「運命の再会を果たしたの…」夜10時。夫と子どもが待つ家には帰らず、妻が居た場所とは

「運命の再会を果たしたの…」夜10時。夫と子どもが待つ家には帰らず、妻が居た場所とは

女は、仮面を被った生き物だ。

優しい微笑みの裏に、怒りや悲しみ、ときに秘密を隠し、本当の自分を偽りながら暮らしていく。

たとえば聖女のような女にだって、裏があるかもしれない。

それを美しい仮面で覆い隠しながら、生きているのだ。


◆これまでのあらすじ

恵子が高校生の頃、聖陽女学院で、ある一人の女生徒が、理由もわからず突然転校していった。

あれから10年。27歳となった恵子たちの前に、美しく姿を変えて現れた絹香。恵子は彼女から、「自分を高校から追い出した犯人を捜している」と打ち明けられる。

その頃、萌が行方不明になったと連絡を受けて…?



「萌が、行方不明になっている」。

さくらから連絡を受けた恵子は、自宅からほど近い手嶋の家へと急いで向かっていた。

―まさか、萌は手嶋君の家に行ったんじゃ…?

時計はすでに22時を回り、萌が恵子の家を後にしてから、もう何時間も経っている。

萌は、近所で用事があるとはいっていたものの、手嶋の家に行っているとは限らない。

しかし、しきりに手嶋と絹香を引き離そうと話していた異常な様子からして、その可能性が高いのではないかと、恵子は思ったのだ。

恵子が十字路に差し掛かったちょうどそのとき、金切り声が夜道に響き渡った。

「もう、邪魔しないでっ!」

急いで恵子が駆けつけると、そこには息を荒げる萌と絹香、そして、二人の間で顔面蒼白になっている手嶋の姿があったのだった。

「ちょ、ちょっと萌、落ち着いて!」

今にも絹香につかみかかろうとしている萌を、恵子は急いで引き離そうとするが、その勢いは止まらない。

「恵子には関係ない!これは、私とこの女の問題なの!部外者は口出ししないで!

絹香、あんたはまた私の邪魔するのね。…許さないから!」

そう叫ぶと同時に、萌は手を大きく上げ、絹香に向かって振り下ろす。

「お、おい!やめろ!」

手嶋は、必死に絹香をかばおうとするが間に合わず、乾いた音と共に、絹香の頬は紅く染まった。

「萌っ、何するの!絹香大丈夫?」

恵子は、慌てて絹香の顔を覗き込む。だが、その表情を見てはっとした。

平手打ちされたことに対しての恐怖など、その瞳の奥には存在していなかったからだ。

ただ突き刺すような冷たい視線を萌に向けながら、絹香ははっきりと告げたのだ。

「萌、いいかげんにして。部外者は、あなたよ。」


部外者呼ばわりされた、萌の狂気とは…?

「はぁ?意味わかんないし!」

「うるさい!こんな時間に大声出すなんて、恥を知りなさい!」

夜道で騒ぎ続ける萌に、絹香がぴしゃりと言い放つ。

ひるんだ萌が、もごもごと小声になった隙に、絹香は手嶋に問いかけた。

「ねえ。あなたと萌の間に、何があったの?あなたの口から説明してください。」

手嶋は小さく頷くと、萌と恵子の方をちらちらと見やりながら、小声で話し始めた。

「黙っていて、悪かった。実は学生の頃、萌…、萌さんと付き合ってた。絹香と付き合ってしばらくしてから、二人が親しかったことに気付いたんだけど…。なかなか言い出すタイミングがなかった。」

「そう。つまり、大昔の元カノ、ただそれだけの関係ってことね?」

絹香の問いかけに、手嶋は深く頷くと、申し訳なかったと再び謝罪した。

その様子を見ていた萌は、恨みと驚きがこもった目で、手嶋に詰め寄る。

「ちょっと待って!去年再会した時、運命の人だって言ってくれたじゃない?…私、ずっと迎えに来てくれるの待ってたのに、やっぱり浮気してたのね!」



「浮気って…一体何のことだよ。そもそも、君と僕には何の関係もない。それに再会っていっても、君が僕の会社に突然来ただけだろ!…絹香、後でゆっくり説明させてくれ。」

慌てて弁明する手嶋に、絹香は呆れたようにため息をつく。そして、睨みつける萌に向かって、諭すように話し始めた。

「ねえ萌、あなた自分が既婚者だと分かった上で、言ってるのよね?」

「そんなこと関係ない。私と彼は、1年前に運命の再会を果たしたんだから!」

まさかの返答に呆然とする3人を尻目に、萌は、うっとりとした目で熱っぽく語り始めた。

「雨に打たれて、偶然迷い込んだビルが彼の会社だったなんて、信じられる?これって運命だねって私が言ったら、手嶋君だって同意してくれたよね。

なのに全然会えないし、会社宛に送ったメッセージに返事もくれないから…。そんな時に絹香と結婚するなんて聞いたから、びっくりして確かめにきたの。ねえ、結婚するなんて、そんなの嘘だよね?」

同意したの?と聞く絹香に、手嶋は訳の分からない様子で、首を横に振って答える。その表情からは、萌に対する恐怖のようなものが滲んで見えた。

「私はね、手嶋君とならもっと幸せになれる自信がある。運命の人と一緒になって、娘のレナと3人で、この家で暮らしたい、ただそれだけなのよ!」


自分勝手な言い分を繰り広げる萌。それに対して絹香は…?

「萌の言いたいことはわかったから、情報を整理させて。恵子、申し訳ないけれど立ち会ってくれる?すぐに終わらせるから。」

絹香の声は、謎の三角関係に巻き込まれているとは思えないほど冷静だ。

海外で弁護士のキャリアを歩んでいた彼女にとっては、この空気感は慣れっこなのかもしれない。

恵子は、うっとりと手嶋を見つめている萌と、その視線に怯えている手嶋の顔の間に挟まれながら、小さく頷いた。

「念のため、録音するわね。じゃあまず、昔、萌と手嶋君は付き合っていた。それについては間違いないわね?恵子も知ってたの?」

「さっきからそういってるじゃない。高校2年の夏から大学2年までの4年間を、彼と私は一緒に過ごしたの!」

喧嘩腰の萌が口を閉じるのを待って、恵子と手嶋がほぼ同時に返事をする。

「全員イエスね。…そして、別れてから会っていなかった二人は、1年前に”運命の再会”とやらを果たした。…大学2年からだから、約6年ぶりにお互い顔を見たということで合っているかしら?」

手嶋が「はい」と即答すると、萌も「まあね、だからこそ運命の再会なのよ!」と続いた。

「ここからが肝心なんだけど…1年前の再会から、二人には男女の関係、つまり不貞行為にあたるような事はあったの?なかったの?」



「そんなもの、あるわけない。そもそも会社に突然現れて以来、会ってすらないんだから。

そもそもメールアドレスを教えてないけど、会社の問合せフォームに差出人不明のメッセージが何通も送られているとは報告はあった。もしかしたら、それのことなのかな。

…絹香との結婚準備も進んでいたし、大事にしたくなかっただけなのに、こんなことになるなんて。」

心底後悔をしているのか、手嶋の口調は重く苦々しい。

萌は、運命の相手と信じた男の言葉がにわかには信じがたいのか、ショックを受けているようだ。

「…肉体関係がなくたって、私たちは運命の赤い糸で繋がっているんじゃないの?」

萌の大きな目には、溢れんばかりの涙が浮かんでいる。

恵子の脳裏には、大学2年生の時に萌が手嶋に振られたときの光景が、フラッシュバックしていた。

「いい加減にしてくれ!そんな訳ないだろ!」
「だ、だって、あの時頷いてくれたじゃない…!ひどいよ…」

「二人とも、落ち着いて。…不貞行為がなかったのなら、私はこれ以上この話を続けるつもりはありません。ただ、萌が続けたいというのなら、あなたの旦那様も入れて話しましょう。…どうする?」

涙をこらえ黙り込む萌に、絹香は淡々と話し続けた。

「…萌、とにかく今は、家にすぐ帰った方がいいわ。そして旦那様にひたすら謝りなさい。…そうだ。渋谷かどこかで、私と話し込んでしまってたことにしたらいいわ。

友人として言わせてもらうけど、いい加減大人になりなさい。同じ過ちを、何度も繰り返しちゃだめよ。…言っている意味、あなたならわかるでしょ?」


絹香だけが知る、萌の過去とは…?

「萌、ちゃんと帰れたかな。さっき、さくらから旦那さんに伝えてもらったから、夫婦で連絡取れてるといいけど」

恵子は、再度LINEを確認する。さくらからは、萌の夫に伝えたという報告のあと、事の顛末を細かく聞きたいという旨のメッセージが届いていた。

「タクシーに行先も伝えたし、子供じゃないんだから大丈夫。…恵子こそ、こんな遅くまで付き合わせちゃってごめんなさいね。でもきちんと、説明したくって。」

騒動の後、恵子は絹香に誘われて、手嶋家を訪れていた。

この家に来るのは、実は初めてではない。

前回の訪問からずいぶん経ちあまり覚えていないが、両親同士が知り合いのため、食事会か何かに恵子も同行したような気がする。

手嶋は二人を応接室に通すと、絹香に何かを耳打ちしてから、静かに部屋を出ていった。

「彼の両親、旅行中で不在なの。大切な跡取り息子がトラブルに巻き込まれているなんて分かったら、狂ったように心配するでしょうから、ちょうどよかったわ。

今日はここで、二人で結婚式の打ち合わせをしていたんだけど、決めることが山積みで遅くなっちゃって…。ようやく帰ろうとしたときに、待ちぶせていた萌と鉢合わせしたってわけ。」

まるで世間話でもするように、絹香はすらすらと事の経緯を説明する。

「そうだったんだ…。私、今日、萌と夕方まで一緒にいたのよ。…手嶋君は浮気性だから、絹香が心配だっていってた。絹香の幸せのためには、その、別れさせた方がいいって。」



恵子は、萌から聞いた話を正直に絹香に伝えた。もちろん、先ほどの萌の様子から嘘である可能性が濃厚だとはわかっているが、念のためだ。

「アハハ!ほんと昔から変わってないのね。別れた彼氏が浮気性だったエピソード、あの頃も何度も聞いたわ。

自分勝手で、高すぎる理想を押し付けた挙句振られるくせに、自分を正当化して、原因は相手のせいだと思い込もうとする。それが彼女の中で真実に変わってしまうのよ。夢見がちもあそこまでいくと、もう病気だわ。

今の旦那様がどんな方なのか存じ上げないけど、1年前に別れ話でも切り出されたんじゃない?それで、手嶋君のことを思い出して、偶然を装って会いに行った。どうせそんなところよ。」

―そうだったんだ…。私、萌の事全然知らなかった。

恵子の記憶では、萌は、歴代の彼氏たちに溺愛されていた。確かに彼氏変更のスパンは早かったけれど、てっきり萌が飽きて振っているのだと思い込んでいた。

「でも、萌はやっぱり私を恨んでたのね。“また私を邪魔するの”って言われた瞬間、ハッとしたわ。…やっぱり、例の嘘をついた犯人も、萌だったのかな。」

顎に手を置いたまま、絹香は俯き黙り込んだ。

「恨むって…。絹香、何か心当たりがあるの?高1の冬に揉めたって言ってたけど、もしかしてそのことなの?」

しばらくの沈黙の後、恵子に隠し事はできないわ、と絹香が口を開いた。

「高校1年の冬、萌は、当時の彼氏と家出したのよ。…その時、連れ戻そうとするご両親に居場所を教えたのは、みなみと私だったの。」


▶NEXT:9月26日 木曜更新予定
恵子だけが知らない過去があった。みなみは恵子に何を語るのか…?


▶明日9月20日(金)は、人気連載『呪われた家』

幸せな結婚生活を思い浮かべていた新妻。その儚い幻想が、見事に打ち砕かれたら?沙織(26)は、“家”を巡る恐怖の呪縛に追い詰められていく…。続きは、明日の連載をお楽しみに!



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