男性と写った1枚の写真がキッカケで、追い込まれた女。彼女が、友人に頼んだこととは

男性と写った1枚の写真がキッカケで、追い込まれた女。彼女が、友人に頼んだこととは

女は、仮面を被った生き物だ。

優しい微笑みの裏に、怒りや悲しみ、ときに秘密を隠し、本当の自分を偽りながら暮らしていく。

たとえば聖女のような女にだって、裏があるかもしれない。

それを美しい仮面で覆い隠しながら、生きているのだ。


◆これまでのあらすじ

恵子が高校生の頃、聖陽女学院で、ある一人の女生徒が、理由もわからず突然転校していった。

あれから10年。27歳となった恵子たちの前に、美しく姿を変えて現れた絹香。

恵子は、絹香を学校から追い出した犯人を探るうちに、絹香の不思議な行動に巻き込まれていく。

そしてとうとう仮面を剥いだ絹香が語りはじめた、あの時の真相とは?



美しき仮面を脱いだ、絹香の狙い


「自分の顔が嫌いだったから、整形したの。」

私がそう告げた時、目の前にいる恵子は、わずかに眉をひそめた。

いつも自信なさげに薄ら笑いを浮かべるだけの彼女が、こんな表情をするのは珍しい。

だが、10年前まで瓜二つと言われていた友人から、その風貌を目の前で否定されたのだから、無理もないだろう。

反応が面白くて、わざと昔の自分の写真に爪を立てると、恵子は露骨に悔しそうな顔をする。

―そうよね、悔しいはずよ。‥あの時の私も、こんな顔してたから、よくわかるわ。

高校の入学式の後、窓に映った自分の惨めな姿を忘れることなんてできない。

でも仕方ない。あの日、生まれて初めて劣等感というものを自覚したのだから。



高校の入学式で、恵子の隣に座ったのは、もちろん偶然ではない。編入生をアテンドしたいという私の申し出は、担任からすぐに快諾された。

「清廉であれ、純潔であれ。うちの校訓なの。突然でびっくりするわよね。」

校訓唱和にあっけにとられている恵子に話しかけながら、私は驚いていた。

その時、初めて彼女の顔を正面から見たのだが、長めの前髪から覗く目鼻立ちが、自分のものととてもよく似ていたから。

「…そう。」

消え入りそうな声で呟く恵子は、父から聞いていた「可哀そうな子」という表現がぴったりな、暗くて自信がなさそうな女の子だった。

あの時は、そんな彼女を守ってあげたい。友達になって笑顔を取り戻してあげたいと、本気で思っていたのだ。

入学式が終わり、恵子を校舎へ案内しようとした時、高揚した様子の学長や先生たちが近づいてくるのが見える。

そしてその中心には、見るからに偉そうな男性と、その横で微笑を浮かべる私の父の姿があった。

「乃木さん、ようこそ、聖陽女学院へ!校舎まで一緒に行きましょう。」

私と話す時とは違って、先生たちはずいぶん高い声で、恵子と偉そうな男性を迎える。そして彼らはその場を去っていった。そこに残された父と私など、元々居なかったかのように。

「…乃木家の社長令嬢だからね。寄付金をたくさん入れたんだろう。あのレベルのお嬢様と同じ学校に通えることに、感謝しないとな。」

私を慰めるように、父はポンポンと肩を叩くと、ゆっくり歩きだした。その背中は、私の目にはとても情けなく映ったのだ。

―私は、あの子の家が寄付したお金で、この学校に通わせてもらってるってこと…?

自分に似た”可哀そうな”女の子との圧倒的格差に、愕然としたのだった。


過去の格差をひっくり返そうと、絹香が立てた作戦は?


もう10年以上前の入学式の日のことを思い出しながら、私は目の前に座る恵子に向かって、口を開いた。

「今日家に呼んだのは、協力してほしいことがあるからなの。あなたにしかできないことよ。」

そう告げると、恵子の顔には明らかに嫌悪感が見て取れた。先ほどまで、萌やさくらの過去の話を聞いていた好奇の表情とは、全然違う。

だけど、私は知っている。秘密を知るかもしれない私の頼みを、恵子は聞きもせずに断ることなどできないことを。

「…何?」

予想通りの返答をした恵子に、私はこれ見よがしに大きなため息をついた。

「父の前で、私のふりをしてくれないかしら。」

もっと難しいことを言われるとでも思っていたのだろうか。突拍子もない内容に、恵子は面食らったようだ。

「さっき、会ってもらって気付いたでしょ?父はもう、私のことが分からないの。…整形した私の自業自得よね。わかってる。

でもね、父がいつも家族写真を手に思い出話をするのを見ていて、もう一度父が知る私に会わせてあげたいと願っていた。そんなとき、あなたの姿を見て、もしかしたらって思ったの。…それが今日、確信に変わった。」

父のことは、もちろん真実だ。整形を繰り返した私の顔には、昔の面影など殆ど残っていないのだから、当然と言えば当然なのだ。

いまの自分に満足しているとはいえ、ほんの少しだけ後悔していた。

そんな私の気持ちを察したのか、恵子は慌ててこう言った。

「で、でも、ふりって言ったって…何をすればいいの?いくらなんでも気付くんじゃないかしら?」

「簡単なことよ。来週の父の誕生日に、私の代わりとして父にプレゼントを渡してくれないかしら。きっと、父は大喜びすると思う。少しだけおしゃべりしてくれるだけでいいの。…父の喜ぶ顔が、もう一度見たいの。」

私の大きな瞳に、涙が滲むのを見たのだろう。恵子は憐みの目をこちらに向けると、小さく頷いた。



「今日は、恵子と会ったわ。」

恵子が帰った後、婚約者である手嶋に電話をかける。私の今日の行動を聞いた彼は、少し驚いたようだった。

彼との結婚に向けて、当事者だけでは解決できない問題が山積みで、最近では毎日のように電話をしている。

彼と出会ったのも、偶然ではない。キャリアと美貌を手にしても得られなかった”家柄”を持つ男性を、私は探していた。

そんな時に、同僚から手嶋家の息子がニューヨークに来たということを聞き、確信したのだ。相手は彼なのだと。

昔、萌がやたらと騒いでいたので、彼の家業については、しっかりと頭に入っていた。その情報があったからこそ、彼との運命の出会いを演出できたのだから、萌には感謝しなければならない。

「ほんと、絹香は優しいよ。…あんなことがあったら普通、あの人と関わりたくないはずなのに。」

―“あんなこと”の真相をあなたから聞いたから、私は恵子との再会を決めたのよ。

流石お坊ちゃま、純粋なんだから。


絹香と恵子の間にあった出来事とは?

―お願いがあります。二人だけで会えないかな?

萌とさくら、それぞれにLINEを送ってから、数時間経つ。さくらからは、話の内容を確認したいという返信があったが、萌はまだ読んでもいないようだ。

二人への依頼は、それぞれ違う。だけど、二人とも負い目があるので、この程度なら受け入れてくれるだろう。

萌とはあんな事があったので、すんなりと会ってくれるとは思えない。しかし、二度と手嶋に近づくなと改めて警告しておきたい。これ以上の問題は、ごめんだ。

さくらには、彼女の父親が代表を務める弁護士事務所へ繋いでもらう。調べたところ、不祥事や内部告発などに秀でた弁護士が、複数所属しているらしい。

そして、もう一つだけ、萌とさくらに直接聞きたいことがある。

高校1年生の最後に起こった真実を、次に恵子と会うまでに聞いておきたいのだ。





「佐久間絹香さん、生徒会室まで来なさい。」

高校2年になろうとする春休み、生徒会に属していた私は、休み期間にも関わらずせっせと通学していた。そんなある日突然、先生から呼びだされたのだ。

てっきりまた編入生のサポートを頼まれるのかなどと、軽い気持ちで扉を開けたのだが、中にずらりと並んだ教員の数を見て戸惑った。

「これ、あなたでしょう?」

呆然とする私に、教頭が一枚の写真を差し出した。夜の街を歩く聖女の制服を着た女生徒と男性の後姿が、そこには写っている。

「これは、先週に渋谷で撮られたものです…。制服を着たままこんなところを男性と二人で歩くなんて、あってはならないことです!」

教頭の声は、震えていた。今まで目をかけてきた模範生徒である私がこのような愚行を働いたことに、心底失望しているようだ。

―ちょっと待って。これ、どうみても私じゃない。…恵子よ。

元々容姿が似ていた私と恵子だが、最近では親しい友人にまで間違われるようになった。それは、恵子が髪型や制服の着こなしを私と全く同じに変えたからだ。

しかし、写真に写る人間は、間違いなく恵子だ。

制服のブレザーの丈はほんの少し短めだし、ヘアスタイルも毛先のそろえ方が恵子そのものだ。それに、私はもう少しだけ痩せている。

「…これは私ではありません。」

今思えば、この時に恵子を無理やりでも連れてきて、写真に写るのは自分ですと言わせればよかった。

でも、あの頃の私は、父との約束を守るため、恵子を守らなければと思ってしまった。いくら劣等感を抱いた存在だとはいえ、あの時私たちは確かに友人だったのだ。

その後、まさかの出来事が起こるとは思いもせずに、私は黙って先生の追及に耐えていたのだった。


▶NEXT:10月24日 木曜更新予定
萌とさくらそれぞれが語る、あの時の真相とは?


▶明日10月18日(金)は、人気連載『呪われた家』

幸せな結婚生活を思い浮かべていた新妻。その儚い幻想が、見事に打ち砕かれたら?沙織(26)は、“家”を巡る恐怖の呪縛に追い詰められていく…。続きは、明日の連載をお楽しみに!













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