「見かけは大人しそうな子が、影で凄いことしてたって」男が漏らした一言で、友人の本性を知った女

「見かけは大人しそうな子が、影で凄いことしてたって」男が漏らした一言で、友人の本性を知った女

女は、仮面を被った生き物だ。

優しい微笑みの裏に、怒りや悲しみ、ときに秘密を隠し、本当の自分を偽りながら暮らしていく。

たとえば聖女のような女にだって、裏があるかもしれない。

それを美しい仮面で覆い隠しながら、生きているのだ。


◆これまでのあらすじ

恵子が高校生の頃、聖陽女学院で、ある一人の女生徒が、理由もわからず突然転校していった。

あれから10年。27歳となった恵子たちの前に、美しく姿を変えて現れた絹香。

恵子は、絹香を学校から追い出した犯人を探るうちに、絹香の不思議な行動に巻き込まれていく。

とうとう仮面を剥いだ絹香は、恵子に頼みごとをし、他の友人の元へ向かった…。


さくらが学校に来ていた理由と、絹香の企みとは?

「あの日、校長室に入っていくあなたの姿を偶然見たの。」

さくらは、昔のことなど覚えてないと言いはっていたが、私がそう告げると顔色が明らかに変わった。

万引きのことがあって以来、彼女はどこか怯えているようにみえた。校長室に呼ばれたときは心底焦ったに違いないし、忘れるハズなどないだろう。あの時の私も、自分以外に万引きの目撃者がいたのかと、ハラハラした記憶がある。

さくらは焦ったように「全部覚えているわけじゃないけど」と前置きをして語り始めた。

「あの時は、恵子について聞かれたの。何か妙な噂が立ってないかって。私、てっきり絹香が万引きの事を告げ口したんじゃないかと焦って、とにかく早く解放されたくて、知らないって答えた。…あとは、絹香のことも聞かれた。」

「私のことって…何?」

さくらは、既にほとんど中身が入っていないグラスに手を伸ばした。

「…恵子が一番仲がいいのは誰かって聞かれたから、それは絹香だって答えたの。だって、本当にそうだったでしょ。

そしたら、二人はどこでどんな風に遊んでいるのかとか、色々聞かれた。知らないって答えたら、この件は他言無用だって念押しされて、終わり。」

「…そう。」

ごめん、と呟きながら、私の方をチラチラと伺うさくらの視線に、偽りはなさそうだ。

「…ごめん絹香。でも、なんで今更そんな昔の話を持ち出すの?一体、何がしたいの?」

怯えたようにも見えるさくらを安心させようと、私は黙って微笑んだ。



さくらと会ったその日の夜、萌とも電話で話すことができた。

萌は実家に戻ったままだが、夫との関係は修復に向かいつつあるらしい。手嶋に二度と近づかない事を念押しすると、萌は涙ながらに謝罪を繰り返した。

「私、どうかしてた。本当にごめんなさい…。」

本当に改心したのかどうかは分からないが、少なくともこれでしばらくは、萌が邪魔をしてくることは無いだろう。結婚に向けて障害になるようなことは、どんな小さいことでも排除しておきたい。

一通りの謝罪を聞き終えた後、私は萌に、さくらに対する質問と全く同じことを聞いた。あの日、さくらが出た数十分後、萌も校長室に入っていったのだ。

萌の答えも、さくらのそれとほとんど同じだった。萌の記憶はもっとざっくりしていて、曖昧ではあったけれど。

これでまた、確定に一歩近づいた。

さくらも萌も、私を追い出した犯人ではなかったー。


絹香が、真犯人を知った理由とは?衝撃の真実が明らかに…。

あれはもう、何年前だろうか。

父の記憶が少しずつ混乱しはじめ、昔の出来事をまるで進行形のように話すことが増えた。

特に、特待生を打ち切られた直後の話を、昨日の出来事のように語り、辛そうに顔を歪めることが多かった。

「絹香が可哀想だ。父さんがなんとかする。ずっと聖女に通わせてやるからな。」

父の言葉を思い出すたび、今でも私の胸はぐっと苦しくなる。

アメリカ駐在になったのと同時に父は役職につき、生活レベルは上がった。私も、慣れない環境と言語に苦労はしたものの、新しい環境でそれなりに満足していたつもりだったが、後悔がないと言えば嘘になる。

あの時、写真に写るのが恵子だと声を大にして言えばよかった。あの子のことだから、ぼんやりしていてナンパか何かをされたのを、写真に撮られたのだろうと思った。

制服で繁華街に出かけるのは禁止だが、彼女の家は渋谷からほど近い松濤だ。言い訳はいくらでもできただろう。

ただ、恵子の父親がとても厳しいことは知っていたし、恵子のことは少なくとも友人だと思っていたから、彼女を売るようなことはしたくなかったのだ。

まさかこれが、こんなに大事になるとは思ってもいなかった。



さくらと萌を学校で目撃した翌日に、私は呼びだされ、疑惑の目を向けられた。

恵子と男性が写る写真を前に、自分ではないと否定したものの、その数日後、特待生待遇を打ち切るとの非情な宣告がなされた。

特待生から普通の生徒になるだけで、罰則はなかった。だから、私は悪いことをしたと判断されたわけではない。

しかし、特待生として“完璧”が求められる中で、疑われるような事実があっただけでも、きっと失格だった。

そう自分を納得させていたが、手嶋と知り合って間もないとき、衝撃の事実を聞いたのだ。

「へえ、聖女だったんだ。そういえば、近所にもいたな、聖女に通ってたお嬢様。」

手嶋がお坊ちゃまだということは知っていたから、知り合いに同窓生がいても何らおかしくない。私は微笑んで適当に相槌をうっていたが、次に続く言葉をきいて、驚いた。

「その子、凄い家のお嬢様なのに、援助交際してたらしい。父親の力で何度ももみ消したらしいけどさ。」

彼の母親の知り合いに、聖女の教師をしている人がいて、その人からの情報だそうだ。

「その子と一度見合いの話が持ち上がって、うちに来たこともあるんだよ。だけど、母親があまりにも反対するもんだから、理由を聞いてびっくりだった。見かけは大人しそうな子なのに、わからないもんだよな。」

「…その子って、乃木家の?」

「知ってたの?」と驚いた顔を向けた彼が、息を飲むのがわかった。

きっと私は、怒りに満ちた醜い顔をしていたんだと思う。


恵子の裏の顔を知った絹香。彼女が取った行動とは?

それからの私は、過去の真実を確かめることに躍起になっていった。

恵子が援助交際をしていたということが事実なら、あの写真はその現場を押さえたものだろう。きっと、おせっかいな良き生徒が提出したに違いない。

それを見た教師陣は焦ったはずだ。写真に写る生徒が、もし恵子だったらと。

多額の寄付金を納める大企業の御令嬢の、あってはならない不祥事をどう処理するか。彼らは大いに悩んだだろう。

くしゃくしゃに丸めて捨ててしまいたくても、提出した生徒がいる手前、無かったことにするわけにはいかない。

彼らにとっては幸いなことに、その後ろ姿は私にも見えなくなかった。それに親しい友人たちに聞いても、恵子に関して特に怪しい噂などは立っていない。

だから、私を生贄にすることにしたのではないだろうか。特待生でなければ聖女の生徒ではいられない家庭の事情を、十分に把握した上で。



その仮説を立てた後、私は父の日記を盗み見た。10年日記と題されたその分厚いノートに、健康だったころの父は毎日ペンを走らせていた。

懐かしい光景を思い出しながら、私は急いでページをめくる。

特待生が打ち切られたころの父の字は、荒れていた。自分の娘が正当な理由なく特待生の資格を取り上げられたことへの怒りとともに、なんとか娘を聖女に通わせ続けるという決意が、ページいっぱいに書きなぐられている。

しかしそのすぐ後のページになると、日記の内容は、辞令のニュースへと話題を変えた。

父の字は躍るように、ずっとやりたかったアメリカでの研究開発の責任者に抜擢されたことへの喜びを物語っているようだった。

『この時期に異例の辞令。社長からの特命とあって身が引き締まる。絹香の人生においても良い経験となるだろう。』

社長、つまり恵子の父親からの特命が、このタイミングであるなんてどう考えても出来すぎだ。

もしかしたら、娘の不祥事を知る私を追い出すのに、父を利用したということもあり得るのではないか。

疑心暗鬼になった私は、父の日記を隅から隅まで読んだ。

するとそこには、父が隠していたもう一つの事実が記されていたのだった。


▶NEXT:10月31日 木曜更新予定
そして迎えた、絹香の父親の誕生日…。













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