「彼が既婚者だと知ったのは・・・」29歳女が男の隠し事を知ってしまった、意外なきっかけとは

「彼が既婚者だと知ったのは・・・」29歳女が男の隠し事を知ってしまった、意外なきっかけとは

東大出身の、理系男子・紺野優作28歳。

ハイスペック揃いの仲間内で“平均以上”を死守することを至上命題としてきた優作。

そのポジションを維持するため、今、次のステージ「結婚」へと立ち上がることを決意する―。

◆これまでのあらすじ

大手メーカーでロボット研究をする優作は、4年ぶりに東京へ戻ってきた。

仲間たちが結婚を自分事として捉え始めたことに気づき、結婚できない男と評されることを恐れた優作は、婚活を始め、バーベキューで芽衣子と出会う。

めでたく交際を始めた2人だったが、優作が大学の同級生・環奈と再会したことで波乱を呼ぶことに―?



―明日、環奈と本当に会うべきなのだろうか?

金曜22時過ぎ、残業を終えて大手町から自宅のある根津に向かう千代田線に乗り込んだ。

週末前特有の気の抜けた雰囲気が満ちる車内で、サラリーマンもOLも皆一様にスマホを見つめ続けている。

独身であることは変わらないが“彼女もち”という箔が付いたことで、僕はこの見慣れた光景を目にしながら優越感に浸ってしまう。

仲間内では完全に平均以下だが世間的には悪くない年収かつ、結婚も視野に入れている28歳の男。それが僕。

結局男は稼ぎと女の2軸で評価されるのかもしれない。学生時代に慣れ親しんだxy座標が頭にチラつき、苦笑交じりに僕はどこにプロットされるのだろうかと考えてみたりする。

いずれにせよ、望むものは“一応”手に入った。あとは芽衣子と結婚を進めていけばパーフェクト。

そのはずなのに―。

非効率にも、僕の頭を侵食してくる環奈の存在。

―だいたい、会ってまで話したいことって何なんだ…?

芽衣子と付き合って数日というのに僕は芽衣子と環奈、2人のLINEのトークルームを行ったり来たりしている。

『じゃあ、土曜日の夜、代々木上原で』

環奈の最後のメッセージに、僕は既読をつけたまましばらく放置していた。

『了解』

仕方なしに返事を打つ。自分の了承が決定打となった気がして、モヤモヤした気持ちが湧きあがるのを感じながら、電車を降りた。


環奈が2人で会おうとする理由とは―。予想外の展開に優作はどうでる?

19時に代々木上原駅で環奈と待ち合わせた。

最初、彼女が提案してきたのは昼間の表参道だ。「このお店なんてどう?」と送られてきたURLを思わず二度見する。

店名は『アニヴェルセルカフェ』。さすがに芽衣子とデートで訪れた店に行くのはためらわれて、僕は適当に理由をつくって店を変えてもらったのだ。

―それにしても何で代々木上原?

千代田線ならどこでもいいとは言ったが、意外な選択だ。

そんなことを思いつつ2階の改札から出口へと下るエスカレーターを地上から見上げるように眺めていると、環奈はすたすたと、地上から歩いて現れた。



「優作君?ごめんね、ちょっと待たせちゃったかな」

「あれ、徒歩?」

「そう。私この辺りに住んでいるから。お店もほら、けっこう分かるし…」

自分のテリトリーに僕を招き入れる環奈。その意図が分からず困惑しつつも彼女に従うように僕らは歩き出した。駅の南口を出て、それほど広くはない坂道を上る。

先を行く環奈の結った髪がゆらゆらと陽気に揺れているのとは対照的に、この街で暮らす彼女の日常を思うと、何故か明るいものが想像できない。

突き当たりを曲がったところに、『割烹 一楓』が現れ、環奈が振り返る。

「ここに連れて来たくて。1度行ったことがあるんだけど、すごく美味しかったから」

そして僕らはカウンター席に隣合って腰を下ろした。



着くやいなや、環奈は代々木上原という街の良さを熱弁する。

女はいつもそうだ。前置きが異常なほど長くて、本題になかなかたどり着かない。

「この間の同期会は六本木だったけど、やっぱりこのくらいの落ち着いた場所の方がいいよね」

「まあそうだな。でもこの辺りだって誰でも住める街じゃないだろう。さすがは大手代理店のコピーライターだな」

同期会のとき、一瞬ではあったが寂し気な表情で自身を「コピーライター」と名乗った環奈。僕は彼女の仕事の成功を褒めるよりもカマをかけることを意図してそう言ってみたのだ。

「優作君…」

見つめてくる瞳が、学生時代眼鏡の奥に隠れていたものとは全く違うことにドキリとし、逃れるように日本酒に口をつける。

「いいな、好きなことを仕事にできるって。最近何がしたいんだろうって時々自分が分からなくなる」

環奈はそう吐き出すように言った。

―それをわざわざ言いに来たのか?

「うん?ロボットをやめたことを後悔してるってわけ?」

「…そうであっても、認めたくなくて」

僕はため息をつきそうになるのを抑え込む。聡明だった彼女がなぜこんなにも簡単な問いに僕の力を借りなければ答えを出せないのか。

「辞めて今からでも院に行けばいいじゃないか。もたもたしている時間がもったいない。その感じなら、君以上の熱意で君の仕事をできる奴はいっぱいいるだろう」

芽衣子のことを思い出しながらそう告げると、驚くべきことに彼女は、指の腹を目の下に当て、滲み出す涙を受け止めていたのだ。


理系女子・環奈が代理店への就職を決めた背景にある、秘めた思いとは

環奈:「涙があふれ出たのは、作戦なんかじゃない」


久しぶりにあった同級生、しかも男性の前で泣いてしまうなんて恥知らずも甚だしい。

「環奈、ごめん。そこまでとは思わなかったんだ。とにかく落ち着こう」

優作はいつもの冷静さを忘れ、急いでお会計を済ませて、私の涙を隠すように盾となって店を出た。

「ごめん。優作君は何も悪くないの。こんな予定じゃなかったのに」

私の弁解は、彼にきちんと届いただろうか。

北口を抜け、住宅街に向けて歩き出しながら、私は自分の人生を決めた、あの春の決断を思い出していた。



「あの大手広告代理店のインターンに応募しようと思っているの。環奈も試しにどう?」

きっかけは、中高時代からの友人の誘い。特に広告業界に興味があったわけではなかった。

しかし東大理系女子という希少性が効いたのか、狭き門をくぐり抜け、私は2泊3日のインターンに参加することになったのだ。

その3日間、私は出会ったことのない人種の女子たちに囲まれた。彼女たちは有能なだけでなく、私が映画や少女漫画でのみで知りえて心の奥底で憧れ続けていた、誰かを想ったり想われたりといった世界を現実のものとしていたのだ。

夜な夜な盛り上がった恋愛トーク。だけれど、誰一人として私に聞いてはこなかった。

「彼氏はいるの?」「好きな人はいるの?」だなんて。



私は彼女たちになりたかった。

数学と物理が得意で、ロボット研究に勤しむ私の奥底には、恋愛映画や少女漫画に憧れ続け、誰かに触れられることを夢見ていたもう一人の自分が確かにいた。

「よかったらウチの会社に来ない?」

そう言われたとき、迷いはあったけれど、奥底にいる自分が急にエゴを出したのだ。

これが最後のチャンスかもしれない、私は今まで周りに認識させてきた自分を捨てる覚悟をした。

だけど―。

初めての彼氏はアプリで知り合った30代後半の経営者。彼が好きだった代々木上原を私も好きになり、経堂から引っ越してきた翌日、彼が既婚者だと知った。

付き合ってから3年の月日が流れていた。

たぶんその頃からだろう。

―もし研究をやめなかったら…?

その妄想に取りつかれてしまうようになったのは。そんなとき決まって、私は優作を思い出した。

御三家と呼ばれる名門校からやってきた彼は、つるんでいる仲間も皆同じ境遇。

旧友が商社や外資系金融に就職を決める中でも、優作は研究者であり続けることを一度も疑わず、華やかになっていく彼らと以前の距離感で接することに何のためらいもない様子だったのだ。

彼みたいに私もあれたら―。

ロボット研究は本当に好きだったのに、残ったのは既婚者に抱かれた自分と、好きなものを捨てた果てに得た、“大手広告代理店のコピーライター”という肩書き。

優作と再会したとき、私は懐かしさと温かい気持ちで心が満たされるのを感じた。

もう一度2人で話したいとの思いに至った事実が恋愛感情によるものなのかは自分でも分からない。

冬の訪れを感じさせる冷たい風を受けながら、マンションにたどり着きエントランスを抜けた。

エレベーターを待つ間、スマホを取り出し優作とのLINEを開く。

『今日はごめんなさい。また今度…』

2文目が決まらなくて、書いては消しを繰り返す。

―これが運命の再会であったらいいのに。

祈るような、すがるような気持ちで、私は送信ボタンを押した。


▶Next:11月25日 月曜更新予定
芽衣子と交際後初デート。環奈の一件を告白した優作に、芽衣子がとった意外な行動とは?



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