「彼との子供が欲しい...」1年だけと期限を決めた恋。全てを失っても欲しかった、愛した男の遺伝子

人はいつだって、恋できる。
だが振り返ったときにふと思うのだ。
あのときの身を焦がすような激しい感情を味わうことは、もうないのかもしれない。あれが「最後の恋」だったのかもしれない、と。
それは人生最高の恋だったかもしれないし、思い出したくもない最低な恋だったかもしれない。
あなたは「最後の恋」を、すでに経験しているだろうか…?
この連載では、東京に住む男女の「最後の恋」を、東京カレンダーで小説を描くライター陣が1話読み切りでお送りする―。
前回は、二番目に好きな男と結婚した真希を紹介した。
今回お送りするのは、真希が本気で好きだった悟の恋人・美沙(33歳)の物語―。
「今週も疲れたなあ」
ソファーの上で寝転びながらテレビを見ている悟に、私はねぎらいの言葉をかけながら、食卓の上を片付ける。
悟は外資系コンサルティングファームに勤める30歳。帰国子女らしい明朗さと爽やかさを兼ね備え、育ちも良い。誰が見ても文句の付け所がない勝ち組だ。そんな彼の隣にいられる私は、相当な幸せ者だと思う。
悟と出会ったのは、実は3年前のことだった。当時私には彼がおり、悟のことなんて全く眼中になかった。しかし去年別れて以来、“誰かいないかなぁ”と思っていた時にふと思い出し、連絡をしたのだった。
再会してから話はトントン拍子に進み、私の左手の薬指には1.2カラットのダイヤモンドが光る婚約指輪が収まっている。
その手で、ほんの少しだけ膨らんできたお腹をさする。
妊娠して、もうすぐ4ヶ月目に入る。結婚願望が全くなかった悟だが、妊娠を機に籍を入れることになったのだ。
「この人最近よく出てくるよね〜。名前、何だっけ?俺とちょっと名前が似ていた気がするんだけど・・・」
テレビに対して突っ込む悟の言葉で、食洗機に食器を入れようとしていた手が止まった。
何を隠そう、今悟が見ているCMに出演中の彼こそが、私の“本当に愛する男”だからだ。
完璧な婚約者がいる一方で、美沙が忘れられぬ男の正体とは?
愛する男・タケルとの出会い
タケルと出会った時の衝撃を、私は一生忘れないだろう。
深夜、友人に誘われて飲みに行ったバーの個室に、タケルはいた。彼の名前は知っていたが、テレビをほとんど見ない私は彼がどれくらい有名なのか、俳優なのかモデルなのかも知らなかった。
でも、そんなことはどうでもいい。
一目見た瞬間から、お互い恋に落ちたのだ。
理屈などでは言い表せない。ただ、“細胞レベルで彼が好きだ”と本能が叫び、私の中で、何かが覚醒した。
そしてそれはタケルも同じ気持ちだった。
この日、私たちはほとんど言葉を交わさなかったが、翌日からすぐにLINEが始まり、そして次のデートで交際が始まった。
2人でいる時間は濃密だった。ただ彼に触れられているだけで心地よい幸せに包まれ、彼のことを考えるだけで胸が焦がれた。
どこにいても2人は自然と引き付け合い、“こんなにも本能レベルで好きになれる人がいるのか”とお互い驚く日々。それはまるで磁石のプラスとマイナスが一瞬で引き合うような、そんな感覚だった。
それは向こうも同じで、撮影の合間に時間があればわずか1時間でも会いに来て、愛し合った。
…だから私は大事なことから目を背けていた。タケルが既婚者だ、ということを。
「妻とは別居状態だから。でも、色々な広告絡みの関係で別れられないんだ」
タケルから何度も聞かされたこの言葉を、私はずっと信じていた。
事実、彼は私を色々なところへ連れて行ってくれ(週刊誌に撮られることだけに関しては最新の注意を払っていたが)、親しい友人に対して私たちの関係はかなりオープンだった。
それに彼は数年前から奥さんとは別居状態で、子供はナシ。若い頃に結婚しており、彼が既婚者だというイメージは、世間的にもあまりなかった。
恋に落ちてから彼が既婚者だということを知り、そしてその気持ちはもう止められなかった。
「本当は美沙と、今すぐにでも結婚したい」
そんな甘い囁きを彼の腕の中で聞かされる度に、私の心は溶けたチョコレートのようにとろりとなった。ダメだとわかっていても、この関係に終止符を打つことなんて、絶対にできなかった。
だがタケルと交際し始めると同時に、私は周囲との間に亀裂ができ、孤立していった。
「美沙、そんな既婚者の男なんて、絶対に反対。周囲を不幸にする恋愛をしている女なんて、最低だから」
特に親友だった佳菜子からの反対は想像以上に大きく、“不倫をする女なんて気持ち悪い”と半絶交状態になった。
親にも言えず、友人も失う恋。
それなのに、私はただ“愛し、愛されている”という感情だけで突き動かされていた。そして皮肉なことに、周囲に反対されればされるほど、二人の絆は深まっていっていたのだ。
だが、私はある決断をする。
—1年だけ。1年だけ、彼を待つ、と。
1年だけ待って、それでも彼が別れられないのなら諦める。私はそう決めたのだった。
1年と決めた恋。しかし予想だにしない衝撃の結末が待ち受けていた...
1年と決めてタケルと愛し合う日々の中で、私の中にある欲望が目覚め始めていた。
—彼の子供が欲しい。
それは女性としての、本能的な欲求だった。そしてタケルからも何度も「美沙との子供が欲しい」と言われていた。
…だが結局、そんなことはできなかった。今の彼の状況では、様々な人に多大な迷惑がかかる。イメージダウンは免れないし、彼の大切なものを全て壊しかねない。別居状態とは言えまだ奥さんもいる。
もっと計算高い女だったら良かったのかもしれない。彼の名誉や地位が目的だったら、早々に陥れて自分の物に出来たのかもしれない。
でも、そんなことはできなかった。心の底から彼を愛していたからこそ、彼の幸せを望まずにはいられなかったからだ。
—愛しているからこそ、私は身を引く。
期限を決めた1年後、私は彼に別れを告げた。
―もっと早く出会いたかった―
彼は泣きながら、何度もそう呟いた。
もうこれ以上愛せる人はいないとお互い分かっていた。それなのに、これ以外の選択肢がなかった私たち。
こうして、私たちは泣き崩れながら“別れた”のだ。
◆
「へぇ〜このタケルって人、1年前に離婚してるんだ」
悟の言葉にハッと我に返る。タケルは結局、私と別れた後で離婚した。 皮肉なことに、奥さん側に”好きな人ができた”のが離婚理由だった。
そこまで大きなニュースにもなっていなかったが、タケル本人から直接連絡が来たのでよく覚えている。
だがその時、既に私は悟と真剣交際中だった。そして何よりも、離婚したてのタケルとすぐに結婚できるはずもないことは重々分かっていた。
「彼、カッコいいよなぁ。俺もこんな顔だったらいいのに」
何も知らない悟。実はタケルが奥さんと別れてから、半年前と、そして4ヶ月前の二度ほど、”寂しい”と言って私に会いに来た。
そして、愛し合った。
でもその事実を悟は知らないし、絶対に知られてはいけない。だから、私はこの秘密を墓場まで持って行こうと決めている。絶対に誰にも言わないし、悟られないようにするために、どんなことでもするつもりだ。
「そう?まぁ 彼は芸能人だからね」
そう言いながらも、私は今一度お腹をさする。
女は“脳ではなく、子宮で相手を選ぶ”と聞いたことがある。
決して結ばれることのない運命だとは分かっている。でも、私は、タケルのことをDNAレベルで愛していた。
「悟も負けてないよ。でもこの俳優さんとの間に赤ちゃんができたら 、絶対に可愛い子が生まれそうだけどね・・・」
もう一度お腹をさすりつつ、私はそっと微笑んだ。
—生涯で2番目に好きな人と“結婚”した方が、幸せになれる。
そう胸の中で繰り返しながら、テレビ画面上から笑いかけるタケルを、私は悟の腕の中に包まれながら静かに見つめていた。
▶NEXT:2月18日 月曜更新予定
美沙が愛したタケルの、“最後の恋”への決断
関連ニュースをもっと見る
関連記事
トレンド アクセスランキング
-
1
新型ハイエース 300系なのか!? 今度はカスタマイズ画像も出てきたぞ!
MotorFan[モーターファン]2019年02月15日20時00分
-
2
トヨタ直列6気筒の名機、1G系エンジン乗り比べ!
MotorFan[モーターファン]2019年02月15日21時10分
-
3
【マクラーレン570Sスパイダー】最高速328km/hの超速マシンでも扱いは想像以上に簡単
自動車ニュース clicccar.com(クリッカー)2019年02月16日11時14分
-
4
「私を1番にして」。妻の元へ帰ってしまった男を取り戻すため、略奪女が試みた"賭け"とは
東京カレンダー2019年02月16日05時04分
-
5
【週刊クルマのミライ】スバル・フォレスターを雪上試乗。e-BOXERの駆動制御に未来の可能性を見た
自動車ニュース clicccar.com(クリッカー)2019年02月16日11時04分
-
6
「大とろ牛乳」ってなに!?群馬発の新感覚スイーツが食べられるのは都内でここだけって知ってた?
レッツエンジョイ東京2019年02月16日09時00分
-
7
弱った男の心を鷲掴みにしたLINE。気のある素振りを見せた女が、突然離れていった理由とは
東京カレンダー2019年02月16日05時03分
-
8
出たばかりスープラにもう次世代型!? ライバルのホンダ社員が提案する予想CGが公開
自動車ニュース clicccar.com(クリッカー)2019年02月15日11時03分
-
9
日本企業のブランド価値ランキングでトヨタ自動車が11年連続首位!
自動車ニュース clicccar.com(クリッカー)2019年02月16日06時03分
-
10
『Anthem』発売後のアップデートに関する詳細が海外公開ーイベント追加やソーシャル関係の更新を予定
Game*Spark2019年02月16日12時34分
トレンド 新着ニュース
-
福井鉄道 F1003 鉄コレ 販売
鉄道コム2019年02月16日16時32分
-
Bluetooth搭載でユニバーサルコントローラーにもなるキューブ型フィジェット「Masta Box(マスタボックス)」
ライフハッカー[日本版]2019年02月16日16時07分
-
突然死に至る心筋梗塞 治療費やリハビリにかかる出費は?
NEWSポストセブン2019年02月16日16時00分
-
猫のしつけに「鞭」は不必要 悪いことをしたら「無視」で
NEWSポストセブン2019年02月16日16時00分
-
串カツ田中の女性店員が「自腹で食べたい/食べたくない」串カツTOP3
日刊SPA!2019年02月16日15時54分
-
純度99.9%の高品質スクワランオイル、3か月で販売15,000個を達成
美容最新ニュース2019年02月16日15時15分
-
『フォートナイト』エモート「フレッシュ」巡る訴訟、米国著作権局は振り付けに著作権認めない方針
Game*Spark2019年02月16日15時00分
-
ローソンストア100「本当に売れたパン」ベスト7発表!
ウレぴあ総研2019年02月16日15時00分
-
大失敗した音楽フェス「Fyre Festival」のNetflix独占ドキュメンタリーに黒い疑惑が浮上
GIGAZINE2019年02月16日15時00分
-
【食べてみた】無印の「あえるだけのパスタソース」勝手にランキング!
ママテナ2019年02月16日15時00分
総合 アクセスランキング
-
1
中居正広、ピリつく警官を笑顔にするさすがの「仕切り力」
NEWSポストセブン 2019年02月16日 07時00分
-
2
輝星「甘かった」豪快弾浴びるホロ苦デビューに悔しさあらわ…柿木との投げ合いは「楽しかった」
スポニチアネックス 2019年02月16日 14時32分
-
3
NHK制作トップもついにテコ入れ宣言…大河ドラマ「いだてん」序盤で1ケタ視聴率の衝撃
スポーツ報知 2019年02月16日 11時00分
-
4
連覇を目指す藤井七段、 決勝で渡辺棋王との初対戦が実現 将棋朝日杯オープン戦
スポーツ報知 2019年02月16日 12時54分
-
5
トラックと衝突、軽乗用車の夫婦が死亡 愛知・犬山の県道
CBCテレビ 2019年02月16日 00時23分
-
6
平尾昌晃さん60億円遺産相続問題、三男の訴え却下
日刊スポーツ 2019年02月16日 02時00分
-
7
倒れたブロック塀の下敷きに…バイト男性死亡 深谷の工事現場、側溝を掘って整え中に塀が倒れる
埼玉新聞 2019年02月16日 00時14分
-
8
神戸の人気モニュメント「BE KOBE」2年もたず修理へ よじ登られて亀裂
神戸新聞 2019年02月16日 08時30分
-
9
感染力はインフルエンザの10倍!「はしか」流行拡大
FNN PRIME 2019年02月15日 12時36分
-
10
せいや、R−1ショックも敗者復活へ切り替え 粗品の決勝は祝福
デイリースポーツ 2019年02月16日 09時34分
東京 新着ニュース
東京 コラム・街ネタ
-
“ニコタマ”こと二子玉川と猫の深い関係に迫る
TOKYO MX+ 2019年02月16日 11時00分
-
町田立体ランプ、3月16日開通へ 保土ヶ谷バイパス「相模原側」と東名高速が直結
みんなの経済新聞ネットワーク 2019年02月16日 09時55分
-
「大とろ牛乳」ってなに!?群馬発の新感覚スイーツが食べられるのは都内でここだけって知ってた?
レッツエンジョイ東京 2019年02月16日 09時00分
-
ゆるさに笑っちゃう!? 日本美術史の「へたうまアート」が集結
レッツエンジョイ東京 2019年02月16日 09時00分
-
くまモン&ガチャピンがスポーツに奮闘!2月16日TV放送のオフショット写真展開催
Walkerplus 2019年02月16日 07時00分
特集
特集一覧を見る記事検索
掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright © 2019 TOKYO CALENDAR INC. All rights reserved.