−この結婚、本当に正解だった?−

かつては見つめ合うことに夢中であった恋人同士が結婚し、夫婦になる。

非日常であったはずのときめきは日常となり、生活の中でみるみる色褪せていってしまう…。

当連載では、結婚3年目の危機にぶち当たった夫婦が男女交互に登場する。

危機を無事に乗り越える夫婦と、終わりを迎えてしまう夫婦。その違いは一体、どこにあるのか−?

これまで狙い通り両家の子息と結婚した土屋美咲と両親に頭が上がらない夫・和宏、レス問題に悩む里香とレス問題を大事と考えていない夫・浩史の言い分などを聞いた。

今回は、夫の転勤で香川に転勤した田邊皐月が直面した、結婚3年目の危機。



危機事例⑥ 夫の転勤で生活が一変。地方暮らしの葛藤


【田邊家・結婚3年目の事情】

妻:皐月
年齢:30歳
職業:元アパレルPR

夫:亮介
年齢:31歳
職業:大手生命保険会社


「夫・亮介と結婚を決めた時から、わかってはいたんです。…いつかは必ず転勤の内示が出て、地方で暮らすことになるって」

香川県・高松市。

港を望む複合施設にあるカフェで、皐月は静かにカフェラテを飲んでいる。

質の良さそうなグレーのニットに白いプリーツスカート。長い髪は無造作にまとめられているが、その絶妙な抜け感に洗練を感じる。

華美ではないが垢抜けた雰囲気の彼女は、原宿生まれの原宿育ち、根っからのシティガールである。

しかし大手生命保険会社で働く夫・亮介の転勤により、結婚3年目を迎えた今年、高松に引っ越してきたのだ。

「ずっと東京にいて、東京しか知らずに生きてきたので、一度くらい地方で生活するのも悪くないかって。そんな風に甘く考えていたんですよね。でも実際に住み始めてみたら正直、友達もいないしどうしていいかわからないほど退屈で…そのうち、言いようのない焦りを感じるようになりました」


東京しか知らずに生きてきた皐月。地方暮らしで感じた“焦り”とは

夫・亮介の高松転勤に伴い、皐月は仕事を辞めている。

「本当は辞めたくありませんでしたが、高松でできる仕事ではないので…仕方ありません」

そう言って、皐月は諦めたように小さくため息を吐いた。

彼女のこれまでのキャリアはというと、都内の女子大を卒業したあと、まずは某子供服メーカーに就職したという。

営業職で4年ほど勤務したが、26歳のときに退職。

というのも、ちょうど亮介からプロポーズされたのと時を同じくして、中高時代の同級生が立ち上げたアパレルでPRをしてくれないかと誘われたらしい。

「亮介と結婚が決まったこともあり、思い切って会社を辞め、友人を手伝うことにしたんです。PRという職業は未経験でしたが、学生時代に読者モデルをかじっていたこともあり、女性ファッション関係のメディアには一定のツテがあります。

個人のInstagramもフォロワーが20Kほどいたから、そこで毎日コーディネートをアップしたり、影響力のあるインフルエンサーやモデルの子たちと仲良くなって展示会に来てもらったり。華やかで、やりがいのある楽しい仕事でした」

そんな風に語る皐月の表情は、これまでとは一転、生き生きとしている。彼女がアパレルPRの仕事にやりがいをもち、楽しんでいたことがひしひしと伝わった。

「人って、当たり前にそばにあるうちは、その価値に気づかないものですよね…。自分のいた環境がいかに華やかで刺激に満ちていたか。高松に引っ越して来て、そのことを思い知った気がします」



東京生まれ・東京育ちの皐月には、当然ながら高松に知り合いなどいない。

引っ越しの片付けや新生活の準備に追われているうちはまだ良かった。しかしそれも落ち着いてしまうといよいよ暇になり、時間を持て余してしまう。

日中、手持ち無沙汰についつい覗くのは、東京の友人たちが投稿しているInstagramの写真たち。

そこには、六本木や表参道のクリスマスイルミネーションや、新たに誕生した渋谷スクランブルスクエアの展望台・SHIBUYA SKYからの絶景、あるいは着飾った男女で盛り上がる某レストランのレセプションの様子なんかが続々と投稿されている。

ほんの少し前までは、皐月だって同じ空間に存在していた。

しかし今は、遠く離れた高松の、特におしゃれでもないマンションの一室で、キラキラ眩しい友人たちをスマホ越しに眺めるだけ…。

「その時、思い出したんです。誰だったかは忘れてしまいましたが、ある年上のお姉さんに言われた言葉を」

−刺激のない日々を送っていると、目がどんどん小さくなっちゃうわよ−

当時は「なんですか、それ(笑)」と笑い飛ばしていた皐月だったが、高松で思い出したそのセリフは、彼女の心を鋭く抉った。

「慌てて鏡を覗いたら、実際、もうすでに目が小さくなってしまった気がしちゃって。このまま田舎にいたら私、刺激から離れて、センスも鈍くなって、どんどんダサくなっていっちゃうんじゃないかって…焦りとか怯えとか、いろんな感情に押しつぶされそうでした」

こうして見知らぬ土地で孤独を募らせた皐月は、日に日に元気を失ってしまったという。


結婚3年目の危機。皐月は、地方転勤という試練を乗り越えられるのか…?

仕事もなければ、気の合う友人もいない。どうしても東京と比べてしまい、出かけたいと思う場所もない。

とにかく暇を持て余していた皐月にとって、唯一救いとなってくれたのは料理だった。

「東京にいた頃は、亮介も私も夜の誘いも多く、家で食事をすることの方が少なかった。でも今は、亮介もほぼ毎日家で夜ごはんを食べるんです。

特に料理が好きなわけでもないんですが、とにかく時間があるから、色々凝りだしたら楽しくなってきて。スパイスを買ってきてオリジナルカレーを研究してみたり、亮介の誕生日には前菜からメインのスペアリブまで、フルコースを準備しました。彼がすごく喜んでくれるので、作りがいがあります」



皐月はスマホを取り出し、いくつか料理の写真をこちらに見せた。

特に亮介の誕生日に作ったというフルコースは、テーブルコーディネートも含めてまるでレストランのような出来栄えで、彼女自身も誇らしげである。

しかしそうやって笑顔を浮かべたのも束の間、写真を見せ終えてしまうと、皐月は再び寂しげな表情で遠くを見つめる。

「ただ…いつまでこの生活が続くんだろうって、東京を恋しく思わない日はありません。亮介のことは好きだし、夫婦は一緒にいるべきだと思う。私自身も彼と一緒にいたいから付いて来た。けれど…やっぱり私だけ東京に戻ってもいいか、タイミングを見て相談しようかとも考えています」

結婚3年目、ついに訪れた夫の地方転勤。

最初からわかっていたこととはいえ、根っからのシティガールである皐月にとって、地方での生活という試練は想像以上に大きかったようだ。


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