「あなたの目的は、何…?」美女を騙して秘密情報を得ようとする、狡猾な男の罠

「あなたの目的は、何…?」美女を騙して秘密情報を得ようとする、狡猾な男の罠

東京にいる一部のアッパー層の間で、最近、密かに“噂”になっている女がいる。

彼女の名は、春瀬紗季―。

一聞すると爽やかで可愛らしい女性を想像するが、彼女の“噂”はそれを鮮やかに裏切る。

大抵の者は「悪魔のような女だ」と言うが、ごく一部の間では「まるで聖女のようだ」と熱狂的に支持されているのだ。

その正体は掴みどころがなく、彼女の噂は常に絶えない。

そんな噂の女に、IT企業が主催したパーティーで出会った宮永爽太郎(29)は、ある目的のため彼女に近づこうとする。

紗季の連絡先を得るための交換条件として、彼女の質問に答えることを約束するが、その予想外の言葉に動揺する爽太郎だった。



「ねぇ、爽太郎さん。あなたの目的は、一体何?」

カウンターの奥にある照明だけを頼りにした薄暗い空間は、居心地の良さを与えながらも、見せたくない部分をそっと分からないように隠してくれる。

その時僕は内心ひやりとしていたが、何食わぬ顔で返した。

「目的…?それって、どういう意味ですか?」

彼女の目をまっすぐ見つめて話す。こういうときは、相手から視線を離さないことが肝心だ。

「…」

彼女は無言のまま僕の目を見つめて離さない。その大きな瞳からは、全てを知っているとも、ただカマをかけているだけとも取れる。

「そんなの…。あなたみたいな素敵な女性を口説かない男はいないでしょう?」

僕は、至って真面目な顔をしてそう答える。ここはもうシラをきるしかない。それに彼女が何かを勘づいていたとしても、こんなことを聞いてくるということは、まだ不確かな部分が残っているのだろう。

果たして紗季は、納得するだろうか?


爽太郎がここまでして、紗季から情報を得ようとする理由とは?

爽太郎の本当の目的


そもそも僕は、彼女のような人間と付き合いたいとは一度も思ったことがない。

僕のタイプは自立していて快活な女性。そう、例えば大学時代からの友人の亜希子のように美人で聡明、バリバリと仕事をこなすキャリアウーマンだ。しかし紗季は、その真逆のタイプに思える。

美人だがどこか儚げで、男がいなければ生きていけないような脆さを感じる。そういうタイプは、ハッキリと言って苦手なのだ。

ただ紗季のような女性は、惚れた男には尽くすし心を開く。そこを利用して、重要な情報を引き出すのが本来の目的だ。

公設秘書の僕がついている桐生浩太議員は、来年行われる東京都知事選に出馬予定で、着々と準備をしてきた。真面目さが取り柄の彼は、あまり女性受けが良くない。それでも地道な努力で数々の実績を作り、有力候補の一人だと言われている。

しかしここに来て、問題が起こった。

数週間前から、根も葉もない噂がネット上で拡散されてしまったのだ。

「桐生議員、〇〇会社から賄賂を受け取っていたらしいよ。がっかりだわ」
「桐生浩太にセクハラされたって話を、元秘書から聞いたんだけど…」



下品で、嘘くさい内容ばかりだった。

勿論、先生はきちんと反論し、ネタの大元を突き止めて名誉毀損で訴えるつもりだった。だが乗っ取りによる情報発信であったため、誰がそれらの情報を流したのか、未だ掴めないでいる。

怖いのは、全くのデタラメな記事なのに、火のないところに煙は立たない、と先生の評判が下がってしまったことだ。

こんなことをする人間は、おおよそ一人しかいない。

黒田源、54歳。

彼も同じ政治家で、今回の対立候補となると言われている男だ。女性受けのする甘いマスクにウィットに富んだ話ができると、今やメディアに引っ張りだこで、世の奥様方の人気を得ている。

カメラの前ではもっともそうな言葉を並べ、誠実でクリーンなイメージを持つ彼だが、その実態は酷いものだ。

彼の秘書たちは、あまりにもブラックな職場環境に次々と辞職している。しかし、弱い者に強く出る一方、強い者にはとことんイエスマンで、権力者からは気に入られているらしい。

そのためか、彼の悪い噂は世に出ることなく、一部の人たちの間でしか語られない。

先生の噂が出はじめた頃は、こんな根拠のない話はすぐに収まるだろうと思われたが、誰かが焚き付けているためか、一向に収まらなかった。珍しく怒りを見せた先生は、僕の前でこう言った。

「この騒動を一刻も早く鎮めてくれ。どんな手を使っても、だ」

…実は僕には、先生に一生をかけても返しきれないほどの恩がある。だから、これ以上卑怯な手で先生を陥れられないためにも、叩けば出るであろう黒田源の“埃”を調査した。

だが、彼も馬鹿ではない。すでに様々な手を打っていたのか、なかなか尻尾を出さない。元いた秘書たちにパワハラなどの証言をさせようにも、報復を恐れて誰も口を開こうとしなかった。

しかしそんな中、一つの情報を手に入れたのだ。


爽太郎が手に入れた重要な情報とは?

黒田源を潰すための情報


「黒田源に、少し前から愛人がいるらしい。しかも、彼女にかなりのめり込んでいて、政治活動を疎かにするどころか、政治献金をつぎ込んでいるらしい」

知人からの情報だった。よくある政治資金の私的流用ってやつだ。僕はすぐに政治団体の出した収支報告書を確認した。



流石に「海外視察、数千万円」のような記載はない。しかしよくよく見ると、いくつか怪しく思える支出がある。

この金がどこに流れているのか?その例の愛人とやらを探せば何か分かるのではないか?愛人の存在だけでも、彼を脅す材料にはなるが、ここは徹底的に潰しておきたい。

「その女の名前、分かるか?」

「確か…春瀬紗季とか言ったかな?一度見ただけだけど、あれはちょっと普通の女ではなかったよ。ホステスや愛人を職業とする人とも違う、強い光と闇を感じる、不思議な女だった」

この時は彼の言うことの意味が分からなかったが、今ならその表現に納得ができる。

これが、僕が彼女に近づいた経緯だ。宮永爽太郎というのも偽名だし(本当は田宮爽太郎という)、彼女に渡した名刺も、HPのみ存在する架空の会社を作り、その代表取締役としたものである。



「そんなの…。あなたみたいな素敵な女性を口説かない男はいないでしょう?」
「…そう」

彼女は納得がいかないようにそう言うと、血のように赤いワインをグイッと一気に飲み干した。

「本気で口説きたいようには見えなかったけど?」
「それは…。紗季さんみたいな女性は初めてだったから、正直どう近づけば良いのか分からなかったんだ。でも、僕はあなたのことをもっと知りたいと思ってる」

僕の必死の願いが届いたのだろうか?彼女は席を立ちながら、僕にあるものを渡した。

「これ、仕事用の。また気が向いたら会いましょう」

差し出された名刺を大事に受け取った僕は、「必ず、また」と力強く言う。それに応えるように彼女は薄く笑うと、美しい後ろ姿とともに、颯爽とその場を去った。


連絡先をゲットした爽太郎だったが、思うようには行かず…

親友の亜希子


「で?それから何も進展ないの?」

今日は西麻布にある『ラ カーヴ ド ノア』で、大学時代からの友人の亜希子とご飯を食べに来た。先日の紗季と出会ったパーティーに行くために、一肌脱いでくれたお礼だ。



亜希子は華奢な体からは想像できないほどよく食べる。今も、濃厚なフォアグラを幸せそうに味わっている。

「まあな。食事に誘おうとメールを送ってみたんだけど、無反応だよ」

「ふうん、それなのに誘うんだ?彼女のこと、よっぽど気に入っているのね」

亜希子はからかうようにして言った。彼女には、本来の目的については話していない。ただ今後の人脈のためにも、春瀬紗季という女性とどうしても親しくなっておきたい、と言っただけで。

「あんまり関わらない方がいいんじゃない?よく知らないけど、いい噂聞かないし…。それにしても、恋愛なんて興味のなかった爽太郎がね…。人って変わるものね」

「別にそんなんじゃないよ。ただ彼女と親しくなっておけば、色々と人脈も広がると思ってさ。それより亜希子こそどうなの?昔は常に男がいたのに、最近浮いた話ないの?」

僕は亜希子に指摘され、急に恥ずかしくなった。これは恋愛などではなく、桐生先生のためなのだ。

「えー、いつの話よ。最近はなくはないけど…。でもそれより今は、仕事が楽しいから」

「そっか。お互い仕事ばっかりの寂しいもん同士だな」

昔少し、亜希子のことが気になっていた時期がある。でもその時の彼女には、年上で社会人の彼氏がいたため、結局二人の間に何かが生まれることはなかった。それが却って良かったのか、今では男女の垣根を越えて、親友のように仲が良い。

「でもそんな難しい彼女が、会ったばかりの人が言う『面白い情報』を聞きたくて来たなんてね…。私だったら少しは気になるけど、その人に気がなければ行かないけどな」

確かに、僕もそこは引っかかっていた。彼女は僕に興味を持っていた…?それは考えにくい。だとすると、彼女も僕から何か情報を得たかった…?でも、なぜだ?僕の正体がバレているのか…?

「ねぇ、爽太郎、聞いてる?」

少し怒ったような亜希子の声で我に返る。「あぁ、聞いてるよ」と言うと、亜希子はつまらなさそうな顔をして話を続けた。

「とりあえずさ、本気で近づきたいなら、小手先のテクニックじゃなくてもっと真摯に誘ってみたら?」
「あぁ、そうだな。そうするよ」

僕はそう返事をしたが、様々な可能性が頭を駆け巡り、亜希子と楽しく飲むどころではなくなってしまった。彼女には申し訳なく思ったのだが、その日は早々に切り上げて帰宅した。


ーねぇ、爽太郎さん。あなたの目的は、一体何?ー


もしかして僕の正体はバレているのか?彼女は黒田に頼まれて僕から何か情報を引き出そうとしているのか…?それとも、黒田とは関係なく僕に興味があるのか?彼女が知りたかった情報はなんだ…!?

ある程度の仮説は立てられるが、考えたところで答えは出ない。僕はもう一度、彼女に仕掛けてみようと一通のメールを送った。すると送ってから半日経ったところで反応があった。

―いいわ。

僕の誘いに対し、紗季らしく短い返事。しかしやっと来た返事への安堵よりも、あの彼女の本心をどうやって探り出そうかという緊張感で、その日は結局一睡もできなかった。


▶︎NEXT : 3月28日 木曜更新予定
紗季もまた何か情報を得ようとしていることに気がついた爽太郎。紗季が知りたかった情報とは…?


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