“2番目に好きな人”と結婚した。夫以外の男とキスした人妻が、隠し続けた本音に気づいた夜

“2番目に好きな人”と結婚した。夫以外の男とキスした人妻が、隠し続けた本音に気づいた夜

−この人だけを一生愛し続ける−

そう心に誓った日はもう遠い昔…。

結婚生活が長くなれば、誰にだって“浮つく瞬間”が訪れるもの。美男美女が行き交う東京で暮らすハイスペ男女なら尚更だ。

では、東京の夫/妻たちは一体どうやってその浮気心を解消し、家庭円満をキープしているのか。

これは、既婚男女のリアルを紡いだオムニバス・ストーリー。



第4話:浮気された妻・清水あかりが、夫の不実を許した理由


まさか、こんな気持ちになるなんて思ってもみなかった。

「豊洲まで」と運転手に告げてから、タクシーの後部座席で、私は未だ火照る頬を自分で二回叩いた。

−危ないところだった。

瞳を閉じると、先ほどの残像がリアルに浮かぶ。

ぼんやりする頭。ドキドキと高鳴る胸。飛んでいきそうになる理性を間一髪で掴まえて、私は悟の腕をどうにかすり抜けてきたのだ。

彼に自分からキスをしたのは、酔っ払った勢いに他ならない。夫に浮気され、多少投げやりな気持ちになっていたこともある。

悟は根っからのプレイボーイだし、キスくらいで面倒なことにはならないという自信もあった。だが、彼が私の腰をぐっと抱き寄せたのは想定外だったのだ。

もしあのまま抱きしめられていたら、私は今ごろ一人ではなく悟と一緒にタクシーに乗っていたと思う。「好きだ」なんて囁かれていたら絶対に断れなかった。…たとえそれが、一時の気の迷いだとわかっていても。

悟とはゼミ仲間で、性別を超えた最高の友達で、恥も外聞もなくなんでも話せる同士だった。それ以上でも以下でもない。ずっとそう思っていたのに。

−私が結婚したのは、2番目に好きな人だったんだ。

唇を重ねた瞬間、私は永らく誤魔化し続けていたその事実に気がついてしまった。

私は悟のことが好きだった。多分、出会った時からずっと。


酔った勢いのキスが暴いた本音。清水あかりが、2番目に好きな人と結婚を決めた経緯とは

私が3歳年上の夫・涼介と出会ったのは7年前、31歳の時だ。

新卒で広告代理店に入社した私は派手めの社会人生活を存分に満喫しており、落ち着いた恋愛や結婚は「まだいいや」という気持ちで20代を過ごした。

というより、出会いの機会は数多くあったしそれなりに恋愛も楽しんだが、胸が締め付けられるほどの切なさや、一瞬で心奪われるような情熱を感じる相手にはめぐり逢えなかったのだ。

当時、まだ親の会社に戻らずメガバンクで働いていた悟からは、夕刻になると「飲み行こうぜ」という気まぐれな“召集メール”がよく届いた。私たちは気軽な居酒屋やビストロで合流し、お互いのライトな恋愛話を披露しあっては「バカだなぁ」と笑い飛ばした。

しかしアラサーとなり、学生時代の仲間たちから続々と届く「結婚のご報告」は、どうしても無視できない現実を私に突きつける。

広告代理店の営業は刺激的で楽しく天職だと思ってはいたが、一生続ける覚悟はない。私の中に結婚しないという選択肢はなかった。

売れ残りたくはない。絶対に。

だが華やかな世界に身を置く私の周りの男ときたら、お世辞にも結婚向きとは言えないタイプばかり。

女にモテるためなら手段を選ばず、結婚していようがいまいが関係なく遊びまくる男の本性を長年目の当たりにしてきた私は、熟考の末ある結論に達した。

−結婚相手は、これまで関わったことのないコミュニティで探すべし−

そんな時に考えを同じくする同期と参加したとある食事会で、製薬会社の研究職をしている涼介と出会ったのだ。

物静かでいつもどこか遠くを見ているような瞳が、大学教授をしている私の父にとてもよく似ていた。


それから私たちは落ち着いた交際を重ね、付き合って2年の記念日にプロポーズ。パレスホテル東京で結婚式を挙げた。

式場見学の際、光が注ぎ込む開放的なバンケットを見た涼介が「あかりにピッタリだ」と言ったのが決め手だった。

何もかもが順当で、穏やかで、まるで最初からこうなることが決まっていたよう。

「運命って本当にあるんだ」などと、柄にもなく乙女な考えに浸るほどにすべてがスムーズだった。



悟から突然電話があったのは、私が結婚式を挙げてすぐのある夜だった。

電話口で「俺、結婚することにしたわ」と言われた時は正直驚いた。

これまでさんざん美貌の女たちと浮名を流してきた彼が、ついに年貢を納める決意をするなんて。

…いったい最後に選んだのはどんな女なのか。私は興味津々で問い詰めた。

そして彼の結婚相手が10歳も年下で、腰掛けで大学職員をしているような“何にもできないお嬢様”だと知った時は「らしいな」と思うと同時に心底がっかりした。

悟も私と同じで我が強く、男女関係においても必ず自分が主導権を握り、相手に合わせてもらう関係を好む。恋愛しようが結婚しようが自分を曲げる気なんてさらさらない。

そんな彼に、毒にも薬にもならなさそうなお嬢様はお似合いといえばお似合いだ。

しかし彼女が自分と真逆のタイプであるという事実が、やはり面白くない。微かにチクリと痛む胸こそが、私の本心だった。

とはいえ当時は私も新婚で幸福の絶頂だったから、心に刺さった小さな棘など、夫との甘い生活に包まれすぐに忘れてしまったのだ。


もうすっかり溶けてなくなったと思っていたその小さな棘が再び疼き出したのは、あろうことか夫の浮気発覚がきっかけだった。

クローゼットの奥に、隠すようにしまわれていた小さなメッセージカード。

綴られた生々しい愛の言葉と見知らぬ女の名は、一瞬で私の心を凍らせた。

夫だけは、私の周りの薄っぺらい男たちとは違うと思っていた。まさか裏切られるなんて思ってもみなかった。

冷え切った絶望は徐々に熱を持ち、怒りへと変わっていく。そしてその場で私はほとんど無意識に、悟にLINEを送っていたのだ。

“相談があるの。久々、二人で飲みに行かない?”


あかりが、夫・涼介の不実を許した本当の理由とは…?

夫婦という、複雑な愛の形


「おかえり。…遅かったね」

豊洲の家に戻ると、コンビニ弁当の匂いがほのかに漂っていた。

1年前に広告代理店を辞め、私は現在、当時の先輩が立ち上げたイベントプロデュース会社を手伝っている。

帰宅も早くなり、最近では夜に飲み歩くこともほとんどなくなっていたから、何も言わずに突然家を空けた私を彼は心配しているに違いなかった。

しかしどこに行っていたのかも、誰といたのかも聞いてこない。…自分に引け目があるものだから、遠慮しているのだろう。

クローゼットでメッセージカードを見つけた夜、私は小さな封筒をそのまま無言で彼に手渡した。

ひどく混乱していたし口を開いてしまったら最後、夫も自分も無遠慮に傷つける刃のような言葉しか出てこない気がして、どうにかぐっと堪えたのだ。

「違うんだ、これは…」

そう言いかけておきながら口を噤んでしまった彼のことを、もはやそれ以上問い詰める気力も湧かなかった。



…そして、今。

私は完全に心奪われた状態でここにいる。夫とは別の、しかも夫よりずっとずっと長い月日を共にしてきた男に。

さらに言えば、私は別に…夫のために理性を働かせたわけじゃないのだ。

本音を言うなら、本当はあのまま悟に抱かれてしまいたかった。ただ…欲望に身を任せた結果、悟の歴史に累々と蓄積されている“済”の女に仲間入りしてしまうことが嫌だっただけ。すべては自己保身だった。

そんな私に、もはや夫を責める資格などない。

−裏切ったのが、私だけじゃなくて良かった…。

私はそんな風にさえ思い、ソファで遠慮がちに佇んでいる夫の背中に向かって「ねぇ、涼介」と呼びかけた。

こちらを振り返る瞳は、どこか遠くを見ているようでもあり、心の内を見透かされているようでもある。静かで穏やかで、やはり父親を思い出させる。

私はそんな彼と数秒見つめあい、そして努めて柔らかく微笑んだ。

「もう、すべて水に流す。私たち…これからもずっと夫婦でいましょう」


▶NEXT:1月24日 木曜更新予定
あかりの夫・涼介は、本当に浮気の恋を諦めたのか?



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