運命の相手と出会いたい。誰もが思っていることではないだろうか。

では、運命の相手はどこにいるのだろう。

まだ出会っていないだけ、どこかにいるのだ。

そう思い続けてきた曽根進太郎、29歳。恋愛経験はゼロに近い。

彼の人生をかけた、“運命の相手”探しが今、始まる。

◆これまでのあらすじ

派手めな美女・リサとのマッチングがうまくいかなかった進太郎。カウンセラーの室井と話した彼は、2人目のマッチングへ…!



2019年4月某日。

進太郎は、2回目のマッチングを前に、ガチガチになっていた。

緊張のせいで、やたら喉が渇く。自分を落ち着かせるように、進太郎は水をガブガブ飲み干す。

グラスが空になると、ウエイターが気を利かせて注いでくれるので、店に到着してからの15分で、気づけば3杯も水を飲んでいた。

今日の相手は、カウンセラー・室井イチオシの女性だ。さすがはカウンセラー。プロフィール写真は、進太郎のタイプど真ん中だった。

黒髪ロング、色白の肌。派手さはないが、柔らかい雰囲気の女性だ。装いも、紺色のワンピースに、控えめなパールのイヤリングと、満点。

事前に何度かメッセージのやり取りをしたが、言葉遣いも丁寧。今日こそはと、並並ならぬ気合を入れてきたのだ。

“曽根さんにお目にかかれることを楽しみにしております”

最後に彼女からきたメッセージは、進太郎的にパーフェクト。このくらい“きちんとした女性”が良い。

はやる気持ちを抑えながら、彼女の到着を待っていると、入口から女性の声が聞こえてきた。

「預かっていただけますか。どうもありがとうございます」

コートを預けた彼女は、店員に笑顔でお礼を言って、進太郎の方に向かって歩いてきた。

“ビビビッ”

彼女だ。進太郎は、今日は大事な記念日になりそうだと、胸を高鳴らせた。


出会って早々、運命を感じていた進太郎。思い込みの激しい男は暴走を始める…?

運命の人、登場


「お待たせしてすいません。初めまして、花房優美子と申します」

目の前に現れたのは、プロフィール写真そのままの、清楚な佇まいの美しい女性だった。

「ど、どうぞ…」

進太郎は、動揺しながら彼女を席に座るよう促す。現れるなり席にドカッと座ったリサとは大違いだ。

「失礼します。今日はお天気が良くて気持ちが良いですね」

「そ、そうですね。青空って感じですよね」

彼女に心を奪われた進太郎は、完全にペースを乱されてしまい、青空って感じという謎のコメントをしてしまう。

そんな意味不明なことにも、優美子は「ええ、きれいな青空」と笑顔で答えてくれた。

ウエイターがやってきて注文を尋ねると、「わたくし、お紅茶をいただこうかしら」と、進太郎に微笑みかけた。

「では、お紅茶とおコーヒーを」

緊張のあまり、またも意味不明なことを言ってしまう。店員も、「どうした、こいつ」という顔で、進太郎を見てくる。

恥ずかしさで顔が熱くなる。

しかし優美子は、「私も緊張していますから」と、優しく声をかけてくれた。

−彼女は運命の人だ。

出会って10分もしないうちに、進太郎はこの人と結婚するのだと確信した。



「ゆ、優美子さんは休日何されてるんですか?」

進太郎は、前回とは打って変わり、前のめりに質問を続けていた。

何を質問しても、優美子の回答は進太郎の求める回答、そのものだったのだ。

「読書したり、あとは母と料理を一緒にしたり。最近は、お庭でハーブを育てているんです。のんびり過ごしていることが多いですね」

仕事は、日本橋にある専門商社で役員秘書をしているという。実家は成城で、今も実家で暮らしているらしい。

職業や休日の過ごし方さらには居住地から、彼女はお嬢様なのだと理解する。

今は、社会勉強として腰掛程度に働いているが、将来的には家庭に入って専業主婦になる予定。そんなところだろう。

「僕も、読書が大好きなんです。最近読んだ本で良かった本を教えてください!」

どうしても優美子に気に入られたい進太郎は、ついつい身を乗り出して質問してしまう。

「私の話ばかりでは恐縮です。進太郎さんはどんな本をお読みになるんですか?」

こんな謙虚な姿勢に、進太郎の心は奪われるばかり。頭の中は、優美子のことでいっぱいだった。

「最近は、三島由紀夫の豊饒の海を読みました」

「私、春の雪を読んだことがあります。映画も良かったですね」

優美子とは気が合う。彼女との将来を妄想しながら、進太郎はコーヒーを一口飲んだ。


優美子に心奪われた進太郎。猛烈アタックを始めるがどうにも方向性を間違えている。結果は予想外なことに…?

29歳、初めての経験


「優美子さんは、どんな家庭が理想ですか?」

優美子に心を奪われてしまった進太郎は、夢中で質問を続ける。

「贅沢な生活は望みませんが、小さなことに幸せを感じ続けられる、そんな家庭が良いです」

−それは、是非僕と一緒に…!

進太郎は、うっかり口に出してしまいそうになるのを堪えて、大きく頷きながら話を聞く。

彼女にどうしても気に入られたい。彼女に自分のことをアピールしなくては。

そう思った進太郎は、自分のアピールを始めた。



「改めまして、僕は、コンサルタントとして働いています。幼少期は海外で過ごしましたので、英語が得意です。

古いジェンダー観は持っていませんので安心してください。夢を追う女性は素敵です。

だから、自宅で料理教室やフラワーアレンジメント教室を開いたりするのも大賛成です。社会との繋がりは持っておいて欲しいですしね。

妻のことを応援し続けたいと思っています」

進太郎は、優美子の目をじっと見つめながら熱く語る。

「そ、そうですか…」

「住む場所は、妻の実家の近くが良いと考えています。その方が妻もやりやすいと思いますし」

さっきの話から、彼女は母親と仲が良いと見た。母親に手伝ってもらいながら家事が出来る環境なら最高だろう。

自分は理解ある夫になるアピールを発信し続ける。その証拠に、彼女も笑顔でこう反応してくれた。

「曽根さんは、とても理解のある方ですね」

そんなアピールを続けること1時間。日も暮れてきたところで、本日は終了となった。

「これ、良かったらどうぞ。今日のお礼です」

帰り際、出口近くに差し掛かったところで優美子が立ち止まり、おずおずと紙袋を差し出した。

それは、有名な老舗洋菓子店のものだった。どうやら彼女は、お礼にお菓子を買ってきてくれたらしい。

「い、いいんですか…!?」

今日イチ、テンションが上がった進太郎は、興奮のあまり声が裏返ってしまった。

「とても楽しかったです。ありがとうございました」

そう言って深々とお辞儀をした優美子は、その場を立ち去った。

−早く次の約束を取り付けなくては。

帰路についた進太郎は、スマホを取り出してメッセージを送った。

“今日はありがとうございました。とても楽しかったです。

良かったらまた食事にでも行きませんか?お返事お待ちしています。”



3日後。

進太郎は放心状態だった。あの後、優美子からメッセージが返ってこないのだ。

“ビビビッ”ときた彼女。運命の人だと思った彼女から返信がないなんて。

何が何だか分からない。彼女も楽しんでいてくれたと思っていたのに。

どうしても納得がいかない進太郎は、カウンセラーの室井に連絡してみることにした。

「室井さん、あの後、優美子さんから連絡がこないんですけど…」

応答と同時に進太郎が話し始めると、室井は「残念ですが、ご縁がなかったのだと思います」と、落ち着いた声で発した。

−縁がなかった…!?つまり、彼女は僕をよく思っていなかった!?

進太郎の視界がグラリと歪む。自分は運命の人だと思った相手は、そうは思っていなかったのだ。

「そ、そんな…」

力なく言葉を発すると、室井は「お相手のあることですから」と、なだめた。

曽根進太郎、29歳。この時初めて、恋愛の残酷さに気付かされたのだ。


▶︎Next:5月12日 火曜公開予定
運命の人だと思っていた相手から振られた進太郎。他のデートにも全く身が入らず…?