「あなたが選ばれる訳ない」ライバル女に仄めかされた後に知る、採用面接の意外な結末

「あなたが選ばれる訳ない」ライバル女に仄めかされた後に知る、採用面接の意外な結末

ワーキングマザー。

それは働きながらも子育てをする母親の総称。

独身を謳歌するバリキャリ女子でもなければ、家で夫を待つ専業主婦でもない。

“母親”としてだけでなく、1人の働く女性としてキャリアを積みたい、と願う女性たちのことである。

だがそんな彼女たちに待ち受けるのは、試練ばかり。

青山の専門商社で働く翠(28)は5年間営業として働いた後、産休育休を取得し息子・颯太を出産、晴れてワーキングマザーとなった。

同期の凛から喧嘩を売られ社内で対立しながら、同期の健太からフォローされ、仕事に対するやる気を取り戻す。

そんな中、上司から告げられた人事考課で給与が下がってしまい、キャリアアップの難しさを痛感する翠だったが、先輩ママの絵里に新規プロジェクトの社内公募に応募することを薦められ、応募を決意したのだった。



翠は会社の化粧室で大きな深呼吸をして、鏡に映る自分と静かに向き合った。

ラインが綺麗で気に入っているブラックスーツは昨夜丁寧にアイロンをかけ、髪はきっちりとブローした。腕時計に目をやり、面接開始まであと10分であることを確認する。

このあと14時から、新規プロジェクトのメンバーを決める事業部長との面接がある。他の応募者もいる集団面接になると聞かされているが、選ばれるのが何人になるのかはわからない。

―ありのままの自分で勝負しよう。結婚して子どもがいることや、時短勤務であることも含めて、私らしさだから。

今回のプロジェクト応募を大樹に相談したところ、大樹は翠を後押ししてくれた。やりたいことを我慢するより挑戦していった方がいい、と言ってくれたのだ。

また上司である上田課長にも話をすると、こちらから応募を止めることはできないという答えだった。翠が異動することになれば、その欠員は他部署から補充されることになるらしい。

緊張を胸に、面接会場である8階の会議室に向かった。そしてそこに集まっている応募者の顔ぶれを見て、翠は思わず声を上げた。


そこにいた応募者とは?そしていよいよ面接がスタートする!

「びっくり、翠も応募してたなんて」

そう鼻で笑うようにして囁いたのは、さっきまで同じフロアにいた凛だった。彼女もこのプロジェクトの応募者だったのだ。確かにいつもより心なしかメイクが濃いような気はしていたが、夜にデートでも行くのだろうぐらいにしか思っていなかった。

「凛だって。てっきり興味ないのかと・・・」

ふん、と笑い飛ばしてから、これ以上話すことはないという風に凛は背を向けた。

―凛はきっと、私が選ばれるわけないと思ってる。子持ちの時短勤務でキャリアを積めるわけがない、そう言いたいんだ。

「応募者の皆さん、席の前で並んでください。江崎事業部長がいらっしゃいますので」

人事担当者がそう声をかけると、緊張の糸がピンと張り会議室の空気が引き締まった。翠たちで最後のプロジェクト面接になると、担当者は説明した。

江崎事業部長、その名前は社内の誰もが知っていた。次期社長という呼び声も高い、実質的に会社の権力を握る男だ。翠は彼とすれ違ったことがある程度で、会話をしたこともおろか顔さえ覚えられていないだろう。ただそのドラスティックな手腕は社内で有名なものだった。

静寂の中、ガチャッと勢いよくドアが開いた。50代前半の恰幅のいい男、事業部長が現れた。



「お疲れさまです!」

一列に並んだ応募者全員がそう声を上げて深々と頭を下げ、翠も慌ててそれに従った。ゆっくりと顔を上げると、事業部長はニコニコとした表情で席につこうとしていた。しかしよく見ると目元に穏やかさはなく、鋭い眼光がこちらを見返していた。

「はい、お疲れさま。みんなもう座っていいよ。じゃあさっそくだけど、順番に今までのキャリアを説明してくれる?」

迫力のある声で彼がそう切り出すと、となりに座る人事担当者が「ではこちらの端から、秋山凛さんお願いします」と付け加えた。

「はい」

凛がすぐに立ち上がった。

「国内営業部の営業2チーム、秋山凛と申します。入社10年目で、今までは専門店様から大手量販店様まで幅広く営業担当をしておりました。ここ3年間は、毎年担当売上を達成しています。チームの中でもイニシアチブを取っておりますので、これからも営業の第一線として活躍していきたいと思っております」

「君の名前は聞いたことがあるよ。かなり積極的に営業をかけていくスタイルらしいね」

「はい、ありがとうございます」

凛がキリッとした笑顔でそう答えると、人事担当者の手が翠の方に向いた。

「はい、では次に桐本翠さんどうぞ」


翠のターンがはじまる。そして事業部長の反応は・・・?

「同じく国内営業部の営業2チーム、桐本翠と申します。私は入社から5年間、百貨店様の営業担当をしておりました。そのあと、産休育休をいただきまして、現在3歳の息子がおります。今は時短勤務で事務が中心ですが、お客様のニーズに応えるという意味では、フルタイムでも時短でも関係ないと思っています。新しいことに挑戦していきたいです」

「桐本さんはプロジェクトに入ったら、自信のある企画が出せるの?」

思いがけない彼の質問に翠は言葉を詰まらせたが、次の瞬間にはしっかりと彼の視線を捕らえていた。

「はい。今の時代、商品が女性にヒットするかどうかはとても重要になってきていると思います。子どもを持つ母親としての考え方も活かせれば、より女性のニーズに合った企画展開ができると思います」

それを聞いた事業部長は険しい表情でゆっくりと頷いただけだった。早々と次の応募者へと順番が回り、その後いくつかの質問に答えて面接は終了した。

緊張から解き放たれると全身から力が抜けて、フロアに戻った翠は思わず給湯室の壁に持たれかかった。

―とりあえず、今できることはすべてやりきった。あとは結果を待つだけだ。

そう思いながら翠がコーヒーを淹れて休憩していると、明るい表情の凛が通りすがりに現れた。



「お疲れさま、翠。私、面接のあとすぐに人事から電話がかかってきたの。プロジェクトのメンバーに選ばれちゃった!」

翠の返事も待たずに、凛は踊りだしそうな様子で去っていった。翠が選ばれてないことなんて聞かなくてもわかっている、ということだろう。

―そんなに早く電話が? やっぱり時短勤務の私が選ばれるわけないのか・・・。

自信を失くしかけた、そのときだった。カップの横に置いていたiPhoneがプルルル、と鳴り出した。見るとそこには人事担当者の名前が表示されていた。急速に胸の鼓動が早くなっていく。

「はい、桐本です」

「桐本さん、先ほどはお疲れさまでした。さっそくですが、江崎事業部長より、プロジェクトのメンバーとして迎え入れたいというお話がありました」

「え!? 私がですか? 本当なんですか?」

喜びのあまりiPhoneを落としそうになった翠と相反して、担当者は慎重な声で話を続けた。

「ただ、ひとつ懸念事項がありまして・・・」

その声に翠の浮かれた気持ちは一瞬にして打ち消され、ただ身を硬くして言葉を待つしかなかった。


▶Next:9月25日 水曜更新予定
ついに新プロジェクトがスタートする! 翠が聞かされた懸念事項とは一体?



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