夫は外で働き、女は家庭を守るべき。

自分は、共働き賛成、バリバリ働く妻・大歓迎。

しかし、自分よりも圧倒的に稼ぐ妻を持ってしまったら…?

すれ違っていく、金銭感覚、価値観、ライフスタイル。

超ハイスペ妻と結婚した夫は、一体どうなる…?

◆これまでのあらすじ

無事に仲直りを果たした、康太と玲。その裏で、舌打ちする1人の女がいた。ウルウルビームで康太の心を惑わせた、麻里亜の胸の内とは…?



「はあ、つまんない男。次、次」

康太にメッセージを送ったのは、8時間前。それからずっと未読のままだ。

もう返信がくることはないだろう。麻里亜は、康太とのメッセージを、スレッドごと削除した。ついでに、Facebookの友達からも削除しておく。

−ほんと、男って分かりやすい生き物よね。

自分に興味がある時は、ほんの数秒で返事が返ってくるというのに。

心の中で、チッと舌打ちを打ちながら、麻里亜は次なるターゲット探しを始める。

手当たり次第、会社の同僚や知り合いに友達申請をし、全員にコピペのメールを送る。

“こんにちは。秘書部の水野です。Facebookで発見して、つい友達申請しちゃいました。よろしくお願いします!”

抹茶ラテを飲みながら、ペラペラ雑誌をめくっていると、立て続けにメッセージが届いたことを知らせる音が鳴った。

−ほーらね。男なんか簡単に釣れるんだから。

メッセージを確認した麻里亜は、吐き捨てるようにつぶやく。

“水野さん、連絡ありがとう!”

“連絡もらえるなんて嬉しいよ”

彼らからのメッセージを眺めながら、麻里亜は憎しみに満ちた、低い声でつぶやいた。

「私って、こんなに需要があるのよ」


麻里亜が憎たらしく思っている、その相手とは…?

イタすぎる、夢見がち男


あれは、2ヶ月前の出来事。

「麻里亜、別れて欲しい」

当時付き合っていた彼が放った残酷な一言は、今でも忘れることが出来ない。

その言葉を発した、憎き男の名前は、竹田誠一。丸の内の中堅法律事務所で働く、企業弁護士だった。

友人の紹介で知り合ったが、誠一から食事に誘われたことをきっかけに仲を深めて付き合うことになった。

彼は、真面目すぎるほど真面目な性格で、倹約家。見栄やプライドのためにお金を使うことはないような人間だった。

趣味は読書で、暇さえあれば読書に耽っていた。

記念日のレストランやプレゼントは麻里亜の好きにさせてくれたが、“派手”という言葉からは縁遠い。

地味な雰囲気だったが、洋服もこざっぱりしていて清潔感がある。結婚相手にはもってこいのタイプで、付き合って2年、そろそろプロポーズがあるだろうと思っていた矢先の出来事だった。



『トラットリアイルポンテ』で食事を終え、このまま誠一の家に行くものと思いながら、中央通りに向けて歩き出したタイミングだった。

「どういうこと?あんまりにも突然じゃない…」

麻里亜が困惑しながら聞き返すと、誠一は足を止めた。

「少し前に参加した同窓会で、初恋の人と再会したんだ。その時は懐かしい、淡い恋の思い出くらいに思っていたんだけど…」

そう言って、大して美しくもない夜空を見上げながら、悦に入ったように彼は続ける。

「後日、彼女から連絡がきた。久しぶりに会ったら、“私、誠一くんのことまだ好きなの”ってさ。思わず聞き返しちゃったよ。“まだってどういうこと?”って」

麻里亜は、それを呆然と眺めることしかできない。もはや、自分は何を見せられているのだろうか。

「友里恵さんは続けたんだ。あ、友里恵さんっていうのは彼女のことね。中学時代からずーっと誠一さんのことが好きだったって」

“ユリエさん”という言葉を発した時の、少し照れくさそうな彼の顔を見た瞬間、麻里亜の心のシャッターが勢いよく降りてきた。

もうどうでも良い。早くこの場から逃げたいと思った。

「だから麻里亜は悪くない。ただ僕が、初恋を追ってしまう、それだけのことなんだ。許してくれ」

「もう結構です。さようなら」

最後まで誠一は自己陶酔感マックスで、自分の劇場を続けていた。こんな男と付き合っていた自分が恥ずかしい。

麻里亜は、頰をひっぱたいてやりたい気持ちをぐっと堪えながらその場を立ち去り、運良くつかまったタクシーに飛び乗った。

家に着くと、ワンピースを床に脱ぎ捨ててそのままベッドに飛び込んだ。

買ったばかりのワンピースをぞんざいに扱うのは気が引けたが、今はそんなことに構っていられる余裕はない。

布団に入った麻里亜は、疲れがどっと出たのか、そのまま泥のように眠った。


プライドを無駄に傷つけられた麻里亜。彼女が始めたことは…?

需要確認テスト


翌朝。

昨日の悪夢のような出来事が記憶から抹消されていることを願ったが、そんなことはなく、むしろ朝から不快な気分だった。

冷静に考えれば考えるほど、怒りがフツフツと湧いてくる。

自分に非があったとかなら分かるが、自分は悪いことはしていないし、それは誠一も認めていること。

それなのに、突然幸せをぶち壊された。誠一の“初恋の相手”とやらに。

その相手、“ユリエさん”は、中学時代からずっと誠一のことが好きだったと言ったらしいが、恋愛ドラマじゃあるまいし、15年も思い続けるなんて有りえない。だったら成人式の時にでも告白しておいてくれって話だ。

さらに腹立たしいのが誠一だ。

「初恋の人を追う、それだけのこと」などとほざいて、少女漫画じみた、ロマンチックな展開に浮かれるなんて、良い年してイタすぎる。

昨日まで自分の中にあったはずの、誠一を想う気持ちは、あっという間に消えてなくなったため、彼を奪い返したいなどとは全く思っていない。

だが、誰にもぶつけることの出来ないこの怒りを鎮めるにはどうしたら良いのだろう。

今自分に出来ることといえば、まずは、誠一とユリエさんの未来を呪ってやること。

それから、「あんな男に振られても問題ない。自分はこんなに需要がある」と自尊心を満たすことの2つだと思った。

自暴自棄になった麻里亜は、その日から“自分の需要確認テスト”を始めたのだ。



“自分の需要確認テスト”とは、その言葉通り、自分の需要を確認するためのテストだ。

目的は自尊心を満たすことだから、別に相手は誰でも良い。好き、嫌いなどは関係なく、周囲の男全員が対象。

自分のことを“かわいい”と褒めてくれ、優しく扱ってくれる男が自分の周りにどれほどいるか確認するもの。

Facebookやインスタグラムで言うところの、“いいね”の数と同じだ。人数が多いほど、「自分はこんなに需要があるんだ」と思えるのだ。

当然、康太も対象のうちの1人でしかなかったし、好きなわけでもない。

いつも通りの手法で、Facebookで友達申請してメッセージを送っただけだが、彼はとっても簡単に釣れた上、自分に好意を抱いていると勘違いしたらしい。

−この勘違いは利用させていただくわ。

そう考えた麻里亜は、熱心にメッセージを送り、彼が行く飲み会にも顔を出した。

分かりやすいほど自分にデレデレの彼に、麻里亜の自尊心は満たされていった。

もう少し利用させてもらおうと思っていた矢先、康太はパタリと連絡をよこさなくなった。

奥さんにバレて怒られた、そんなところだろう。

まあ、どうでもいい。同時並行で複数人の男性とデートしていたから、康太がいなくなっても痛くも痒くもないのだ。

「はい、次」



そうそう、“クリスマス彼氏”という言葉をご存知だろうか。

クリスマスを1人で過ごすのは嫌だから、クリスマスを一緒に過ごすためだけの彼氏ということだ。

そんなこと…と思うかもしれないが、とある調査によれば、「クリスマス彼氏を作ったことがある」と答えた女子はそれなりにいるらしい。

男性には不都合な真実かもしれないが、女性がアプローチする時、必ずしも、あなたに興味があるわけではないということを覚えておいてほしい。

あなたは、女性たちの自尊心を満たすための“手段”であって、決して“目的”ではないのだ。

それで本気になって自分の家庭を壊すなんてこと、バカバカしいにも程があるからお気をつけて。

Fin.