元・夫婦:「もう、13歳なのね」。過去に夫を奪われた女の古傷をえぐる、衝撃の真実

元・夫婦:「もう、13歳なのね」。過去に夫を奪われた女の古傷をえぐる、衝撃の真実

“夫婦”

それは、病めるときも健やかなるときも…死が二人を分かつまで、愛し合うと神に誓った男女。

かつては永遠の愛を誓ったはずなのに、別れを選んだ瞬間、最も遠い存在になる。

10年前に離婚した園山美月(35)は、過去を振り切るように、仕事に没頭していた。

もう2度とあの人に会う事はないと、思っていたのに―

念願だったモデルプロダクションを立ち上げ、長年の夢をようやく掴みかけていたそのとき。契約にやって来た子役出身のモデル小春とともに現れたのは、10年前に離婚した元夫だった…。



美月の人生を狂わせた、男の存在


―こんな形で再会することになるなんて…。

自分の元夫が、契約にやってきたモデルの父親だという現実を、美月はなかなか受け入れられずに、茫然と立ちつくすしかなかった。

「小春。この事務所と契約は出来ない」

「どうしてそんなこと言うのパパ!?」

「とにかくダメだ、帰るぞ!」

元妻である美月の姿を見て動揺し、裕一郎が引き返そうとするのも無理はない。それに状況が理解できない小春が反抗するのも、同じく当然のことだろう。

しかし、裕一郎が立ち上がり小春の手首を掴んだその瞬間、小春の「痛いよ!」という悲痛な声が響き渡る。我に返った美月は慌てて駆け寄ると、思わず突き放すようにして二人を引きはがした。

「乱暴はやめて!あなたそれでも父親!?」

美月はおびえる小春を抱き寄せ、裕一郎のことを睨みつける。

「小春ちゃん、大丈夫?痛かったね。手首があざになったら大変。和也、冷やしてあげて。ストロベリーミルクも用意しているのよ。好きでしょう?向こうで飲んでおいで」

小さな背中をさすりながら、そっと和也に目配せをして小春と応接室を出るように促す。こうして、ついに“元夫婦”は、二人きりになったのだ。

ピンと張り詰めた空気の中で、沈黙が続く。美月がじっと元夫のことを見据えていると、裕一郎は目をそらした。

「その…、悪かった」

先に沈黙を破った裕一郎は、腰に右手を当て視線を落とすと、わざとらしいくらい大きくため息を吐く。謝るときのその仕草とセリフは、10年前と少しも変わっていない。

こうやって重苦しい空気に耐えかねて先に沈黙を破るのは、いつも裕一郎の方だった。

「謝るなら、小春ちゃんに謝ってちょうだい」

「自分のことより人のことか…、相変わらずだな。しかも、ここの社長か。恐れ入るよ、本当に美月は変わらないな」

裕一郎はあきれたように少し笑ったが、美月は笑顔を返す気にはなれない。

彼の一つ一つの仕草や言葉が、もう乗り越えたと思っていた痛々しい過去の記憶を呼び戻すのだ。


所属契約に来た小春の父親が、元夫だったなんて。記憶から消し去ったはずの過去が押し寄せる。

かつて愛し合っていた、二人の過去


二人の出会いは、15年以上前に遡る。

美月が進学のために上京した、18歳の春のこと。

美月が入学したのは、武蔵野市にある私立大学だ。いわゆるお坊ちゃまお嬢様学校と言われる校風で、大学には付属の小中高出身者も多い。

内部生たちのきらびやかな明るさ、漂うお金持ちの余裕…付属校出身者はすでにグループになっていることもあり、すべてに圧倒されてなかなか大学になじめずにいた。

そんな中、一人で過ごす一年生の美月を気にかけてくれたのが、当時四年生だった裕一郎だったのだ。ジャズサークルの勧誘をしていた彼に声をかけられたのをきっかけに、少しずつ距離を縮めていった。

意外と努力家で負けず嫌いの裕一郎と、芯が強く正義感に溢れた美月。

二人はあっという間に付き合うようになり、若い恋人同士にありがちな小さなケンカや、楽しい思い出を重ねながら、愛を育んでいった。



裕一郎は日系証券会社で重役をしている父と専業主婦の母を持つ、いわゆる生粋のお坊ちゃまだ。

余裕のある家庭で自由に育てられた次男で、少々甘えん坊の愛され気質。その屈託なさと甘ったれなところは彼の魅力ではあったけれど、美月にとって少々やきもきさせられる部分でもある。

四年生になってもサークル活動に没頭し、結局単位不足で留年。就活も本腰を入れず、美月がはっぱをかけても何かと理由をつけてはフラフラしていた裕一郎。

結局、彼は親のコネで大手商社になんとか入社した。そこは、真正面から就活をしたら中流の私大の一般学生がとても入れるような企業ではない。

“人生イージーモード”

そんな言葉がしっくりくる裕一郎の姿は、美月にカルチャーショックを与えた。けれど、恵まれた環境を最大限に生かすのは間違ったことではない。

これからも彼の人生は、整備された見通しの良い道が永遠に続いていくのだろう。

そんな裕一郎も、社会に出たらさすがに今までのようにはいかない。厳しい実力社会の中で揉まれ、それでも必死に食らいつき、なんとか成果を上げ、大学時代と同様に充実した日々を過ごしていた。

一方の美月も、就活の正念場を迎える。海外の映画や音楽をプロモーションするという夢に向けて、外資の広告代理店に絞り、語学の取得やコネクション作りなど、懸命に動いていた。

しかし、最終的に内定が決まったのは、アメリカの化粧品の輸入販売をする小さな代理店だ。

希望は叶わなかったけれど新卒で入社した後は、がむしゃらに働いた。目の前の仕事に真剣に取り組めば、道はいくらでも拓けていくはずだと信じて。

小さな会社だからこその激務。ただその分、結果は自分の評価に直接つながり、働くことの喜びを知った。

連日、休みなく深夜まで働く日々。翻訳から広報、販売まで業務のすべてをこなす。しかし、やりがいを感じながらも、責任感の重さと蓄積されていく疲労に押しつぶされそうになっていった。

手を抜くということが出来ない美月は、限界をとっくに超えていたのだ。そうして、少しずつじわじわと心が蝕まれていく。気付かない間に、ゆっくりと。

そのことに、自分より先に気づいたのは裕一郎だった。

ある夜、裕一郎は、真剣な顔で美月にこう告げた。

「美月。俺、ニューヨークに赴任することになったよ。

一緒に来て欲しいんだ。結婚しよう」


仕事に没頭する美月が受けた、唐突なプロポーズ。ニューヨークでの新婚生活は想像もしない事態に…

ある日突然、急なプロポーズを受けた美月


予想もしていなかった展開に驚いて、うまく返事ができなかった。「私にも仕事が…」と、もごもごと繰り返す美月を見て、裕一郎はクスクスと笑ったのだ。

「俺は、美月と一生一緒にいたいんだ。その夢を叶えられるのは、美月しかいないんだよ」

そして、真剣な裕一郎のプロポーズに心を揺さぶられた美月は、いさぎよく結婚を決意をする。そのあとは自分でも驚くほどあっさりと会社を辞め、一か月後にはニューヨークで新婚生活を送っていた。

海外のトレンドに憧れる美月にとって、ニューヨークは夢の街だ。もし、この駐在の話がなければ、すぐに結婚を受け入れることはなかったかもしれない。

―この結婚、そして海外移住は必ず自分の次のキャリアにつながるはず…

本来駐在妻は家族帯同ビザが夫の会社から発行される。ただ、裕一郎の会社は駐在妻のキャリアにも寛容で、仕事を持つことを禁止していない。

それは美月にとって願ってもいない待遇だった。

裕一郎の仕事と生活が落ち着く間もなく、美月は動き出す。



煩雑な手続きを経て、渡米してから半年後にようやく就労ビザを手にした美月。

初めはネットで仕事を募り小さな翻訳記事から始め、徐々に仕事の幅を広げ、映画や音楽をプロモーションするという学生時代の夢に少しずつ近づいていった。

そして翻訳の仕事が起動に乗り始めると、エンターテインメント系のエージェントを探して自分を売り込み始めるようになる。

アーティストやモデルが日本で展開するにあたって、ウェブサイトのローカライズや、日本のプロモーターの紹介など、これまでの経験やツテを使って、何かしら力になれるはずだと考えていた。

裕一郎の仕事も、自分のキャリアも順調だった。少なくとも美月にはそう見えていたのだ。

会社の中で、ニューヨーク赴任は出世コース。親のコネというのはある時期を過ぎると足かせにもなるが、裕一郎はそれをものともせずに仕事に没頭し、結果を残し続けることに成功している。

「私も、裕一郎に負けないように頑張るね。今日は、SOHOに行ってエージェントに会ってきたの。明日は…」

美月は、目を輝かせて憧れの街での奮闘を裕一郎に伝えた。

「裕一郎に負けないように」

今ならばわかる。これがどんなに愚かな言葉かということが。

夫婦で勝ち負けを競って、なんになるというのだろう。

ある夜、裕一郎は美月の興奮を鎮めるように、静かな口調で言った。

「今週末、駐在員たちのパーティーがあるんだ。家族同伴で。こっちではそれが当たり前だから」

「え?それ、私も行くの?週末はようやく代理店の人を取り次いでもらって…」

自分の都合を優先させようとした美月に、この時の裕一郎は咎めるような視線を送った。

「美月」

冷たい声で美月の話を遮ると、「必ずパーティーに参加するように」と、強い口調でそう付け加えたのだ。

しかし諦めきれない美月は、裕一郎が納得してくれるまで何度も丁寧に説明し、自分のアポイントを優先させた。

どれだけこの約束を取り付けるのに苦労したか、どれだけ大きなチャンスを掴みかけているか。これを逃したら、すべてが水の泡になってしまうかもしれない。どうかキャリアを応援してほしいと、裕一郎に懇願したあの夜。

裕一郎ならきっと理解して、認めてくれる。そして美月の生き様を尊重してくれる。

美月はそう信じていた。

ようやく納得してくれた裕一郎は「わかったよ。頑張っておいで」と、やけに穏やかな口調で承諾してくれた。

今思えば、あれが悲劇のはじまりだったのだ。

あのパーティーで裕一郎は、美月を捨ててまで一緒になりたいと思う女性と出会ったのだから…。

その女性は、けなげに生きるシングルマザー。

裕一郎はあのとき、ニューヨークで流行っていたいちご味のスウィーツを度々買っていた。二人とも甘いものは苦手なはずなのに。

不可解な行動だったがあえて何も言わずにいると、彼は勝手に言い訳を始めたのだ。

「取引先のお嬢さんが、いちごが大好きなんだ」

目をそらして、ばつが悪そうにしていたことを思い出す。



隣の部屋から小春の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。和也と世間話で打ち解けたのか、談笑しているようだ。大好きなイチゴミルクですっかり機嫌を直したところを見ると、やっぱりまだ中学生なんだなと思う。

「小春ちゃん、大きくなったわね。あのときの子が…」

甘ったれの裕一郎がシングルマザーの連れ子の父親になんてなれるはずがないと思っていたけれど、その予想は裏切られたようだ。

「なんとか、やってるよ。年頃だから難しいけどな。美月は、どうだ」

「まあ、この通り」

そう言って首をすくめた美月。

このどうしようもない現実に悩んだ美月は、ふと脳裏に浮かんだ“ある男”に連絡を取ったのだった。


▶Next:5月29日 水曜更新予定
離婚以来、恋愛は遠ざけてきたけれど…。誰かに寄り添いたい夜、美月の隣にいたのはまたワケあり男だった…?



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