ピンク。プリンセス。キラキラしたアクセサリー。ふわふわのスイーツ。

子供のころから変わらない、大好きなものに囲まれて生きていたい。

それなのに…社会の最前線で男性と肩を並べて働く私は、女を捨てて男のようにふるまわないといけないの?

私、ピンクが好きってダメですか?

◆前回までのあらすじ

“美人すぎる研究員”としてメディアにも出演する笹本桜(27)は、その仕事ぶりからは想像もつかないほど、ガーリーで可愛らしいものが好き。

そんな桜は、男勝りな同級生、石川夏希(27)と再会したことで高校時代の黒歴史と直面することに…



「桜、そんなに飲んで大丈夫なの?」

「え?そんなにって?」そう言いながら、桜は不思議そうに夏希に向かって顔を上げた。

メインディッシュまではまだまだ程遠いのに、二人で前菜をつまんでいるうちに1本目の白ワインがあっという間に空になっていたのだ。桜はすぐさまワインリストを手に取り、真剣な面持ちで2本目を選んでいた。

「だって、笹本さんは全然お酒飲めないんですって会社の人が言ってたから」

「…うーん。そう思われていた方が都合がいいかなって」

「なるほど。下戸ってことにすれば会社の飲み会パスできるから?それとも無駄なデート回避のため?」

桜が「えへへ。どうかな」と笑ってごまかすと、そのかわいらしさに夏希は圧倒されてしまう。

今日は約束の土曜日。桜と夏希は、吉祥寺の『リストランテ プリミ・バチ』に来ていた。

吉祥寺は二人が通っていた高校がある街で、女子高生時代の思い出の場所だ。普段は恵比寿や銀座で女子会をすることが多い桜だったが、せっかくの夏希とのディナーである。思い出深いこの街は、二人の再会の場所としてこの上なかった。


思い出話で盛り上がる二人。酒が進むと本音が出始め…?

「でもね、デートしてる制服姿の高校生見ると、今でもちょっと胸がチクっとするよ。私もあんな青春送りたかったなって」

桜は2本目のワインのおかげか、ほんの少しだけ頰を赤らめながら言った。

「私だって制服デートの思い出なんてないよ。部活帰りにチームメイトとファストフードとかファミレスに行ったのはすごく楽しかったけど」

「たしかに、夏希ちゃんの恋バナって当時も聞いたことなかったかも。男子にも女子にもあんなに大人気だったのに、高嶺の花だったのかな」

「その話なんだけどさ…」

夏希は急に視線を落として小声になる。

「え?何?そうだ。夏希ちゃん相談したいことがあるって言ってたよね」

「ああ、うん。ごめんごめん、なんでもない。もう大丈夫。解決したんだ」

夏希が慌てて取り繕うので、桜もどうすれば良いのかわからずそれ以上の言葉が出ない。

「それなら良いの…。なにかあったらいつでも相談してね」

桜はそう言うと、今日の目的だった高校時代の夏希に助けられたエピソードのお礼をした。

桜がとにかく“ダサく、イケてなかった”こと。受験が終わった瞬間から死に物狂いでダイエットやスキンケアに取り組み、見事大学デビューを果たしたことなどを、桜は面白おかしく話し、二人で何度も大笑いした。

「私、読モもやったし、ミスコンにも出た。それでも絶対に学業だけはおろそかにしたくなかったから、必死に勉強して主席で卒業したんだよ」

お酒が回って来た桜は、気づくといつもより饒舌に自分のことを話していた。普段は「しっかりしていなきゃ」という気持ちが強く、酔って自分語りをするようなことなど滅多にない。やはり同級生という特別な相手に、桜はすっかり気を許していた。

それは夏希も一緒だ。二人の間には、長年のブランクがあったとは思えないほど、おしゃべりと笑い声が途絶えることはなかった。

「ほんとすごいね。桜のそのモチベーションはどこから湧いてくるの?」

「自分でもわからない。でも、夏希ちゃんに言われた“自分を好きになるための努力”をし続けたいとは思ってるんだ」

「で、好きになれた?」

「うーん…。そうだね。高校時代よりはずっと!」



結局この日は2軒ハシゴし、ずいぶん酔っ払いながらもとても楽しい時間を過ごすことができた。

井の頭公園近くの道を歩きながら、桜は夏希にふざけて甘えるようにピタリとくっつき腕を絡める。

「夏希ちゃんがうちの会社に来てくれて本当に嬉しい。これからもよろしくね」

この晩、桜はいつものスキンケアやマッサージどころか、メイクを落とさずにいつの間にか眠ってしまっていた。翌朝の日曜日は、すぐにそんな悲惨な状況に気づき、小さな悲鳴を上げて飛び起きた。いつもだったら自分を責めて自己嫌悪で立ち直れなくなるはずだが、「そういう日があってもいいのかも」と少し自分を許せる気がしたのだ。

「ただし、何年かに1回。…ううん!これが人生で最初で最後」

そんなことを一人でブツブツ呟きつつ、夏希に昨日のお礼をしようと、スマホを手に取る。

「あ。夏希ちゃんから先にLINE来てた」と、呟きながらメッセージを開くと、昨日のお礼とともに、不思議なことが記されていた。桜は、夏希の真意がまったくわからずに首を傾げる。

「え?夏希ちゃん何を言ってるんだろう…。どういうこと?」

【桜、昨日はありがとう。飲みすぎたけど、すごく楽しかったよ。また飲もう!それでお願いがあるんだけど、私の代わりにデートに行って欲しんだ】

桜は二日酔いの、寝ぼけた頭で何度もそのLINEを読み返す。ようやく頭がはっきりしてきてもやはりまるで意味がわからない。

「私の代わりに?デート?」

桜はさすがに【え?どういうことかな?】としか返事を返すことができず、既読になるのを待った。

まったく状況は理解できないが、昨夜酔っ払った夏希が「私も桜みたいになりたい」と何度も呟いていた横顔がふいに浮かんだ。


夏希の爆弾発言に、桜は絶句する。思いもよらない展開に…

そういえば「男だったらみんな桜を好きになる」とも「振られたことなんてないでしょ」とも言われた。桜としては、もちろんそんな実感はないから「そんなことないよ」としか返せなかったが、もしかしてあのやりとりには何か真意があったのだろうか。

半ば冷やかしのようにそう言われることは、慣れていた。おだてられているのか、からかわれているのか桜はいつもよくわからず、適当にかわす癖がついていた。

ただ、昨夜の夏希の口ぶりは、なんとなく少し気がかりだった。彼女は楽しそうに笑っていたし、口調に悪意は一切ない。

桜は「昔からずっとみんなの憧れの存在である夏希」に、何度もそう言われることが単純に不思議だったのだ。

なかなか既読もつかないので、桜はシャワーを浴び、昨夜すべきはずのスキンケアを入念に行った。やっぱり1日洗顔をさぼるだけで肌触りが違う…なんてことを実感しているうちに、ようやく夏希からの返事が来た。


「……!?」

スマホを手に取り、その驚愕の内容を見た途端に時間が止まった。絶句とは、このことを言うのだろうか。

【桜、ごめん。私、婚活サイトで出会った人とメッセージのやりとりで仲良くなったんだけど、どうしても自分に自信がなくて、デートができません。だから私の代わりに会って来て欲しい】

【夏希ちゃん。それは、私に夏希ちゃんのふりをして欲しいって言っているの?それで仲良くなれたとしても意味ないよね??だって、私いつまでも夏希ちゃんのふりできないよ】

【私も自分で何言ってるかよくわかんない。ただ、もうデートの約束しちゃったんだけど、このままだと怖くて逃げ出しそうで、どうすれば良いんだか分からないんだよ。実は、私、男性とデートをした経験がないんだ】

「ええええ?!もう、どういうことなのよ」

ここまでメッセージのやり取りをして、桜は頭を抱えて一人でそう叫んでしまった。あの美貌の夏希がデートしたことがない?どうしてそれを昨日言わないの?婚活なんて初耳だけど?!

【これが私ですって、桜の写真、相手に送っていい?】

桜はこれではラチがあかないと思い、慌てて電話をかけた。そして、こう叫んだ。

「夏希ちゃん!そんなのダメに決まってるでしょー!」

夏希の返事は当然…「だよね」の一言だ。

「言いたいことも聞きたいこともたくさんあるけど、応援するから、頑張ってよ。協力できることはするし。で、デートっていつなの?」

「今日」

「今日!?」

「協力してくれるの?じゃあ、一緒に来てくれる?」

「それはさすがにまずいんじゃない?だって、デートに友達連れて行くのは失礼でしょ」

「じゃあ、断るしかないか…」

夏希は、ぽつりと言った。これは一体どういう状況なのか、全貌がまったくわからない桜ではあったが、見放す気にはなれなかった。



―今度は私が夏希を救う番。

「夏希ちゃん、今からうちに来れる?私の服貸すよ。メイクもしてあげる。わかりやすいモテ系目指してみよう」

桜は、やれやれとため息をついた。「モテるために女の子らしくしているつもりはない」というのは桜のポリシーだったが、こんな提案を自分ですることになるなんて。

―でも、親友のため。

そう。桜はそのとき思ったのだ。私と夏希はこれから親友になる。そんな未来が、ふいに見えたような気がした。

夏希は「急いで向かう」と言い、電話を切った。訪れた夏希は事情を説明するが、その内容にまた桜は驚愕するのだった。


▶NEXT:1月27日 月曜更新予定
夏希の置かれている状況を知り、桜は困惑する。彼女の悩みに、桜は胸が締め付けられて…