「自分だって、期待してた癖に」。夫ではない男の家に行った人妻の、期待と矛盾

「自分だって、期待してた癖に」。夫ではない男の家に行った人妻の、期待と矛盾

同窓会で再会した独身キャリア・工藤千明と、専業主婦・沢田美緒。

かつて学校一のモテ女だった美緒は、商社マンの夫との間に一人息子を設け幸せに暮らしていた。しかしその風貌にかつての輝きはなく、夫もつれない。

一方、洗練された美女へと変貌した千明は複数の男性から言い寄られており、キャリア女性向け雑誌から取材を受けるなど華やかな生活を送っている。

そんな千明に複雑な思いを抱く美緒は、高校の同級生・村尾に誘われるがままデートを繰り返し、彼の経営するパーソナルトレーニングジムで受付を手伝うなど親密な関係に。

村尾が“人妻狙い”であることを知らない美緒は、ついに彼の自宅にまで行ってしまった。



美緒:ちょっとした好奇心で…


−よかったらこの後、家に来ない?−

村尾の経営するジムで受付を手伝った帰り際、彼は私をそんな風に誘った。

彼が高校の同級生でなかったら、最近知り合ったばかりの男なら絶対に断っている。

しかもこの日は土曜。今日は仕事の説明を聞くだけ、数時間だけだから、と夫に告げて家を出てきていた。

−やっぱり、帰った方が良いのかも。

車窓の景色は赤坂だった。モダンな造りのマンションで地下にあるパーキングに入り、村尾が愛車のエンジンを切る。

急にシンと静まり返ったその瞬間、私は妙な胸騒ぎを覚えた。

しかし「沢田さんは真面目だね」と言った村尾の言葉が引っかかる。そんな風に思われるのは癪だった。

「着いたよ。行こうか」

そうして結局、私は村尾に促されるままに車を降り、彼の後ろに続いたのだった。

彼の誘い方が強引だというのもある。しかし私の心に好奇心があったことも否定はできない。

何か起きては、もちろんいけない。けれど何か起きるかどうか試してみたい−。

そんな気持ちもなかったとは、言い切れない。


強引な村尾に押され、家に上がってしまった美緒。そこで、事件が起こる

「その辺で、適当にくつろいで」

村尾に促され、ソワソワと、まるで地に足がついていない感覚で自宅に上がる。

「お邪魔します…」

足を進めた先には、一人で暮らす家にしては広めのリビングがあり、黒い大きな革張りのソファが置いてあった。

不思議な感覚だ。考えてみれば、私が男性の家に上がった経験というのは、どれも20代前半のもの。

その頃彼らが住んでいた部屋なんて、大学生の一人暮らしとそう変わらない。

30歳を超え、お金を持った“大人の男性”の家に上がるのは、私にとって初めての経験だったのだ。

「まだ昼だけど、いいよね?」

ふわふわした心地のままソファに座り、ぼんやりと部屋を見渡していると、村尾がキッチンからワイングラスを持って現れ、こちらに悪戯な視線を向けた。


最初は本当に、いつも通り、同級生らしい二人の会話だった。

パーソナルトレーニングジムの感想を求められ、私は午前中、仕事の合間に目にしたジムでの様子を思い出しながら、素直に答える。

平日だということもあるが、ジムに来ているのは30代から40代の主婦がほとんどで、それぞれに担当の若い男性インストラクターがマンツーマンで付いている。

もちろん皆、真剣にトレーニングに励んでいるのだが、彼女たちが継続してジムに通うモチベーションのどこかに、ちょっとした浮気心がある気がする。

私がそんな風に語ると、村尾は面白そうに声をあげて笑った。


−ん…?

小さな異変を感じたのは、村尾が新しいワインボトルを持ってソファに戻ってきた時のことだった。

それまでは私が広いソファの奥に腰掛け、村尾は1人分以上の感覚をあけて隣に座っていたのだが、急に肩が触れ合うほど距離を詰めてきたのだ。

そのわざとらしい密着は、ドキドキするというより、危険信号が走るような、居心地の悪さを感じさせた。

そしてその、次の瞬間。

急に肩を押されたと思ったら、強い力で私はソファに押し付けられていた。潰されてしまいそうな重みと、すぐ目の前にある村尾の顔に恐怖が走る。

「ちょっと、やめて!私、そんなつもりじゃ…」

私は出せる限りの力で村尾の胸を押し戻し、その隙間から体を縮めて脱出した。

息が上がり、体は小刻みに震えている。力の抜けた腕で、どうにか床に転がっていたバッグを掴み、逃げるようにして玄関へと走る。

そんな私の背後で、村尾が嘲笑うような声が聞こえた。

「なんだよそれ。自分だって、期待してたくせに」



マンションを飛び出し、上がった息を整える。

−自分だって、期待してたくせに−

吐き捨てられた言葉が、頭でガンガンと鳴り響いた。よろめきながら頭に手を当て、しばらく立ち尽くしていると、ふと千明の顔が浮かんだ。

“村尾くんのことで、話したいことがある”

千明からそんなLINEが届いていたことを思い出したのだ。

あれは…いつだったっけ。ああそうだ。同級生の由美が金沢から上京して、ランチをした帰りだった。

村尾と初めてデートをした直後で、高揚する気持ちに水を差されたくなくて“後で連絡する”などと返信したまま放置してしまった。

話したいことって、何だったのだろう。あの時、千明はもしかして、私に警告してくれようとしたんじゃないだろうか。

私は震える手でスマホを取り出し、深く考える余裕もなく千明に電話をかけた。

耳元で鳴る呼び出し音を聞きながら、私はどこかデジャブのような感覚に包まれ、ふと昔の記憶を思い出した。

もう15年も前のことだ。

彼氏と喧嘩した日、女友達からいわれのない言いがかりをつけられた日。

私はいつもこうして千明を呼び出していた。

そしてそんな時、千明は必ず私の電話に出てくれた。そしていつも通りの落ち着いた、穏やかな声で、優しく尋ねてくれるのだ。

「美緒…?どうしたの?」


急変した村尾に動揺を隠せない美緒。千明の前で、ついに本音を打ち明ける

電話口で千明の声を聞いた途端、私は気づかぬうちに涙をポロポロと零していた。

「どうしたの…もしかして、泣いてる?」

心配そうに声をかけてくれる千明は高校生の頃そのままで、冷えて固まってしまった心にじんわりと染み入る。

私はここ最近彼女に対して抱いていたわだかまりも忘れ、昔のように彼女に甘えてしまった。

「千明、今から会えないかな…?」
「え…?」



「今から…?」

一瞬、千明が言葉に詰まるのがわかり、私はハッと現実に連れ戻される。

何をしているのだ、私は。

良い大人が急に電話をかけ、涙を流し、さらには急に呼び出したりして。

「ごめん、千明。なんでもないの」

急に恥ずかしくなった私は慌てて気丈な声を出す。そして「もう大丈夫、気にしないで」と早口で付け加えた。

「美緒、今どこにいるの?」

しかし「じゃあ」と電話を切ろうとした私を制し、千明からそう尋ねて来た。

「赤坂…」
「30分で行ける。ニューオータニのラウンジにいて」

弱々しい声で答える、放心状態の私。千明はまるで仕事を片付けるかのようにテキパキと指示を出し、「そこにいてね」と念を押して電話を切ってしまった。

声の聞こえなくなったスマホを手に持ったまま、力なく腕を垂れる。

そうして、スマホ画面に表示された日時をしばらく眺めて…私はハッと気がついた。

10月19日(土)。

今日は、千明の誕生日だ。


▶NEXT:10月21日 月曜更新予定
誕生日デートを返上して駆けつけた千明に明かされる、美緒が隠していた秘密


▶明日10月15日(火)は、人気連載『夫の反乱』

夫から溺愛され、好き放題にやってきた美人妻・めぐみ。最近夫の様子がおかしいことに気づき…。夫を大切にすることを忘れた妻の行く末は?続きは、明日の連載をお楽しみに!













東レデート
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