華やかなCAの世界よりも、男を選んだけれど…。どうしても客室乗務員になりたい女が出した答えとは

華やかなCAの世界よりも、男を選んだけれど…。どうしても客室乗務員になりたい女が出した答えとは

利用旅客数世界屈指の大空港・羽田。

そこには、行き交う人の数だけ、ドラマがある。

胸を締め付けるほどの期待、心がちぎれるほどの後悔。


想いは交差し、今日もここで「誰かの人生」の風向きが、ほんの少しだけ変わる。

これは、羽田空港を舞台に繰り広げられる、様々な男女のオムニバスストーリー。

これまでに紹介したのはグランドスタッフ山田芽衣とパイロット訓練生の神崎賢人の恋や、超美人CAの相本美琴と、31年彼女なしの整備士、三上透の出会い。

そして最終章は、空港インフォメーションカウンターで働く、早乙女まりの物語。CAになりたくて、なれないまま26歳を迎えたまり。

彼氏の金沢慶太からの記念日旅行プロポーズを期待するも、その夢は打ち砕かれ、失意のうちに帰国するのだった―。



「え?それって慶太くんは、まりとは結婚する気ない、ってこと?」

親友の山田芽衣が、私の泣き顔を、まるで自分が振られたかのような動揺した表情で覗き込む。

羽田空港の屋外展望デッキは、夕暮れ時のライトアップされたランウェイを楽しむために、そぞろに人が出ている。

慶太との旅行から帰るなり、羽田のグランドスタッフとして働いている芽衣に連絡して、彼女のシフトが終わるのを待った。

とても一人で、あるいは慶太といっしょに、帰る気にはなれなかったのだ。

なんせ記念日旅行で、プロポーズされるどころか「結婚するつもりなら、そういうのやめてほしい」とまで言われたのだから。

芽衣は友情に厚いので、最大限熱心に私の窮状をきいてくれた。

芽衣自身も、アメリカにいるパイロット訓練生の彼氏と遠距離恋愛で大変なこともあるはずなのに、そのことでは愚痴ひとつきいたことがない。

3か月に1回ほど、お互いが1泊3日や2泊4日などの弾丸で行き来しているようだ。

仕事も恋もいつだって全力投球な芽衣を、私はとても信頼していた。

案の定、芽衣は腕組みしてひとしきり考えを巡らせたあと、おもむろに私に告げた。

「だけど、そんなこと急に言い出すなんて、優しい慶太くんらしくないね。まり、もう少し詳しく教えてよ、なにか誤解があるんじゃない?」


CAにもなれず、慶太と結婚する夢も砕けたまりの、次の一手とは?

慶太の真意


考えてみれば、慶太がその話をもちかけてきたとき、私はプロポーズの夢破れたショックから、ほとんど話をきかないで遮ってしまった。

大好きな慶太が私を迷惑だと思っているなんて、しかも勝手にプロポーズさえ想定していた旅行で、それ以上聞いていたら自分がバラバラになってしまう気がしたから。

でも確かに、慶太がなにか大切なことを話そうとしていたような気がするのに、強いセリフに囚われてすべてシャットダウンしてしまった。

慶太は言った。

「どうしてCA受験やめちゃったの?どうして東京ベースしか受けないの?」と。

慶太のセリフを思い出しながら芽衣に説明していると、ふとあることに思い当る。

「慶太は、もしかして、私がCAを諦めたことが不満なのかな…?」

私のつぶやきに、芽衣が「不満ていうか、歯がゆいのかな」とうなずいた。

「まり、絶対成田か羽田ベースのエアラインしか受けないよね?前に私がLINEでアジアベースの外資系エアラインの募集情報送ったけど、その時もスルーだった。

…もしかして、慶太くんと離れるのが嫌だから?」

本心をあっさり見透かされて、その浅さに呆れられはしないかと、私は思わず小さくなった。

そう、私は、どうしてもCAになりたいと言いながら、外国で暮らさなければならない航空会社を受験することは決してなかった。

国際線のCAを目指すなら、チャンスが多い外資系航空会社を受けない手はない。

分かってはいたけれど、それでも、どうしても。

私は慶太と離れるのが嫌だった。

CAの夢と引き換えにしてでも、慶太のそばにいたかった。

「でも、慶太はそれを責めるんだね…」



思わずこぼれた言葉をきいて、芽衣は黙って私の肩を抱いてくれた。それはとても温かくて、素敵な動作だった。

頑なだった心が、少しだけほぐれていく。

「でもさ?もしも逆だったらどう?慶太くんが、まりと離れたくないから、例えば本拠地が遠い球団の誘いを断ったら?」

「そんなのもったいないよ!だってプロになるチャンスなんて、そんな甘いものじゃないんだから」

「でしょ?たぶん慶太くんも同じ気持ちなんじゃないかな。自分は夢を諦めざるをえなかったからこそ、チャンスに挑戦しないまりが、きっとはがゆいんだよ」

「でも、今海外に住んだら、きっと慶太とはもう…」

涙声になる私を、芽衣は今度こそ笑い飛ばした。日本とカリフォルニアで、絶賛遠距離恋愛中の、大先輩として。

「海外遠距離が絶対ダメになるって、誰にわかるの?そんな未来のことが」


芽衣の後押しで、もう一度慶太と対峙する覚悟を決めたまりだが…

テイクオフ


羽田から京急線で帰る芽衣と、改札口で別れたあと、私はゆっくりとモノレールの改札口にむかって、スーツケースを転がしながら歩いた。

空港のコンコースにならぶショップのひとつに本屋があり、一角がCAやグランドスタッフ志望者に向けた本のコーナーになっている。

空港関係者には、一定の需要があるのか、普通の本屋よりもずっと多くの種類の航空業界関連雑誌が集められているのだ。

―そういえばこの半年、手に取ることはなかったな…。

高校生の頃から欠かさず愛読していたCA受験雑誌を手に取る。表紙は毎月現役CAで、その華やかな生活やフライトの様子が紹介されている。

見ると苦しくて、でも羨ましくて。

そしてそれ以上に見ないようにしていたもの。

それは巻末の、外資系航空会社の既卒募集記事だった。

雑誌を開くと、海外ベースの大手エアラインが募集を告知している。

身長も、学歴も、応募条件は満たしていた。挑戦するために足りないものは、あと一つだけ。

その時、ポケットのスマホが着信を告げた。

迷いなく、慶太と表示された画面の通話ボタンを押す。

慶太。大好きな慶太。

「まり?もう家についた?…ごめん、どうしても謝りたくて。傷つけたかったわけじゃないんだ、俺は、まりに…」



「うん、慶太。6年も一緒にいるだけあるね、落ち着いて考えたらわかってきたよ、慶太が言いたかったこと」

今から、家に行くね、と伝えて電話を切った。話をしよう。ちゃんと二人で、逃げずに、真正面から。

手に取ったCA受験雑誌を、少し迷ったけれど、久しぶりに買って、私は慶太の家に向かった。



「スーツ、お預かりしましょうか」

初めて乗るLCCのエコノミーシートのコンパクトさに四苦八苦しながら手荷物を荷物入れに入れていると、日系エアラインよりも数段華やかなメイクのCAさんが優しく声をかけてくれた。

2泊4日の、CA試験のための渡航。初めての海外一人旅だ。

荷物は小さなキャリーに収まったし、どれもついてすぐに空港に近接したエアラインのビルで行われる受験に必要なアイテムだったから、預けずに機内持ち込みにした。

カバーをかけた受験用のスーツがしわにならないか心配で、とっさに口ごもると、CAさんがいたずらっぽく笑う。

「面接で使うスーツですよね?こっそり吊れるところにかけてきます」

きっと同じような受験生が何人か機内にいるのだろう。採用試験が到着地であることを知っているようだった。「CHIKA」と胸のネームプレートにあるそのCAさんの心遣いがうれしかった。

シートベルトを締めて、窓の外を見る。

「展望デッキで見送るね」と言っていた慶太。もちろんこの小さな飛行機の窓から、彼の姿を探しあてることはできないけれど。

きっと、そこにいる。

今は、それを信じることができた。それだけでも、充分素敵なことだと思う。誰かを信じることができるなんて、幸運以外何物でもないのだ。

広い東京で、そんな人に出会えた奇跡を、そう簡単に手放す訳にいかない。

そして見つけた夢も。

「Cabin attendants, doors for departure」

出発に向けて、準備を促すアナウンスがはいる。

私は、私の出発のために、ゆっくりと目を閉じた。

Fin.



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