―人生は選択の連続であるー

人は何を基準に「選択」するのだろうか。

安定・お金・愛?

29歳の岐路で、自分の選択基準を“安定”から“好き”に変えた女がいた。

何かを掴むために自ら動きだしたものは、運命すら変える力を持つ。

インフルエンサーのマネージャーという未経験・異業種の世界へ飛び込んだことにより、

平凡だった彼女の運命は、周囲を巻き込みながら大きく動き始める…。

◆これまでのあらすじ

マネージャーに転職して3ヶ月。マネージメントを担当する料理家インフルエンサーの沙穂を起用した案件で思うような結果が出ていないため彼女の契約を解除すると、上司の小林から言われる。なんとか起死回生を狙い、営業担当の拓郎と策を練るが…。



「すご〜い!クルーザーの中ってこんな風になってるんですね」

梓と拓郎は、湾岸にあるクルーズ会社を訪問したついでに、クルーザー内を案内してもらっていた。

「インテリアもラグジュアリーな雰囲気だし、ここで撮影したらかなりいい感じの写真が撮れそうだよ、広瀬さん!」

梓と拓郎は、興奮気味でクルーザー内を歩き回りながら意見を交わす。

「海の風を感じながらデッキで撮影するのもいいかも。いやー、この開放感たまらないな」

撮影ポイントなどの情報収集をした2人は、そのままお台場へと移動し、『エッグスンシングス お台場店』で遅めのランチをとることにした。

バレンタイン前のお台場は、華やかな雰囲気に彩られ、どこか足取りの軽いカップルたちで賑わっている。


休日返上の仕事が拓郎と梓の距離を一気に縮める!?

「原田さんが考えてくれた、マユさんと沙穂さんのコラボレーションって本当にいいアイディアですよね」

ふわふわのホイップクリームが乗ったパンケーキを前に梓は上機嫌で拓郎を持ち上げる。

拓郎は、マユを起用することで進めていたクルーザー会社の案件に、コラボレーションという形で、料理家の沙穂も一緒に起用するという考えを提案したのだった。

クルージング内での持ち込みパーティー料理を沙穂に作ってもらう計画だ。

「クライアントも好意的だったしね。マユさんとコラボレーションすれば知名度を上げる効果もあるし、沙穂さんの知名度が上がってフォロワーが増えれば、小林さんも契約を継続する方向で考え直すと思うよ」

「だといいんですけど…」

上司である小林の名前を耳にした途端、梓の表情に陰がさす。

今回のクルーザー会社の案件がクライアントからも好評で、さらに沙穂の知名度が今よりも上がることになれば、小林も考えを改めるかもしれなかったが、まだどうなるか分からない。

拓郎は、梓のそんな不安な気持ちを察したのか、気を遣って散歩を提案してくる。

「きっと、うまくいくよ!ところでさ、せっかくだから食べ終わったらこの辺りを散歩しようよ」

そのさりげない優しさが梓の心にしみた。


「ここのビーチを歩くの、久しぶり〜」

梓は思わず懐かしくなってはしゃぐ。

「俺もだよ。学生の頃、ここでバーベキューしたことあったなあ」

お台場のビーチを歩きながら、楽しそうに話す拓郎の横顔を見上げて、梓はふと思う。

ー原田さんって、ただの体育会系だと思ってたけど、実は人のことをよく見てるし気遣いやさんなんだなぁ。

すでに日が傾きかけている砂浜で、移りゆく空の色に照らされたレインボーブリッジや東京タワーを見つめる拓郎と梓。

「きれい…」

仕事で来ていたことなんてすっかり忘れて梓は拓郎との時間を味わっていた。

言葉にはしないが、拓郎も同じようにこの時間を楽しんでくれている空気が2人の間に流れる。

「…もし良かったらさ、このあと夕飯も一緒にどう?」

拓郎が、少し照れくさそうに梓を誘ってきた。


夜は順也との約束があるのに、拓郎からも誘われた梓はなんと答える?

「えっ?」

―行きたいけど、今夜は宮部さんと約束が…。

本音では拓郎と一緒にいたいと思っている梓だが、順也との約束を破るわけには行かない、一瞬の間に色々考えてみるが断る以外に思い浮かばなかった。

返事につまっている梓に、「あ、予定あった?」と拓郎は聞いてくる。

「すみません。今日はこの後ちょっと予定が…」と申し訳なさそうに答える梓に、「だよね、週末の夜だしね」と拓郎は、苦笑いの表情を浮かべた。

「だ、大学時代の友達と約束があって」

梓は、予定を聞かれてもないのに咄嗟に嘘をついてしまう。

「そっか。楽しんできてね。そしたら、そろそろここ出なきゃじゃない?」

梓の言葉を疑うことなく屈託なく話す拓郎をみて、胸がチクリと痛む。





ー少し遅れちゃいそう…。

お台場についつい長居してしまい、待ち合わせの時間ギリギリになってしまった梓は、急ぎ足で順也との待ち合わせ場所の『リストランテASO』へと向かった。

「すみません、仕事だったので、少し遅れてしまって…」と謝る梓に順也は優しく微笑んだ。

美味しい食事に、順也のスマートなエスコート、そしてウィットに飛んだ会話。

完璧な時間を過ごしながらも、昼間一緒に過ごしていた拓郎のことが何故か頭に浮かんできてしまう梓だった。

食事が終わると順也に、「もう一軒どう?」と誘われたが、なんとなく気乗りせずに、梓は「明日の朝早いので」と丁重にお断りした。

土曜の22時。二人は店を出て駅に向かって並んで歩いていた。



ちょうどその頃、拓郎はお台場から帰宅した後、自宅のある中目黒から散歩がてら代官山蔦屋へと向かっていた。

そんな拓郎の視界に、突然、昼間会っていたはずの梓が飛び込んできた。

―あ、…広瀬さん?一緒にいるのって、もしかして、クライアントの宮部さん…?


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軽い気持ちでついた嘘が思わぬ事態に…?