本当は、あなたのことが好きなのに…。33歳の独身女が、結婚願望強めな年下男からの告白を断ったワケ

本当は、あなたのことが好きなのに…。33歳の独身女が、結婚願望強めな年下男からの告白を断ったワケ

ーただ、結婚していないというだけなのに。

30代独身だというだけで、蔑まれ虐げられ、非難される…。その名も、独身ハラスメント。

それとは一切無縁だったはずの莉央(33)は、ある日突然、独身街道に再び投げ出される。彼女を待ち受けるのは、様々な独身ハラスメントだった。

—結婚だけが幸せの形だなんて、誰が決めたの…?

そんな違和感を強く抱く莉央。自分なりの“幸せの形”を見つけるため、奮闘の日々が始まるのであったー。


アパレルブランド「Noemie(ノエミー)」のブランドマネージャーとして働く莉央は、結婚式目前に突然婚約破棄をされてしまう。

既婚女子・優子からの独身ハラスメントや、周囲からの「美人なのにどうして結婚してないんですか?」という発言にウンザリさせられながらも、莉央は自分が結婚したいのかどうかわからなくなっていた。

取引先の年下男・将暉(まさき)と少しずつ距離を縮める中で、莉央は彼への自分の気持ちに気がついた。それなのに、将暉(まさき)から告白をされた夜、「あなたとは付き合えない」と言ってフってしまう。その理由とは…?



『莉央さん。私の彼、“結婚願望のない男”だったみたいです…』

土曜の午後、莉央はスマホを見て、メイクブラシを動かす手を止めた。そこには亜樹からの、爽やかな週末には重すぎるLINEが入っていたのだ。

今夜、莉央は将暉とディナーの約束がある。そのため、念入りにスキンケアをしたり髪をブローしたりと出かける支度をしていたところだった。

昨日の時点では、亜樹は「彼氏と結婚することになりそう♡」と言って随分はしゃいでいたし、昨夜もその彼と会っていたはずだ。

たった一晩で、一体何があったのだろうか。莉央は慌てて「昨日のデートで何かあったの?」と返信を打つ。

『そもそも結婚は、私の思い過ごしだったみたいです。彼にそのつもりはなかったみたいで…』

亜樹が2週間前に付き合い始めたという彼氏は、亜樹と同い年の36歳。広告系のベンチャー企業を経営している。

同棲を提案され、亜樹はてっきり結婚を見据えた同棲なのだと勘違いをしたが、完全に早とちりだったらしい。

彼から「今は会社の経営のことで頭が一杯で、結婚のことはとても考えられない。その気持ちはいつか変わるかもしれないけれど、今の時点では確約できない」ときっぱり言われたそうなのだ。

『勝手に勘違いをした私も悪いけど、そもそも結婚するかどうかわからないのに、結婚願望のある女性と付き合うなんてマナー違反よ。莉央さんもそう思いませんか!?』

怒りに満ち溢れた亜樹の言葉は、莉央の胸にグサリと突き刺さる。そして、昨晩の社長とのディナーでの出来事を思い出すのだった。


本当は好きなのに。莉央が将暉に「付き合えない」と言った理由が明らかになる。

突然訪れたチャンス


「えっ。海外進出、ですか…?」

『サッカパウ』で社長と食事をしながら、莉央は驚いて尋ね返した。

「そう。ノエミーを立ち上げた時から、このブランドの海外展開が私の夢だったの。もっと言えば、日本のファッションの魅力をもっと海外に伝えたい、っていうのが若い頃からの夢なの」

社長がそんなことを切り出したのは、ワインペアリングのコースが後半に差し掛かり、メイン料理が運ばれてきた頃だった。



社長は、フランス人の父親と日本人の母親の間に生まれ、大学卒業まではパリで暮らしていた。そんな彼女にとって、自身のブランドを、フランスをはじめとするヨーロッパ各国でも展開するというのは、ずっと以前から温めていた計画だったらしい。

「莉央には今、ブライダルラインの方にかかりっきりになってもらってるけど…。年明けのローンチの後、少し落ち着いてからでいいから、ブライダルは優子や亜樹に引き継いでもらいたいの」

社長はそう言うと、ワイングラスをゆっくりと口に運ぶ。

「それって、つまり…」

莉央がハッとした瞬間、社長はにこりと微笑んだ。

「莉央、パリに行かない?」

「えっ…」

「海外展開の第一歩よ。パリ事務所の立ち上げを、莉央、あなたに任せたいの」

予想もしていなかった話に面食らったが、社長はさらに続ける。

「もちろん、今すぐ返事が欲しいとは言わないわ。あなたにだってあなたの人生のプランってものがあるでしょうし。パリに行ったら、当分は向こうにいてもらうことになるし、ゼロからの立ち上げだから、莉央には相当苦労をかけることになると思うの」

莉央は恐る恐る「“当分”って、何年くらいでしょうか」と尋ねる。

「最低3年。状況によっては、長ければ5年、ううん、もっとかもしれない」

社長の答えに、気が遠くなる思いがした。

—長ければ5年。帰国するころは、38歳か…。

そのリアルな数字を想像するだけで、怖気付きそうになる。だけど同時に、莉央の胸の中に、不思議な感情がムクムクと湧いてくるのを感じた。

子供のころ、初めてジェットコースターに乗った時に抱いたような、恐れと期待が入り混じった気持ち。

「少し時間をあげるから、前向きに考えてみてね」と言う社長の言葉に、莉央はこくりと頷く。胸がいつまでも、ドキドキと高鳴っていた。



社長の話を聞いた後も、莉央はなんだか興奮して寝付けなかった。

海外展開が成功するか失敗するかは、莉央自身にかかっている。責任は重大だけれど、ブランドの新しい未来や可能性を、託してもらえたのだ。

そして気がつくと、莉央の気持ちは、自然と固まっていたのだった。

—私、パリに行きたい。

自分の30代の人生をそこに賭けてでもやってみようと、強く思った。

だけどそのとき、将暉の笑顔が頭をよぎって、胸がチクリと痛んだ。


将暉をフってしまったときの莉央の本心とは?

二人で会うのは、これが最初で最後


「僕と付き合えない事情って、なんですか…?」

『リストランテ・ダ・バッボ』でのディナーを終えた後。

「付き合って欲しい」と言った将暉の申し出を、莉央がきっぱり断ったとき、将暉は困惑した表情を浮かべていた。

彼との食事中も、莉央はずっと考えていた。将暉と一緒にいるだけで、ぽかぽかと心が温かくなる。

—彼とずっと一緒にいられたら、きっと幸せだろうな。

本音ではそう思っていたけれど、それ以上に今の莉央には手放したくないものがある。

社長とのディナーで明かされた、パリ行きの切符だ。

遠距離恋愛をする恋人同士なんていくらでもいるけれど、彼らがそれをできるのは、きっと「いつか一緒になること」をお互いに夢見ているから。

3年後か、5年後か。もしくはそれ以上か。いつ帰ってくると約束も出来ない上に、その先に結婚が待っているとは、今の莉央には言い切れない。

亜樹が言っていたように、結婚するかどうかもわからないのに、結婚願望のある相手と付き合うというのは、フェアではないような気がした。

「佐野さんは、もし私と付き合ったら…その先のことまで考えてますか?」

莉央が尋ねると、将暉は「もちろんです」と真剣な顔で答えた。

「僕は、結婚のことだって考えてます」

—やっぱり…。だったらなおさら、私たちは付き合うべきじゃない。

海外展開やパリへ転勤の可能性については、まだ誰にも口外しないようにと社長からは言われている。だから、将暉に本当の理由を説明することは出来なかった。

「私は、今の時点では、結婚願望がないんです。仕事に人生を捧げたいと思っているの。だから、あなたと付き合うことは出来ないんです。二人きりで会うのは、今日が最初で最後にしましょう」

—本当は、あなたのことが好き。

その言葉を、心の奥にギュッと無理やり押し込んだ。そして呆然と立ち尽くす将暉を残したまま、その場を離れたのだった。





「莉央さん、こっち」

息を切らして、恵比寿の『アポンテ』に着くと、カウンター席に座る友介が軽く手をあげている。

「お待たせしました」

莉央も隣のチェアに腰掛けた。

「いやー、それにしても、ノエミーの社長さんから連絡が来たときはビックリしたよ。“うちの莉央に、色々とレクチャーしてあげてちょうだい”だなんて。あ、シャンパンでいいよね?」

友介は店員に合図をすると、グラスのシャンパンを2つオーダーした。

週明け、莉央が社長に「パリに行く」という決意を伝えたところ、社長はひとしきり喜んだ後で、「一ノ瀬友介さんに話を聞くといい」と勧めてきたのだ。

ヨーロッパブランドの輸入代理店を経営する友介から、海外ファッションビジネスのいろはを教わってこい、というのが社長の狙いのようだ。

「友介さんもお忙しいのにすみません。私がオフィスにお伺いしたほうがよかったんじゃないですか?」

「いいのいいの。俺が莉央さんと食事したかったんだから。それにこのお店のパスタ絶品だから、莉央さんには食べて欲しかったんだよね」

友介はメニューにちらりと目をやると、慣れた調子で前菜やパスタを注文している。


将暉への想いに蓋をして、莉央はパリ行きを決意したが…。


頼りになる男


「で、聞いたよ。パリに行くんだって?莉央さん、フランス語は?」

「それが、恥ずかしながらサッパリで…」

「ふーん、まあいいや、英語はできるよね?でも日本にいるうちに基礎だけでも勉強したほうがいい。取引先が大手ばかりとは限らないだろ?セレクトショップのオーナーさんとかだと、英語が全く通じない人もいるからさ。今から勉強したところで付け焼刃にしかならないだろうけど、ゼロよりマシだろ」

その後も、あれこれアドバイスをしてくれる友介を見つめながら、莉央は感心していた。

—普段は偉そうだけど、こういう時はやっぱりすごく頼りになる…。会社もうまくいってるって噂だし、やっぱり優秀な人なのね…。

話が取引先の開拓に及んだときは、莉央はつい弱音を吐いてしまった。

「ノエミーは国内では知名度があっても、海外ではほとんど知られていないから、話を聞いてもらえるかどうか…。コネクションもあまりないし」

すると友介はニヤリと勝気に微笑んだ。

「パリの百貨店の担当バイヤーだったら、俺、コネあるよ。紹介しようか」

「えっ…本当ですか…?」

彼が名前を挙げたのは、パリの二大デパートだ。それは友介が百貨店バイヤー時代に築いた人脈で、今でも展示会でパリに行くたびに挨拶を欠かさないようにしているらしい。莉央は思わず身を乗り出した。

「俺って無駄に顔だけは広いんだけど、まさかこんな形で莉央さんのお役に立てるとは」

ケラケラと笑う友介の横顔は、実に頼もしい。

ひとしきり仕事の話をした後で、友介が「あ、そうそう」と何かを思い出したように言った。

「そういえば、今回の件まだオフレコだってね。社長からは固く口止めされてる」

「気をつかわせちゃって、すみません。人事にも関わることだから、社内でもまだ誰にも言わないようにって釘を刺されてて」

莉央が頭を軽く下げると、友介はこんな言葉を続けたのだった。

「もちろん、誰にも言わないから安心して。今日もマサキから飲もうよって誘われてさ、莉央さんと会うからって断ったんだけど、どうして会うのかってしつこく聞かれて…。“莉央さんとデートなんだ”って答えてゴマかした」

—えっ…。

莉央はその名前にピクリと反応する。

「そういえばマサキ、あれから既読スルーだな。今頃、俺の代わりに樹里と飲んでる頃かな」

友介がブツブツと呟いている隣で、莉央は完全に動揺していた。

—彼に、他の人とデートだなんて思われたくない…!

「二人きりで会うのはもうやめましょう」と彼に言ったばかりなのに、友介とデートしているなんて聞いたら、将暉はどう思うだろう。

今すぐ将暉に連絡して、本当のことを伝えたい。そう思ったけれど、莉央ははたと気づいた。

もう自分には、そんなことを言う資格なんてない。

だって、あの優しくて無邪気な笑顔を突き放したのは、莉央自身なのだから。


▶Next:12月24日 月曜更新予定
将暉は莉央のことを諦めてしまうのか…?クリスマス・イブに何かが起こる。



関連ニュースをもっと見る

関連記事

東京カレンダーの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

トレンド アクセスランキング

ランキングの続きを見る

トレンド 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索