「この成功が身に余るとは思わない」緻密な戦略で、一流企業の内定とハイスペ彼氏を得た女の誤算

「この成功が身に余るとは思わない」緻密な戦略で、一流企業の内定とハイスペ彼氏を得た女の誤算

女の人生、その勝敗はいつ決まるのかー?

それは就職・結婚・出産など、20代で下した決断に大きく左右される。

ある分岐点では「負け」と見なされた者が、別の分岐点では幸せを勝ち取っていることなんてザラにあるのだ。

昔からその分岐点において、全く異なる結果になる2人がいた。その2人とは福岡出身の幼馴染、塩田ミキと佐藤菜々子。

2019年、28歳のミキは唐突に菜々子の”玉の輿婚”を知る。

遡ること5年前の2014年、早稲田卒の菜々子が派遣社員になった一方で、ミキは大手化粧品会社に就職を決め、新たな生活を始めていた。

「就職」という分岐点で成功を掴んだミキが目にする、これまで知らなかった東京とは?



ミキの人生を賭けた就職活動


運命の電話が鳴ったのは、代々木駅に電車がさしかかった頃。

ディスプレイに表示されたのは、知らない番号だった。

大学3年生だったミキは面接の結果だとすぐに察知し、目的地の渋谷に着く前だったが一旦電車から降りる。ホームで通話ボタンを押すと、数日前に最終面接を受けた第一志望の化粧品会社からの電話だった。

鼓動が、急に速くなる。

すでにいくつか内定をもらっていたが、この会社への気持ちは他とは比べものにならない。ここが絶対的な第一志望だった。

ミキは大学に入学したときから就職でどうやったら勝てるかを考えていた。留学も、サークルで幹事をしたのも、就活のためー。自分でも認めるほど打算的だった。

それほど、勝ちに飢えていたのだ。

ーここで勝てなかったら、私の人生負けばかりだ……。

最終面接のたびに、自分にかけてきたプレッシャー。第一志望の結果を聞くこの瞬間が、一番強くそれを感じた。

「塩田ミキさんですね?」

電話越しに尋ねる声は、明るい。ミキは「はい」と勢いよく声を出した。

「厳正なる審査の結果、塩田さんを採用することが決まりました。ぜひ一緒に働けたらと思います」

その瞬間、言葉が出なかった。

ー今日からもう、受験の失敗も、今まで菜々子に感じていた嫉妬心も、全部なくなるー。

電話を切ってからもしばらく混乱が続き、ベンチに座って気持ちを落ち着かせる。3本の電車を見送り、4本目の電車が来たとき、ミキはようやく腰をあげた。


菜々子とは対照的な、ミキの社会人として送る華やかな生活とは?

就職後の煌びやかな東京生活


第一希望の会社に就職し、新人研修の最終日となった今日。

ミキは一度家に戻り、着替えることにした。夜は六本木の『アジュール フォーティーファイブ』で、彼氏の健斗と約束がある。研修最終日、ミキは迷うことなく同期と飲むことよりも彼氏に会うことを選んだのだ。

ーようやく真っ黒なスーツとさよならできる……!

研修中、新人はまだ就活時のスーツを着ることが暗黙のルールになっている。その反動で、今日は真っ白なワンピースを手に取った。

ミキは住宅手当が出ることもあって恵比寿の1Kに住んでいた。大学時代はずっと、キャンパスに近い調布に住んでいたから、初めての23区だ。

「煌びやかな社会人生活ねぇ」

母に言われ、照れ笑いした引越しの日を思い出す。

都会に憧れる者を、田舎者だと笑う人もいるだろう。ミキはそれでも構わなかった。

いつだったか、表参道の有名サロンで髪を切ってもらったと嬉しそうに報告する友人を、東京育ちの女子たちは田舎者だと笑った。だがミキはそんな彼女たちの方を、むしろ冷ややかな目で見ていた。

憧れこそが、原動力になるのだー。

ミキはずっとそう、信じている。

そして憧れの会社に就職したいま、この街に合う服を着て自分の力で住んでいることが改めて嬉しかった。信じていたことは間違っていなかったと確信したのだ。

ワンピースに着替えてメイクを直し、時計を確認する。まだ18時半。約束の19時半までの1時間、どうやって時間を潰そうか。健斗は外資系金融で働いている。

ーまたきっと遅刻するんだろうなぁ。

鏡に映るミキの顔はほころんでいた。



健斗は珍しく時間通りにやってきた。

エレベーターに乗り、店がある45階を目指す。異世界へ向かうような気持ちだ。たどり着いたその先に、これまでの自分ではどうやっても届かないであろう景色が広がっていた。



「着替えてきたんだね」

健斗は笑顔で、“似合ってるよ”と付け加える。

「さすがに就活スーツじゃ来れないから」

ミキが照れ隠しに答えると、一目で上質とわかるスーツに身を包んだ健斗は、穏やかに微笑んだ。

「それはそれで、面白いけどな」

年が5つも離れている割に少年っぽさもあって、スマートな褒め上手。一目惚れだったと思う。

健斗とは、大学4年生で参加した食事会で出会った。

ミキは留学していたため、社会人になったのが同級生よりも1年遅い。大学4年生になってから誘われる食事会は、社会人たちばかりだった。

たいていの男性たちはミキを「唯一の女子大生」というフィルターでしか見ないが、健斗は違っていた。就職活動の話、留学の話……。ミキが努力したことを上手に引き出してくれる。

付き合うまで全てが順調に進み、そう時間はかからなかった。周囲からは羨ましがられたが、この一連の出来事を身に余るとは思わない。努力の結果なのだから。

店員は次から次へと芸術品のようなプレートを持ってくる。

今日はミキの配属決定祝いだ。健斗はそう言っていたけれど、普通はそんなお祝いで、このレベルの店には来られないだろう。

「配属はどこになったの?」

「希望通り、営業本部に決まったよ」

2人はシャンパンの入ったグラスを持ち上げて、乾杯する。夜がだんだん更けてくる。レストランから見える東京は煌めいていた。

ーもう4年もいるのに、本当の東京を知らなかったんだな。

ミキはうっとりと、暗闇に包まれた街を眺めていた。


順調なミキが壁にぶつかったとき、思い起こすのは……?

営業本部に配属されてから4ヶ月がたった。

4ヶ月目からは先輩から離れて、1人立ちしなくてはならない。ミキが任されているのは百貨店への営業。先輩の香織について回ったときはそんなに難しそうには思わなかった。

しかし、1人立ちしてみると思い描いたように事が進まない。

行き詰まり気味なミキを見て香織はお茶でもしようと誘い、営業先から少し離れたスターバックスに連れ出してくれた。

「仕事はどう?」

席に着くなり率直に聞いてきた。6つ歳の離れた香織は、まだ20代だが生活感が滲み出ている。今日もミキとは対照的に地味な装いだった。

「1人で回り始めたばかりなので、まだ慣れないです」

ミキはうまくいっていないとも言いたくなくて、曖昧に濁してしまう。

「塩田さんって、割と抱え込んじゃうタイプだよね。弱音が吐けないというか」

見透かされたようで居心地が悪く、テーブルに視線を落とす。

「でも、一度決めたらやり通す、みたいな強さは誰にも負けてないよね」

顔を上げて香織の目を見る。この人になら、弱みを見せてもいいかなと思えた。

「1人でお店回るようになったら、全然美容部員さんが話を聞いてくれなくて。この間なんて……」

口に出すのも嫌だった。歳の離れた美容部員に、「あなた、私たちを下に見ているでしょう」と言われたのだ。

「塩田さんの中に、そういう気持ちは本当にあった?」

香織に問われ、口をつぐむ。

ミキは百貨店の慌ただしい売り場を見るたびに、菜々子を思い出していた。ミキより高学歴にもかかわらず、アパレルの現場勤務となった菜々子を見下す気持ちは間違いなくあった。そういう気持ちが、態度に出ていたのだろうか。

香織は続ける。

「でもさ、全ては商品を売ってくれる人あっての私たちだからさ。売ってくれなきゃ、買ってももらえない。私たちにお給料も入ってこないんだよ」

耳が痛い言葉だった。

会社に戻るという先輩と別れ、金曜日だったので久しぶりにルミネに寄った。大学時代よく通った『ルミネエスト』に入ると10代くらいの女の子が多いことに気づく。

そういえばもう、『ルミネエスト』で買った服はあんまりクローゼットに残っていない。『ルミネ1』のほうに寄ろうかとも思ったが、今日は何も買う気になれなかった。

カフェに入り、新宿を行き交う人達を眺める。



ふと、菜々子にもう一度、連絡を取ってみようと思った。何度か送ったメッセージに対する返信は、いつも気乗りしない様子で、会いたくないのだろうとしばらく送るのをやめていた。

スマホを取り出すとLINEの新着メッセージが届いている。高校時代の地元の友人からだった。

ー菜々子、会社辞めて派遣社員になったって本当?

初めて聞く情報に混乱しつつ、ミキは既読をつけず鞄にスマホをしまう。

外では、相変わらずたくさんの人が行き交っている。

ーみんなどこへ向かっているんだろう。菜々子はこの街でどんな生活を送っているんだろう?

ミキはその日、なかなか帰りたい気分になれなかった。


▶︎Next : 4月23日 火曜更新予定
ここでダメなら地元に戻る……。そう決意した、派遣社員の菜々子に訪れる転機とは?



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