「恋も仕事も順調」なんてあり得るのだろうか?

必死に仕事に打ち込んでいたらプライベートは疎かになり、

かといって婚活に精を出していたらキャリアを追い求めることは難しい。

今日も働く女子達は、仕事とプライベートの狭間で自分らしい生き方を模索している。

大手証券会社で働く、野村アリサ(32歳)は、問題児ばかりが集まる丸の内本店・営業8課の課長に任命される。

◆これまでのあらすじ

お荷物集団だった営業8課のメンバーである、三井祐奈と大和直樹はアリサの指導を受けて営業成績を出し始めてきた。意識高い系男子・東海林も二人の成長に焦り始めたのか、以前より成果を出すように。仕事は順調である一方、プライベートを充実させようと取り組んでいるお見合いは、なかなか上手くいっていなかったアリサだが・・・



ブルルルル・・・

震える携帯に目をやると、結婚相談所の久保田さんからの着信だった。

―何の用だろう?こないだ、真田さんとのお見合いを断ったことかしら。

全く上手くいかない自分を担当してもらっていることに、若干の申し訳なさを感じる。

それが彼女の仕事だと言ってしまえばそうなのだが、久保田さんの営業成績に少しでも貢献したいと思ってしまうのは、職業病だろうか。

重たい気分で電話に出ると、久保田さんは思いの外明るいトーンで話し始めた。

「こないだお会いされた真田さん、野村さんのことを凄く気に入ったみたいですよ!」

―私が断ったこと、真田さんの担当者から聞いてないのかしら・・・?

「そうですか。でも、前回お会いした時にお断りさせて頂いたんです」

久保田さんは「え?」と驚いた声を出して言った。

「そうだったんですか?真田さんは是非もう一度会いたいと言っているそうなんですよ」


一旦断った真田との2回目のお見合い。果たしてその行方は?

―もしかして、私との結婚を考えるために海外行きをやめることにしたとか・・・?

そんな大それた期待をしてはダメだ、と思いつつも、楽観的な思いが顔を出す。

―もしかすると、もう一度私に仕事を辞めてついてきて欲しいと説得してくる可能性もあるものね。

「前回お会いした時に真田さんにはお伝えしたのですが、結婚のために仕事を辞めなくてもいいということであれば、もう一度お会いしてみようと思います」

アリサはそう答えて、電話を切ったのだった。



久保田さんから電話をもらった2週間後の土曜日。

アリサは、真田に会う為に丸の内に来ていた。

日曜日の『ポム・ダダン』は静かな雰囲気で、窓際の席からは明るい陽を浴びたテラス席が見える。

あの後、久保田さんに確認してもらったところ、真田はアリサに仕事を辞めて欲しいという意向はないらしい。それ以上のことは教えてもらえなかった。

今日の真田は前回のようなスーツではなく、品が良く落ち着いた色のセーターを着ており、カジュアルな雰囲気で親しみやすさを感じる。

アリサは窓の外に目をやりつつ、真田の口から語られる言葉を静かに待っていた。

「あの後、色々考えたんです」

真田も自分の話にアリサがどう反応するのか緊張しているようで、この季節にそぐわない汗を額に浮かべていた。

―この人は、きっと職場では仕事が出来る人で通っているのかもしれないけれど、恋愛は得意じゃなさそうね。って人のこと言えた義理じゃないんだけど・・・

真田がぎこちなくコーヒーを飲む様子を見て、アリサはそんな風に思う。そしてそんな姿に、より一層親近感を感じてしまうのだった。

「正直に言うと、僕はアリサさんのことをとても気に入ったんです。前回、結婚する為に仕事を辞めるつもりはないと言い切ったところも芯があって素敵だと思いました」



真田の言葉でアリサは、体の中がじんわりと暖かくなるのを感じた。

「これまで長いことお見合いをしてきて、なかなかいい相手に巡り会えなかったんですが、アリサさんに会って、こういう人が自分の理想の相手だと思えたんです」

「でも、海外駐在はどうするんですか?」

アリサは、はやる気持ちを抑えなきゃと思いつつも、堪らなくなって尋ねた。

「はい。海外オフィスでの経験は、僕のこの先のキャリアには欠かせないので、行かないといけないんです」

真田のその言葉にアリサはガックリしてしまう。真逆の返答を期待していただけに、悲しくなった。

そんなアリサの表情を見て、慌てたように真田は付け加えた。

「あっちに行く期間は、決まってないのですが、短くて3年、長くて10年です。お互い仕事があるので“別居婚”というスタイルはいかかがですか?」


別居婚を突然提案された、アリサの反応は?

―そういうことか。

即答することが出来なかった。

アリサも真田のことを気に入っているのは間違いない。だけど、先のことを色々考えるとすぐには判断が出来なかった。

かといって、この話をなかったことにしても、次にいつ結婚したいと思う相手に出会うか分からない。

「うーん」と何も言えないでいるアリサの顔色を伺い、真田は説得するように続けた。

「海外といってもシンガポールなので、毎月日本に帰ってきます。こっちでの仕事もありますから」

真田がそこまで二人のことを真剣に考えてくれたということは、素直に嬉しい。

だが、それでも答えはすぐには出てこなかった。



数日前、8課のみんなで数字を詰めている時のこと。

1課の課長・高木が、アリサのもとを訪れ、債券の予算が終わっていないことについて問い詰めてきた。

「本当にこの数字、終わらせられるの?出来ないんだったら早めに諦めてよ」

高木はいつも上から目線で、その上、驚くほど威圧的だ。アリサは内心うんざりしていたが、顔色を変えずに答える。

「大丈夫です。ご心配なく」

そんな素っ気ないアリサの返答はきっと火に油を注いでいるのだろう。高木はイラつきを隠すことなく不愉快な視線をアリサに向け、ふんっと聞こえて来そうな勢いでその場を去っていった。

「まともに相手にしない方がいいですよ」

大和がアリサに向かってそう言った。きっと、高木が去った後、自分の感情が思いっきり表情に出てしまっていたのだろう。

「そうですよね」

と、アリサは軽く笑って返す。

そのやり取りを見ていた祐奈も、パソコン越しに顔を覗かせて怒りの表情だ。

「あんな言い方、はっきり言って、ムカつきますよね。1課にだけは絶対に負けたくないですよ」

「まあまあ。あの人も真面目に仕事してるのよ」

そんな風に祐奈を諌めるアリサだったが、内心は自分と同じように負けたくないと思ってくれる部下がいることに救われる。

その夜も、みんなが帰宅した後の8課には祐奈だけが残っていた。

パソコン画面をぼーっと見ながら、頭を抱えている。



この数日のアリサの気がかりは、祐奈が予算を落とさずにやり終えるのかということだった。

祐奈が仕事を真面目に頑張り始めてからというもの、お客様も目新しさから提案を色々と聞いてくれていたに違いない。

だがそろそろ、そんな動きも一巡して、祐奈自身も仕事に手詰まり感を覚え始めているようなのだ。

何か声をかけてあげたいのだが、祐奈自身が誰よりもこの数字を終わらせたいと思っているのが手に取るようにわかるため、上手く言葉が見つけられない。

こんな時に管理職という仕事の難しさを痛感する。

結局、色々と悩んだアリサだったが、祐奈に対しては黙って見守ることにした。

『一度出来る自分を知ってしまうと、出来なくなった自分には戻れない』

彼女はきっと自分と同じタイプの人間だ。もうこのスパイラルに片足を突っ込んでいる。どの道、やらないという選択肢は彼女の中にはもうないだろう。


▶︎Next:1月24日 金曜更新予定
最終回:真田に対して、アリサが出した決断は?そして祐奈も大きな決断をする!