「私を1番にして」。妻の元へ帰ってしまった男を取り戻すため、略奪女が試みた"賭け"とは

「私を1番にして」。妻の元へ帰ってしまった男を取り戻すため、略奪女が試みた

人のものを奪ってはいけない。誰かを傷つけてはいけない。

そんなことは、もちろんわかっている。

しかし惹かれ合ってしまったら、愛してしまったら、もう後戻りなんてできない−。

WEBメディアで働く三好明日香(24歳)は、彼氏がいながら既婚の上司・大谷亮(おおたに・りょう)と男女の関係に。

距離を置こうとするも離れられない二人は同棲を開始。

しかし全社メールで二人の関係が暴露され、明日香は退職に追い込まれる。さらには大谷の妻にも不貞がバレ事態は修羅場に。

大谷は妻に離婚を切り出すも、話し合いは難航。そんな中、大谷は明日香に「しばらく会わない方がいい」と言い出した。



一か八かの賭け


「…会えなくなるのだけは、絶対に嫌」

沈黙ののち、私はこれまでにない強い口調でそう言い切った。

いつもと違う気配に大谷が息を飲むのが伝わったが、それでも私は怯まなかった。これは私にとって、一か八かの賭けだ。

誰かを傷つけるつもりなどなかった。他人のものを奪うつもりも。人の恨みを買うことなどしたくないし、悪者になりたくもなかった。

しかしここから先は、もう“いい子”のままじゃいられない。そのことにようやく気がついたのだ。

「あなたのこと、信じて待ってる。だけどそれは…3ヶ月。3ヶ月だけは連絡もしないし、会えなくても我慢する」

言いながら、まるで自分じゃないみたいだと思った。自分がこんな強いセリフを言えるなんて知らなかった。

「3ヶ月後、絶対にまた会うって約束して。それで、その時には必ず…私を1番にしてください」

こんな身勝手な私を、大谷は嫌うだろうか。鬱陶しく思うだろうか。

しかしそれならそれで仕方がないと思った。私にだって、譲れないものがある。

「…わかった。約束する」

静かに答えた大谷の声に、私は心の底からホッとする。もちろん、この先どうなるかはわからない。しかし少なくとも3ヶ月後、彼は私に会いにくる。

「ありがとう。約束…ね」

嫌な女と言われても構わない。世界中を敵に回したっていい。

それでも手に入れたい愛に出会ってしまったから。


期限は3ヶ月、と覚悟を決めた明日香。しかし一人で過ごす夜に“あの男”が現れて…

たったの3ヶ月。

他人のことならそう思えるのだろうが、これまでずっとそばにいた人と会うことも連絡もできない孤独は、想像以上に辛かった。

少しでも気を紛らわせようと正月は千葉の実家で過ごしたものの、それはそれで気苦労が多い。というのも、両親はまだ私が昭人と付き合っていると思い込んでいて、しかも彼のことをかなり気に入っているのだ。

「昭人くん、試験はどうだったんだ?」
「お母さんも、また昭人くんに会いたいわ」

そんな言葉をかけてくる両親に、まさかもう昭人とは別れ、妻のいる男と同棲しているなんて…とても言えない。

しかもその彼が、妻と離婚の話し合いをするためにしばらく家を出て行ってしまったなんて。そんなことを話せば、猛反対されるに決まっている。

周囲の理解を得られないことはもうわかっている。誰かに話す気もなかった。

大谷との絆は、私たち二人にしかわからない。

そんな風に思ってはいても、彼と会えなくなった今、事態を客観視すればするほど、自分の置かれている状況の不健全さに気がつく。

−大丈夫。3ヶ月経てば、状況は変わるから。

ふいに心が折れそうになるとき、私はそんな風に自分を励ました。

やはり、期限を決めておいてよかった。これがもし無期限だったら…考えただけで気が狂いそうだ。


弱った心の隙をつく“元彼”の存在


不安定な心のまま新年を迎えた私は、大谷に紹介されたイベントプロデュース会社で働き始めた。

まだ社員数10名ちょっと、前職のWEBメディアよりも小規模のベンチャーだが、急成長しているという評判通り、社長をはじめ社員皆に活気が溢れている。

それぞれの仕事で精一杯なのだろう。新しく入ってきた私に対して、必要以上に干渉してこないのが心地よかった。今はあれこれ詮索されたくない。

大谷と同い年だという社長も非常にクールな男で、大谷と私がどういう関係かなど、プライベートなことには関心すらなさそうだ。

打ち合わせのアポ取りや出張の手配、接待の予約や手土産の準備など、社長からひっきりなしに飛んでくる要望に応えるだけで一日が終わっていく。

余計なことを考える暇もないことが、むしろ私を救ってくれた。

ただ、夜が辛かった。

単身の女が暮らすには広すぎる部屋で一人過ごす夜だけは、いてもたってもいられないほどの孤独が襲ってくる。

大谷との関係が、このまま終わってしまうのではないか。彼はもう戻ってこないのではないか…。マイナスな想像ばかりが頭に浮かび、私の胸に灰色の靄(もや)を広げていく。

“彼”が再び私にコンタクトをとってきたのは、そんなある夜のことだった。


突然の電話


「…元気にしてる?」

久しぶりに聞く彼…昭人の声は、私のよく知る、穏やかで柔らかなものだった。

突然スマホ画面に現れた、元彼からの着信。

昭人と話すのは、彼が突如家に押しかけ、深夜にインターホン越しで別れを告げたあの夜以来だ。

出ないでおこうかとも思った。しかし応答ボタンを押してしまったのは、少なからず私の心が弱っていたからかもしれない。

「うん…元気だよ」

警戒しながらもできる限り明るい声を出す。その反応で、私が彼を拒絶していないことがわかったのだろう。昭人は間を空けずに言葉を続けた。

「この間は、本当にごめん。俺…明日香が離れていくのが怖くて動揺してしまったんだ。本当に悪かったと思ってる」

何と答えるべきか迷い、私は「うん」とだけ小さく返す。

すると昭人は遠慮がちに、しかしはっきりとした意志を感じる声で、私にこう尋ねるのだった。

「それで…その、最後にもう一度だけ会ってもらえないかな」


再び明日香に近づく元彼・昭人。彼の目論見とは、一体?


待ち合わせをした『社食堂』に到着すると、昭人はすでに着席して私を待っていた。

ここは昔、二人のお気に入りだった。代々木上原にあった私の家にほど近く、よくランチに訪れていた店だ。見慣れた景色に自然と心が和む。

「来てくれないかと思った」

そっと呟く彼の姿がやけに小さく見え、私は胸が苦しくなってしまった。自分のせいで、彼をどれだけ傷つけたか…そのことに嫌でも気付かされる。

「約束したんだから、来るに決まってるじゃない」

無理やりに明るい声を出すと、昭人は「そっか」とはにかみ、そして私に改めて向き直った。

「俺、会計士試験に受かったんだ」
「え…!すごいよ昭人!おめでとう!」

聞く機会を逸してしまっていたが、彼の試験がどうなったか私もずっと気になっていた。思いがけず吉報を知ることができ、私は彼に心からの祝福を送る。

笑顔で目と目を合わせたその瞬間、ふいに懐かしい感情が込み上げてきた。昭人とこんな風に笑い合うのは、随分と久しぶりだった。

…彼が合格するタイミングがもっと早ければ。私が大谷に出会わなければ。私たちはあのまま、お互いの両親にも友人にも祝福され幸せな結婚をしていたのだろうか。

そんなことをぼんやりと考えていたら、ふいに昭人が私の手を握った。

「明日香、俺とやり直そう」
「え…?」

話が違う、と思った。今日私がここに来たのは、彼が“最後”に話がしたいと言ったからだ。復縁するつもりなんかない。

握られた手を解こうとするが、力では敵わない。「離して」と戸惑う私をよそに、昭人はさらに自分勝手に話を進めていった。

「俺、会計士の試験にようやく受かったんだ。しばらくは見習い期間があるけどちゃんと給料も出るし、明日香のこと幸せにできる自信がある。

俺、ずっと余裕がなくて、自分のことばかりで。明日香が他の男に目移りしても仕方なかったと思うよ。全部、俺のせいだ。だからもう、全部水に流すから…」

「お願い、もうやめて!」

饒舌に語る昭人の言葉を遮り、私は小さく叫んだ。

「明日香…いい加減に目を覚ませよ。大谷って奴は離婚しないよ。俺、彼の奥さんに会った。離婚なんかしないって、夫を渡すつもりはないって断言してた。明日香はあの男に騙されてるだけなんだ!」


「大谷は離婚しない」と言い切る昭人。そんな彼に対する、明日香の答えは…


「もう…やめて」

昭人に手を握られたまま、私は涙声で訴えた。

どうして皆、わかってくれないのだろう。わかろうとしないのだろう。何も知らない周囲の雑音は、もうたくさんだった。

「昭人、私…あなたとやり直すことはできない。私は、大谷さんを愛してる。大谷さんじゃないと、ダメなの」

静かに、しかしはっきりと言い切り、私は昭人をまっすぐに見た。

「だから...その大谷は、明日香を都合よく使ってるだけなんだよ。なんでわからないんだよ…」

苦しそうに顔を歪めながら、昭人はようやく私を拘束する手の力を緩めた。やり場のない怒りをぶつけるように、「なんで…」と呟きながら頭を掻きむしっている。

「昭人がどう思おうが構わない。どんなに説明したところで、周りは理解してくれないってこともわかってる。だけど私は大谷さんを愛してるし、彼も私を愛してくれている。誰がなんと言おうと、真実はこれだけなの」

気を抜けば折れそうになる心を鼓舞するように、私は昭人と、そして自分に語りかけた。

あの時、大谷のキスを上手に避けていれば。彼が結婚していると知ったとき、すぐに諦めていれば。あの夜、誘われるままホテルについていかなければ...。

振り返って考えてみれば、私にも大谷にも踏みとどまるタイミングはいくらでもあった。

だがそれでも前に進んだのは私たちの意思だ。責められようが罵られようが、今さら後悔なんてしない。誰に許しを請うつもりもなかった。

「私、昭人が思ってるような女じゃない。昭人には、私なんかよりずっと素敵な人がいると思う。だからもう…私のことは忘れてください」

もういっそ、私のことなど恨んでくれればいい。大嫌いになって忘れてくれればいい。

何もかも失って構わない。

“普通の幸せ”を生きてきた一切の過去を捨てるつもりで、私は静かに席を立った。


▶NEXT:2月23日 更新予定
元彼の襲来だけで終わらない。孤独な明日香に追い打ちをかける出来事が起こる。



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