多くのエリートを輩出している名門男子校。

思春期を"男だらけ"の環境で過ごしてきた彼らは、女を見る目がないとも言われている。

高校時代の恋愛経験が、大人になってからも影響するのか、しないのか…。

▶前回:「狙い目は、地方出身のお金持ち!?」玉の輿に乗りたい整形美女の戦略



<今週の男子校男子>
名前:圭介(29)
学歴:麻布中学・高等学校→東京大学工学部
職業:金融系スタートアップ企業COO(副代表)
住所:広尾
彼女:外資系化粧品会社マーケター(29)


僕は六本木の中華『黒猫夜』で彼女の橙子を待っている。

バッグに潜ませた、婚約指輪の箱に目を落とす。知り合ってから約10年、そして長い友達期間を経て、今日で付き合って5年。

結婚することが幸せだとも、結婚は人生1度だけ、とも思わない。

ただ人生経験として、最初に結婚するなら橙子しかいない。そして、彼女も僕と同じように考えているはずだ。



僕の母校は”麻布高等学校”だ。

広尾の豊かな緑と坂に囲まれた高校は、明文化された校則はない。個性的な教師陣に、自由闊達な校風で有名だ。

高校時代ヒップホップにハマっていた僕は、ドレッドヘアにストリートファッションで恵比寿や六本木を闊歩していた。

と言っても派手な共学の連中より、麻布生とつるむ方が好きだった。同級生とは広尾の町中華『来々軒』や六本木の通称ロボット公園で夜遅くまで話し込んだり、学校の事務所裏で一緒に授業をサボった。

遊んでいるように見えて、「実は勉強できる俺」がカッコいいと思っていた。結局勉強に身が入らなくて、クラスの3分の2と同じように一浪して東大に進学したけど。

大学生になった僕は、テクノやハウスにドハマリしてDJ活動を始め、夜な夜な渋谷のクラブに出入りした。

卒業後は戦略コンサルティングファームに就職したが、1年も経たないうちに辞めた。

型にはまった堅苦しい同期といることが息苦しかった。それ以上にコンサルの仕事が、僕にとっては退屈極まりなかったからだ。

市場調査やプレゼン資料の作成なんかに、僕の貴重な20代の時間を費やす気はなかった。

今は大学の同級生が立ち上げた金融系スタートアップ企業の副代表として、上場に向けて日々奮闘している。


自由奔放な圭介が結婚相手に選んだ女性とは?

「ごめん、おまたせ!月曜のプレゼンの準備に時間かかったの」

自信に溢れたオーラがみなぎり、華やかな赤いワンピースに身を包んだ橙子は、とても仕事帰りには見えない。



「記念日おめでとう」

橙子は、なみなみと注がれた黄酒のグラスをかかげた。

「昔は『ヒョウ柄の服しか着ない』って言い張ってた橙子が、有望な若手マーケターなんて、10年前は想像できなかったな」

「圭介だってドレッド頭にゆるゆるの腰パンを履いていたくせに!私たち今思い返すと相当ダサい格好していたね」

橙子はグラス片手に口を大きく開けて笑った。

出会った頃の橙子は、例えるならば狼のような、孤高と言える雰囲気をまとっていた。

その時僕は渋谷のクラブのネオンに照らされたフロアで、脳に響いてくる低音のビートに合わせて身体を揺らしていた。

ふと横をみると、長い手足に真っ赤なワンピースを着こなす女の子が1人で気持ちよさそうに踊っている。

目が合うと、大きなつり目で僕を睨みつけてきた。ツンと鼻を刺すスパイスが混ざった、南国のビーチのような香り。

何度かフロアで顔を合わせるようになってから、彼女が東大の同級生ということを知った。

「橙子以上にかっこよくて尊敬できる女子なんていないと思っているよ。」

「そう言う割には、遊びが多かった気がするけどね。昔のことはもういいけど」

橙子は火鍋のすっぽんをおいしい〜と言いながら頬張ったが、目は笑っていなかった。

数年前に浮気相手を家に呼んだ時、偶然仕事帰りの橙子と鉢合わせたことがある。

「どうせ圭介は私のところに戻ってくるでしょ」

シャワーを浴びたばかりで下着姿のまま慌てる浮気相手に対して、飄々としていた橙子を思い出す。

「まあ、色々あったけど圭介といると何だかんだいつも楽しいからいいよ」

「透はいつも『橙子と付き合えて羨ましい』って言うからな」

透は僕の会社のCEOで元々橙子のゼミの同級生だ。恋愛や遊びよりも、自分の好きなことに一生懸命な奴。

大学時代、彼が学生起業家として特集された記事を見たときには焦りを感じた。その頃の僕は、大箱のクラブにDJとして招待されて喜んでいた程度だったから。

―最近は仕事も軌道に乗ってきた。橙子と結婚すれば俺の20代も悪くはないな。

僕は、満面の笑みで杏仁豆腐を頬張る橙子を眺めた。



店を出ると、昼間はじっとりと暑かったが夏の夜風が気持ちいい。僕たちは、広尾にある僕の家へと向かう。

ー指輪、家で渡すのは平凡か…。

しばらく歩くと僕は足をとめて、少し先を歩く橙子を呼びかけた。彼女はどうしたのと言って振り向く。

「橙子、結婚しよう。俺の人生には、橙子が必要だ」

ハリーウィンストンの箱を開けると、街頭のわずかな光に照らされてダイヤがきらめく。

橙子は大きな目を見開いて、じっと僕の目を見つめた。そして笑い出すかのように、口元を歪めるとゆっくり口を開いた。

「私は圭介とは結婚できないよ」

期待とは裏腹な言葉に思わず「えっ…」と裏返った声が出た。

「こんなに面白い人はいないと思っているし、人として大好きだよ。でも…もう一緒にはいられない」

ごめんね、そう言うと橙子は僕を置いて、レッドソールのヒールを鳴らしながら住宅街へ消えていった。

僕は、何も言えずにその場に立ち尽くした。

ーあいつは頭がおかしくなったのか…いや元々変わり者ではあったし、「結婚は前近代的な家父長制度だから私にはそぐわない」なんて思っているのかもしれない。

夏にもかかわらず、肌寒く感じるほどの夜だった。


橙子が圭介と結婚できないまさかの理由とは?

橙子の正体


唖然とする圭介を置いて、私は1人で歩きだした。肌寒い夜風が、シャンパンで赤みを帯びた頬を優しく撫でる。

圭介との関係は例えるならば、「戦友」と言う言葉がぴったりだった。

海外生活が人生の半分以上な私は、日本の「空気を読む」だとか、「本音と建前」といった独特の文化に馴染めないでいた。



ところが圭介は一般的な日本人とは違った。好きな服を着て、思ったことを口にして、やりたい時に思いつくままに行動する人だった。

次第に私は彼の「俺哲学」に惚れていった。もう二度と、彼以上に刺激的な人とは出会えないことも分かっている。

−私だってレールに乗った人生が嫌で、好き勝手生きてきたよ。

だけど、去年父が病に倒れてからは年齢というものを意識せざるを得なくなった。

何故ならいくら時代が変わって男女平等の世の中となったとしても、女の私がどれだけ仕事が出来たとしても、男が子供を産める体にはならないからだ。

−結婚して子供が欲しい。一人っ子の私は、いつか独りぼっちになってしまうから。

圭介といる時間は享楽的で、毎日がジェットコースターのように目まぐるしく変わる。だけど彼は、全て自己完結できる人間だ。

透の会社に転職する時は事後報告で、私がキャリアで悩んでいる時も優しい声をかけてくれることはなかった。

誰もいない広尾の坂道を歩き疲れた私は、圭介の会社のCEOである透に電話を掛けた。

「プロポーズされちゃったからちゃんと別れてきたよ」

「そうか、ありがとう。圭介にも僕たちの関係をいずれ話さないといけないね」

実は先月から透と付き合っている。父が倒れて憔悴していた時、親身に支えてくれたのは圭介ではなく透だった。

圭介が前の会社で上司と喧嘩して啖呵を切っている間に、透は人望の厚さと誠実さでたくさんの人を巻き込みながら会社を大きくした。

圭介が遊ぶ相手は私とは正反対の、おとなしくて可愛らしい女の子が多かった。彼は口では「お互い刺激しあえる相手がいい」とは言うが、本心では従順な女性を求めているのだろう。

−家族として一緒に人生を切り拓いていくなら、ただ楽しいだけの人ではなくて、お互いのことを支え合える人がいい。

私は誰もいない有栖川公園の前で足を止めた。

「昔の麻布生はこの池でパンツ一丁になって泳いでいたらしいよ」

いたずらっ子のように目を輝かせて話す圭介の笑顔を思い出す。

見上げるとぼんやりと霞がかってた月が、雲の切れ目から顔を出していた。


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