「自分の年齢、考えたら?」若さを武器にする20代女から、鼻で笑われた34歳独身女

「自分の年齢、考えたら?」若さを武器にする20代女から、鼻で笑われた34歳独身女

30を過ぎた女たちは、“年下の男”に対して幻想を抱く。

かわいくて、甘え上手で、癒し系。年下の恋人ができたら、きっと、とびきり楽しい毎日が待っている。

…だけど、もしもそれが「結婚」となったら?

―年齢差があればあるほど、頼りない。
―将来浮気されてしまいそう。
―もしかして、お金目当て?

そんな疑念がつきまとうのだ。

ベンチャーキャピタル勤務の山口泉(34)は、7年付き合った恋人の智也に浮気され、結婚直前で別れを決意する。

そんな時に出会った7つ下の西村晴人から、いきなり告白され、友達から始める事に。

晴人とのことを友人に反対されながらも、彼に誘われたバーベキューに参加することにしたのだが…



待ち合わせは午後5時。

六本木一丁目駅の三番出口で、私は晴人を待っていた。

今日は、彼からバーベキューに誘われているのだ。会場は、アクセスのしやすい『ARK HILLS SOUTH TOWER ROOFTOP LOUNGE』だと言う。

「あ、泉さん!」

私を見つけるなり晴人は手を大きく振って、爽やかな笑顔で出迎えてくれる。最近家で引きこもりがちだった私は、久しぶりの彼の姿に緊張を覚えた。

「晴人君。久しぶりだね」

「ホントですね、お元気でしたか?今日来てくれて良かったです」

晴人とは、自分の状況にきちんとけじめを付けてから向き合うべきだと思い、告白された日を境に会っていなかったのだ。

だからと言って、彼と付き合おうとかは思っていない。ただ今は、自分に懐いてくれている彼と一緒に居たかった。

「今日は、昔インターン時代にお世話になった会社の社長に呼ばれたんです。泉さんはバーベキュー好きですか?」

そう言えば、バーベキューなんて久しぶりだな、と気がつく。大学生や社会人になりたての頃は、友人やサークルの先輩、会社関係の人に呼ばれて参加することが多かった。

けれど、段々とそういったイベントへの誘いも減り、私自身バーベキューに新しさや魅力を感じなくなり、あまり参加しなくなっていたのだ。

「…うん。好きだよ」

心なしか嬉しそうにはしゃいで見える晴人にはそんな本音も言えず、私は静かに微笑んだ。


若く美しいライバルの出現に、泉の心は揺れる…

屋上庭園に着くと、ラグジュアリーな雰囲気の中、その空間に溶け込むように男女がワインを飲みながら楽しんでいた。



「お、晴人ー!久しぶりだなー」

「お久しぶりです、川本さん。お元気でしたか?」

この川本という人物が、晴人がインターン時代にお世話になった社長らしい。やり手の彼は、40歳手前にして、webサービス系の3つのスタートアップ企業をすでに成功させている。

川本は、私にも感じの良い笑顔でにこやかに挨拶すると、またすぐに晴人と話し出した。

「お前のこの間のwebインタビュー見たよ。結構頑張ってんのな。そう言えば、今日晴人が来るって言ったら、濱野もお前に会いたいから参加するって言ってたわ。もうすぐ来るんじゃないかな?」

「あー、なんか俺のとこにも連絡来てました。あ、そう言えば社内起業していた花本さんって、独立したんですか?この間雑誌で見て… 」

久しぶりに会った二人は、当時の話題で盛り上がっている。彼らが話していると、周りにいた人たちも晴人に気がつき、あっという間に輪ができていた。

若者の起業を積極的に支援している川本の周りには、起業家や、起業家を目指す若物の知り合いが多い。今回のバーベキューも、会社関係の人だけでなく、そんな繋がりの人達も多くいるようだ。

ただ気になったのは、その年齢層。一部を除いて、晴人と変わらない20代半ばくらいの男女が多かった。

ーなんか、私ちょっと場違いかも…?

晴人には事前にどんな人が来るのか聞いていたが、その内輪の雰囲気や、まだどこか学生の延長のような元気なノリについていけなかった。

ーやっぱり来るんじゃなかったかな…

そう思った時、「泉さん」と晴人に呼ばれ、みんなに紹介された。

「山口泉さん、僕の友人で某ベンチャーキャピタルで働いています。何か輪が広がればなと思って、お誘いしました」

「あっ、初めまして、山口です…」

建前上作った笑顔を見せながら、晴人の言葉が何となく引っかかる。今日誘ってくれたのは、やはり仕事が関係しているのか、と。

ーいや、でも前に告白してくれたし…

だけどすぐに、さっきまでは付き合う気などない、と考えていたことを思い出して、自分のちぐはぐぶりに思わず苦笑した。

正直なところ、自分がどうしたいのか、自分が彼をどう思っているのか分からないのだ。それと同じくらい、彼が本当は何を考えているのかも分からない。

ーあの告白は、どこまで本気なんだろう…?

そんなことを考えながら何となく周りと談笑していると、その中の一人が「あ、濱野ちゃんじゃん」と、こちらに向かって歩いてくる女性に気がついた。


あからさまにライバル視してくる濱野。彼女の態度に泉は…?

「晴人ー!わー、本当に来たんだ。久しぶりー。今まで声かけても全然来ないから、晴人死亡説まで出てたんだよ?」

「勝手に殺すなよ。ちょっと忙しかったんだよ」

晴人と同じ年頃のその女性が、先ほど川本の言っていた“濱野”のようだ。すっかり男性だと勘違いしていた私は、仲の良さそうな二人に、勝手にドキッとする。

細身のジーンズにシンプルなノースリーブという服装は、彼女のスタイルの良さを最大限に引き出している。また、切れ長の大きな目を持つ整った顔立ちは、男女問わず人気がありそうだ。

少し晴人と話していた彼女は、横に居た私に気がついた。

「初めまして?ですよね。濱野舞です。えっと、晴人の知り合い…?」

「あ、初めまして。山口泉です。今日は晴人くんに声をかけてもらって…」

彼女は、一瞬晴人と私を交互に見比べる。そして、驚いた顔で「え?もしかして彼女さん?」と聞いてきた。

「いえ…友人です…」

少し決まり悪く答えると、周りも勘ぐっていたのか「え、そうなんですか?てっきり…」などの声が上がる。

だが、すでに酔っていたその中の一人が「いやいや、そんな事言って本当は…?」と晴人に絡んだ。すると彼も私に合わせたのか、「いや、単なる友達」と妙に冷たく言い放つ。

ー単なる…。そんな言い方しなくても…

そもそも私が自分で「晴人とは友達だ」と言ったくせに、何だか冷たい晴人の態度が気になって、ちょっとだけ悲しくなった。

しかも追い打ちをかけるように、今度は濱野舞が、微かに鼻で笑いながらこう言ったのだ。



「そりゃ、そうでしょ」

彼女の言葉に、その意図が読めず色々と勘ぐってしまう。晴人と私が不釣り合いだからか、それとも私が年上だからか…?

だが、すぐに次の話題に移ったため、それ以上その事は気にしなかった。

それから少しずつ、皆がそれぞれ小さなまとまりになって会話をし始めた頃、濱野舞が私のところに寄ってきて、今度はやけに親しげに色々と聞いてきた。

「晴人とは何で知り合ったんですか?」
「お仕事は何をされているんですか?」

先ほどの態度は私の見間違いかと思うほど、感じ良く話しかけてくるので、こちらも丁寧に返す。

ところが私の職業を聞き、「あー、なるほど。だから…」と意味深な発言を漏らした。まるで彼が私に近づいたのは、私がベンチャーキャピタル勤務だからと言わんばかりに。

「山口さんって、おいくつなんですか?」

「…34歳です。どうして?」

年齢を聞かれたので、私も強気に質問してみる。けれど彼女は、特に取り繕う様子もない。

「いえ、だから二人は友人止まりなんだと思って。7つも年下なんて、山口さんが晴人を相手にする訳ないですもんね。晴人も昔から、同い年か年下ばかりと付き合っていたし、結婚なんてまだまだって考えてそうだし」

舞は口では“私が晴人に興味がない”と言いながらも、“晴人が相手にするわけがない”ことを匂わせてくるのだ。

きっと彼女は、晴人のことが好きなのだろう。そう思うと何だか、急にいじらしく見えてきた。

その時、向こうで話していた晴人が急にこちらを向いて「泉さん、楽しんでますか?」と大きく手を振ってきた。

一瞬、こちらに来るそぶりを見せたのだが、また他の人に捕まったようだ。私は彼の姿にホッとすると、濱野舞の方に向き直る。

「…さっきの話だけど、年の差は関係ないわ。少なくとも私には、晴人くんは魅力的に見えるから」

彼女をマトモに相手にする義理はなかったのだが、そう答えると、舞の顔から笑みが消える。そしてボソリと呟いた。

「…ご自分の年齢、考えてくださいね」

そんな捨て台詞を吐くと、見せつけるように晴人の元へと去って行った。

ポツンと一人になってしまった私は、遠くから彼らを見守る。

晴人は先ほどまで友人たちと騒いでいたかと思うと、急に真剣な顔をして仕事の話でもしているようだ。あまり私の前では見せなかった横顔に、僅かに鼓動が激しくなる。

今まで晴人と二人でいた時は、私にとって年下の男の子でしかなかった。しかし、同じ年代の中では、彼は一人の立派な大人なのだ。

今更ながらそんなことに気がついた時、不意に川本が「楽しんでます?」と話しかけてきた。


晴人が同年代といるところを見て気がついてしまった、泉の切ない想いとは…?

「あ、はい。あの、西村くんって仕事ではどんな感じでした?」

「晴人?あいつ、見た目は今時の若い子って感じで仕事に冷めてんのかな、って思ってたんですけど、内心結構熱い男ですよ。仕事も人一倍頑張ってて、周りからも慕われてたしね」

急に晴人の他の一面を知りたくなって聞いてみたのだが、普段の少し陽気で可愛らしい姿しか知らなかった私には、川本の話はすごく新鮮だった。

「あそこで今喋ってるの、皆同じ時期にウチでインターンしてたんですよ。それが今や皆それぞれ起業したり海外出てったり。なんかアイツら見てると、若いっていいなーって」

「ふふ、そうですね。若いって、いいですね」

晴人たちを遠くに見ながら、川本とそんな話をする。確かに、彼らを見ているとキラキラと光を放って見えるのだ。



7歳の差。その差がどうしてここまで、彼らを眩しく美しく見せるのだろう。もう、自分には戻らない時間だからだろうか?

7年前のあの頃は、まだ先の見えない未来に希望を抱いていた。智也と付き合い始めたばかりで、その先には楽しくて輝きのある光景が広がっていた。けれど今、未来が恐くてたまらない。

ーこの先結婚はできる?子供は産める?一人でも生きて行けるの?

いつからか、そんな不安に襲われて、すっかり臆病になってしまった。未来への希望は、いつから恐怖に変わってしまったのだろう。

彼らを見ていると、私の戻らない時間が映し出されているようで、少し羨ましくて、そして切なかった。見ているもの、生きている時間が違うのだと実感せざるを得なかったのだ。

「泉さん、放ったらかしてごめん。ちょっと皆に捕まってて。思ったより内輪ばかりが来てたんで、泉さんつまらなかったですよね?」

「ううん。そんなことはないけど…」

言葉を濁した私の顔を、晴人は覗き込んだ。

「本当ですか?あの…俺に気を使わないで、何でも思ったこと言ってください。

泉さん、初めて会った時からあまり本心を見せてくれないので、気になってたんです。ずっと元気もなさそうだったので、今日は気軽な会だし楽しんでもらえたらなって。

それに…久しぶりに会えてすごく嬉しかったから、いっぱい話したいと思ってたんですけど、結局一人にしちゃって。失敗したな、ごめん…」

晴人は、本気で後悔しているようだった。あまりに素直に謝るので、ついからかいたくなってしまう。

「ありがとう。でも“単なる友達”にそんなに気を遣わせちゃって、ごめんね?」

冗談っぽく言うと、晴人は、慌てたように訂正する。

「あ、いや、さっきああ言ったのは、色々聞かれたら泉さんも嫌だろうなって思ったから。それに…」

「それに?」

「前に婚約者がいるって言ってたけど、その彼とどうなってるのかを、こんな形で聞きたくないですし…」

恥ずかしそうに、いつもより小さな声で話す晴人がどうしようもなく可愛く思えた。そのとき私は、「あぁ、この人が好きなのかも…」と気がついてしまったのだ。

「良かったら、飲み直しません?先ほどの失態を挽回させてください」

晴人はそう言って、無邪気に笑う。

私は、どんどんと彼に惹かれている自分を冷静に律しようとするも、彼からの誘いを断ることなど、もうできないのだった。


▶︎NEXT: 8月25日 日曜更新予定
気付き始めてしまった恋心。しかし晴人の気持ちに対する不安が消えない泉は…?


▶明日8月19日(月)は、人気連載『立場逆転』

〜高校卒業後15年。再会した2人の人生は180度違うものとなっていた…。女のプライドをかけた因縁のバトル、続きは明日の連載をお楽しみに!



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