「もっと買え」。女に買い物ばかりさせる男の目的とは?過去を隠していた男の、悲しい秘密

「もっと買え」。女に買い物ばかりさせる男の目的とは?過去を隠していた男の、悲しい秘密

買い物は、魔法だ。

女は買い物という魔法を使って、“なりたい自分”を手に入れる。

ならば、どれだけ買っても満たされない女は一体何を求めているのだろう―?

32歳にして年収1,200万円を稼ぐ紗枝は、稼いだお金を存分に買い物に使う「カッコイイ女」のはずだった。

しかし、紗枝の向上心にも似た物欲は恋人・慎吾とのいさかいをキッカケに徐々に歪み始める。

超富裕層の個人投資家・喜多川に押し付けられた超高級腕時計が招いた誤解によって、紗枝は慎吾から別れを告げられる。

慎吾を失った悲しみから浪費を肯定してくれる喜多川の元へと向かった紗枝は、与えられたカードで好きなだけ買い物をすることを許されるものの、次第にどれだけ買っても虚しさに苛まれるように。

そんな時、入室を禁じられた喜多川の仕事部屋に入ったことがバレてしまい…。

紗枝の欲望の、行き着く先は?



ショパールの黒いショッパーを手に持った喜多川が、暗い表情のまま言う。

「車に置いてきたと思ったんだけどね。コンシェルジュカウンターに置き忘れてたみたいで、ちょうど届けてもらえたよ。思ったより早く戻ってきたんで驚いた?」

「勝手に入って、ごめんなさい…」

以前この部屋に入ろうとした時には、柄にもなく声を荒げた喜多川だ。紗枝は蚊の泣くような声で呟くと、激しい叱責に備えて肩をすくめる。

だが、喜多川から返ってきたのは怒鳴り声ではなく、諦めたような寂しげな声だった。

「…いいよ。紗枝ちゃんには、本当はまだ知られたくなかったけど…そろそろ言わないと、納得できないことばかりだろうしね。僕は20代の頃に一度結婚して、娘が一人いる。今は娘も元妻もイギリスで暮らしてるんだ」

「そうなんですか…。別に、隠すことなかったのに…」

その言葉は本心だ。40歳を超えている喜多川に、結婚歴があったとしても不思議はない。

しかし、家族について語る時の喜多川はなぜこうも悲しげなのか?

紗枝にとってはその理由のほうが、喜多川に家族がいるという事実そのものよりも重要なことのような気がした。

歩み寄ってきた喜多川は紗枝の手からボロボロの星の王子様を受け取ると、パラパラとページをめくる。

「これはね、僕が子供の頃に読んでいたものを、娘に譲り渡した本なんだ。宝物だと言ってたのに…あいつらはゴミとして置いていったよ。なんでだか分かる?」

静かに首を振る紗枝に対し喜多川は、まるで罪を懺悔するかのような悔恨の表情で打ち明け始めた。

「僕が…金を出し惜しんだからだよ」


バラに水を惜しまない喜多川の、悲惨な過去が語られる

喜多川の告白


僕が大金を手に入れたのは、大学生の時だった。軽い気持ちで始めた株トレードがたまたま上手くいって、100億近い財産を築き上げたんだ。

でも、僕は元来とても地味なタイプでね。趣味といえば、普及しはじめたばかりのインターネットでネットサーフィンをするか、子供の頃からの習慣だった読書ぐらい。お金の使い方なんて、全く分からなかったよ。

そんな時、妻と出会った。20代の中頃だったかな。リアルでは投資をしていることを誰にも隠していたんだけど、その反動もあって仮名を使って投資についてのブログを書いていてね。ネット上で、「成功した個人投資家」として知られ始めた僕に、取材を申し込んできた記者が妻だったんだ。

全く垢抜けなかった僕に、妻は優しくしてくれた。出会ったキッカケは取材だったけど、個人的に会うようになってからはすぐに恋人になり、結婚に至るまで時間はかからなかった。

しばらくして娘も授かって、あの頃は幸せだったな。ただの地味な男だった僕が、人並みに女性に愛されて、人並みの幸福にあずかれた。本当に幸せだったんだ。…少なくとも、僕は。



妻の変化に気づき始めたのは、結婚して5,6年経った頃。娘が幼稚園に通うようになってからだ。

その頃の僕には分からなかったけど、妻の強い希望でかなり金のかかるインターに娘を通わせていたから、きらびやかな世界を毎日目の当たりにしていたんだろうね。執拗に、生活費を上げるように言ってくるようになった。でも…僕はそこで対応を間違えたんだ。

金を、出し惜しんだ。

株トレードなんて、安定とは対極にある虚業だよ。今ある100億円が、明日には全て失われてもおかしくない。僕は、絶対に幸せを失いたくなかった。だから、どれだけ金があっても、娘の学費以外は最低限の生活費で生活することを妻に求めた。

小さな家に、質素な服飾品。外食もほとんどせず、車も持たなかった。家族を守るための節約のはずだった。でも、節制すればするほど妻の心は離れていった。

そして、娘の小学校進学を控えた頃に、突然突きつけられた。

離婚届と、衝撃の言葉を。


妻と娘の裏切りによって、壊れてしまった心

紗枝にお金を注ぎ続けた本当の理由


記入済みの離婚届を突きつけながら、妻は僕に言ったよ。

「こんなにお金を使わせてくれないなんて思わなかった。これじゃ、あなたと結婚した意味がない」ってね。

笑っちゃうだろ?愛しあって結婚して、愛のある家庭を築いていると思っていたのは、僕だけだったんだ。さしずめ、期待はずれのATMだったってところかな。

妻は、結婚後に築いた財産の半分にあたる数億円をもらうや否や、娘を連れてイギリスへと行ってしまった。いいボーディングスクールがあるらしくてさ。

妻の学生時代の恋人が帯同していることは後で知ったけど、どうでも良かった。何をしても妻の心が戻らないのは、分かりきっていたしね。いや…、心なんて最初から、僕の手中には無かったんだけど。

僕はせめて娘に、僕と娘の宝物だったこの「星の王子様」を持って行って欲しかった。けど、「こんな薄汚い本を持っていけだなんて、バカにしてるの?」なんて言われて、妻に目の前でゴミ箱に捨てられたよ。

そんなことがあって、やっと分かったんだ。

出し惜しんでる奴は、全てを失うってことを。あの時、家族に好きなだけ金を使わせていれば、きっと家族の心も手に入ったんだ。

金を使わなかったから、全て失った。
金さえ使っていれば、失わずに済むんだ。



過去を語り終えた喜多川の目は、爛々とぎらついている。

「こんなダサい話、聞かれたく無かったよ。でも紗枝ちゃん。なんで僕があなたにこんなにお金を使わせるのか、分からないから怖かったんだろ?なんてことはないよ。僕はもう、惜しまないって決めたんだ。水をやればやるほど、バラは自分にとって特別なものになるんだ」

思いつめたような眼差しで紗枝の目を見据えながら、喜多川は言葉を続けた。

「そのことに気がついて以来、僕はあなたに時計を買ってやったように、これまで何人かの女性に同じことをしてきた。でも…ここまで使ってくれる子はいなかったよ。みんな怖気付いて逃げていく子ばっかりだった。

紗枝ちゃん。星の王子様が好きなあなたなら分かるでしょ?

『キミたちを全部合わせたとしても、ボクのバラにはかなわない。あのバラは、たった一輪でも、キミたち全員より重要なんだ。なぜなら、ボクが、水をやったり、ついたてを立てたり、ガラスの器をかぶせたりして世話をしたからだ』

金なんて、好きなだけ使っていい。使って使って使いまくって、今度こそ僕だけの、特別なバラになってほしいんだ…」


衝撃の告白に、紗枝がとった反応は

孤独な男の姿に、自分が重なる


告白を聞いた紗枝は、喜多川がこれまでとってきた不可解な行動が今やっと理解できた気がした。

なぜ、ブランドショップで物欲しげに立ち尽くしていた紗枝に声をかけてきたのか。なぜ、ひたすら散財をけしかけてくるのか。その理由は、とてもシンプルなものだった。

誰かを愛したかったから。そして、誰かに愛して欲しかったから。

お金を惜しんだことで家族を失った喜多川は、お金を費やせば費やすほど、愛と自信を手に入れられると信じこんだのだ。

生活が破綻するほど物欲の強い紗枝なら、与え続けられる”水”を飲み干せる。そして、いつかはそんな紗枝を愛せるようになる。いつかは紗枝も、自分を愛するようになる…。きっと喜多川は、そんな風に思ったのかもしれない。

だが、目の前で心の闇を露わにした喜多川を見て紗枝が抱いた感情は、愛情でも、同情でもない。

紗枝が喜多川に抱いた感情。それは、灼けつくように強い共感だった。



―この人は、私だ。私たちは…同じ苦しみの中でもがいていたんだ。

寂しいから、お金を費やした。自信がないから、お金を費やした。満たされることのない虚しさを満たそうとして、お金を費やし続けた。

紗枝は奇妙にクリアになった頭で、この数週間とどまることなくエスカレートし続けた自らの物欲を振り返る。

自分を高めるための買い物がいつの頃からか、心の隙間を埋めるためだけの行為になっていた。

寂しいから、買う。自分に自信がないから、買う。

ダサいと言われ続けた幼少時代の思い出を発端に、職場でのストレスが積み重なるにつれて、慎吾とのすれ違いが増えるにつれて浪費が加速していったことに、紗枝は今ようやく気がついたのだった。

「さぁ、湿っぽい話は終わりにしよう。つまりさ、僕のお金を使うことに罪悪感なんて抱かなくていいんだ。だからこれ、貰ってよ。紗枝ちゃんに似合うと思って買ってきたんだ」

おし黙る紗枝に、喜多川はショパールの箱をぐいと押し付けてくる。

しかし、この2週間散々喜多川の財産を使い込んできた紗枝の手は、その“献上品”を受け取るために動こうとはしなかった。

意味なくお金を使う行為が世の中で”浪費”と表現されるのならば、埋まらない心の隙間を埋めるために紗枝に注ぎ続けるお金は、喜多川にとっての”浪費”に他ならない。

「ほら、どうしたの?開けてみてよ…」

プレゼントの開封を促す喜多川に、紗枝は告げるしかなかった。

「すみません、喜多川さん。これは…いただけません」


▶NEXT:3月27日 水曜更新予定
浪費する女と、浪費させる男。同じ孤独を抱えた二人が出した結論とは


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