「お願い、信じて...」浮気の誤解を解こうとする妻に、夫がとった信じられない態度

「お願い、信じて...」浮気の誤解を解こうとする妻に、夫がとった信じられない態度

―病める時も、健やかなる時も。これを愛し、これを敬い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?―

かつて揺るぎない言葉で永遠の愛を誓い、夫婦となった男女。

しかし…妻が“女”を怠けてしまった場合でも、そこに注がれる愛はあるのだろうか?

8kg太り、夫の誠司から夫婦生活を断られてしまった栗山美月は、誠司の無理解に悩まされながらもダイエットを決意。

パーソナルトレーナーの甲斐と出会い、本格的なダイエットをスタートさせるが、ダイエット料理の研究のため甲斐と食事をしているところを、誠司に目撃されてしまうのだった。



「こんなところで何してるの?みいちゃん」

いつもなら美月の心を暖かくしてくれる、最愛の夫の声。

だが今は誠司のその穏やかな声が、美月の全身を驚きのあまり硬直させるのだった。

「誠司さん…どうしてここに?」

慌ててそう問いかける美月に対し、誠司は柔らかな態度を崩さぬまま答える。

「今日は仕事の会食って言ったでしょ?あっちの個室に、出版社の方たちがいるんだ。電話対応から戻る途中にカウンター席をみたら、家にいると思ってたみいちゃんが男の人と2人で食事してるんだから、びっくりしちゃったよ」

まさかの偶然に茫然自失とする美月だったが、誠司の言葉を聞いて我に返る。

―家にいると思ってたみいちゃんが、男の人と2人で食事してる…

美月がここにいるのはダイエット料理の勉強以外の何物でもないことは、確かな事実だ。

しかし誠司からすれば、自分の不在の間に妻が若い男性と食事に出ているなんて、決して気分の良いことではないだろう。浮気をしていると責め立てられても、おかしくはないのだ。

もし誤解があるなら、今すぐ払拭したい。そう感じた美月は、夫に甲斐を紹介するべくバタバタと椅子から立ち上がった。

「誠司さん、聞いて。ホラ私、最近渋谷でパーソナルトレーニングを受けてるって言ってたでしょ。彼がその、パーソナルトレーナーの甲斐くんなの。今日は急だから連絡しなかったんだけど、このお店にダイエットにピッタリなメニューがあるって甲斐くんが教えてくれて、それで…」

美月に促される形で、甲斐も椅子から立ち上がりお辞儀をする。懸命に今の状況を説明しようとする美月だったが、それに対する誠司の反応は意外なものだった。


必死に弁解を試みる美月。だが誠司の反応は、想像とまるで違っていた。

「あぁ〜、いいからいいから。みいちゃんが誰と何をしてても僕は気にしないよ。それよりごめん!先方かなり待たせちゃってるからさ。そろそろ行くよ」

そう言う誠司の目は、美月も甲斐も全く見ていない。その視線はしきりに、会食が開かれているという奥の個室の方へと向けられているのだった。

誠司が女性誌で連載を持ち始めたことは、以前から聞いている。「かなりの高待遇で迎え入れられている」と喜び、張り切っていたはずだ。

仕事中の誠司を引き止めてしまったことに気が付いた美月は、気が回らず自己保身を優先してしまったことを激しく反省する。そして、慌てて髪を手ぐしで整えると、誠司に提案を持ちかけた。

「ごめん、そうだよね!じゃあ、せっかくだし私もご挨拶に伺ったほうがいいよね」

誠司の仕事関係者には夫婦同伴で会うこともかなり多い。美月としては、いつも誠司に望まれる通りの行動を提案したつもりだった。

だがその言葉を聞いた途端、穏やかな笑顔を崩さなかった誠司が初めて、冷酷な表情を見せながら言ったのだ。

「いや、いいから。よく考えてよ。僕はみいちゃんが何をしてようと気にしないよ。僕はね。でも、奥さんが他の男とガス抜き中なんて、仕事先の人に見られたら僕の恥になるだろ…。恥ずかしいから隠れててよ」



4つのデンタルクリニックを一代で成した、歯科医でありながら経営者でもある誠司は、仕事への姿勢がとても厳しいことで知られている。

だが、そんな厳しさをこれまで自身に向けられたことのなかった美月は、ショックのあまりその場に立ち尽くすしかなかった。

「じゃ、えっと…甲斐さん?いつも美月がお世話になって、ありがとうございます。みいちゃん、今日は遅くなるからね。甲斐さんとたっぷり楽しんでおいで」

先ほどの冷酷さが悪い冗談だったかのように穏やかな表情を取り戻した誠司は、そう言うやいなや足早に個室へと去って行く。

「いやいや〜、お待たせしてしまってすみません!ちょっと長引いてしまいまして…」

こちらまで聞こえてくる、快活な誠司の声。

美月を一瞥もしない誠司の手によって個室の扉が閉められ、中から漏れる賑やかな声はすぐに聞こえなくなった。


素っ気なく切り捨てられた美月...。彼女がその夜にとった行動とは

そのあと運ばれてきた低糖質のデザートに、美月は全く手をつけることができなかった。

“他の男とガス抜き中”。

そんな下劣な言葉が誠司の口から出てきたことに、美月は心の底からショックを受けたのだった。もしかしたら本当に、浮気現場と勘違いされてしまったのかもしれない。

「本当にすみません。既婚の女性を軽々しく夜に連れ出すなんて、俺が軽率でした。もしご主人が何か誤解されているようだったら、何でも言ってください」

帰り際に甲斐はそう言いながら何度も頭を下げてくれたが、悪いのは甲斐ではない。軽い気持ちで連絡も入れずに男性と食事に出かけてしまったのは、自分自身なのだ。

美月は深夜25時のリビングで後悔を反芻しながら、誠司の帰りをひたすら待ち続ける。

―どうしよう…。もしも、私が浮気してるなんて誠司さんに勘違いされてたら…。絶対に絶対に、誤解されたくないよ…!

頭を抱えながら幾度目なのかも分からない大きなため息をついたその時、玄関のドアがガチャリと開いた。

会食を終えた誠司が、やっと帰ってきたのだ。

「誠司さん!」

ドアが開く音がすると同時に、美月は玄関へ駆け出す。

帰宅すると、いつも優しく抱きしめてくれる誠司。でも、今夜ばかりはきっと冷たくされるに違いない。

そう覚悟をきめながらの出迎えのはずだった。



だが帰宅した誠司の様子は、美月が思い描いていたものと全く違っていた。

「あれぇ?まだ起きてたの!?」

いつにも増して上機嫌な誠司は、美月の姿を見るなり目を丸くして驚く。そして大きく手を広げると、いつものように美月を強く抱きしめたのだ。

「ん〜、みいちゃん!ただいまぁ」

普段と全く変わらない態度。戸惑いを覚えた美月は、誠司の顔をまじまじと覗き込む。

怪訝な表情に気づいていないのか、誠司は普段通りに美月のおでこにキスをすると、興奮した様子で語り始めた。

「いや〜、今日の会食は大収穫だよ!あの、雑貨屋さんとかで売ってる歯磨き粉の会社知ってる?そこの社長を紹介してもらえるかもしれなくて、そうするとウチの監修のアイテムなんかも…」

意気揚々と目を輝かせる誠司の話を、いつもの美月であればお茶でも淹れながらじっくり聞いていたに違いない。

しかし、今の美月には気がかりなことがあるのだ。

「他の男とガス抜き中なんて恥ずかしい」と言い放った、見たこともない誠司の冷酷な顔。甲斐との無断の外食を、やましいことに捉えられていたら…。

美月は、「ちょっと待って」と誠司の話を一旦遮ると、繋いだ手を両手で握りしめながら真剣に問いかけた。

「ねえ、今夜のこと…怒ってないの?」


信頼関係を壊してしまったことを謝罪したい。しかしそんな美月の思いは、ボロボロに砕かれる

だが、誠司の反応はまたしても予想を裏切るものだった。ほんの少しの間沈黙したかと思うと、キョトンとした顔で美月に言ったのだ。

「えっと…何だっけ?」

拍子抜けした美月は、すぐに言い知れない焦りを抱き、誠司に畳み掛ける。

「なにが…って…。誠司さんに断りを入れずに、甲斐くんと食事に出かけたことだよ」

弁解もさせてもらえないままに、今夜のことが過ぎ去ってしまうことは避けたかった。しかし、誠司は焦る美月を前にして言葉を続ける。

「あぁ〜…、なんだっけ。あっ、一緒にいたパーソナルトレーナーの人ね!いいじゃんいいじゃん。いい人そうでよかったね。それよりさ、コレ、編集さんからお土産にもらったの。『弘乳舎TOKYO』のバターサンドだって。みいちゃん好きそうでしょ。食べなよ」

そう言って紙袋を渡す誠司の顔は、苦い感情を隠しているようには見えない。

「本当に、何とも思ってないの…?」

重ねて聞く美月に、誠司はニッコリと微笑む。

「みいちゃんはバカだなぁ…。何か思うわけないだろ。僕の仕事上で変な噂だけ立たないようにしてくれたら、別に何をしててくれても本当に構わないよ。僕はみいちゃんの事を、心から信用してるんだから!」

小さな子供に言い聞かせるようにそう言うと、誠司はもう一度美月のおでこにキスをして、鼻歌交じりに寝室へと去ってしまった。


怒りも悲しみも、微塵の動揺も見てとれない誠司の様子。本来であれば、叱責を免れてホッとする場面なのかもしれない。

だが美月の心中には、誠司にどんなに激しい怒りをぶつけられるよりも苦しみが渦巻きはじめるのだった。



―誠司さん…本当に、何も感じていないみたいだった。

家にいるはずの妻が、黙って若い男性と夜の街で密会していたのだ。たとえ怒りが湧いてこなかったとしても、その理由くらい聞きたいと思うのが夫婦としての自然な感情なのではないだろうか?

―私が細かいことを気にしすぎなだけなの?それとも誠司さん、ヤキモチも感じないほど、私のことを、もう…

それ以上先のことを考えるのが、怖い。

言いようのない胸の苦しさに耐えきれなくなった美月は、無意識のうちに拳を握りしめていた。

手の中で、バターサンドの紙袋がその存在を主張する。美月はフラフラと玄関からダイニングテーブルにたどり着くと、紙袋を置いて椅子に腰掛けた。

部屋着にしているランニングパンツは、椅子に座っても多少のゆとりがある。ダイエット前はウエストが食い込んで2段腹を誘発してしまっていたのに、今はすっきりと着こなせているのはこの2ヶ月の努力の賜物だ。

だが誠司からは、未だに一度も「痩せたね」の一言ももらえていない。

それどころか、こうしてダイエットを妨害するかのような手土産まで頻繁に持ち帰ってくる。そのことについても、美月はこれまでなるべく考えないようにしてきた。

しかし…今の誠司の態度。いくら鈍感な美月でも何かがおかしい、と勘付く。

無意識のうちに、紙袋へと手が伸びた。

白と紺の包み紙を、指先で剥がしていく。

深夜のダイニングテーブルにたった一人。美月は大量のバターサンドを目の前にして放心するのだった。

―…私、綺麗になる意味、あるのかな…。

鼻孔を、甘いバターの香りがくすぐる。

気がつけば美月は、2ヶ月ぶりの高カロリーな洋菓子の甘みに身を委ねてしまっていた。


▶NEXT:11月25日 月曜更新予定
絶望のあまり食欲に流されてしまう。そんな美月を見て、甲斐が言った言葉とは...



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