男女の友情ほど脆いものはない。

どちらか一方が恋心を持つと、絶妙なバランスは一気に崩れる。

満たされぬ思いを誤魔化すために、人は自分に嘘をつく。

満たされない女と男の、4話完結のショートストーリー。

1話〜4話は『片想い』、5話〜8話は『運命の人』をお送りした。9話〜12話は『曖昧な関係』。

◆これまでのあらすじ
彼氏にフラれ落ち込む夏凛が友人の凌平に慰めてもらうも、凌平が結婚を考えていると知りショックを受ける。ある時、中々失恋の傷が癒えない夏凛のため、凌平が、朝方まで夏凛の話に付き合い家に泊めたが…。



―夏凛:昨日はありがと。元気出たよ!!(^^)!

―Ryohei:おう。なんか久々に見た気がする、その顔文字(笑)また飲もうぜ!

週明けの月曜。

仕事の合間に、4日前の凌平とのLINEをぼんやりと見返していた。

いつの日か、「その顔文字、なんか夏凛ぽくていいな」って私に言ってくれたことふと思い出し、スマホをギュッと握りしめる。

凌平の家に泊まるなんていつ以来だったかな…。学生の頃はみんなでよく誰かの家に集合して飲んだりしてたけど。社会人になってからは、凌平の部屋に泊まったことなんてなかった。

そして4日前、目黒の凌平の家に泊まってから、私の心は彼に支配されているような気がする。


夏凛が自分の気持ちに気づいた瞬間とは?

凌平と2人で飲んでいて、そのまま彼の部屋で失恋話を語り泣きつかれて寝てしまった、あの日。

気が付くと、凌平がレッドブルを飲みながら、パソコンに真剣に向かい合っている姿が目に入ってきた。

あ、明日大事なプレゼンがあるって言ってたっけ。ふと、凌平との会話を思い出す。

―ありがと…。そんな大事な時に一緒にいてくれて…。

パソコンに向かう彼の大きな背中をみた時、なんだかとてつもなく深い愛情に包まれているような気持ちになり、安心した。

次の日、眠気と戦いつつ仕事をしながらも、凌平の背中を思い出すと嬉しくて温かな気持ちになった。そんな自分に気が付いたとき、ようやく腑に落ちた気がした。

―あぁ。私、凌平のことが好きだったんだ。

いつ友人としての情が恋愛感情に変わったかはわからない。でも、そう認めることで、これまでの自分の感情に説明がつく。

自分の気持ちを認めた瞬間、じわじわと、しかし確実に、体中が凌平への想いで満たされていった。それは、恋い焦がれるような激しい気持ちではなく穏やかな感情だった。

…だけど。

そんなことを思ったと同時に、自分で自分をけん制するかのように、あのセリフが脳内に割り込んでくる。

『今の彼女と結婚も考えている』

凌平が私に特別な感情を抱いてくれている自信はある。…だけど。それはあくまで、大事な友達として、なわけで…。

「夏凛、どうしたの?物思いにふけっちゃって」

「え?いや、なんでもない。…私、仕事頑張るわ。明日のクライアントへの提案資料って、どうなってるっけ?」

「なんか変なの〜」

意味わかんないと笑う同僚を横目に、私は必死にキーボードを打ち続けた。想定外な自分の心境の変化に戸惑いながらも、こうして何かに没頭していると、気分を紛らわせることができる。

つい数日前まで、元カレのことで落ち込んでいたはずなのにと、今は凌平への気持ちに気づき、叶わない恋に気が滅入っている。

「何やってるんだろう、…私」

ふと漏れそうになる独り言をかき消すように、私は一心不乱に目の前に溜まっている仕事を消化し始めた。

しかし、そんな時に限って、示し合わせたように現れるのだ。

こういう男が。



「ねえ、夏凛ちゃん。まじでかわいいよね?ヤバイ、俺めっちゃタイプなんだけど」

夜遅くまで働き、会社の同僚と一杯だけ飲もうと立ち寄った『バーオーク』。そこに偶然居合わせた、同僚の友人・陽太。

「誰にでも言ってるんじゃないですか〜?」

「そんなことないよ。本気で惹かれた子しか口説かないよ」

弱っている身にとって、有無を言わさぬ勢いで口説いてくれる男の存在はありがたいことこの上ない。

「私、チャラい男嫌いですよー」

「いやいや、好きな人には一途だよ?俺」

口ではそんなことを言いながらも、モテそうな男からの熱烈アピールは、女としての自信がどんどん取り戻されていくような気がする。

私、この人のことを好きになった方がいいのかな…。


夏凛の前に突如現れた陽太。しかし、陽太をきっかけに、凌平との関係に変化が…?

「それでね、その陽太さんって人、青山一丁目にマンション持ってるんだって!すごくない?33才の若さでだよ?」

外資系コンサルタントとして働く陽太は、その後も熱心に私を誘ってきてくれた。完全に向こうのペースに巻き込まれる形だが、順調にデートを重ねている。

ちょっと強引なくらいが、今の私にとっては心地良い。

『Vineria LUNA LUCE』で、この前のお礼と称し、凌平とご飯を食べながら近況報告をしていた。こうやって自分の恋愛話を披露することで、凌平はただの友達なのだ、と自分に言い聞かせることができる気がした。

友達として、いつも通り楽しい時間が過ごせそう。そう思っていたのだが…。

「大丈夫か?その男」

「え、凌平、もしかして嫉妬してる?」

「ちげーよ、バカッ」

『嫉妬して欲しい』これが私の本心だって真面目に言ったら、凌平はどんな反応を見せるのだろう。

「それより、本当にその男は大丈夫なのか?また、痛い目あったりしないのか?」

「大丈夫!だって彼、私のことすごく好きって言ってくれるもん。凌平、私に幸せになってほしくないわけ?」

喧嘩したかったわけじゃないのに。気が付いたら憎まれ口を叩いている自分に嫌気がさす。

「俺、夏凛には、しあわせになってほしいから心配してるんだけど?」

凌平の真剣なまなざしが、心に突き刺さる。…わかってる。凌平が心配してくれてることは。痛いほどに。私だって、陽太と付き合ったら幸せになれるか、正直よくわからない。…だけど。早く凌平への気持ちを断ち切るために、こうやって次に進もうとしてるんじゃん…。

「なにそれ、父親気取り?凌平、全然わかってないよね、私のこと」

「なんだよそれ、意味わかんねーよ」

「もういい!!」

気が付くと、私は滲みそうになる視界の中、コートとカバンを手に店の外に飛び出していた。



煌々と輝く東京タワーに引き寄せられるように、桜田通りを赤羽橋の交差点に向かって1人歩きながら、思った。

―私、ずっと自分の気持ちに嘘ついてたんだ…。

その気持ちを自覚してしまった今、凌平を目の前にすると、器用に自分の感情をコントロールすることができなくなってしまったらしい。 

―もう、友達ではいられないよ…。

行き交う車のキラキラするライトを茫然と見つめていたら、そんな思いが込み上げてきた。


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―第3章―最終回。自分の気持ちを抑えられなくなった夏凛。凌平との関係の行く末とは?