童顔で可愛いルックスと、明るく物怖じしないキャラクター。男を振り回す天性のあざとさから、寄ってくる男はよりどりみどり。

ただし、それも交際前までー。

付き合う前はモテるのに、交際期間は最長3ヶ月。恋愛が全く続かない女。31歳の絵麻も、そんなうちの一人だ。

なぜなら彼女は、いわゆる「恋愛依存症」の女。重すぎて、いつも男に逃げられてしまう彼女が、幸せを掴む方法とは?

◆これまでのあらすじ

2019年春。別人を装って潤平を待ち伏せする絵麻だったが、置き去りにされてしまう。それを見ていた男・二階堂 空(あお)から食事に誘われたが、連絡先は聞かれなくて...



「ねぇねぇ、絵麻。20代と30代って、こんなに需要の違いがあるの?」

親友のレイナが、電話口で悲鳴を上げている。なんと彼女は、つい先日旦那さんとの離婚が決まり、婚活市場に舞い戻ってくることになったのだ。

「可愛くない28歳と美人の33歳だと、どっちが婚活市場だと有利かって記事読んで吐きそうになったよ。最近は、毎日せっせとクレ・ド・ポーの高級美容液使って、美容も頑張ってるけどね...」

レイナの泣き出しそうな顔が目に浮かび、私はとっさに言い切った。

「大丈夫。あなたレベルだとバツくらいついてたほうが色気あるよ。しかも、その色気はそのへんのOLでは纏えない特殊製法でしょ?需要は必ずあるから」

すると、彼女が安心したようにため息を吐くのが聞こえる。

それからたわいもない話で盛り上がった後に、レイナは急にこんな問いかけをしてきた。

「ねぇ...今だから言うけど、私が食事会でいい男を毎回のように捕まえてきた理由、わかる?」

「ん?なにそれ。ただ単にレイナが綺麗でモテてきたからでしょ」

何を言いたいのかが理解できないまま、私は素直に答える。

「ちがうよ、本当はみんな最初は絵麻狙いだったの。でも私、絵麻がいない間に、あの子は実家で家が厳しいから無理だよって...ごめん」

「...」

何も言わずにいる私に、レイナはこう続けた。

「絵麻のこと、どこかでライバル視してたし、先に結婚したい!ってずっと思ってたの。だから今回の潤平のことも、そんな男やめなよって言いながら、どこかではっぱかけてた…」

レイナの突然の告白は、あまりに不意打ちで、私を傷つけ落ち込ませた。

ただ、ライバル視されていたことも、恋愛が続かないのを少しバカにされていることも、本当はうっすら気付いていたのだ。


レイナに誘われて行った、レセプションパーティーで出会ったのは…

レイナの本心に気付いていながら、逆にどこかで私も彼女を見下していたのかもしれない。

私は、実家にいるから焦らなくてもいいし、結婚したら首都圏に住む以外あり得ない、と。

「本当にごめん...結局自分がすぐ離婚することになってさ、友達なのに勝ち負けとか馬鹿らしいなって、ようやく気づいたの」

そう言ったあとで、電話口から鼻をすする音が聞こえた。負けず嫌いで泣き虫なところは、自分と重なる。

「もういいよ。私も、潤平と付き合えなくてヤケになって、突っ走っちゃったのは事実だし」

こうやって本音で言い合えることは、むしろ価値のあることなのかもしれない。

「あのね、来週知り合いが新店オープンのレセプションパーティーするの。タイ料理のお店でさ、グリーンカレーとかヤムウンセン、好きって言ってたよね?」

「まぁ、アジア系の料理はなんでも好きだけど...」

急に話を変えて、空気を明るくしようと努めるレイナが憎めなくて笑えてきた。

「その飲食店のオーナー、結婚する前からの知り合いで。ちょっと気になってる人なの。一緒に行ってくれる?」

半ば強引に押し切られ、気乗りしないまま行くことが決定した。

だが、後に私はレイナに感謝することになるとは、この時はまだ予想もしていなかった。



「これが、タイ料理屋さん?すごい...おしゃれ」

レイナに連れて来られたレストランのレセプションパーティー。

正直期待していなかったが、高層階ということもあり、想像以上に近未来な空間に言葉を失ってしまう。



「やあ!レイナちゃん。お友達も、わざわざありがとう。高瀬です」

声をかけてきたのは、レイナが気になってるというこのタイ料理店のオーナーだ。

「この度は、おめでとうございます。ど田舎から駆けつけちゃいました!」

レイナはわかりやすく頬を染めている。

「ここのアートディレクター、変わったやつでさ、創業時代の相方が毛深いからって毛蟹をもじった会社名にしてるんだよ。笑えるだろ」

−毛蟹...?全然笑えない。

高瀬さんは、ひげを触りながらレイナの気を引こうと必死だ。

「ちょっと私、ワインでも取ってくるね」

気を利かそうとさりげなくその場を離れた。ドリンクカウンターに向かいつつ、私は店内をぐるりと見回す。

レイナについてきただけだったはずなのに、このお店の内装、細かなインテリアや食器にまで夢中になってしまう。

−はぁ、素敵...

しばし東京の夜景と空間に酔っていると、聞き覚えのある声がした。

「もしかして、絵麻さん?」

振り返った私の視線の先には、ワイングラスを持った可愛らしい男性が立っていた。

「やっぱりそうだ。僕のこと覚えてます?」


恋愛対象だとは思っていなかったのに、この気持ちは一体?

状況を飲み込めず、すぐに声を出すことが出来なかった。

「覚えてま…」

そこまで言いかけて、彼に一歩近寄ろうとしたところに邪魔が入った。

「よ!ニカちゃん!エロい店にしてくれてサンキューな。評判も良くて本当感謝してるよ。彼女と来たら、毎回サービスするから」

それは高瀬さんだった。隣にいたはずのレイナはいつのまにかいなくなっている。他の男性にでも口説かれているのだろうか。

「それは良かったです。はい、そうしますね」

さらりとそう答えて、その男性は私のそばへ笑顔でやってくる。

そう。忘れもしない。

この人は数日前に一緒にお酒を飲み、悩み相談に乗ってもらった、二階堂 空(あお)だ。

にっこり笑う空の顔を見た瞬間、なぜか泣きそうになってしまった。

まさかここで会えると思っていなかったから、ただ動揺しただけかもしれない。だって、空なんてタイプじゃないし、恋愛対象外だったはずだ。

でも、胸の鼓動はすぐには平常速度に戻ってくれないし、顔が熱い。自分の頬の火照りに気がついたとき、同時にこう思った。

ーそうだ…。私、この人に会いたかったんだ…。

偶然の再会に、自分でも驚くほど高揚していた。

だけど、同時に彼女がいることが判明してしまった。男性として意識していないつもりだったのに、実際は心底ガッカリした。

「お久しぶりです。この前は、ありがとうございました」

だから、笑顔を作りながらそう言うのが精一杯だ。

「そんな、改まらないでくださいよ」

空の態度は以前と変わらず、というか誰に対しても平等だった。

「すごい偶然だね。私、友達がここのオーナーと知り合いでついてきただけなんだけど...このお店、素敵すぎて彼氏と来たくなっちゃった」

ーやばっ。勢いで嘘ついちゃった。

彼氏なんかいないのに。むしろ、それをこの人は知ってるのに。余計な見栄が口から溢れ落ちる。これは、私が好きな人を落としたくて真逆の態度を取る時の癖だ。

「そっか。じゃあ、まだ誰も知らないこのお店の隠し個室、絵麻さんだけに特別に教えてあげる」

そう手招きされ、私は彼の後をついていく。すると空は、化粧室の手前にある壁を手で押して回転させた。

ーえ...?

「彼氏さんと、ぜひ使って」

そこにあったのは、窓ガラス一面に見渡せる東京の夜景と、ベージュのソファ席のテーブルセットが1組だけ。

オレンジ色の間接照明が、わずか6畳ほどの空間を優しく包み込んでいた。



「わぁ...すごい。こんなの高級レストランでもなかなか無いよ」

私が目を輝かせて素直に褒めると、嬉しそうに空は微笑んだ。その笑顔に心をぎゅっと掴まれる。

「ありがとうございます。自信作なので。このお店のディレクション担当したの、僕なんですよ」

そういえば、もらった名刺の会社名を先日検索したら、空間デザインやアートディレクションの事業だとHPに載っていた。

だけど、若いのにまさかこんな大きな仕事をしているだなんて。

「でも、残念です。絵麻さんにもう新しい恋人ができちゃったなんて。やっぱりあのとき、連絡先聞いておけば良かったなぁ〜」

そう言って立ち去ろうとする後ろ姿に向かって、思わず叫んだ。

「空君、ちがうの!」

その時、確信した。私はもう、とっくにこの人に惚れているのだ。


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距離を縮めていく空と絵麻。空に感じる今までとの男との違とは...