両親に支配され劣等感に苦しんだ女が見つけた、「自分らしく生きる」ための方法

両親に支配され劣等感に苦しんだ女が見つけた、「自分らしく生きる」ための方法

「美人で優秀な姉と、できの悪い妹」

幼いときから、2人はこう言われてきた。

妹の若葉(わかば)と、姉の桜(さくら)は3歳差の姉妹。27歳と30歳になった今、その差は広がるばかりだ。

エリート夫と結婚した姉の桜は、超美人な上に高学歴で、しかも弁護士。そんな姉に対し、妹・若葉は、劣等感に苦しめられていた。

人生に行き詰まった妹は、幸せを掴むことができるのかー?

若葉は2度目の司法試験に臨むも不合格。パラリーガルとして姉の事務所に就職しイケメン上司、滝沢に恋心を抱き、必死で振り向かせようとするも撃沈、ついに姉妹喧嘩に発展してしまう。そんな時、姉の夫の浮気現場を目撃する。しかし姉から母の日記を受け取った若葉は、幼少期の秘密と、姉の知られざる本音を知った―。



"何が何でも弁護士にならなきゃ。そうすれば親から愛される"

この思いが8年間、私の心を支配し続けていた。

だから2度目の司法試験に落ちたとき、自分がまるで無価値のように感じてしまったのだ。

姉が涙を流し本音を語ってくれたあの日から、私はこれまで以上にパラリーガルの仕事に励んでいる。

あの日、姉は「人生で起きるすべての出来事に意味がある」と、に私に教えてくれた―。

「神崎さん、おはよう。今日も朝早いね。それ、昨夜お願いした仕事?」

朝8時30分。人気がまばらなオフィスで、昨夜滝沢から指示された事務作業に取り組んでいると、カフェラテを片手に颯爽とオフィスに入ってきた滝沢に声をかけられた。

「おはようございます。はい、お急ぎの案件だと思うので、9時までに仕上げたいなと思いまして」

私の答えに、滝沢が柔らかな笑顔を見せる。

「助かるよ、いつも気遣ってくれて。

それにしても最近の神崎さんは凄いね。神崎さんがいなくなったらどうなるか想像できないな。これからも、頼りにしてるよ」

そして「いつも、本当にありがとう」と、付け加え私を見つめる。そんな彼の瞳に、以前の私ならドキドキして慌てふためいただろうけれど…。


若葉と滝沢の関係はどう変化したのか…?

どんな仕事も、面白くできる


「いいえ、…恐縮です」

そう言って頭を下げると、くるりと椅子を回転させてパソコンに向き合い、背筋を伸ばした。まずは上司である滝沢に、もっと自分の仕事を評価してもらいたいと思っている。

すると、後からやってきた同僚が、席に着くなり身を乗り出してきた。

「そういえば、先週司法試験だったね。懐かしいでしょ、神崎さん」

彼の言葉に、キーボードを叩く手を止めて顔を上げる。

先週の5月15日から19日にかけて司法試験があり、友人や後輩が受けていた。そうですね、と答えると、無邪気な顔で私に尋ねる。

「また受けたいなって思わない?未練あるでしょ、弁護士に」

私が法科大学院出身で、2年続けて司法試験に落ちていることは、今では部門のみんなが知っているのだ。

昔の私なら、ここでムキになって反論していただろう。あるいは、図星すぎて俯いていたかもしれない。

けれど、今は違う。私は彼の目をまっすぐに捉え、きっぱりと答えたのだ。



「未練なんてないですよ。今はこの仕事に、誇りを持っていますから」

姉と和解してから、がむしゃらに仕事を始めて2か月。たった2か月だが、私はこの仕事の面白さと奥深さに目覚めていた。

弁護士の指示のもと、ひたすら契約書の内容をチェックして文言を修正したり、大量の手続き文書を作成したり、ファイリングしたり。

正直なことを言えば、パラリーガルとは単なる裏方の仕事だと思っていた。

けれど、真剣に取り組めば取り組むほど、専門性が高く、経験がものを言う仕事だと知った。今は、司法試験のために勉強した8年間が、役立ったと実感している。

何より、クライアントからありがとうと感謝されることも多く、「弁護士じゃなくても困っている人の役に立てる」と気付いたのが大きい。

一見地味で何の変哲もない仕事だとしても、人や企業の運命を左右する、意味のある仕事なのだ。



12時を過ぎたころにオフィスを出ると、初夏のさわやかな風を感じた。上を見上げると、突き抜けるような5月の青空が広がっていた。

−今日は少しだけ歩いて、『ラ ブリアンツァ』に行ってみようかな…

晴れやかな気持ちで街に出て、六本木ヒルズの麓にあるさくら坂まで足を延ばすと、4月には満開の桜が咲き誇っていた樹木に、今は青々とした若葉が茂っている。

すると坂の向こうから、見覚えのあるシルエットが近づいてきた。


若葉が遭遇した”あの人物”とは…?

桜と若葉、それぞれのはじまり


170cmを超えるすらりとした高身長に、モデルのように細長い手足。セットアップをビシッと着こなし、ピンヒールをコツコツと品よく鳴らして歩いてくるその女性は…

「お姉ちゃん」

私が声をかけると、姉は私の姿を捉えて立ち止まった。

「あら、若葉。こんなところで会うなんて…」

「ちょうどランチに行こうと思って。お姉ちゃんは、新しい事務所どう?仕事は順調?」

私の言葉に、仕事モードだった姉の顔が、少しだけ和らぐ。

「まあね。結構な数のクライアントが一緒についてきてくれたから、想像以上に忙しいわ。そろそろ事務員を増やさないと」

1か月ほど前に事務所を退職した姉は、ここ六本木のさくら坂から徒歩5分ほどの場所に「神崎桜法律事務所」を開設していた。

そして独立と同時に、あの浮気夫の圭一とも離婚が成立したのだ。

公私ともに独りになった姉だったが、驚くほど晴れやかな顔つきをしている。組織というしがらみからも、パートナーとのいざこざからも解放されたからだろうか。

「なんだかお姉ちゃん、いい顔しているね。前よりずっと綺麗だよ」

すると姉は、まんざらでもなさそうな顔で頷く。

「1人だから全部自分でやらなきゃいけないけど、それがとっても楽しいのよ。もっと早く独立すればよかったわ。お父さんの顔色なんて伺わずに」

姉からは、独立にあたって父の大反対を受けたと聞いている。日本有数の法律事務所で渉外弁護士をしていた父は、大企業に所属することが正しいと信じて疑わないのだ。

以来、父とはかなりの軋轢が生じているようだが、清々とした姉を見る限り、そんなことは気にも留めていない様子だ。姉もまた、毒親の呪いをやっと解くことができたのかもしれない。

「若葉はどう?少しは成長したの?」

姉の口ぶりには相変わらず棘があるけれど、その表情は以前よりもずっと柔らかい。

「もちろん。最近は仕事を楽しめるようになった。今はとにかく、どんどん経験積んでいきたいな」

姉が眩しそうに目を細めながら、頭上の桜の葉を見上げた。つられて私も仰ぎ見ると、姉が小さくつぶやいたのだ。

「変わったわね、若葉」



若葉、という冴えない名前が嫌いだった。5月生まれだから、という単純な理由でつけられたこの名前。

桜と名付けられた4月生まれの姉が羨ましくて、ずっと姉の後を追いかけては、越せない自分を惨めだと思っていた。

桜の後にひっそりと芽を出す葉っぱに、自分の境遇を重ねては嫉妬する日々。

けれど、青々と茂る葉桜を見ながら、ふと「桜紅葉」という言葉があることを思い出す。その言葉を耳にするまでは知らなかったが、桜の葉は秋が深まるころ、鮮やかな朱色に紅葉するらしい。

春の桜、夏の若葉、秋の紅葉…四季折々で輝く様は、それぞれ個性があって美しい。

−もう、比べない。私はこの場所で、自分の人生を生きる。

私は青空に向かって背筋を伸ばすと、姉に宣言した。

「私、これまでは自分の軸がなかった。でもお姉ちゃんと本音で話して、気づいたの。苦しいだけの8年間だと思ってたけど、今は必要な出来事って思える。」

両親に愛されたい一心で勉強し続けた日々。でも、結局は父に支配されていただけで、そこに自分の意思などなかったことにようやく気付くことができたのだ。

「これからは胸を張って、堂々と生きていくね」

すると姉が、満足そうに顔を綻ばせたと思ったら、不意に意味ありげな瞳で私をのぞき込む。

「そうそう。この前滝沢先生が事務所に来てくれたんだけど、私の独立祝いでもしてくれるのかと思ったら、ずっとあなたの話しをしていたわよ。

最近の神崎さんはものすごく優秀だとか、頼りになるとか、見違えるように変わったとか。もしかして彼、あなたのこと…」

Fin.



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