結婚まであと一歩のところで立ち塞がる、ある女の存在。医師の妻になるための、残酷な条件とは

結婚まであと一歩のところで立ち塞がる、ある女の存在。医師の妻になるための、残酷な条件とは

—今すぐ、婚約を破棄しろ。

ある日、柊木美雪(ひいらぎ・みゆき)のSNSに届いた奇妙な一通のメッセージ。

恋人の黒川高貴(くろかわ・こうき)からプロポーズをされて幸せの絶頂にいたはずの美雪は、その日を境に、自分を陥れようとする不気味な出来事に次々と遭遇する。

“誰かが、私たちの結婚を邪魔している。でも、一体誰が…?”

美雪を待ち受ける数々の“罠”をくぐり抜け、無事に結婚にたどり着くことが出来るのか−?


美雪は、ブライダルフェアで知り合い仲良くなった鈴木ゆりこを救うため、彼女がいるバーへと向かうが、そこで怪しげな男からキスされそうになった。

キスは未遂に終わったが、高貴のもとに、何者かからキスしているかのような写真が送られてきた。

結菜と藍と共に、調査を開始した美雪は、親友・凛香に対して疑惑を深めるが…?



親友はシロか、クロか


私はほんの一瞬だけ、凛香が私を嵌めようとバーで背後から写真を撮っている姿を想像した。

しかし「絶対にあり得ない」とすぐにその考えを打ち消して、凛香に直接確認するために、通話ボタンを押す。

トゥルルルルル…トゥルルルルル…

スマホを耳に押し当て、凛香が電話に出るのを待った。

はやる気持ちを抑えるため、無意識に呼び出し音を数えてしまう。6回、7回、8回…。でも、出ない。

凛香が電話になかなか出ないのは、今日が初めてではないし、仕事が忙しい可能性は十分にある。

だが、やはり何かがおかしいということに気が付き始めていた。

LINEをしても、返信が遅いのだ。普段は基本的には即レスだし、どんなに忙しくても、以前はその日のうちには返信があったのに。

結婚を機に、独身時代の友達と疎遠になる話はよく耳にするが、私と凛香に限っては「そんな風になるはずがない」という確信があったから、言いようのない悲しさと切なさに襲われてしまう。

私は通話を諦め、LINEを送った。考えに考えた末、『久しぶり。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、銀座にある、”エリニュス”っていうバー、知ってる?』と、シンプルに。



ようやく1通の返信があったのは、翌日の夜だった。

『久しぶり!そのバーのことは知らないよ〜!返信遅くなってごめんね。部署の異動と、家の引っ越しが重なっちゃって。そうそう私、白金高輪に引っ越したの!美雪の家と近くなったから、遊びに来て〜!』

いつもと変わらない親友のテンションに、肩の力が抜けていく。凛香の様子がどこかおかしいと思ったのは、単なる私の思い違いだったのかもしれない。

やはり彼女が犯人であるはずがないのだ。そのバーのことは知らない、という凛香の言葉を信じてみようと思った。


親友を信じることにきめた美雪。しかし、思わぬ事件が起こる。

恐怖の写真


高貴から突然電話がかかってきたのは、凛香にLINEを返し終えて、寝る準備をしていたときだ。

時刻は深夜12時を回っているが、彼がこんな時間に電話をしてくるなんて、珍しい。怪訝に思いながら電話に出ると、上ずった高貴の声が耳に飛び込んできた。

「もしもし、美雪?大変なことが起きたよ…実家の母親のところに、例のあの写真が送られてきた」

「えっ…?」

一瞬、頭の中が真っ白になった。

高貴も混乱しているようで、いつもよりずいぶん早口になっている。

今朝、高貴は母親から「奇妙な写真が送られてきた」と連絡をもらったらしい。そこで仕事帰りに田園調布の実家に帰ったところ、母が持っていたのは、あのバーで撮られた写真だったというのだ。

「美雪。ゆりこって子に、僕の実家の住所も伝えたの?」

私は慌てて答えた。

「まさか。さすがの私も、そこまでの個人情報を友達に話したりしないよ…!」

ゆりこは、高貴の実家の場所を知らないはずだ。では、一体だれが…?

確かなのは、何者かが私達の背後に忍び寄り、2人の仲を引き裂こうとしているということだ。

「じゃあ、犯人は他にいるってことだね。うちの母親、相当驚いていて、何かトラブルに巻き込まれるかもしれないから、結婚は様子をみたほうがいいんじゃないかって言ってるんだ…」

私はショックのあまり、言葉を失った。

だけど、高貴のお母さんがそう言うのも、もっともだ。高貴は12歳の時にお父さんを亡くしているのだ。以来、お母さんが必死に育て、高貴を医学部に入れたという。

彼女からすれば、そんな大事な一人息子が、こんな写真を撮られるような相手と婚約したと聞いたら、心配して当然だろう。

そんなことをぼんやり考えていると、私の不安な表情に気がついたのか、高貴はきっぱりと言った。

「でも美雪、心配しないで。母親はそう言うけど、僕はこんなことで別れたりしないよ。むしろ一層強く、美雪を守りたい。僕は何があっても美雪と結婚する。だから安心して」

高貴の優しさに、こらえていた涙が一気に溢れてきて、滝のように頬を滴り落ちていく。

「泣かないで、美雪…。今から家に行ってもいいかな?1人にさせておきたくないんだ。今すぐ行って、君を抱きしめたい。40分ほどで着くと思うから、待ってて」

高貴はそう言うと電話を切った。時刻は、深夜12時30分を過ぎていた。



高貴はきっかり40分後にやってきた。

外はよほど寒いのだろうか。玄関先に立つ高貴の指先が、氷のように冷たくなっている。

私は、ダウンジャケットの上から、高貴をぎゅっと抱きしめた。冷え切った彼の体が、少しずつ体温を取り戻していく。そうして私たちは、しばらく無言で抱き合っていた。

何分、経過しただろうか。高貴が耳元で優しく「美雪」と私の名を呼び、体を離す。

そして私の手を取ると、左手の薬指にそっと指輪をはめたのだった。



「え…これって…?」

「婚約指輪、遅くなってごめんね。すごく似合っているよ、美雪」

ダイヤの眩い輝きが目に飛び込んできて、眩暈のような陶酔感に包まれる。だけど同時に、とてつもない不安に襲われていた。


指輪を贈り「美雪と必ず結婚する」と誓う高貴。2人はある秘策に出るが…?

重なり合う孤独


私は、少し戸惑いながら言った。

「ありがとう。とっても嬉しいよ。でも…高貴のお母さんから反対されちゃってるから、なんだか悪くて…受け取ってもいいのかな?」

しかし高貴は、私の手をギュッと握り、毅然とした態度を崩さない。

「何を言ってるの?受け取って当然だよ。誰に何を言われようと、絶対に美雪と結婚するんだから、この指輪は僕の決意のしるしだよ。美雪、絶対に犯人を暴き出して、制裁を加えよう。だからやっぱり、探偵に依頼しよう」

私は不意に結菜の顔を思い浮かべ、ある提案をした。

「そのことで話があるの。会社の子が、いい探偵事務所を教えてくれたの。ゆりこの行方が分からない場合、唯一の証拠は写真だけだから、指紋鑑定もできるようなところがいいんじゃないかって」

そして高貴をリビングに招くと、結菜からもらった1枚の名刺を渡す。

『警察OBが真摯に調査・鑑定し、真実を追求します 芹澤探偵事務所 芹澤誠』

高貴が早速スマホを取り出して「芹澤探偵事務所」を検索する。

「なるほど。確かに良さそうなところだな。早速明日、アポイントをとってみよう。…必ず犯人を見つけてみせる」

挑むような目つきでそう言うと、再び私を強く抱きしめた。



ふと、高貴が思い立ったような様子で「お父さんとお母さんに婚約のご報告をしたいから、仏壇で手を合わせてきてもいいかな」と言いだした。

そんな彼の優しさが嬉しくて、心がじんわりと温かくなる。と同時に、私たちは似た者同士だから、こうして引き寄せられたのだ、と強く思った。

子供の頃に父を亡くした高貴と、母を亡くした私。

思い返せば私はずっと孤独で、その孤独は自分を構成する一部、もしくは全てだったのだ。

今までは、そんな穴だらけの自分をカモフラージュすることに必死だったけれど、今は、高貴がこうして喪失感ごと抱きしめてくれる。だから私は、私のままでいいんだ。何があっても、彼と共に生きていこう…。

その夜、私は高貴の腕の中で、ぐっすりと眠った。


高貴の母親、黒川みどり登場。結婚を反対する真の理由とは?

高貴の母親、黒川みどりの本音


高貴の母親の、黒川みどりです。

あの写真は…お手伝いさんが発見しました。

朝起きたら、彼女が不審な白い封筒を持ってきましてね。差出人が書かれていないので、そのまま破棄しようかと思いましたが、念のため開封するよう指示したんです。そしたらあの写真が1枚だけ出てきまして。

それはそれは…不気味な気持ちになりました。お顔はよく分かりませんが、写っている方々に、見覚えがありませんでしたので。

でもね、写真を眺めているうちに、ふと思ったんです。

「もしかしたら、この女性、息子の彼女の美雪さんかしら?」って。

前に息子が、「結婚を考えている女性だ」と言って美雪さんの写真を見せてきたことがあったのですが、この写真の女性、その美雪さんに雰囲気がよく似ているんですよ。

それで、息子に電話して聞いてみたんです。「奇妙な写真が家に送られてきたんだけど、これってあなたの彼女なの?」って。

そしたら息子が慌てて、田園調布の家まで来たんです。仕事帰りに。



息子は、正座して、真剣な表情で訴えてきました。

「この写真は、誰かの悪質なイタズラだ。気分を悪くしたかもしれないけれど、どうか水に流してほしい。美雪に会った時に、これは運命だと思った。…だから、彼女との結婚を認めてほしいんだ」

そう、懇願するんですよ。

以前は、恋愛に全く興味がなさそうだった息子が、恥ずかしそうに頬を赤く染めて言うのです。

でもねぇ…その女性、どうなのかしらねぇ…。

白金台の4丁目のご出身で、かなりのお嬢様らしいけど、聞けば、ご両親はもう逝去しているらしいじゃないですか。

うちも主人が、20年前に他界しているんです。あの時は途方に暮れました。私は働いたことがないうえ、子供たちはまだ小学生でしたから。

でもね。私の父と母が、全面的に支えてくれたんです。

父は田園調布にあったこの家と、まとまった額の教育資金を贈与してくれて、母は落ち込んで塞ぎこんだ私の代わりに、子供たちの面倒をよくみてくれました。

だからやっぱり、息子のお嫁さんになる方は、そういうバックボーンがある方のほうがいいと思うんです。何かあった時のリスクヘッジのためにね。

それにね…

息子には開業の夢を諦めてほしくないんです。

でも、息子は麻酔医でしょう?

だからね、本音を言うと…息子には、同業で資産家の女性を連れてきてほしいんですよ。産婦人科とか、脳外科の女医さんを。そしたら一緒に医院を開業できるでしょう?

そう思ってしまうのは、親のエゴでしょうか…。


▶Next:1月27日 日曜更新予定
探偵事務所を訪れた2人だが、恐怖の白い封筒が、再び…?



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