「ごめん、君の財産目当てで近づいた」夫からの衝撃の告白に、資産家の妻がとった行動とは

「ごめん、君の財産目当てで近づいた」夫からの衝撃の告白に、資産家の妻がとった行動とは

騙されたのは女か、それとも男か?
「恋」に落ちたのか、それとも「罠」にはまったのか?

資産200億の“恋を知らない資産家の令嬢”と、それまでに10億を奪いながらも“一度も訴えられたことがない、詐欺師の男”。

そんな二人が出会い、動き出した運命の歯車。

200億を賭けて、男と女の欲望がむき出しになるマネーゲームはやがて、日本有数の大企業を揺るがす、大スキャンダルへと発展していく。

詐欺師の罠をかわしたかに見えた智だったが、夫が自分を裏切っていたことを知り心に隙が出来てしまう。そして仕事の大舞台でのトラブルを詐欺師に救われた智は、ついに男に心を許してしまう。そして、夫との話し合いが始まるが…。


「“ご主人はあなたを裏切っています”っていうあのメールね…実は、私の方でも調べたの」

家族3人で、夫の大輝が作ってくれた昼食を食べたあと。娘の愛香が、少し遅いお昼寝をした、午後2時。

私たちはリビングで2人きりになり、私は回りくどい言葉を排除して、そう言った。夫に任せたはずなのに、自分でも調べてしまったことをまずは謝る。

夫は、あまり驚いたようには見えず、その表情が読めず戸惑っていた私に言った。

「…やっぱり。でも智が謝る必要はない。俺が悪いんだから」

―俺が、悪い?

黙ったまま彼の顔をジッと見つめていた私に大輝は、いや、と笑った。

「俺の方でも調べたんだけど、発信者は分からなかったよ。智の方では分かった?」

―何で、こんなに…落ち着いてるの…?

まるで他人事のような、呑気な大輝の口調に、焦りなのか苛立ちなのか…複雑な感情が込み上げる。彼が調べてくれる、と言っていたのに、その結果を待たず自分で動いてしまったことへの罪悪感が消え、言葉が強くなった。

「調べたけど、誰から送られてきたのかは分からなかったわ。所有者不明の携帯からだった」

「…そっか…でも智のことだから…調べたのは、発信者だけじゃないよね。智なら、徹底的に調べる。内容についても、ね」

大輝の声は、静かだった。笑っているようにすら見えるその顔に、相変わらず、動揺は探せない。

「当然、裏切ってるかもしれない夫…俺のことも調べ上げたよね?何が分かった?」


ついに、腹を割って話し始めた夫婦。そして夫が、思いもよらぬ告白を!

「…あなたが…実はとても、女性慣れした人だった、ということ。そして、なぜか父に奨学金を返済してもらっていたってこと」

冷めた声が出た。こんな言い方がしたいわけじゃないのに。感情に言葉が追いつかない。

「やっぱり…全部、バレたか。智の探偵さん、優秀だもんな。俺のウソくらい、簡単だよな。そっか…」

調査で既に分かっていたこと。一度気持ちを整理して、今、大輝と向かい合う覚悟を決めたはずなのに。またもショックを受けている自分に驚く。

どこからどこまでがウソだったのか。何のためにウソをついたのか。聞かなければならないこと、聞きたいことが、言葉にならない。

すると、そんな私をまるで気遣っているようなタイミングで、大輝が言葉を発した。

「もう俺のことなんて、信じられないと思ってるかもしれないけど…。これから言うことには一切ウソはないから、説明させて欲しい。…話してもいい?」



私が何とか頷くと、大輝は、フゥッと小さな息を吐き出してから、続けた。

「まず、本当にごめん。俺は、智からこのメールを見せられた時、俺が調べると言ったのは、…智に調べられるのを避けたかったからだ。俺の秘密を知るだれかがいて、そのだれかが智に密告した。そのことを、智に深掘りされたくなかった。

でも、発信者は分からなかった。正直、違法スレスレって方法も使ったのに、分からなかったんだよ。その上、優秀な智の探偵さんでもダメだったってことは…発信者は…相当慎重で…ガードが硬い相手だね。

密告者を特定できなかったことで、俺は、どんどん怖くなった。智の前でこの話題を出すことが、ね。

俺の報告が遅れれば、自分で調べ始めるだろうとか、いや、もう別ルートで調べたかも知れないって分かっていたのに、この話題を智の前で出すことが…とにかく、怖かった。ただ、避けたんだ。

私をちらりと見て、力なく笑った大輝に、答える言葉は見つからない。

「で、俺の過去について、だけど」

大輝は、今度はフウッと大きく息を吐き出し、覚悟を決めたように言った。

「…確かに、智と出会って、俺は…女の子たちと遊んできた自分を封印した。智に好きになってもらえそうな、誠実な男になる必要があったから」

―必要が、あった?

「智は、俺と付き合い始めた時に、自分が兼六堂の娘であることを告白してくれただろう?でも俺は、智が兼六堂のお嬢様だってことを知ってた。だから、智を落としたい、手に入れたいって思った」

「…それは…」

絞り出した声が続かない。声にならなかった、その私の問いを読んだかのように、大輝が答える。

「言い訳のしようもないね。俺は智が兼六堂のお嬢さんだから、近づいたんだ。恋を仕掛けたんだよ」

―大輝は、私に…恋してくれたわけじゃなかった。

恐ろしく残酷な言葉が、誰より信頼していた人の口から紡がれたことに、現実味がない。

だけど、そのことがなぜか私に妙な落ち着きを取り戻させた。感情が一気に熱を失い、麻痺していく。

気がついた時には、私はまるで仕事の交渉のように、淡々と喋り始めていた。

「…つまりこういうこと?大輝は私の肩書きと財産目当てで近づいた。そして好きでもない女と結婚することを目的として、過去の自分を消し、私が好みそうな男を演じて、まんまと恋愛経験の無い私を騙しきって、結婚することに成功した」

「…言葉に並べると、俺、最低な男だな」

そう言った大輝が、苦しそうな顔をしていることに腹が立つ。裏切られたのはあなたじゃなくて私なのに。そう言いたい気持ちを抑えて私は続けた。


夫の告白に傷つく智。お互いに想っていてもすれ違う心…。

「どうやって、知ったの?私が、社長の娘だって」

「…それは…たまたま、というか…」

歯切れが悪くなった大輝とは逆に、私は饒舌になる。

「たまたま、なんてことがあるわけはない。私の秘密は完璧に守られていて、つい最近公表されるまで、社内でも知っている人は、父の側近だけ。一社員に過ぎないあなたが、たまたま気がつくなんてありえない。誰かが…リークしなければ」

「…リークなんてことはない」

今度は、大輝はそう断言した。目は弱い光しか放てていないけれど、それでもまっすぐと、こちらを見ている。

「じゃあ、別の質問。あなたが私の父に奨学金を返済してもらった理由を教えて。しかも、私と付き合う前に返済してもらってる、という調査報告がきたのよ」

「それは…智と俺とのこととは関係ない」

―そんなわけ、ない。あの父に限って、そんなことはありえない。

「大輝が答えてくれないなら…私の仮説を言うわね。あなたと父は、私とあなたが出会う前から繋がっていた。今思えば、私達が出会うきっかけになった社内研修も父の根回しだったのかな。

父は、奨学金の返済と…もしかしたら他にも何かあなたに得になる条件を提示して、私に近づくように言った。

父の目的はさっぱり見えないけど、私が結婚を決めたらもっとお礼を払う、とでも言われたかもしれない。とにかく、あなたと父はお互いなんらかの利害関係で結ばれていた。それを知らずに間抜けにも、私は意気揚々と父に結婚の報告をした」

一気に言い切ると、沈黙が流れた。

さっきまで明るかったはずのリビングに、曇り空のせいか影が落ちて、対面の大輝の顔がよく見えない。そういえば今日は夕方から雨だと言っていたなと、どうでもいいことが頭をよぎった時、声がした。

「お義父さんは、本当は…智が思ってるような人じゃないんじゃないかな」

今聞きたいのは父のことなんかじゃない。それなのに、大輝は酷く優しい口調で続けた。

「俺が智に、不純な気持ちで近づいてウソの自分を演じて、恋に落ちたふりをして。結婚までこぎつけたのは事実だけど、でも…。

最初は、ゲームみたいに落としてやる、って対象でしかなかった智のこと、俺本当に、ほんとに大事にしたいって思うようになったんだ。



誰より真面目で不器用な智を守りたい、守るんだって。結婚して、日々が過ぎてく中で、どんどん思うようになった。

ほんとに、心の底から愛おしくなったし、愛香が生まれてからは尚更…幸せの分だけ、怖かった。俺がついたウソとか、隠してきたことが、いつか智にバレたら…バレて、2人との生活を失うことが本当に怖かった。

だから、ちょっと変だけど、今俺、少しホッとしてたりもするんだ。バレたことにね。

こんなこと言える立場じゃないの、わかってるけど…智、お願いだ。俺から離れないでほしい。智を失いたくない。許されるとは思えないけど…」

そう言って自虐的に笑った大輝の顔が、まるで知らない人のようで戸惑っていると、私の視線から逃げるように俯き、黙ってしまった。こんな大輝は見たことがない。

まだまだ自分の知らない彼がいるのかもしれないと思うと、とてもやるせないけれど、俯いたままの彼に、私は語りかける。

「…私もね」

私が話すといつも、どんな話でも、まっすぐに目を見つめてくれた大輝が、顔を上げられずにいる。

「私は、家族の幸せ、と言う言葉がよくわからずに育ってきたけれど、大輝と結婚してから、多分、こういうことを言うのかなって思うようになった。誰よりあなたを信用してたし、愛香と3人の生活は穏やかで心地よかった。

だから、裏切ってる、ってメールが来た時でさえ、それを調べることにすら罪悪感があった。

私が想像していたあなたじゃなかったって分かって、もちろんショックだったけど、それでもウソの理由をあなたから聞けば、きっと理解できるはずだって思い直していたんだけど」

「…過去形、なんだな。全部」


離婚はしたくない…でも。揺れる妻の思いと、詐欺師の新たな計画。

大輝に、ぼそりと呟かれて、私は自分が過去形で話していたことに初めて気がついた。なぜか、グッと胸が詰まったけれど、その痛みに気がつかないふりをして言い切った。

「あなたの過去の女性関係が派手だったとか、そういうことはいいの。でも…受け入れられるか…わからないのは、私を好きになってくれたと思ってたあなたが、そうじゃなかったこと。肩書き目当てだったと言われてしまったことが辛い。どうしても、辛い」

大輝は誰より、分かってくれている。そう信じていた。

私が父の影に怯え、家や会社から離れた場所で自分を評価してほしいと、私なりに必死だったことを。肩書きや財産目当てで寄ってくるひとたちに騙されぬよう、幼い頃から続けた鍛錬も。

「…ごめん」

もう、その呟きを責める気はなかった。

「でも、俺に、もう一度チャンスをくれないか」

私だって、この家族を失いたくない。だから、精一杯の笑顔を作って言った。

「少し、時間をください。私なりに、消化する時間を」

大輝が静かに席を立ってくれたことに、感謝した。そうでなければ、きっと私が逃げ出していただろうから。



虎ノ門:田川法律事務所 代表室


「言われた通り…お父様の方には、娘さんの相談にうちの小川がのるみたいです、って軽く根回ししといたけどさ。大丈夫なわけ?」

マサ…こと田川正義(たがわ・まさよし)は、代表室…つまり自分の部屋を、我がもの顔で使いまわしている小川親太郎に向かって棘のある口調でそう言った。

「大丈夫って、何が?」

来客用のテーブルに山積みにした資料に没頭し、顔すら上げずにそう答えた親太郎に向かって、マサがため息をつき、その正面に座り込む。

「何がって、神崎社長を巻き込んじゃったことよ。普段の親ちゃんのやり方ならさ、女性だけじゃん、騙すの。なのに、今回あんな経済界の大物まで、間接的にだとしても騙そうとしてるわけでしょ。うわあ、スリリングー」

わざとらしく身震いし、ふざけた声をあげたマサに、ようやく親太郎が顔をあげる。そのタイミングで、マサは買ってきたコーヒーを親太郎に差し出した。

親太郎は、サンキュと短く答えて受け取っただけで、マサの質問には答えない。だがその表情は、マサに嫌な予感を抱かせた。

「…もしかして、ワクワクしちゃってる?この状況に?」

軽い調子が売り物のマサが、珍しく、本当に心配そうに尋ねたことがおかしかったのか、親太郎は笑い声を上げてから言った。

「さすが、よくわかるな。そう、ワクワクしてるよ、俺。神崎社長にパーティで自己紹介しちゃったし、もう逃げられないからね」

「…まさか、わざと自分で逃げ場を失くしてってるの?何で?いつもの方法でやればいいじゃん。女の子たちをうっとり、メロメロにさせて、貢いでもらうパターンじゃだめなわけ?お嬢様はまだしも、神崎社長がどんだけ切れ者か、わかるでしょ?危険でしょ?」

口調はふざけてるのに、シリアスなテンションでそう言ったマサに、大丈夫、お前に迷惑はかけないようにするから、と答えて、親太郎は続けた。


5億円。詐欺師が示した投資先に、智の興味はそそられ…詐欺師は新たな提案を。

「神崎智は、今までの女性たちとは違う。彼女が求めてるものは、見かけのいい男との恋、なんて単純なものじゃない。今までのやり方じゃ無理だから、多少の危険は仕方ない。ま、でも女性の心の隙間を満たしてあげるってとこは変わらないから」

安心しろよ、とふざける親太郎に、マサが苛立ちを滲ませ聞いた。

「なんだよ、彼女が求めてるものって?」

「まあ、一言で言うと…自己肯定、ってやつ。だから、お父さまにも登場してもらうしかないんだよ」

「は?」

「最後の女、だからね。リスクがあればあるほど、燃える」

そう言って微笑んだ親太郎は、その顔など見飽きたはずのマサの目にも美しかったが、どこか危うくも見えて…マサは妙な胸騒ぎを覚えながらも、それを言葉にすることはできなかった。





私が夫と話をした、3日後。

私は小川さんから連絡をもらい、会社で会うことになった。

ミーティングルームで彼を待ちながら、どうしても夫のことを考えてしまう。

あれから夫と私は、娘の愛香を間に挟むことで、かろうじて共に暮らせているという感じだった。会話も最小限で、どうすれば自分の中のモヤを払拭できて、関係を修復できるのかわかない。

夫に何を頼んでいたのか。なぜ奨学金を肩代わりしたのか。父に問い詰めることもできていない。避けられているのか、父にアポをとろうとしても、断られてばかりなのだ。

コン、コン。

ノックの音に、慌てて気持ちを切り替え返事をすると、小川さんが入ってきた。

「ものすごい荷物ですね」

私が思わずそう言うと、小川さんは、穏やかにほほえんで、手にしていた4つの紙袋をテーブルの上に置いた。それぞれパンパンに、ファイリングされた書類が詰まっている。

「データ化されていない資料もあって。神崎さんは、全部ご覧になりたいだろうなと思ったので」

そう言って見せてくれたのは、アフリカや東南アジアに対して、医療や農業の支援、民間投資を行う団体の資料だった。

団体数は10程だろうか。分かりやすくファイリングされ、計画や実績、そして予算などが細かく書き込まれていた。

しばらく黙って読み進め、気になることがあると質問する、ということを繰り返していると、ふと、ある団体が気になった。

「ここは…代表が女性ね。」

「ああ、そうですね。ここは、活動歴は比較的短い団体ですが、元々はアフリカの国々に教育と医療の事業を展開する企業が作った財団で、主にアフリカの若手起業家へ投資を続けているところだったと記憶しています」

「毎年500万ドル以上…」

今のレートなら、約5億5千万円くらいか。資料には、この財団は毎年その額を起業家の支援に活用していると書かれている。

「神崎さんが元々希望されていたボランティア団体ではありませんし、女性だけを支援する団体でもありませんが、この財団は、企業を作ることで雇用を増やすことを目的にしていて、その結果、女性の雇用にも随分貢献しているようです。これが、その実績です」

実績は、読み応えのあるものだった。

現地の女性たちが民族衣装に使う鮮やかな布を使って、世界のアパレルブランドとのコラボレーションを実現させる企業や、何時間も歩いて学校に行く子供達のために、安価な自転車を普及させる企業、さらには女性に性教育を教える民間の学校を作る企業もあった。

「この財団は、知名度が高いわけではありませんが、だからこそ支援が本当に必要な人の所に届いている、実のある財団だと思います。えっと…これが、支援を受けた企業のレポートですね」

そこには、支援を受けたスタートアップ企業の紹介、働く人々の写真などが載っていて、そのハツラツとした笑顔がまぶしく、私は沈んでいた気持ちが少し晴れやかに、救われて行く気がした。

「この企業が、一番気になります。資料をもう少し読み込みたいので、お借りしてもいいですか?」

小川さんは、もちろんです、と頷き、ほかの資料を片付け始めたが、その手をふと止めて言った。

「もし神崎さんが、現地に行って実際に活動をご覧になりたいのであれば、いつでも手配しますので」


▶NEXT:9月22日 日曜更新予定
リスクを背負う覚悟を決め、攻める詐欺師。そして夫との関係修復に悩む智は…。


▶明日9月16日(月)は、人気連載『立場逆転』

〜高校卒業後15年。再会した2人の人生は180度違うものとなっていた…。女のプライドをかけた因縁のバトル、続きは明日の連載をお楽しみに!



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