運命の相手と出会いたい。誰もが思っていることではないだろうか。

では、運命の相手はどこにいるのだろう。

「“ビビビ”ときた」

「会った瞬間に、この人と結婚すると思った」

そんなのを聞けば聞くほど、目の前の相手は違うと思ってしまう。

まだ出会っていないだけ、どこかにいるのだ。

そう思い続けてきた曽根進太郎、29歳。恋愛経験はゼロに近い。超ド級の、夢見る夢男。

彼の人生をかけた、“運命の相手”探しが今、始まる。



「なあ、進太郎って結婚とか考えないの?」

レストランのテラス席で、目の前に広がる景色をぼんやりと眺めていると、ゼミの同期・加藤が話しかけてきた。

「はっ?」

進太郎は慌てて視線を店内に戻す。

「さっきの二次会だって、女性陣みーんな進太郎に釘付けだったじゃん。なのにお前、微笑んでるだけでさ。

はい、これ。帰り際に“進太郎に渡してくれ”って渡された連絡先。俺は伝書鳩じゃないっつーの」

先ほどまで、同じゼミの同期の結婚式に参加していた。久しぶりにゼミの男メンバーで飲んで帰ろうということになり立ち寄ったのだ。

さらに加藤は続ける。アルコールが入っているせいか、声がやけに大きい。

「そういえばさ、俺の知ってる限り、お前って彼女いたことないよな?
本当だとしたら、けっこうやばくない?

俺なんか、毎晩違う女と遊びたいと思ってきたけど、最近、ちょっと結婚願望湧いてきたりして」

「うるせーな」

進太郎は、酔っ払いを適当にあしらいながらも、内心ギクッとしていた。

母親からも結婚について強烈な提案をされたばかりだったからだ。

曽根進太郎、29歳。恋愛経験はゼロに近い。超ド級の、夢見る夢男なのだ。


恋愛経験ゼロの進太郎。母親からの強烈な提案とは一体…?

母からの爆弾投下


進太郎は、外資系コンサルティング会社で働いている。

身長180cm、年収1,100万、東大経済学部卒。

ハリのある綺麗な肌に、涼しげな目と、薄めの唇。ひとつひとつのパーツは派手ではないが、絶妙なバランスで配置されている。

長い首に、ほどよく出た喉仏が特徴だ。

父親は有名私大の経済学部の教授をしている。小学校高学年から中学校までの5年間をアメリカで過ごした帰国子女で、TOEIC970点。

周囲からは“AIって、曽根さんの機械版作れば良いよね”と言われるほど、仕事が出来る。

高身長、高収入、高学歴。

この婚活ジャングル・東京で、よくぞご無事で!と言いたくなる、天然記念物のような男なのである。



−結婚なあ…。

三越前の自宅マンションに戻ってきた進太郎は、ソファに腰を下ろした。

淹れたてのコーヒーを一口飲むと、心がすぅーっと落ち着いていく。

豆から挽いたコーヒーは、やはり美味しい。デロンギのコーヒーマシンは少々値が張ったが、自分で豆を挽く手間を考えれば安いものだろう。

進太郎は、加藤が手渡してきた、女の連絡先を眺めながら、両親との会話を思い出していた。



「進太郎、お見合いしてみない?」

南青山の『アントニオ』で母親の誕生日祝いをしていたところ、主役の母がぶっこんできた。

−突然どうした…!?

絶品の手打ちパスタに夢中だった進太郎は、突然の提案に言葉を失う。

「私ね、この前お友達に誘われて…」

−始まったぞ。

母・貴子ワールド開幕を敏感に感じ取った進太郎は、キュッと拳を握りしめて身構える。

「代理婚活パーティーに参加してみたのよ。そうしたら、しんちゃんモッテモテ。お嫁さんになりたいって人いっぱいよ!」

「ダイリコンカツ…!?」

母の口から発せられた衝撃の言葉に、思わず声が裏返ってしまう。これには父も驚いたようで、持っていたフォークを落としそうになっていたほど。

そんな様子を気にとめる様子もなく、貴子ワールドは続く。

「代理婚活って今多いのよ。親が子どもの結婚相手を探すの。しんちゃん大人気で、私、鼻高々だったわ。

色々な方が声かけてくれたけど、おひとり、とっても素敵なお嬢さんがいて。一度、会ってみたらどうかしら」

そう言って、母は、その“とっても素敵なお嬢さん”の押し売りを始めたのだ。

このままでは面倒なことになる。止めなくてはいけないと思った進太郎は、母の話を遮った。

「俺、結婚相手くらい自分で探す。頼むからやめてくれ」

すると母は、いかにも不機嫌そうな顔で、これまた意味不明なキレ方をしてきた。

「じゃあ、1年以内に結婚してください。あなた、曽根家の一人息子なのよ!?」


母から謎の結婚期限を設けられた進太郎。彼が向かった先とは…?

繰り返すが、進太郎は女性とまともに付き合ったことがない。申し込まれてデートすることがあっても、深い付き合いにはならない。

それも当然の話だ。だって、進太郎から全てお断りしているのだから。

女性に興味がないわけでも、結婚願望がないわけでもない。

だが、これまで“ビビビ”とくる女性に出会ったことがないのだ。

理想が高いのだろうか。そんなはずはない。自分が求めているのは、最低限のルックス、最低限のマナー、最低限の教養だ。

ド派手な洋服を着たり、髪色が明るい女性は無理。

箸の持ち方や所作が美しいのは当然で、例えば食事中に、チャイコフスキーの代表作“花のワルツ”が流れた瞬間に、「くるみ割り人形」が出てこない女性は有りえない。

敬語が適切に使えないのも困るし、ガハガハ大笑いする女性や、記憶をなくすほど酔っ払う女性もNG。

多くの男性が持っている、いたって普通の理想だと思う。

だから、自分はまだ運命の人と出会っていないだけ。どこかにいるのだ。きっと出会える。

そう思って運命の相手を待って、早29年。

相手に言い寄られてつきあった経験はあるものの、そのどれもが長続きせず。

自分にはもっと良い人がいると、オサラバしてきた。

−1年か。

進太郎は、母親から提示された期限を思い出していた。

こんな期限、適当に聞き流しておけば良いかもしれないが、これまでの母親の行動から考えると、1年後に勝手に見合いで結婚を決めてくる可能性は非常に高い。

結婚相手くらい、自分で見つけたいと思っている。

だが、しかし。29年間、運命の相手どころかその候補も見つけられなかった進太郎にとって、1年間で結婚まで漕ぎ着けるというのは至難の技。

これまでと同じ方法でやっていては埒が明かない。合理的に、効率的にやらなくてはならないのだ。

そう考えた進太郎は、デスクに置いてあったノートパソコンを立ち上げた。

検索キーワードは、「結婚相談所」

“1年以内に結婚したいあなたへ”

“運命の相手と出会えます”

検索結果には、そんな言葉がズラリと並んでいる。

結婚相談所であれば、自分の条件に合った女性と短期間で出会い、結婚出来るのではないだろうか。そう考えたのだ。

とはいえ、結婚相談所も沢山ある。どれが自分に合うのか、よく分からない。

どうすべきか考えあぐねていた進太郎の目に飛び込んできたのは、“1ヶ月以内のデート成功率75%”の文字だった。

さらに惹かれたのは、“結婚相手は自分で探す”というキャッチコピー。

費用も、想像以上にリーズナブル。サポートは電話が中心という点も、忙しい自分にとってはありがたい。

ここだ!と、直感的に感じ取った進太郎は、すぐに、その結婚相談所のカウンセリング予約を申し込んだ。



カウンセリングの予約を終えた進太郎は、体験記を読みながら胸を躍らせた。

結婚相談所で出会ったカップルは、皆、出会ってから半年以内に結婚を決めているようだ。

中には、1ヶ月でゴールインというカップルも。

“ビビビ”ときたら、こんなにも早いものかと、進太郎は驚く。

−1年後には結婚してたりして。

浮かれる進太郎だが、この時彼は、まだ自分が恋愛できない、“本当の理由”に気づいていなかった。


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オファーが殺到する進太郎。だが、相談所のカウンセラーは進太郎にある疑問を抱いていた…?