「彼、一度や二度じゃないの…」。女友達に、恋人の手癖の悪さを忠告しようとした既婚女

「彼、一度や二度じゃないの…」。女友達に、恋人の手癖の悪さを忠告しようとした既婚女

女は、仮面を被った生き物だ。

優しい微笑みの裏に、怒りや悲しみ、ときに秘密を隠し、本当の自分を偽りながら暮らしていく。

たとえば聖女のような女にだって、裏があるかもしれない。

それを美しい仮面で覆い隠しながら、生きているのだ。

恵子が高校生の頃、聖陽女学院で、ある一人の女生徒が、理由もわからず突然転校していった。

あれから10年。27歳となった恵子たちの前に、あの時いなくなった女が現れてー。

4人の女が美しい仮面の下に隠す、素顔と真実とは?

絹香からの連絡をきっかけに、10年ぶりの再会を果たした恵子達。

絶世の美女へと姿を変えていた絹香から、再会の真の目的を打ち明けられた恵子は、知らなかった過去の真実を探るため、早速行動に出るが…?



ー萌がうちに来るのなんて、何年ぶりだろう。

恵子は、急いで客間をチェックし、小さく頷く。

タイミングよく手に入った『銀座かずや』のお菓子は、お手伝いさんがキッチンで冷やしておいてくれているはず。インスタに夢中の萌のことだから、珍しいお菓子にきっと喜んでくれるだろう。

夜、萌がこの近くで用事があるらしく、今日は恵子の家を訪ねてくることになった。ここ数年は萌の家で集まることがほとんどだったので、なんだか変な感覚だ。

ー萌から、何か聞き出せるかしら。

先週、絹香に降りかかった過去の出来事を聞いて、恵子は大変驚いた。

突然の転校の理由が、友人2人にあるかもしれないということに、大きなショックを受けたのだ。

それに絹香は、転校する少し前に、友人2人と揉めたと言っていた。だけど、高校1年の出来事を何度思い出してみても、恵子にはまるで記憶がない。

自分だけが知らない出来事を、他の3人が共有していると思うと、仲間外れにされたような疎外感で胸が苦しくなる。

萌やさくらから情報を聞き出して、過去の真実を探ること。それは、絹香が持つ疑惑を明らかにするだけでなく、恵子自身の胸のもやもやを晴らすためでもあるのだった。



「そういえば、恵子と二人で会うのって珍しいよね。お家にお邪魔するのなんて、何年ぶりだろうね!」

目の前の和菓子の写真を取り終えた萌は、ようやく、スマホから恵子へ視線を移した。

「うん。前、萌だけ先に帰ったじゃない?あの時、絹香が手嶋くんの話をしたすぐ後だったし、元気がなさそうに見えたから気になっちゃって。」

手嶋。…絹香の婚約者で、萌の元恋人の名前。

それを聞いた萌の目が苦しげに歪むのに気付きながらも、恵子は話を続ける。

「だからね、甘いものを食べながらおしゃべりしたら、元気でるかなって思ったの。…余計なお世話だったら、ごめん。」

俯き加減の萌の目は、潤んでいるように見える。ズズッと鼻をすすったあと、しばらくしてから萌は口を開いた。

「私ね、絹香のことが…心配なの。」


萌が絹香を心配する、その衝撃の理由とは?

「し、心配って?それって、どういうこと?」

思いがけない発言に、恵子は驚いた。萌は、大きな目一杯に涙を溜め、今にも泣き出しそうだ。

「恵子やさくらには、心配させたくなくて黙っていたんだけど…手嶋くん、浮気癖が酷いの。私と付き合っているときも、一度や二度じゃない。私と別れたのも、実は浮気が原因なんだ。」

萌は、バッグの中からハンカチを取り出し、涙を拭った。

「彼は家柄も外面もいいから、寄ってくる女はキリがない。私も一所懸命彼を変えようとしたけれど無理だった。…そんな男が絹香を幸せにできるだなんて、とても思えないの。」

「そ、そうなんだ。…全然知らなかった。」

恵子は、萌が手嶋と別れたときのことを、懸命に思い出す。

確か、結婚願望が強かった萌が、手嶋の両親に会うことを切望してから二人の間に微妙な空気が流れ始めた。そして、最終的に萌が振られてしまったのではなかっただろうか。

そのエピソードだけ聞くと、手嶋がひどく狡い男のようにも思えるが、彼と付き合っている最中の萌は本当に幸せそうだった。

理想の王子様に出会えたと満面の笑みで語っていた萌が、実は彼の女癖の悪さに悩んでいたとは、なかなか信じられない。

「ねえ、恵子!二人で絹香に忠告しない?せっかく綺麗になったのに、あんな男に…。私そんなの嫌よ!」



いつもの猫なで声とは打って変わって、萌の口調は激しさを増していく。

「今から絹香に電話してみない?きっとまだ、彼の本性に気付いてないのよ。私たちが教えてあげないと!」

名案だとばかりに、萌の顔がパっと明るくなる。

勢いに気圧されていた恵子だったが、萌がスマホを手に取ったのを見ると、慌てて口を開いた。

「ちょ、ちょっと待って。手嶋くんも変わったかもしれないし、それに絹香は萌が元カノだってことも知らないはずよ。突然そんなこと聞いたら、驚くし傷付くんじゃないかな。」

「それじゃあ、このまま放っておくって言うの?!男なんて、1年じゃ何も変わらないわよ!」

声を荒げた萌は、その場で立ち上がった。だが、恵子の呆気にとられた表情に気付いて我に返ったのか、すぐソファに座り直す。

「…とにかく、私は、彼と絹香の結婚には反対なの。友達が不幸な未来を選ぶのなんて、恵子だって嫌でしょ?」

同意が欲しいのか、萌が媚びるような視線をよこす。だけど恵子は、いつものように黙って頷くことは、しなかった。

先ほどの萌の発言に、違和感があったのだ。

「もちろん、私だって友達が辛い思いをするのは嫌よ。…だけど、萌の話だけじゃ、絹香が不幸かどうかなんて、判断できない。それに…

萌、さっき言ったよね?”男なんて1年じゃ何も変わらない”って。でも萌が手嶋くんと付き合ってたのは、学生だった頃なのに…どうして1年前の彼のことを、知ってるの?」


問い詰める恵子に、焦る萌の反応は?

「ウソ、私そんなこと言った?…とにかく、人はそんな簡単に変わらないって言いたかっただけだよ〜!」

萌の口調は、気づけばいつものトーンに戻っている。

しかし、その目線はどこか不安げで、恵子には、彼女が何かを隠しているように見えた。

「ああ、私、そろそろ行かなきゃ。恵子がなんて言おうと、私はやっぱりあの二人の結婚には反対よ。…結婚してから後悔しても、遅いもの。」

もはや聞く耳を持たない萌は、玄関へスタスタと向かっていく。恵子は駅まで送ろうとしたが、萌は近所で用事があるからと、それを断った。

「ねえ!…絹香が転校する少し前に、揉めたりしなかった?」

恵子の問いかけに、萌の足がピタリと止まる。

本当はもっと上手く聞き出せたらよかったのだが、この雰囲気ではとても無理だ。

しかし、今日を逃すとチャンスがないように思えて、恵子はストレートに質問を投げかけた。

「そんな昔のこと、覚えてないな〜。…そう言えば、あの頃さくらはよく言い争いしてたかも?」



ー婚約者と別れさせたいだなんて…萌は本当に、絹香の為に言っているのかしら。

夜になってもなお、恵子は悩んでいた。もちろん、こんな状態では絹香にだって連絡できない。

いくらかつての恋人とは言え、萌にはもう家族がいる。

流石に、過去の男に対する嫉妬で、絹香と手嶋を引き離そうとしているわけではないと信じたい。

だけど、幸せの絶頂にいる絹香をいきなり呼びつけ、婚約者の真偽不明の悪癖をぶちまけようとするなんて、いくらなんでも行動が過ぎるのではないだろうか。

しかも、10年ぶりに再会したばかりだというのに。

それに、誤魔化してはいたものの、まるで1年前の手嶋を知っているかのような萌の発言も、どうしても気になる。

ー1年前に何かあったのかしら。もしかしたら、萌は今でも手嶋くんのことを好きなんじゃ…?

頭に浮かんだまさかの想像に、恵子は小さく首を振った。しかし、考えれば考えるほど、その想像が真実味を帯びてくる。

ブルルル

机に置きっ放しのスマホが振動し、その画面にはさくらの名前が表示されている。いつもはLINEでの連絡が多く、着信なんて滅多にないのに。

不思議に思いつつも電話に出ると、慌てた様子のさくらの声が耳に飛び込んできた。

「恵子?萌の旦那から連絡があって…萌がいなくなったらしいの!一切連絡が取れないんだって。もしかしてそっちに行ってない?」

慌てて時計を見ると、すでに夜10時を回っている。

「うちに遊びに来たけど、夕方には帰ったわ。そう言えば、この後近くで予定があるって言ってたけど…あ。」

ーこの近くって、まさかね。

恵子の家から車で5分ほどの場所に、手嶋家がある。まさかとは思うが、可能性はゼロではない。

「私、ちょっと探してくる。」

恵子は急いで電話を切ると、手嶋家へと車を走らせた。


▶NEXT:9月19日 木曜更新予定
行方をくらませた萌の目的と、その過去の秘密とは…?


▶明日9月13日(金)は、人気連載『呪われた家』

幸せな結婚生活を思い浮かべていた新妻。その儚い幻想が、見事に打ち砕かれたら?沙織(26)は、“家”を巡る恐怖の呪縛に追い詰められていく…。続きは、明日の連載をお楽しみに!



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