One day:年上女を満足させる自信を失った、29歳の男。彼が再び歩き出せた理由

One day:年上女を満足させる自信を失った、29歳の男。彼が再び歩き出せた理由

港区には、モードな男たちが多数出没する。

スタイリッシュで、品があり、上質なファッションを纏う『港区モード』な男たち。彼らが街を歩けば、そこにドラマが生まれる。

この連載では、『港区モード』な男を目撃した人々に起こる、小さなドラマを紹介しよう。

前シリーズでは、「最後の男」を探し求める二人の女の物語を紹介した。

今シリーズ『One day』で前回登場したのは、 30代の人生に悩み苦しむITコンサル勤務 前田聡(32歳)。

港区で過ごすOne day。そこに現れるのはいつも…?



大手消費財メーカー勤務 中谷勇気(29歳)の場合


初めて君と出会った日のことを、思い出していた
6年前のあの日のことを

女神かと思った

僕より5歳年上の、美しくて凛としていて、とびきりの笑顔で僕を包んでくれた君のことを

君を手に入れたとき、これは夢じゃないかって思った
君を一生幸せにするって、誓った

だけど6年という月日が、夢から現実へと僕らを連れ戻し
すべては変わってしまった

今はただ、君といるのが苦しい

“あなたが今のまま側にいてくれたら、他にはなにもいらない”

君はそう言うけれど、それは嘘で、綺麗ごとだ

仕事で行き詰まって、転職もうまくいかなくて頭打ちで
なんの取り柄もない僕が、君を幸せにできるわけがない

君の周りにいるのは、輝かしい成功を手にした大人の男たちばかりだ

僕はどうやったって、そんな世界にたどり着くことができないだろう



僕はあてもなく六本木の街をさまよう
すれちがうのは上質なスーツに身を包み、高級な革靴を履いて歩く男たち

途端に自分の足元のスニーカーが惨めに見えた
君が大好きだと言ってくれた靴だけれど、今すぐ脱ぎ捨ててしまいたい

そうしているうちに歩き疲れて、『SEL OCTAGON TOKYO』の前を通りかかった

クラブで酒でも飲んで好きなだけ踊ろう

自暴自棄になって入ったその店で
僕は、ある男を見かけたんだ


年上の女を愛し続ける自信を失った男が、目にしたものとは…。


大音量のクラブミュージックに、まばゆいLEDの照明
酔いに身をまかせた男と女たちが溢れ返るその空間で
彼はひとりで酒を飲んでいた

僕よりもずっと年上の、大人の男だ
きっと君も本当は、ああいう男と幸せになるべきだったんだろう

思わず目を背けたけれど
なぜか彼のことが気になって仕方ない



クラブの喧騒の中、一人きりでシャンパンを飲む姿は
どこからどう見ても浮いているけれど
堂々としたオーラがカッコよくて

ふと足元を見ると、レザーの上品なスニーカーを履いている

彼は思い立ったようにソファから立ち上がり、ゆったりとフロアを歩きはじめる
踊るわけでもなく音楽に酔いしれるわけでもなく、ただ楽しそうに歩いている

きっと彼は、なににも縛られず、誰とも自分を比べず
自分の人生を生きているんだろう



あのスニーカーは彼にピッタリだ
自由で媚びないけれど、品があって美しい
まるで僕がかつて、なりたかった男みたいだ

昔の僕は誰にも媚びず、自信に溢れていた
人生なんてチョロいチョロい
だって自分はどこか特別だから
そんな間抜けなことを本気で考えていたんだ

だけどそれは若すぎて怖いもの知らずなだけだった
世界を知らないだけだった

そのときふと気がついた
6年間で変わってしまったのは、他の誰でもない僕だってことに

勝手に壁にぶち当たって
限界を感じて
自信をなくして
君の隣にいるのが恥ずかしくなってしまった

君はあの頃から少しも変わっていない
いつだって美しくて優しい君のままだ
唯一変わってしまったのは
いつも笑顔だった君が最近泣いてばかりだということ

ずっと君は言い続けていた
今のままのあなたでいいからって

だけどこのままじゃ嫌なんだ
もっと君を幸せにしたいんだ

あのスニーカーの男みたいに
この東京のど真ん中で誰にも媚びず、なにも恐れず、堂々と歩けるようになりたいんだ



少し背伸びをして
僕もあんなスニーカーを履いてみようか

そして地面を踏みしめて、しっかりと前に進もう
もしもまた壁にぶつかったら、よじ登って這い上がろう

君の泣き顔を、出会った頃と同じようにまた笑顔にするために

僕はもう一度歩き出すよ


それを纏えば、ドラマが生まれる

港区モード。


▶Next:7月23日 火曜更新予定



今週の港区モード:「ジョンロブのスニーカー」


紳士靴の最高峰であるジョンロブに新しい風が吹いたのは、2015年のこと。

アーティスティック・ディレクターに女性のパウラ・ジェルバーゼを招聘し、伝統の技術と新しい感性との融合を模索し始めたのだ。



この「PORTH」も彼女が手がけたモデルのひとつ。ジョンロブらしい卓越したクラフトマンシップを感じさせる最高級の一枚革のアッパーや美麗なエプロンのステッチングは依然健在ながら、一方でフォルムはモダンかつリュクスという、まさに伝統と革新の邂逅によって生み出された意欲作だ。

スポーティでありながらエレガント。そんな塩梅絶妙なスニーカーであれば、港区おじさんの嗜みとして最新のクラブに足を運んだ際にも気後れすることなく大人の余裕を醸し出せるはず。



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