「今どき100万でどうやって暮らせっていうの? あり得ないでしょ? メガバンクにお勤めの兄さんなら、そんな無茶な遺言ないってことくらいわかるよね?」

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる兄の姿に、もう一押しすればいける! と私は確信した。

「経済的に余裕ある兄さんたちなんだからさ、私への生活補助義務ってありでしょ?」

「帆希…」

必死な私を、兄は悲しそうな目で見ている。

「お前は何もわかってない…。父さんの気持ちも俺の気持ちも…」

自分でも無茶苦茶な、バカげた話をしていることくらいわかっていた。そんなこと誰よりも自分が知っていた。

―父さんや兄さんの気持ち……そんなの知りたくもない。

「たった一度の失敗をお前はずっと引きずって…社会から逃げて…本当にそれでいいのか? お前はお前の人生をちゃんと生きてるって言えるのか?」

―本当に…正しいことを正しく言う…兄さんが大嫌いだ。

心の奥底にしまい込んだ見たくない「失敗」をこじ開けて、晒そうとしている。

時間をかけて癒した心の傷―。

やっとの思いで今、ここにいる私を、兄は壊そうとしていた。


―傷ツクノハ、嫌ダ―


黙り込んだ私をよそに、早紀が「ねえ、パパ!」と兄に声をかけた。

「あたしいいこと思いついちゃった!」

「何だ?」

「このマンションを売ってあたしたちが目白へ引っ越すの!」

早紀の発言に私は驚きを隠せなかった…まさか、早紀が私の味方になってくれるなんて…信じられなかった。

「帆希さんには出てって貰うの。あたしはパパの帆希さんへの愛の鞭に賛成」

一瞬でも、早紀に感謝した自分がバカだった。早紀はやはり、策士だ。私から目白の家を取り上げようとしている。

「帆希さん…あたしのこと嫌いですよね? 別にそれはいいんですけど…パパは本当に、あなたのこと大事に想ってますよ…いつかパパの気持ち…解ってもらえたら嬉しいな…」

早紀の言葉に、兄は俯きながら、微かに肩を揺らしていた…。



数日後、私は、美しいものに溢れた女王の城を後にした。

『人生は、冒険。冒険ほど美しいものはないわ』

ふと、母の声が聞こえた気がした。だが、私は振り返ることなく、歩き出していた―。


▶Next:12月23日 日曜曜更新予定
昔の友人のところへ乗り込む帆希。友人の「今」を知り、リアルに自分の年齢を感じた帆希は!?



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