「奥さん、妊娠中だったの…」。完全に遊ばれていたことを知り、他の男を家に呼んだ女

「奥さん、妊娠中だったの…」。完全に遊ばれていたことを知り、他の男を家に呼んだ女

30を過ぎた女たちは、“年下の男”に対して幻想を抱く。

かわいくて、甘え上手で、癒し系。年下の恋人ができたら、きっと、とびきり楽しい毎日が待っている。

…だけど、もしもそれが「結婚」となったら?

―年齢差があればあるほど、頼りない。
―将来浮気されてしまいそう。
―もしかして、お金目当て?

そんな疑念がつきまとうのだ。

ベンチャーキャピタル勤務の山口泉(34)は、ある交流会で出会った7つ下の西村晴人から、いきなり告白され、友達から始める事に。

良い雰囲気だった二人だが、泉は自分が年上だということを無意識に感じてしまい、徐々にすれ違い始める。さらに晴人の元に、元カノの濱野舞から「今すぐ来て」と電話があり、彼は駆けつけることに…



「晴人…会いたい…」

濱野舞から電話が来て、僕は急いで彼女の家へと駆けつけた。

エントランスで呼び鈴を鳴らし、僕だと告げる。部屋まで行くと、鍵が空いていた。

「濱野…?」

ゆっくりとドアを開けて中に入ると、床にはそこら中に物や本がぐちゃぐちゃになって散乱している。彼女が投げたのだろうか?

すると部屋の奥から出てきた彼女は、泣きながら僕に走り寄り、そして抱きついてきた。

「晴人…」

僕の名前を口にすると、子供のようにワッと泣き崩れてしまう。

何とか彼女をなだめて落ち着かせ、ソファへと座らせた。

「ごめん、晴人…。なんか、取り乱しちゃって…」

「うん、大丈夫…」

彼女はそのまま無言で俯いた。

部屋が急にしんと静まりかえる。僕は床に散らばった物を拾い集め、いくつかの割れたグラスの破片をせっせと片付け終えると、彼女に言った。

「何か淹れるよ。キッチン借りていい?」

彼女が好きだったミルクたっぷりの冷たいコーヒー牛乳を作り、ソファの前のテーブルに置く。

濱野は「ありがとう」と小さく呟き、一口飲むと、「あまっ」と言って少しだけ笑った。

その後、気持ちが和らいだのか、彼女はポツリポツリと話し始めた。


晴人が今日、泉を置いてまでここへ来た本当の理由とは?

「…あのね、あいつ。前に話した私の彼氏。奥さんと別れるって言ってたのに、奥さん、妊娠中だったの。しかも、私の他にも女がいたの…。私、完全に遊ばれてた…」

想像以上に最低な内容に、同じ男としてヘドが出る。なんで、そんな男なんかに…。

「私さ。晴人と別れてから、なんかずっとうまくいかなくて。それまでは就職も上手く行って、たまに読者モデルとして雑誌とかにも呼ばれて、周りからちやほやされて。

でも、晴人と別れて、母も亡くなって…。その時誰かに頼りたかったんだけど、周りにいるのは、うわべだけの人だって気がついたの。私、父とも折り合いが悪かったし…」

初めてしっかりと彼女と向き合っている気がする。僕は、今度こそ彼女の言葉をきちんと聞こうと、静かに耳を傾けた。

「その後就職しても、配属先も仕事も何もかも上手く行かなくって…。女だってだけで下に見られて、正当に評価してもらえないこともあった。セクハラまがいのこともたくさんあった…。そんな時に、あの人は私の欲しい言葉を絶妙なタイミングでかけてくれるんだもん。好きになっちゃうよ…」

濱野は自嘲気味に笑いながらも、目から雫をはらはらとこぼす。



「でも…、今思えば本当にその場だけの、表面的な言葉だったな。それでも、今度こそは信じたかったんだよね。きちんと好きになれたのは、晴人以来だったから」

僕は彼女の嘘のない言葉が、すごく切なかった。彼女には、本当に幸せになって欲しいのに…。

「私って、男見る目ホントないな。自分を大事にしてくれない人ばっかり好きになっちゃって…」

無理に明るく言う彼女に合わせて「ホントな。ロクでもない男ばっか」と僕が言うと、「あんたが言う!?」と笑いながら怒られた。

今日こそは、濱野とちゃんと向き合いたい。

「あのさ…。こんな時に言うのは違うかもしれないけど…あの時、俺たちが別れた時。俺、本当にひどい事したな。あの時の俺は、濱野のことを大事に思ってなかったわけじゃない。本当に好きだった。

でも結果的に、目の前のことに夢中になって、濱野のことをちゃんと大事にできなかった。

お母さんのことも、気がついてやれなくてごめん。ずっと…ずっと後悔してたんだ。一番辛い時に、俺が支えなくちゃいけない時に、ひどい事して本当にごめん。…こんなの、今更言われてもだろうけど」

僕は、彼女に許しを請いたいだけかもしれない。

けれど彼女には、過去の話であったとしても、僕が本当に好きだったことを伝えた方がいい気がしたのだ。

濱野は、「ふーん」と返事をすると、今度はこう尋ねた。

「じゃあ、また私と付き合ってくれる?」

試すような、それでいて懇願するような声のトーン。僕の心は掻き乱される。


濱野舞が語った、二人が別れた時の真実とは…。

ーこんなに不安定な彼女に、なんて返すのが正解なのだろう?

だが、下手な忖度は、彼女を余計に傷つけるだけだ。

「…濱野のことは、友人として本当に大事だと思ってる。でも俺…」

「ははっやだなー、冗談よ。何深刻な顔してんの」

そう言って、重くなった空気を掻き消すように彼女は笑う。その強さと危うさが、心配で仕方がない。



「濱野は、いい女だよ。見た目はもちろん、気遣いだってできるし、本当は優しいし。涼しい顔をしながら、陰で誰よりも努力して自分を高めてる。すごく魅力的だよ。

今回はたまたま変なのに引っかかったけど、絶対心から好きになれるやつと出会えるよ」

最後はあんな形で別れたけれど、心からそう思っている。彼女は少し照れながら「ありがとう」と笑顔を見せた。

「あのさ…私こそごめん。本当は、晴人がずっと私に罪悪感を感じてたことを知ってたの。でも、それを利用してた。

別れる時、確かに不安定だったし、晴人に側にいて欲しかった。でも、別れた本当の理由は違うの。晴人が側にいてくれなかったからじゃない」

「え、じゃあ何で…?」

僕はてっきり、彼女をないがしろにしてしまったので、傷つけて愛想を尽かされたのだと思っていたのだが。

「晴人が好きだったから。日に日に依存してしまう自分の存在が、晴人の負担になっていることは分かってた。晴人は、一生懸命応えようとしてくれてたよ?あんな私の我儘に、逆によく付き合ってくれてたよ」

「そんなことない。俺がもっと舞の気持ちを考えられていたら…」

すると彼女は黙って首を横に振る。

「ううん。私、すごく感謝してた。でも、別れた後もずっと誰よりも優しかった晴人に、甘えてた。そのまま一生罪悪感を持って、私を忘れないで欲しい、なんて思ったりもした。でも…。

今日来てくれて、すごく心配そうに話を聞いてくれて、なんか…分かったの。晴人は罪悪感なんかなくても、私を友人として大事にしてくれるって。それだけで、十分満たされるんだなって」

先ほどまでは泣きじゃくっていた彼女は、泣いてスッキリとしたのか妙に清々しい顔をしている。

「…濱野は、強いな…」

「そんなことないけど…泣くだけ泣いて、話聞いてもらって、気が済んだ。ありがとう」

そうだ。彼女のこんなところも好きだった。取り乱したかと思うと、ふっと切り替えて前へと進む。当時は振り回されて大変だと思ったが、僕の器が小さかっただけかもしれない。

「ねぇ。晴人、あの年上の人のこと好きなんでしょう?泉さん、だっけ?」

「え、あ、うん…。何、バレバレだった?」

「うん、それはもう。私と別れてから、ずっと女っ気なかったのにね。なんかあの日の彼女といる晴人を見てたら、本当に好きなんだろうなぁって伝わって来て…嫉妬しちゃった」

彼女の言う通り、僕は濱野と別れてからずっと恋愛が怖かった。

だけど泉さんにだけは、恋愛に対する苦手意識を全く感じなかったのだ。

「あのさ…、私あの日、彼女に意地悪言っちゃった。晴人を取られそうで怖くて。あの人は私のことなんて相手にしてなかったけど、それも何だか悔しくて…。

でも多分、素敵な人なんだと思う。ごめんなさいって伝えてくれる?もしまた会えたら、今度はきちんと謝るから」

「うん?彼女は何も言ってなかったけど…。わかった、濱野が謝ってたことは伝えるよ」

泉さんは濱野のことを何も言っていなかった。それどころか今日も、事情を知って本気で濱野のことを心配して、快く送り出してくれたし…。

ーなんか、敵わないな…

僕よりもいくつか年上だという泉さん。僕を引き止めなかったのは彼女が大人だから?それとも、単に僕に興味がないだけなのか?

今日、少しだけお互いに素直になれたと思ったのに。未だに彼女の心が読めなくて、無性に焦燥感に駆られるのだった。


飯田の元へと向かった泉。つい彼にドキッとしてしまうが…。

山口泉のその後


晴人が先に帰ってしまったので、私はたまたま近くで飲んでいた大学の先輩たちの元へ駆けつけた。

「うわー、泉ちゃん、久しぶり!元気そうだねー!」

「東山さん、お久しぶりです。飯田さんも、この間はご馳走様でした」

「よし、飲もう飲もう。何にする?ビール?」

久しぶりに会った二人との会話は、まるで大学時代に戻ったように楽しく、最近、別れた智也や晴人のことで浮き沈みが激しかった私には、とても良い時間だった。



「うわ、おい、東山。こんなとこで寝んなよ。帰るぞ」

「えー、まだ飲もうよー。泉ちゃんだって、せっかく会えたんだからさー」

一番お酒に弱い東山さんが酔い潰れてしまったので、なんとか先にタクシーに乗せる。去りゆく車から、彼は顔を出して叫んだ。

「なんだよー、この後二人だけで飲み直しとかなしだからな!また飲もうなー」

「俺らも帰るよ、もう遅いし。また連絡するわー」

「東山さん、また飲みましょう」

ムードメーカーな彼が去ってしまうと、二人の間に急に沈黙が訪れる。つい先日まではまだ夏だと思っていたのに、外は少し肌寒く、いつの間にか秋の匂いを漂わせている。

「じゃあ、私たちも…」

そう言ってタクシーを拾おうとした時、飯田さんが言った。

「あのさ…。前に彼氏と別れたって言ってたけど、あれから何もないの…?」

「……。少し気になる人が、いることはいるんですけど…あんまり上手く行かなくて」

突然の質問の意図が読めず、だが隠すことでもないので正直に答える。

「それって、もう付き合ってる…?」

「あ、いえ。そういう訳では…」

すると「そっか。また誘っても、迷惑じゃないかな?」と目を真っ直ぐに見つめられた。

日々努力を重ね、少しずつ成果を積んで自信を身につけた男の目は、どうしてこうも透き通っていて力強いのだろう。

そんな目で見つめられて、思わずドキッとしてしまう。

「はい、迷惑とかでは全然…」

「よかった。また誘うよ」

飯田さんはそう言うと、すぐにタクシーを拾ってくれ、いつの間にか運転手に1万円を預けていた。そのスマートな対応に、感心さえ覚える。

けれど、私の心の中を支配しているのは晴人だった。

ー二人はあれからどうなったんだろう…?

私を好きだと言った彼に嘘はなかったはず。それなのに、電話一本で彼女の元へと駆けつけてしまった晴人。

一体二人の間にはどんな絆があるの…?

無性にLINEを送りたい衝動に駆られるも、怖くて結局辞めてしまった。



翌朝、スマホの目覚ましを止めながら画面を確認すると、晴人からLINEがきている。

『昨日はごめん。今日、もう一度会えないですか?少しでもいいので』

『気にしなくて大丈夫だよ。分かった、夜9時以降なら』

全く大丈夫なんかじゃない。本当は気になって仕方がない。

でも、付き合っている訳でもない年上の女が、みっともなく全てを正直に言えるわけもない。

これはプライドなのか、それとも私の中の勝手な“年上の女”像なのか…?

そういえば、智也と付き合っている時でさえ、素直に甘えることができなかった。これはもう、性格なのだろう。

ー私って、なんて厄介なんだろう…

そう苦笑いしながらも、朝から入念にフェイスパックをして、晴人に合わせた少々カジュアルだが若過ぎない服装を、必死で選ぶのだった。


▶︎NEXT:9月22日 日曜更新予定
晴人と濱野舞の仲を疑い始めてしまった泉。彼らの関係は予想外に捻れていき…


▶明日9月16日(月)は、人気連載『立場逆転』

〜高校卒業後15年。再会した2人の人生は180度違うものとなっていた…。女のプライドをかけた因縁のバトル、続きは明日の連載をお楽しみに!



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