「この恋は、やめるべきでしょうか」

誰だって、きっと考えたことがあるはず。

彼が嘘をついていると気づいたのに、
彼女が浮気していると知っているのに、
一緒にいてつまらないと、お互いにわかっているのに、
それでも見えない、この恋のやめどき。

あなたは、この恋、どう思いますか?

前回は彼の女友達との関係を巡って衝突したカップルを紹介した。今回は...?



テンポのズレた恋をした。



彼に初めて会ったのは、2019年12月、雨の降りしきる木曜の夜だった。

麻美は真新しい真っ赤な傘を閉じて店に入ると店内を見渡した。店内の中央、4人席のテーブルから飛鳥が麻美に向けて手を振る。飛鳥の向かいに座る男性も振り向いた。

黒髪短髪、スッとした鼻筋にパッチリとした目の男性は、麻美と目が合うとニコっと微笑んだ。

「遅くなった、ごめ〜ん!年末進行でバタバタしてた」

麻美が手を合わせて謝ると、飛鳥は自分の隣の椅子を引きながら、いいから座って座ってと麻美を急かす。

「じゃあ、麻美も来たことだし、乾杯しようか」

シャンパンで乾杯を済ませるや否や、飛鳥は待っていましたとばかりに喋り始める。

「で、改めて紹介しますと、こちらが新野秀樹くん。新卒でうちの商社で働いた後、今は起業してて、ベンチャーの社長さん。一橋大学出身の超エリートよ」

飛鳥の紹介を受け、どうも、と小さくお辞儀をしながら照れ臭そうに挨拶をすると、秀樹はグラスに残ったシャンパンを飲みきった。

31歳のクリスマスを前にして何の色恋もないことを嘆く麻美に、気を利かせて飛鳥が秀樹を紹介してくれた。

大学時代から麻美をよく理解しているだけあって、飛鳥の連れて来た秀樹は見た目と経歴も麻美の理想通りで、そして何よりも、真面目で誠実そうな男だった。

この時の麻美は浮かれていたが、「新野秀樹」という男を知れば知るほど、戸惑うことになるのだった。


秀樹との連絡を通して徐々に明らかになる本性とは!?

麻美がほろ酔い気分で歩いて家に帰っていると、早速秀樹からLINEが届く。

−秀樹:今日はありがとうございました!−



秀樹のLINEを見ながら、麻美はつい口元がほころんだ。今日の秀樹との出会いは、麻美にとって運命的なものだった。高鳴る気持ちを抑えながら、麻美は秀樹に返事をする。

−麻美:こちらこそありがとうございました!またご飯行きましょう−

−秀樹:いいですね!いつ行きます?−

秀樹に返事をしようと麻美が予定を確認していると、秀樹から追加でLINEが届く。

−秀樹:今週の土曜日とかどうですか?−

あまりにも早いスピードで返ってくる秀樹の返事に少し圧倒されながらも、麻美がOKのスタンプを送り返すと、突然秀樹から電話が掛かって来た。

「もしもし?」

麻美が不思議そうに電話に出ると、秀樹は何事もなかったかのように話し始める。

「お疲れ〜、もう家着いた?」

「うん。今ちょうど家に着いたところ」

「そうなんだ!ねぇ、今週の土曜、何する?」

うーん、どうしようか、と麻美が考えていると秀樹は嬉しそうに声を弾ませる。

「例えば、日比谷公園行ってからどっかのカフェでランチして、ミッドタウン日比谷で映画見てから夜ご飯とかどう?」

秀樹の提案を聞きながら、麻美が週末の天気を確認すると、土曜日は雨のち曇りの予報になっている。

「あ、でも土曜、雨みたいだし、ちょっと要検討だね。普通にどっか美味しいレストラン取って夜ご飯食べるのでもいいかも!」

うーん、と納得のいっていない雰囲気の声を聞いた麻美は、ちょっとまた考えてから連絡するね!と電話を切った。



翌朝、麻美が朝食を食べていると、再び秀樹からLINEが届いた。

−秀樹:おはよう!土曜日の映画のチケット、もう予約できるみたいだったから取っておいたよ!−

驚いた麻美は片手に持っていたコーヒーカップをテーブルに置くと、急いで秀樹に返事をする。

−麻美:あれ!土曜の予定は要検討って昨日話したと思うんだけど...−

秀樹に返事をしながら、麻美は同時に送られてきていたチケットの予約完了画面の画像を開いた。


麻美を愕然とさせた映画の座席の取り方やランチで選んだ店のチョイスとは

−J列の13番14番...ど真ん中の席かぁ。私、映画館の席は一番後ろの列が好きなんだけどなぁ...

小さくため息をつくと麻美は秀樹に再度LINEを送る。

−麻美:とにかく、土曜は雨だし、映画はさておき、公園まで行くかはちょっと考えない?−

いつもは送った瞬間に返事が返ってくる秀樹から何の反応がないことを不思議に思いつつ、気にせずに朝食の続きを食べていると、秀樹からまた返事が届いた。

−秀樹:ここのお店とかどう?日比谷公園から近いし、良さそうなカフェだよ−

まるで麻美の返事を読んでいないかのような秀樹の返事にイラつきを覚えながら、麻美は秀樹から送られてきたリンクをタップする。

メニューを見ると、そこにはフライドポテトや唐揚げ、ハンバーグなどの写真が並べられている。

−典型的なカフェ飯かぁ。あの辺なら行きたい美味しそうなレストランたくさんあるんだけどなぁ。

友達とのご飯やデートでも必ず店選びを任せてもらうほど食にこだわりがある麻美にとって、秀樹の店のセンスは正直がっかりだった。

雨にもかかわらず公園に誘われることも、ランチ候補の店も、麻美の気分が下がるばかりで、秀樹への返事を考えあぐねていると、タイミングよく飛鳥からもLINEが届いた。

−飛鳥:今日外出で麻美の会社の近く行くからランチしようよ!−



「で、秀樹とはどんな感じ?」



ランチのサラダを食べながら、飛鳥は前のめりになってリズミカルに体を揺らしながら麻美に質問をする。

「それがさぁ、めちゃくちゃいい人なんだろうけど、思ったよりもグイグイで...」

麻美は困ったような顔をしながら、一連の映画の予約や公園のやり取りを話すと、その間、飛鳥は顔に手を当てて渋そうな表情を見せる。

「ごめん、友達としてはいい男なんだけど、まさかそんな奴だったとは」

「いや、まぁこれだけ好かれてるって逆にいいことなんだろうけど...」

大きなため息をつく飛鳥を見て、慌ててフォローを入れる麻美だったが、飛鳥は下を向いたまま両手を頭に当てて、いやぁ、まさかなぁ、と言葉を繰り返すだけだった。


「本当にそれいいの?」麻美がハッとさせられた飛鳥の言葉とは

しばらくするとようやく麻美の話を消化したのか、飛鳥が顔を上げて真剣な顔で話し始めた。

「いや、秀樹も悪い男じゃないんだけどね。でもそこまで行くと、付き合った後も同棲とか結婚とか、秀樹のテンポで進められそうだよね」

「まぁね...なんか、彼って何言っても私の話とか全然聞いてなくて、彼の見たいように世界が回ってる気がするんだよね」



「そうだよねぇ。一緒にいる意味あるのかなって思っちゃうよね」

飛鳥の言葉を聞きながら、麻美は肩をすくめて目の前のグラスをぼんやり見つめていると、急に自分が悪い気がして全く食事が進まなくなった。

「ねぇ」

「ん?」

目の前に運ばれて来たパスタを口に頬張りながら返事をする飛鳥に、麻美はボソボソと問いかける。

「私が口うるさすぎるだけなのかな。もう31歳なのに、こんな小さいことにグチグチ言ってたら、いつまでも彼氏できないよね」

口をモグモグとさせながら、うーん、と考えていた飛鳥は、ゴクリと水を一口飲み込むと麻美をまっすぐに見つめる。

「逆にさ、小さいこと無視して付き合えるの?」

「うーん、でも秀樹くん、経歴も良いし、見た目もかっこいいし、ノリもいいし...」

自信なさげに答える麻美に、飛鳥はすかさず言葉をかぶせる。

「恋愛って、ちゃんと自分のことも見ながら進めてくれる人がいいと思うけど。一人で進めるものじゃないし。それに一回相手のテンポに巻き込まれたら、時すでに遅し、だよ。本当にそれでいいの?」

いつもは笑顔でふざけた反応ばかりの飛鳥が放った厳しい言葉に、麻美は思わず下を向く。

「31歳で焦るのもわかるけど、後悔して欲しくないじゃん。それに、麻美には幸せになって欲しい。変なの紹介しちゃったのは私だけど...」

恥ずかしそうに言う飛鳥に、思わず吹き出しながら、そうだね、と一言言うと麻美は思い出したように飛鳥に聞く。

「そういえば飛鳥は彼氏できたの?」

「出来てないよ!でもいいのよ、今は自分のペースで時間を過ごしたいの」

飛鳥のあっけらかんとした物言いに、麻美もつられて笑った。

それからはいつものように仕事や恋愛の話で笑い合いながらランチを食べると、2人は軽い足取りで店を出た。


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