男性がひとりで外食するのは受け入れられているのに、未だに世間では、女性がひとりで外食するとなると敷居が高い。

しかし最近、女がひとりでも気軽に入れるハイセンスなお店が増えているのをご存知だろうか。

広告代理店に勤務する桜木佳奈(35)も、最初は「女性ひとりでご飯なんて」と躊躇している一人だった。

だが婚活に奮闘しながら涙のラザニアや、しっくりくる土鍋ご飯、決意の焼肉など“女ひとり飯”をしていくうちに、人生も回り始めていき…。



お見合いパーティーという名の戦場


「こんにちは。佳奈、35歳です。広告代理店に勤務しています」

さっきから、私は何名の男性に同じセリフを言っているのだろうか。

初めて参加した、お見合いパーティー。

賢人とのデートを控えているものの、同期の美奈子から無理やり誘われて参加してみた。だが、いい加減に笑顔も引きつってきたし、繰り返される質問に辟易してきた。

「若く見えますね」
「なんで、今まで独身なんですか?」

—その答えを知っていたら、こっちが苦労しないわ!

心の中でそう叫びつつ、あくまでも笑顔で対応する。

婚活バイブル本のような物に一応目を通してきたが、それによると、こういったお見合いパーティーを制するのは、“清楚で可愛らしく、女子アナのような知性と品を兼ね備えている女性”らしい。

—そんな女性、とっくに結婚してると思うけど?

内心、憎まれ口を叩きながらも、Theoryのベージュのワンピースに、ヒールがいつもより低めのパンプスで会場にやって来てしまった自分がいる。(ちなみに、高価な指輪などのブランド物は全て外してきた)。

けれども、さっきから新しい男性に会えば会うほど、心がすり減っていくのは気のせいなのだろうか…


婚活パーティーに挑んだものの、そこで男たちから言われてしまう言葉は…。

「佳奈さんは“バリキャリ”なんですね。結婚しても、お仕事は続けられるんですか?」

“なんで独身なんですか?”の次に決まって言われるのが、この質問だった。

けれども、これは私だけなのだろうか。“バリキャリ”という言葉に違和感を覚えるのは。

ひたすら頑張ってきたし、好きで続けてきた仕事だ。気がつけばキャリアは長くなりつつあるが、“バリバリ働くキャリアウーマン”という言葉が、非常に古臭く感じる。

「はい、仕事は好きなので続けます。マーケティングの仕事って奥が深くて楽しいんですよね。それにダブルインカム、最高じゃないですか?」
「え。そ、そうですよね…仕事を頑張っている女性って、素敵ですよね」

男性はそう言いながらも、皆逃げていく。

もはや最後の方は面倒になってきて、開き直っていたら、見兼ねたスタッフの一人に呼び出されてしまった。

「桜木さん、お気持ちは分かりますが、こういった会では、やはりおしとやかな方が好まれる傾向にありまして…仕事の話ではなく、相手の方の興味を引くようなご趣味などのお話をされてはどうでしょうか?」

周りの女性たちは、たしかに皆ニコニコと男性の話を聞いている。

聞き耳を立ててみると、“お料理教室に通っています♡”とか、“休日の朝は可愛いカフェ巡りにハマっています”とか言っているようだ。

なんだか、完封負けをした気分だった。それと同時に、違う感情もムクムクと湧いてくる。

自分らしくいたらダメなのだろうか。ステレオタイプにはまり戦略的に行動しないと、結婚はできないのだろうか。

—婚活って、こんな大変なのか…

結婚なんて、誰でもできると思っていた。

だが予想外にハードルが高い現実を突きつけられ、すっかり疲弊してしまっていた。



代官山駅近くの会場を後にし、私は少し歩くことにした。すっかり春めいた街は暖かく、生ぬるい風が私を包む。

「お腹空いたなぁ…」

さっきの会場にあった、乾いたオードブル達。ほとんど手をつけられず、会場を後にした途端、急に空腹が襲ってきた。

代官山駅を通り過ぎ、恵比寿駅まで歩いてみよう。そう思い、一本奥の道を入ってみると小さな看板が目に入った。

「『CEDROS』…」

海外を思わせるような、洒落た看板。通りから少し奥に入ったところに入り口があり、一見通りすぎてしまいそうだが、私は何かに吸い寄せられるようにお店のドアを開けた。



「ひとりなのですが…予約もしていないのですが」

思い切ってドアを開けると、非常に端正な顔立ちをした男性の店員さんが迎え入れてくれた。

「もちろん大丈夫です。どうぞ」

広々としたオープンキッチンを囲む、カウンター席。背後にはテーブル席もある。

淡いミントグリーン色の壁が印象的な、まるで西海岸に来たようなオープンな空間。お客さんも海外の方が多く、流れる空気もどことなく爽やかで、プチ海外旅行をした気分になってきた。

私は、迷うことなくシャルドネをオーダーしてみる。

カリフォルニアのキラキラとした太陽を感じるような豊満な果実味と、ミネラル感の強い白ワイン。さっきまでのトゲトゲしい気持ちがスッと消えていく。

そして、それと同時にやって来た一皿が、更に私の心を幸せにしてくれたのだ。


婚活疲れに効く、最高の一皿とは!?

多様性を認めてくれる「ウニのクロスティーニ」


料理を待つ間、さっきのお見合いパーティーを思い出していた。

先日、田舎の母に恭平と別れたことを伝えると、母はこの世の終わりかと思うくらいに悲しんだ挙句、“早く次を探して結婚しないと”と迫ってきた。

だが残念ながらその結婚は、私にとっては仕事より難しいのだ。

「結婚って、しなくちゃいけないものなのかなぁ…」

“結婚=幸せ”だとは思わないけれど、独身の自分は、世の中から社会不適合者と思われている気がして、それが何よりも一番辛いことだった。

どうして結婚していないと、世間は冷たいのだろうか。それぞれの生き方があって良いはずなのに。

「お待たせしました。どうぞ」

そんな私のため息と同時に、店員さんがそっと出してくれたのが、「ウニのクロスティーニ」だ。



2名分だが、一人でも全然いけてしまう程良いポーションだ。

私は、今にもバゲットからこぼれ落ちそうなウニに目を輝かせながら、誰にも気兼ねすることなく一気にかぶりついた。

「なにこれ…美味しい…!!」

焼きたての香ばしいバゲットが、“サクサクッ”と音を立てる。

バゲットの上には、ふわふわとした濃厚なウニがあふれんばかりにたっぷりと乗っている。そしてウニの甘さを引き立てるのは、しっかりと味の効いたガーリックバターだ。

ガーリックの存在感とウニの優しい甘み。それを見事に中和してくれるのは、隠されているトマトソース。

「ウニとガーリックバターって、こんなにも合うものなの??」

一つ一つを見れば、どれも癖が強い。ウニとガーリック、そしてトマトソースも、全てが違うキャラクターで、それぞれの個性が反発しそうな組み合わせだ。

それなのに、見事にまとまっている味わいのコンビネーションは、つい病みつきになる美味しさだった。お互い個性を殺すのではなく、むしろ魅力を助長しているのだ。

不意に、”みんな違って、みんないい”という、どこかで聞いたことのある有名な言葉がふっと降りてくる。

一体私は、誰の目を気にして婚活をしているのだろうか。

自分が幸せになるための婚活ならば良い。けれども、自分の個性を押し殺して、疲弊しながら婚活をするのは本末転倒だ。

「自分は自分。もっと、自由に婚活すればいいよね」

カリフォルニアの雰囲気漂う、自由でオープンな空間。

今日この日に、このお店に出会えて本当に良かった。お腹が満たされたことはもちろんだが、何よりも心がしっかり満たされたから。

「そうだ。明日は、賢人と会う日だった!」

今日は早く寝て、明日に備えよう。

代官山の路地裏から見上げる空の星は、小さいけれど輝いていた。


【今週の婚活ひとり飯】

店名:『CEDROS』
料理:ウニのクロスティーニ

〜これまでの婚活ひとり飯〜
1.涙のラザニア
2.出会いのジントニック
3.自信をくれた阿波牛のすき焼き仕立て
4.思い出弾けるスフレオムレツ
5.しっくりくる土鍋ご飯
6.オトナの色気漂うホワイトアスパラ
7.決意の焼肉


▶NEXT:4月15日 水曜更新予定
遂に賢人との初デート・・!女ひとり飯、卒業か!?