男女の友情ほど脆いものはない。

どちらか一方が恋心を持つと、絶妙なバランスは一気に崩れる。

満たされぬ思いを誤魔化すため、人は自分に嘘をつく。

満たされない女と男の、4話完結のショートストーリー集。

1話〜4話は『片想い』、5話〜8話は『運命の人』をお送りした。9話〜12話は『曖昧な関係』をお届けする。

◆これまでのあらすじ
彼氏にフラれ落ち込む夏凛が友人の凌平に慰めてもらうも、凌平が結婚を考えていると知りショックを受ける。



『男女の友情は成立するか』

そんなありふれた議論をするとき、俺は決まって「する」と言い切る。

そもそも初等部の頃から一緒の女子たちは、今では性別を超えた友人だがその中でも、夏凛は数少ない異性の親友だ。

ーだけど最近。

”異性の友人”へ抱くべき正しい感情というものが、よくわからなくなっている。 

「凌平って、夏凛にはなんでそんなに心許してるの?」

誰かからそんな言葉をかけられるまでは、自分でも自覚がなかったのだが、どうやら俺にとって夏凛は特別な存在らしい。

夏凛は、社交的で友達も多く、人当たりもよい。だが、自ら群れることもなければ、媚びることもしない。そんなわが道を行く姿に、どこか共鳴しているのかもしれない。


女友達として、特別な存在の夏凛。しかし、徐々にその感情に変化が…?

あの日、彼氏にフラれたという夏凛は、妙に明るく振る舞っていた。でも、俺には痛いほど伝わってきた、夏凛が落ち込んでいることが。

いつもなら、俺が披露する最近会ったヤバい女エピソードに夏凛が大笑いしたり、仕事や将来の夢を真剣に語ったりと学生の頃から変わらない話をするのに…。

「それでね、うちの部署のお局のおばちゃんがね。てか、凌平聞いてる?ねえ、凌平!!」

恋人の麻里の声がワントーン高くなったところで、現実に引き戻された。どうやらしばらくの間、夏凛のことを考えていたようだ。『カフェ・ジタン』で、麻里は大好物だというベジタブルクスクスを口に運びながらも、不機嫌そうにしている。

「…んあ、ごめん。何、聞いてなかった」

「もう〜!だーかーらー。うちの部署のお局がね…」

麻里は今日も、一日の出来事を時系列に話している。朝の満員電車がストレス。会社に意地悪な人間がいる。ランチが美味しかった。帰り道バッタリ友人に出くわした。そんなオチのない話を永遠にしている。正直いってなんの興味も沸かない話だが麻里だから許せるところもある。

ふと気づくと、いつもの“聞いているふり”すら怠ってしまっていたようで、麻里は頬を膨らませている。

「ごめんごめん、聞くって。お局がどうしたって?」

「もう、その話はもういい!それよりさ、夏凛さんが彼氏と別れたからって、変に優しくしすぎないでよ!」

どうやら無意識のうちに、口を滑らせて夏凛の話をしてしまっていたらしい。いや、別に麻里に隠すことではないのだが。

「夏凛はただの幼馴染だから、女として見てないし、今更どうこうなるとかありえないから」

そう説明しても、麻里は納得してないらしいが、ふくれっ面の愛らしい顔に、妙に可愛らしい色気を感じてしまう。麻里のこういう素直なとこに、俺は惚れているのだとフト思う。

「わかったわかった、ごめんな!でも、本当に夏凛とはなんでもないから。だって、こうして俺は麻里を選んでるんだから」

よしよしと麻里の頭をなでると、満足したような笑顔を見せてくる。

それにしても、なんで女というものは、こうもすぐにいらぬ心配をするのだろうか。誰がどう見ても、俺と麻里の間に流れる甘い空気の方が、他の人間が割って入れないものだと思うのに。



翌日は、ここ一番のプレゼンの日だったこともあり仕事に備え22時過ぎには解散し、俺は自宅へと向かった。

…正確には、向かうつもりだった。


大事な仕事の前日。恋人と別れた凌平に待ち受けていた出来事が夏凛との関係に変化をもたらす…。

タクシーに乗り込みスマホをチェックすると、不在着信には懐かしい友人の名前があった。何事かと思い折り返すと、電話口から聞こえてきたのは異様にテンションの高い夏凛の声だった。

「やっと繋がったー!何してんのよ、今。早く目黒きてよー!!ゼミのみんなで飲んでるー」

夏凛は明るい性格ではあるものの、本来、酔ってお調子者になるタイプではないはず。

「お前、相当飲んでるだろ?」
「えっ、全っっ然〜!!」

明日大事な仕事があると一旦は断ったものの、妙にテンションが高い夏凛のことが気になり「1時間くらいなら」と現場へ向かう。だが、到着した頃には、もう解散しようとしている面々。

「凌平おせーよ!何度電話したと思ってんだよ」
「わりい。てか、もうみんな帰んの?」
「いや、こいつはまだ飲みたがってる、あとは頼んだ!」

そういって夏凛を託されたのが23時前。1杯だけ付き合うつもりで『ラ メゾン ダミ』に入ったのだが。

―それがどうしてこうなったのか。



2人で飲み始めると、夏凛はポツリポツリと話し始めた。

元カレに婚約者がいた…。自分はどうしてずっと気が付かなかったのか、と。珍しく夏凛が涙目になった頃、店が閉店時間になり、すぐ近くの俺の家でもう少しだけ話を聞くつもりだった。

そして、明け方3時半。

ー夏凛の側についてあげられてよかった。

泣き疲れたのか、ようやくソファで寝息を立て始めた夏凛の横顔を眺めながら、思った。他の女ならどんなに下心があろうとこんなに優しくはしないだろう。だけど、夏凛のことは放っておくことができなかった。

―俺がなんとかしなくては。

無意識のうちに、そんな思いに突き動かされていたのだ。

確かに明日は大事な仕事だが、睡眠不足で大事なプレゼンに臨むくらい何度も経験していることだ。それより、この状態で夏凛を放置できないという自分の感情の方が勝った。

泣いている夏凛を慰めながら、つい抱きしめてしまいたくなる衝動に駆られたが、それは親友としての情から来るものだろう。

そう思っていた。

…この時までは。


▶Next:4月1日 水曜更新予定
この夜をきっかけに、夏凛と凌平の関係に変化が訪れる…?